第276話 精霊たちの正体

「ええいっ!遅いわ!いつまで待たせるんじゃ、まったく!!」


 扉を開けると、怒っている長い髭を蓄えた小さなお爺さんが居た。

 真っ白い髭が地面に迄ついているが、気にしている様子はない。


 その爺さんが、人化しているニケを見て反応する。


「おおお!そこの別嬪さんは、もしや風の精霊かの?!やはり、風の精霊は美しくて目の保養になるわい。かっかっか」


 なんというか、豪気で陽気な爺さんのようだな。


 まぁ、予想をしなくてもコイツが十中八九で大精霊ノームだろう。

 もし下っ端だったら、伸びきった鼻下を叩き切ってやりたいくらいなんだが。


「ふーむ。そこのなよっちいのが『覇王』なのか?ワシが会った『覇王』の中では一番弱いように見えるが…、なるほどなるほど。人間の覇王だというのか!?かっかっか、これはまた面白いのが来たもんじゃ!」


 もしかして、人間で覇王になったヤツって珍しいのかな?

 色々と知ってそうだし、聞いてみるか。


「あんたが土の大精霊のノームで合っているか?」


「うむ、いかにもわしがノームじゃ。ヒヨッコよ、わしに会えた事を光栄に思うが良い」


 その物言いに一瞬カルマが殺気立ったように見えたが、そちらをチラっと見たら一瞬で平然な顔に戻っていた。

 最近、先生の芸が細かくなっていらっしゃる。


 何事も無かったようにしているカルマを置いといて、ノームに挨拶しないとだな。


「お初にお目にかかる、大精霊ノームよ。俺は使命があり、あなたから加護受ける為に来たんだ。…その様子だと、何をしに来たのか分かっているみたいだけど…」


「当たり前じゃ!ワシは五大精霊の一人だぞ?お主たちの事など、わかっておるわ!時に覇王よ、お主は白の女神様に会ったか?」


 光の女神ではなく、白の女神と言った?

 いくら太古の精霊とはいえ、白の女神には会ったことないはずだが…


「ああ、本体では無かったが会ったよ。そして、この世界の事を聞いた」


 それを聞くと、ノームは嬉しそうに笑った。

 今までの不機嫌が嘘だったかのように。


「かっかっか!そうか、あったか!うむ、加護は与えよう。しかし、その前に我等が何なのかを教えてやろうか」


 そこに魔王がいるのも確認しつつ、態々全員に聞こえる音量でそういうノーム。

 ここは、素直に聞くのがいいかな。

 また不機嫌になられても困るしな。


「是非お願いします」


「うむ、素直なのは良いことじゃ。先ずは、我らが生まれた時の事じゃ…」



 ───

 白と黒の女神が戦争した事で、世界は荒れ果てていた。


 地は腐り、海は濁り、空は毒と化した。

 大地に住まう人々は、既に息も絶え絶えでこのままいけば全ての生物が絶滅するだろう。

 そんなときであった。


 白の女神は自分の半身を作り、光を生んだ。

 黒の女神も自分の半身作り、闇を生んだ。


 白の女神の半身は、光の女神になり、生まれた光は光の精霊となった。


 黒の女神の半身は、闇の女神になり、生まれた闇は闇の精霊となった。


 光と闇の精霊は交わり、さらに5つの精霊を生む。


 それは火、水、土、風、星。


 光の精霊は、5つの精霊を使い、空と海の毒を浄化し、生命の息吹を生み出した。

 闇の精霊は、5つの精霊を使い、毒素をエネルギーに変換し、腐った大地を一度破壊して新たに作り替えた。


 そうしてこの5つの大地『アストラ』が出来上がったのだとういう。

 

 それからいくつのかの精霊が生まれたりもしたが、それはそれぞれの精霊から派生したものだという。


 爆は火の精霊から。

 氷は水の精霊から。

 木は土の精霊から。

 雷は風の精霊から。

 石は星の精霊から。


 そして、いつしか光の精霊から聖が生まれ、闇の精霊からは幻が生まれた。


 こうして、今の世に至るのだという。


「光と闇から生まれたわしら大精霊を5大精霊と人々は呼ぶ」


「そういや、なんで7大精霊じゃないんだ?最初からいたのは光と闇だろ?」


「それはな…。人々は、光の大精霊と闇の大精霊に会った事が無いからじゃ」


「え?そうなのか?でも、ここに闇の大精霊のカルマがいるけど?」


「そやつは、正確に言うと化身じゃな。なぜか、本体を取り込んでしまったようじゃが、本来の闇の大精霊は【闇の神殿】の奥底に封印されていた筈じゃ」


「なんで封印されたんだ?」


「それは、あの大魔王となったルキデウスの馬鹿者のせいじゃよ。あやつが好き勝手するために、闇の女神を手籠めにし、闇の大精霊に自分の魂を混入させよった。それが原因で暴走してしまい、自我の無いただのエネルギーを放出するだけの存在となり果てたのじゃが…。どうやら、別の何かで制御出来るようになったようじゃな?」


「ふん、余計な事をいう爺だ。確かに我は、お主らを生み出した闇の精霊とは根源が違う。我は闇の大精霊の力を引き継ぎ、闇の女神によって新たに生み出された存在だった者だ。それも、今は更に違う存在が混ざっているがな…」


「その混ざりもののお陰で、お主は自我を一つに保つ事が出来るようになったのじゃろう?」


「うむ、まさにその通りだ。そして我が主と契約したことにより、完全なる自己を保つ事が可能になったのだ。これはきっと、あの者に仕組まれていたのだろうが、それだけは感謝するとしよう。主と共にこの世界に生まれる事が出来たのだからな」


「なるほど…。そのように完結したか。なれば、もはや奴に支配されることもあるまいな。さて、『覇王』となりしユートよ。そして、それを守りし聖女たちよ、お主達に我が加護を与えよう」


 カルマとの話にひとり納得するノームだったが、唐突に俺に加護を与える儀式を始めた。

 いつも通り、不思議な感覚が俺を包み込む。


「我は【土の大精霊ノーム】。我が司るは生命の苗床たる土!我の名の元に、汝らに土の精霊の加護を与える!」


 ノームがそう叫ぶと、祭壇から光が溢れて俺の中に流れてくる。

 アリアやリンにも同じようにチカラが注がされているようだ。


 するとどこから聞いたことがある声が頭の中に響いた。


『───あと一つ…、あと一つ加護を手に入れれば、我が元に…』



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