第282話 見える成長

「行くよ!新しいチカラ存分に振るわせてもらうね!」


 リンの持つ刀が眩く光る。

 あれは俺のオーラと同じチカラを感じるな。


 どうやら聖女のチカラをオーラに変えてるようだ。

 前からセンスはあったが、一度魔人になったのがキッカケで新たな力に目覚めたみたいだ。


 リンは刀に溜めたチカラを一気に解き放つと同時に横に薙いだ。


「断ち切れ!『神閃』!!」


 リンの放った一閃により、次々と真っ二つになっていく魔物たち。

 その威力は凄まじいの一言だ。


 つかあの攻撃力は、俺より高くないか?

 むう、流石に本職の戦闘力には勝てないか…。


「リンに負けてられないぞ!行くぞみんな!」


 カイト達も負けじと戦いに乗り出す。

 ここまでもかなりの戦果を上げてきていたが、リンの攻撃に触発されて更に躍起になっている。


 その証拠にSランクの魔物達が次々に屠られて、屍の山を築き上げているのだ。

 カイトが剣で魔獣を倒せば、ミラが魔法で滅する。

 ダンはその槍で土手っ腹に穴を穿ち、ザインはメイスで粉砕していた。


 アイナも回復だけで無く、いつの間に修練したのか神聖魔法により、死霊の王であるリッチロード達を消滅させていた。

 出会ったあの頃の5人とはまるで別人だよ。

 うん、すごいね。


「なんか、歴戦の勇者パーティの戦闘を見てるようだなぁ…」


「ようだ、ではなく間違いなくカイトさん達のパーティは勇者パーティとなるでしょう。王都に戻る時はきっと凱旋となるでしょうね」


 俺のつぶやきに、反応したアリアがそう答える。

 王女である彼女が言うのなら、間違いないんだろう。

 王都に帰ったら勇者認定か。

 精霊の加護を受けていないけど、ニケとカルマがいるのでいつでも認定は可能だろう。


 本人がやりたいかは、さておき。


「さて、そろそろ我らも行こうか」


「そうですね。カイト殿だけに良いところを持っていかれたら、主様に褒めて貰えないですからね。本気で行きますよ!勝負です、カルマ」


「ふん、望むところだ」


 二人はそう言うと、颯爽と敵が集まる場所に飛び込んでいった。

 巨大なドラゴン種がカルマの魔法で潰され、大型の魔獣はニケの雷撃で焦がされる。

 見た目が人と同じだけに、より凄さが増して見える。


 なんせ、自分の数倍も大きな魔獣を闘気纏った素手で殴り倒しているのだ。

 仲間じゃなければ、目を疑っただろうな。

 いや、分かっててもすごいねこれは。


 後ろではセツナ達が頑張っているみたいだ。

 セツナに育てられた子供達も、かなり奮闘している。


 ステータスのお陰で軽減されているとはいえ、ゲームと違い痛みはかなりリアルなのに、怖気ずに巨大な魔獣に立ち向かっているようだ。

 大怪我はしていないようだが、それでも少なくない傷を負いながらも、痛みに負けずに果敢に戦闘に参加している。


 どうやら、心身共に成長しているようだな。


「やっぱり、訓練よりも実戦の方が成長度は高いけど、予想以上にみんな成長しているな」


「こんな激戦地でそんな惚けた発言をしつつも、あぶれた敵を一撃で処理しているユートさんが言うと、ただのお世辞にしか聞こえないですよ?」


「えー?これでも、結構真面目に言ってるのだけどなぁ」


 中心にいる補給部隊に被害が出ないように、しっかり状況把握して敵を捌いてたのだけど、なぜかアリアに突っ込まれた。


 この中で最高ランクに達しているのは俺とセツナだけなのだが、いかんせん覇王のチカラの恩恵が大きく、戦闘が本職のセツナですら霞んでしまうと前に嘆かれたくらい覇王のチカラは凄い。

 もし戦闘力が高い職業の誰かがこの覇王を引き継いでいたなら、個人としてなら俺よりも遥かに強かったに違いない。


 ただ、それを覆すだけの能力がテイマーにはあるのだけどね。

 カルマ達を見ていると本当にそう思う。

 …あのドラゴン、飛んでるんじゃなくて吹き飛ばれてるな…。


 ああ、もちろん今は補助スキルを発動するのに集中しているので、俺自身は戦闘をそこまでしていない。

 俺以外にも皆が頑張っているから余裕があるわけで、本心で言っているつもりだ。


 各パーティーが頑張っているからこそ、ここまで大怪我する者も出ていないのだ。

 おかげで回復役のアリアとメイアもかなり余裕そうだ。


 メイアに至っては、取り巻きとはいえ上位の魔物をたった一人で倒していた。

 確実にガントよりも強いだろうな。


 鬼族になる前は単なるメイドだったから戦闘経験はなかった筈だが、これまでの色々な経験から戦闘センスが磨かれたんだろう。

 今もリッチを一撃で倒しているしな…。

 もしかしたら、世界最強のメイドだったりしてね?


 素材回収係のガントと、それを手伝う俺のペットのフィアと、それを受け取るゲンブも落ち着いたものだ。

 すぐ近くにドラゴン種がウロウロしているのに、まったく動じた様子を見せない。

 カルマやニケ達を近くで見ているから、感覚がマヒしているんじゃないか?


 フィアは、分身を作り出してあちこちの素材をずるずると引き摺ってきている。

 それをガントが素早く解体して、ゲンブに放り込んでいる。

 この1人と2匹の連携は、見事なもんだな。

 今回の仕事が終わったらレア素材でも取りに行かせてみようかな。

 かなり効率が良さそうだ。


 出発してからかなり下に降った頃、ここまでほぼ一本道であったが、そこに大きな扉が現れた。

 もしやこの先に星の精霊がいるんだろうか?


「やーーーーっと、ここまで来たにゃ。ここまでは、通常のダンジョンであの扉の先が星の神殿になるんだにゃ。ちなみに、数は減るけどこの先の魔物や魔獣の方が強いから気を付けるんだにゃ!」


 突然にゅっと湧いたクロノスがやってくるのだった。


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