第208話 火の試練

「「「かーわいい!」」」


 子供特有の可愛さにすぐにメロメロな、リン、レーナ、アーヤ達。

 その様子を見て、問題ないだろうと考えた。

 それに、メイアもいるしな。


「しばらくこの子の面倒を見てやってくれ。ペルラ、このおねーちゃんたちが遊んでくれるからな。しばらくお留守番できるか?」


「う、うーん。おかあさん大丈夫?」


「なるほど、これだけ女性の方がいらっしゃるのであれば…。それにここの場所は悪意の気を感じないです。分かりました、信じましょう。ねぇペルラ、お母さん女神様のお仕事をしに行ってくるからここで待っててくれる?」


 パールは意を決したようだ。

 その母親をみてペルラも我慢すると決めたようだった。


「あ、そうだメイア。この方はパールさん。そしてこの子はその娘のペルラだ。パールさんはね、シルクっていう綺麗な布を作れる人なんだ。ほら、これ触ってみてくれ」


 そう言って、生地をメイアに渡す。

 最近裁縫に凝っているメイアにとっては、最高の素材になるはずだが…。


「これは…なんと素晴らしい肌触りなんでしょうか。あ、お二人のお召し物もこのシルクなんですね…。なるほど、旦那様が欲しいと思うのも納得です」


「そうだろう?だから、暫くの間この子の面倒見てやってくれないか?」


「…そういう事でしたらお任せください旦那様。すぐに出かけられるので?」


「ああ、これから火の神殿に行ってくる。夜までには戻るよ」


「畏まりました、行ってらっしゃいませ旦那様」


 そう言った後、さっそくペルラのお世話を開始する。

 おやつに用意したドライフルーツをあげて手懐けていた。

 さすがメイド長だ、子供の手懐け方もそつがない…。


「さ、さて行こうか。あの通り大丈夫そうだし」


「そうですね…。あの…、もしかしてあのメイドさんは鬼族ですか?」


「あー、良く分かったね。でもちょっと事情があってね、実は元人間なんだよ。だから、敵対してた種族とは全く関係ないから安心してくれ」


「元人間…、そうなんですね。でも、それを聞いて安心しました。では、メイアさんよろしくお願いします。ペルラ、いい子にしているのよ?」


「はーい、お母さん。お仕事いってらっしゃい~」


 ぺこりとメイアにお辞儀をすると、もう2度目なので失神はしなかったが恐る恐るニケに乗り込んだ。

 ペルラは、ニケに乗って空に昇っていく母親を、リン達と一緒に手を振って見送っていた。


 俺もカルマに乗って空に上がる。

 今度も高速で移動するが、パールは必死に耐えているようだった。


 村の近くにあるという事もあり、【火の神殿】までは数分でたどり着いた。

 入口には"火の精霊"達がウロウロしていたが、特に敵意を向けてくることも無かった。


 どうやらパールを連れていくことにより、敵と判断されないようだ。


「まだ、私に入る資格は残されているようです。他の者が入ればたちまちあの精霊達が襲ってきますから」


 という言葉の通り、丁度小さな魔獣が入ろうとしたら火の精霊達に丸焼きにされていた。

 あの程度の精霊なら問題なく倒せるが面倒は少ない方が助かるし、万が一パールが先に襲われてしまったら無事に済まないかもしれないので、襲われないのは良かったと思う。


 神殿に入る前に、俺には聞き取れない言葉でなにかの呪文を唱えると、大きな火の玉のような火の精霊が現れた。

 どうやら案内をしてくれる精霊らしい。


 俺とパールは翼をしまったカルマとニケに乗って、その精霊の後をついて行く。

 その精霊についていくと、最奥地の祭壇の部屋までやって来た。


 そこまで行くと精霊は消えてしまう。


 それと同時に、部屋に声が響き渡った。


『久しい気配を感じたと思ったら、白夜叉ではないか。しばらく来ないと思っていたがやっと来たか。どれ加護を掛け直してやろうか?…おや、お主たちは何者だ?妙な気配を感じるが』


「俺はユートだ。アグニから加護を受けてやって来た者だ」


『ほう…お主が『覇王』を持つ者か。実に何百年ぶりだろうか…ならば、求めるのは我の、火の大精霊フレイヤの加護か?』


「ああ、その通りだ。この先必要だと言われたんでね、取れるうちに取っておきたい」


『そんな気軽に与えると思っているのか?先ずは我に力を示せ、話はそれからだ。…ふむ、そこの2匹の魔獣は手を出すなよ?まぁ、分かっているとは思うがの』


「ちっ、相変わらず嫌な性格をしているな。この姿なら気が付かないと思ったのだが…」


『…さて、わが従者を倒してみせよ『覇王』よ。さあ、やれオッタル』


 巨人のような大男が魔法陣からいきなり現れた。

 手には二本の炎の魔剣を装備している。


 イノシシのような兜を被り、こちらを睨みつけていた。

 口からは息というよりも蒸気を噴き出していて、その目は真っ赤に燃え盛っていた。


『その者は過去出会った人間の中で最強の肉体を持つ男だ。勇者の資格は得られなかったが、舐めてかかると死ぬぞ?』


 その言葉に呼応してなのか、オッタルは『ウオオオオオオッ!!』と雄叫びを上げた!

 その雄叫びだけで地面が震えあがる。


 ここに人類史上最強の戦士と、最高ランクのテイマーの戦いが火蓋を切られたのだった。


 …またもや、俺のペット達は使えないんだけどね。

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