第230話 集う勇気、狙う悪意
ユート達に案内されて、サウサリスの冒険者達は大教会に集まった。
最初はユート達を確認するまで魔族軍と勘違いされかけたが、ユートが援軍が到着したと声を掛ける事で王都の冒険者達も理解したようだ。
「しかし、亜人ってだけで魔族だと思うってのは本当だったんだな」
ユートがそう呟くと、皆バツが悪そうにしていた。
以前にそういう話を聞いていたけど、実際に目にするとちょっと驚きを感じる。
しかし現在は魔族が直接襲撃してきているので、人間と特徴が違う亜人を警戒するのはしょうがない事かもしれない。
もちろん、援軍で来たサウサリスの冒険者達はその事を分かっているので、全員がサウサリス冒険者であることの証明であるギルド勲章のマークが入ったバンダナを腕に巻いている。
一応目立つ色なので、これを目印にするように改めて伝えておいた。
「我々のなんと視野の狭いことか…。しかし、これも長い歴史がそうさせてしまったのです。皆を代表して謝罪をいたします、本当に申し訳ございません。…そして援軍に来てくれたこと、本当に感謝いたします。ありがとうございます、来ていただいて。貴方達のおかげで救われる命が増える事でしょう。さあ、一緒にこの街を魔族から…いえ、魔王軍から奪還いたしましょう!」
聖女アリアネルが皆を代表して前に立ち、援軍に駆けつけたサウサリスの冒険者達にそう言葉を伝える。
慈しみと愛に溢れた表情を浮かべ、相手に真摯に言葉を投げかける姿を見て、ああ本当に聖女なんだなと思ったが、不謹慎なので口を慎んておいた。
「「「おおおおーっ!!」」」
と聖女アリアネルの言葉を受けて、更に士気を上げた冒険者達。
また、さっきまで警戒していた王都の冒険者達も聖女の言葉を受けて、サウサリスの冒険者達と手を取って感謝と謝罪を伝えていた。
「さ、皆時間が惜しい。すぐに行動するぞ!半分はここの護衛。半分は地下通路への入口へ向かってくれ。ドルガー達が避難している住民をこっちに連れてきている筈だ。合流したら、そのままここまでの護衛をしてくれ。」
俺が口早にそう伝えると、一人の冒険者が聞いて来た。
「あんたは、…ユートさんはどうするんだ?」
「俺は…俺達はもちろん。王宮へ突入する。カイト、いくぞ?」
「はい、その言葉を待っていました!」
カイトは当然とばかりに即答する。
こういう時の為に、自分たちは力を付けてきたんですからと付け加えて。
「カイトが行くなら、俺達もだな」
「もちろんなのです。ここで行かなきゃ女が廃るですぅ!」
「ミラは、そのままでも魅力的だと思うよ。でも、ここは当然行くに決まってるよ」
「ザインもすっかり前向きになったな。こっち来て俺らも色々鍛えられたって事だな」
「そういうダンも、前よりも頼れるパラディンになったわ。私達のガードよろしくね?」
「アイナは、少し怖くなったな…」
カイトの仲間達も、それぞれの思いのもと俺に付いてきてくれるようだ。
まず間違いなく王宮に最大戦力が待ち構えている筈だ。
そうとなればこちらも最大戦力でいくしかない。
「マスタ~~~~~~~~~~~!」
「私たちもいますわよ~~~~~!」
空中でドラゴンから人化して、スカイダイビングして降りてくる二人。
…え?そのまま落ちてくるの!?
と思ったら地上から2mくらいの所で、ドラゴンの翼だけ背中から出現させた。
その浮力で浮遊してから、ふわりと着陸する二人。
なんとも人騒がせな双子だ。
「あちらの魔物達は残さず殲滅して参りましたわ。ね、ヘカティア」
「うんうん、すべてプチっと潰してきたよ。だから、もう南門は大丈夫だよ!マスター」
なるべく建物に被害を及ばさない様に、広範囲ブレスや大規模破壊系の魔法は使わないように言っておいたんだが…。
その割には、あっという間に倒してきたようだな。
よし、これで役者は揃ったぞ。
あとは王宮にも生存者がいる事を祈るのみだな。
───その頃、王宮では。
「やってくれるじゃない、あの男。テイマーなのは分かるけど、何なのあのペット達!?カルマだけでも厄介なのに、他も化け物ぞろいじゃない!」
ヘラは街の各所を魔道具の水晶で状況を見守っていた。
危うく、怒りに任せて地面に投げつけるところだったが、なんとか思い留まることに成功した。
彼らのおかげで、ヘラが用意した3000体もの魔物達があっという間に駆逐されてしまった。
どれもランクB以上の上位種なので、集めて王都に運んでくるだけでもどれだけの苦労をしたことか。
いくらルキデウスから命令が出ているとはいえ、そうそう簡単に出来る事ではないのだ。
連れてきた魔王軍精鋭の兵士たちも、街に送り込んでいたその殆どが滅ぼされてしまった。
残るはこの王宮にいる側近たちだけだ。
当然自分を守る為にいる彼らは優秀だし、高ランクでもあるのでそうそう負けるとは思っていないが、あのカルマもまだ本気を出していたようには見えないし、まだ油断は出来ない。
それにあの2頭のドラゴンロードだ。
ドラゴンロードを連れているだけでも、かなりの脅威なのだがそれが2頭。
しかも金と銀のドラゴンロードなど、行方不明になっていたあの双子の魔竜のようではないか。
いや、ようではなく、本人たちだろう。
いつの間に裏切っていたのか…。
姿形が変わっているのが気になるところだが、カルマがあそこにいる以上、関わっているのは間違いないだろう。
「カルマめ!どこまでも私の邪魔をして!」
再度水晶を投げそうになって、そんな事をしたら監視が出来なくなり状況が視えなくなるので、再度思いとどまった。
今日は随分我慢をしている自分を褒めたいと思えるほどだ。
しかし、今はそんな事をしている場合ではないのだ。
あの化け物どもが、もうすぐでここにやって来てしまう。
こちらも守りを固めないといけないだろう。
逃げ帰るならすぐにでも出来るのだが、ルキデウスがそれを許してくれるだろうか?
いや、あの方なら私を実験台に回すなど容易にしてみせるだろう。
それを考えると、体の奥底から寒気がする思いだった。
「せめて、テイマーであるあの男をどうにか出来ないかしら?…ああ、そう言えばあの変な馬車が来た時に『パパ』とか言ってた少女が居たわね。あれを攫って嫌がらせをすれば、すこしは抵抗力が下がるかしら。…いえ、人質にすれば手出し出来なくなるかもしれないわね…。戦場に自分の弱みになる娘を連れてくるなんて、なんて甘ちゃんなのかしら。いや、だとしたら…ふふふ、いい事思いついちゃったわ」
ブツブツと独り言のように呟くヘラ。
そこである事を思いついたヘラは、一人の魔族を呼び出した。
「地下から出てくるこの冒険者の少女を攫ってきなさい。今頃は街の住人を避難させている筈よ」
ヘラは水晶に映る一人の少女を指して命令を下す。
そこに映っているのは、…リンだった。
「承知しましたヘラ様」
水晶を一瞥すると、そう言ってその魔族はすうっと消えていった。
「保険にしかならないだろうけど…、まぁ無いよりはマシね。折角だから完成したばかりのあの秘薬の実験台になってもらいましょう」
そう言うとヘラはフフフッと笑い、妖しい顔で水晶の少女を見つめるのだった。
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