第218話 サニアで待つ者②

「やはり、貴方は思った通りの人ですね。貴方に生きて再会出来たのを嬉しく思います」


「おいおい、そう言うのは無事に帰ってきてから言ってくれよな」


 そういう変なフラグは立てないで欲しい。

 俺はまだ死ぬ気はないんだよ。


 さて、連れて行くメンバーを決めないとだな。

 聖女を狙って来たのであれば既に捕まっているだろうから、狙いは王宮だろうな。


 しかし、それだけだと若干腑に落ちない。

 人間と魔族の実力差と戦力差を考えると、町にまで被害を及ぼす戦い方は無駄な気がするのだ。

 町にも何か狙っている物があるんだろうか?


 とりあえず万が一を考えて、屋敷に防衛役を置いておかないとだな。

 狙いがハッキリしない以上、この町の防衛も考えた方がいい。

 想定する敵はSSランクの魔族か…。


 カイト達だけでは荷が重いだろうし、出来れば連れていきたい。

 そうなると王都に入れないセツナと、まだギルドに仲間ペットの登録していないセリオンか。


「セツナ、そしてセリオンはここの防衛に当たれ。いざという時にお前たちくらいのクラスじゃないと歯が立たないだろうからな」


「…しょうがないわね、私は王都に入れないし。ユート達の戦いが見れないのが残念だけど、今回は有事だし我慢するわ」


『承知した。ユートと我らの住処を必ず守ってみせよう』


 ふたりともすぐに承知してくれた。

 前みたいに不在の時に襲われたりしたくないからな。

 SSランクだし、万が一の時はなんとかしてくれると期待したい。


 王都へは大勢で行っても目立つし、移動に時間が掛かる。

 そのため、先行で俺とニケとカルマ、ディアナとヘカティアが高速移動して向かう。

 

 後発部隊としてゴンドラを一基使いカイト達の5人と、リン、レーナ、アーヤ、ガント、メイアが来る。

 カイト達は魔物討伐を中心に活動し、リン達3人は街の人々の救助と治療に、ガントとメイアは救護と物資の補給部隊だ。


 それ以外のメンバーはサニアに残り、町の防衛にあたらせる事にした。

 うちのメンバーだけでかなりの人数がいるので、ギルドにも連絡したら大助かりだと喜んでいた。


 王都襲撃の件はサニアのギルドにもすぐに連絡が入ったので、既に町に厳戒態勢が敷かれている。

 住民達は不安を押し殺しつつ、なるべく外出しないようにしているようだ。


 ゼオス達も出来るなら王都へ向かいたかったようだが、サニアの町もいつ危険な状況になるか分からないので、そのまま残って情報収集に努めると言っていた。

 

 俺はゼオスに直接会い、ユニオンメンバーの半分を護衛に当たらせる事を伝えた。

 もちろん俺自身が王都へ救援に向かう事も。


「お前はいつも人助けをしているな。口では損得勘定でやってるなんて言うけど、実際はかなりのお人好しだよ。…だからこそ、信頼しているんだ。王都の事頼んだぞ!もうお前しか頼りにできる奴がいないんだ。もちろん、その分報酬の方は任せておけ!…あと、絶対死ぬんじゃねーぞ?」


「ああ、分かってるよ。まぁ、きっと大丈夫だよ。俺の仲間ペットの主力を連れて行くから、魔王でも出てこない限りは負けはしないさ。じゃあ、行ってくるよ」


「おう、無事を祈っているぞ」


 同じおっさん仲間として意気投合しているゼオスに心配されるのは、純粋に嬉しいかもしれない。

 もちろん、端から死ぬ気はないので万全を期して臨むつもりだ。


「パール、ペルラ。来てもらって早々に悪いけど屋敷で待機していてくれ。このゼフ達が君たちの世話を見てくれる。何かあれば彼に聞くと良い」


「分かりました。こんな時ではありますが、とりあえず絹を織るための機械を置く場所を決めさせてもらいますね。あとは、繭を作る虫の育成する場所を作らないと…」


「それなら小屋を作った方が良いでしょうね。まだ、町には職人たちがいるので頼んでみましょうか。旦那様よろしいですか?」


「ああ、そこはゼフに任せるよ。お金が足りるなら好きにやってくれて構わない」


「畏まりました」


 パール親子の事はゼフに説明してあるので、任せておく。

 なるべく早くに絹を作れるようになると有り難いが、そこは自然の産物なので蚕(らしきもの)が定着してくれるのを待つしかない。


「じゃあ、ギルドにも報告したし出発をする。留守の間はゼフ、セツナ、セリオン頼んだぞ?」


「承知しました旦那様」

「了解したよ」

『承った』


 3者から返事をもらって、いざ出発しようとしたその時だった。


「ユートさん!待ってください!!」


 聖女アリアネルが息を切らしながら屋敷から出てきて、俺の出発を止めた。

 なんか言い忘れた事でもあるんだろうか?


「ユートさん、勝手な事を言っているのを承知でお願いします。どうか私も王都へ連れて行ってください」


「はぁっ!?いやいや、何言っているんだ?連れて行って危険な目に遭わせたら、ゼフの努力を泡にするようなもんだぞ?」


「もちろん、分かっております。ですが、行かねばならないのです。私が聖女である限り、やらないといけない事があるんです!」


 必死の表情で訴えるアリアネル。

 聖女でなければ一番安全なここで待っているだけで良かったものなのに…。


「はぁ…、分かったよ。今は急いで向かわないといけないから、理由は行く途中で聞かせてくれ」


「!!ありがとうございます!では、よろしくお願いします!」


 そんなアリアネルをニケの背中に乗せて、俺は彼女の前に乗る形になった。


 飛行する生き物には乗った事が無いのか、緊張して俺の背中にピッタリくっついている。

 背中から与えられる心地良い感触に意識が取られそうになるが、男子メンバーから何故か向けられる敵意に当てられて意識を保つことが出来たのは僥倖だ。


 「では出発するぞ!後発隊は無理せずに来てくれ。俺等は最速でかっ飛ばす。行くぞっ!」


 そう言うとニケは俺らを乗せて天高く舞い上がった。

 カルマとディアナとへカティアも続いて飛び立った。


「「「行ってらっしゃいませ」」」


 恭しくお辞儀をしながら見送りしてくれるゼフとメイド達。


 居残り組のメンバーも、どこで覚えたのか敬礼をしながら俺らを見送るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る