第193話 温泉宿④
昨日は、朝まで皆と飲んでいたので昼くらいまでのんびりして、その後また温泉に入ったり、この地で採れる植物から抽出した上等なエッセンシャルオイルを使ってのマッサージ等を体験し、心も体も充分に休ませることが出来た。
温泉には清掃時間以外はいつでも入れるので、何度も入って楽しむ事ができた。
貸切にしているので飲み物の持込みもOKを貰い、この地方特産の米から作ったお酒をデカンタに入れて熱燗にしてもらい、飲みながら入る事ができた。
今持っている酒は、例の赤米から作ったからか桜色をしているので、見た目も綺麗で風流だ。
「はぁ〜、最高だな…」
木桶を浮かべて、その中にデカンタとグラスを置いてある。
そこから上がる、温泉とは違う湯気がまた心地よい。
一人クイッっと酒を堪能していた時だった。
どこからか嗅ぎつけて来たのか、酒豪達が集まってきてしまったようだ。
流石に何度も一緒に入っていると、驚くどころか、お互いに恥じらいも無くなってきた。
まぁ、眼福である事は変わってないが。
「ひとりでそんな楽しそうな事…ズルいですユートさん」
「そうだぞ?私達にもその幸せを分けてくれないか?」
ちゃっかり、お酒を飲むグラスを持って来ているあたり、結構前から見られていたようだな。
意外と抜け目ないお嬢様方だ。
「しょうがないなぁ…」
そういいつつ、サナティとセツナの二人にもお酒を注いであげる。
嬉しそうにそれを見つめ、少し香りを楽しんだ後口を付ける二人。
「ん~~、最高ですね」
「ああ、最高だね。こうやって飲むのもいいものだね」
「そうだろう?サナティは初めてかも知れないが、俺とセツナの国ではこうやって飲むのが風流なんだよ」
「ああ、そうだな。ただ、私もこうやって飲んだのは初めてだけどね」
「まぁ!素晴らしい風習があるんですね。羨ましいです。でも、セツナも初めてだったなんて、一緒に体験出来て良かったわ」
「まぁ、これはとても贅沢な事だからな。サナティも私も、とっても運がいいという事さ」
しばらくそうやって三人でお酒を飲みながら、楽しく談話していた。
─筈だったのだが…。
途中で少し酔ったせいなのか、お互いに変なスイッチが入って妖しい雰囲気になってきた。
流石の俺も、美人二人に艶っぽい視線を送られれば、理性を保つ事など無理というものだ。
しかし、タイミング良く(悪く?)レーナ達が入って来たのだった。
お陰でブレーキが掛かり、3人から怪しい雰囲気が抜ける。
うーん、良かったような、残念なような…。
ついでなのでと、レーナ達に明日の予定等を話した後、もうお酒が無くなったのを理由に先に上がる事にした。
「ふふっ、ざんねん…」
と誰かが言っているのが聞こえた気がするが、それが何を指すのかも分からぬままその場を後にしたのだった。
──────
二日間贅沢をしつつも、ここの特産品を調べたりギルド長に商会を案内してもらい買付の手続きをしたりした。
遊びつつ、仕事もキッチリこなすのが俺の流儀です。
じゃないとお金無くなるし!
町で色々と話を聞いていると、先日討伐した溶岩窟の主"ラヴァクロコダイルロード"の被害と、火の山に生息している"火の鳥"の話が聞けた。
溶岩窟の主は、鉱夫への被害が甚大で亡くなった人もかなりいたらしい。
俺が倒したことを話すと、本当に感謝された。
それと火の鳥の方もかなりの被害が出ているみたいだな。
正式名"ファイヤーバード"は、Bランクの魔鳥で常に複数匹で行動する厄介な鳥だ。
その名の通り燃え上がる炎を頭に灯しており、攻撃の際にそこから炎を飛ばしてきたり、口から火を吹いたりする。
群れで行動することも多くて囲まれてしまうと、AランクどころかSランクの冒険者でも油断すれば只では済まない相手だ。
町の人にも聞いたが、毎年多くの旅行者や冒険者がこの山で命を落としているらしい。
ここ数年は大人しかったらしいが、2か月くらい前から急に活動が活発になったせいで被害が急増。
ギルドにもかなりの依頼が来ているらしい。
なので、今なら報酬も高いし、高ランクの冒険者が滅多に来ることが無いので是非とも依頼を受けて欲しいとお願いされてしまった。
こういう時に依頼を受けておくと報酬が通常よりも高いので、LBOでゲームしているときは率先してこういう依頼を受けていた。
「というわけで、討伐を依頼を受けたので火山の頂上へ向かう。道も狭いし動きが取れない場所で囲まれると被害が出る可能性もあるので、人数を絞るぞ」
宿に全員を集めて討伐依頼を受けるメンバーを決める事にするのだった。
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【おまけ話】
二回目くらいの時になるか。
俺らが温泉に入っていると、たまたま一緒に入ってきたセツナが俺らの上半身を見てふと質問をしてきた。
「ほう、ガント殿は中々の筋肉だな。鍛えているのか?」
「いいや?俺は元々リアルでは土木関係だから自然とこうなったんだよ。セツナは鍛えてるのか?」
ガントはガテン系に良くいる感じの筋肉の付き具合だ。
酒が好きな割にはお腹が出ているわけではなく、全体的に筋肉質な体つきをしている。
対して、セツナの方は鍛え抜かれたように余分な脂肪がついていない体つきだ。
胸以外には脂肪の代わりに筋肉が付いている。
キッチリと鍛えていないとそういう風に筋肉は付かないだろうな。
「ええ、私は本職が自衛隊だから。これでも一尉なのよ?」
「へぇ、エリートってことだな」
「そんな事はないわよ。…あらよく見るとユート殿もいい筋肉しているわね」
「ん?俺は週に2回ジム通ってたからな」
「うん、無駄な筋肉が無くて綺麗ね。綺麗な締まり方でいいわぁ!ね、触ってもいい?」
「え?まぁ、いいけど…」
細くて長い指が、俺の腹筋をすすすーッと滑るように撫でていく。
別にいやらしい事をしてるわけじゃ無いのにモヨモヨする。
だがしかし…。
「ああっ、バランスの取れたこのシックスパックっ!最高のバランスね!」
唐突にテンションが上がるセツナ。
一瞬にしてクールビューティーなキャラが崩壊する。
そのテンションに当てられて、色気のある雰囲気など一瞬で吹き飛んだ。
「なぁ、ガントこれはもしや…」
「ああ、間違いない。だからあのグラムに…」
「え?え?」
俺らの疑惑の目に当てられて、ハッと正気に戻るセツナだったが。
「「セツナは生粋の
「ガーン」
俺らのとどめの一言で、そのまま轟沈するのだった。
なるほど、美人の部類なのに勿体ないな。
だから、モテなかったのだね。
おわり。
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