第189話 ヒヒイロカネ

 俺らが溶岩窟の主を解体して素材を集めてからガントに合流すると、既にカーゴに入りきれないほどの量の鉱石が掘られていた。


 というか、さっき迄は窪んだ壁だった場所に新しい坑道が出来上がっていた。


 マジか、凄まじい勢いだな。

 まだ小一時間しか経ってない筈だが…。


「おー、ユート。いいタイミングだ。一旦鉱石を溶かしてインゴットにしたい。フィアを借りたいんだ」


「ああ、いいぜ。素材をゲンブに収めたいから鉱石を一旦外に出すぞ?」


「ああ、構わない。一気に全部溶かしちまうさ!」


 そう言うと、奥の方に携帯炉を設置し始めるガント。

 フィアも慣れたもんで直ぐにそこに火を灯し始め、熱を上げていく。


 俺はゲンブを連れて、溶岩窟の主から取り出した素材を収納していった。


 肉の一部はペット達に食べさせておいたが、なんせ10mになる巨体だ。

 大量に余っている。


 あんまり、放っておくとステーキになってしまうので魔法で凍らせておいている。

 解けるのも早いので素早くカーゴに入れた。


 3人で手分けして格納していくがそれだけで20分程掛かった。

 終わってからガントの所に戻ってみると、そちらもあらかた終わったみたいだ。


 各種金属のインゴットがキラキラと光を放ちつつ地面に積み上げられていた。


「おう、そっちも終わったか?じゃ、このインゴットも頼むな」


「目的のは出たのか?」


「もちろんさ。これで全部揃ったよ」


 指し示す方に、茜色をしたインゴットがいくつも積みあがっている。

 これは、"火焔鉱石"を炉で溶かして精錬された"ホムラコガネ"だ。 

 これ自体かなりの高値で取引されている。


「成程な…ここにあのボスモンスターが居るから、クエストの素材に選ばれてるのかもな」


「ああ、でも普段はもっと採れてたんだろ?買えるから、そうとも限らないんじゃないか?」


「あー、そっか。それもそうだよな。だとしたら、Sランクアップにしては簡単すぎるな」


「そんなことないぜ?ここから、精製してある金属を作り出すんだからな。それ行程は、一筋縄じゃいかない」


「それじゃこの金属は…」


「そう、それの材料ってだけさ。俺が作らないといけないのは"ヒヒイロガネ"だ」


「あの伝説の金属か。出来きたら俺も見たいから教えてくれよ」


「ああ、必ず教えるよ」


 また一つ楽しみが出来たな。

 さて、もう一時間くらいしたら出ないと夕食に間に合わない。


 さっさとやっちまおうと、ガントは再び採掘に精を出すのだった。



 ────── それから1時間後


「くはーっ、久々に疲れたぜ。暑いし、固いし」


「他と違うものなのか?」


「もちろんだよ。ここのはスキル持っていない奴なら、岩を削っている様に感じるだろうさ」


 そうなるとここで掘れるのは熟練の工夫だけになるな。

 これはかなり価値が上がりそうだ。


「なんか目が金になっているけど大丈夫か?」


「気のせいだろ。それよりその"ホムラコガネ"だけど、結構採れそうか?」


「ん、定期的にってことか?んー、護衛が必要になるけどまだまだ鉱脈は残ってそうだし、俺なら1日潜ってインゴット500くらいかな」


「それって多いのか?」


「そこそこかな。技量は必要だけど、出る量は少なくないぜ?」


 それなら定期的に潜って、特産品として売りに行く事も可能かな。

 とりあえず頭の片隅にメモしておこう。


「よし、最後の鉱石もインゴットに変えた。いつでも帰れるぜ」


「おっけー。じゃあ、帰ろうか。おーい、リン、シュウ帰るぞ~」


 採掘しているガントを待つだけでは暇そうだったので、二人にはペット達を連れて辺りに出現する魔獣やら精霊やらの討伐をお願いしていた。


 かなり手慣れたようで、後半は出現すると同時に競い合って倒していた。


 リンはスピード特化型になっており、俺でも目で追うのが大変なくらい素早い。

 逆にシュウはパワー特化型になっていて、一撃必殺を体現している。


「前から思ってたけど、リンって刀が似合いそうだよな」


「おう、俺もそう思っているよ。だから、今回のクエスト終わったらその金属で一本打つつもりだよ」


 戻ってくるなり、そんな話を聞いてリンは目を見開く。


「ガントさん本当!?やったー!欲しかったんだよね、日本刀」


「え、リンだけずるくない?俺にも何かいいの作ってよ~」


「シュウには、カッコいい大剣作ってやるよ。まぁ二人とも期待しててくれ」


 思わぬところで新しい武器が手に入ると聞いて、二人の目がキラキラしてる。

 こういうところは、子供なんだなと思いつつも、いや大人でもこういうのは嬉しいかと心の中で訂正しておいた。



 ──────


 材料が揃って、町へ戻って来た俺らは街の人々に中にいた溶岩窟の主を倒したことを教えてあげた。

 最近、火山活動が活発になったせいで暴れまわっていたらしく、それを聞いた町の人々は大喜びしていた。


 明日にでも護衛をつけつつ、調査団を派遣すると言っていた。

 すぐにでも仕事を再開するぞーと皆意気込んでいた。


 これで鉱夫たちの懐も少しは潤うだろう。


 ギルドに報告しに行くと、カルマ達が丁度帰って来たようだ。


「おや、主よ帰ってきましたか。首尾はどうですか?」


「おう、成果は上々。おつりがくるくらいだ」


 そういうと、火山ダンジョン【ムスペル】でレアボスを討伐した事と目的の鉱物を手に入れてきたことを話した。


「さすが主だ。一緒に戦えなかったのは残念だが、主の活躍を奪うばかりが我の役目ではないからな。力を存分に使えたようで何よりだ」


「ああ、確かにな。イドラの力は強力だが、時間制限もある。彼から引き継いだ『錬気術オーラ』の力を自在に使えるようにしとかないと今後に強敵に当たった時に苦労するだろうからな。いい訓練になったよ」


 変幻自在の『錬気術オーラ』は、【覇王】の固有スキルだった。

 それを"この世界のユート"から引き継げたのは運が良かったのか、はたまた…。


 この町のギルドにボスの討伐報告をして多額の報奨金を手に入れたので、今夜は目いっぱい豪勢な食事を堪能しよう。

 ちなみに報奨金は、"溶岩窟の主"の出現が増えたせいで多数の被害が出ていたため、各商会から懸賞金が掛かっていたため、なんと2000金貨だった。


 宝くじの1等があたったような気分だ。

 そのままユニオンの口座に振り込んで貰う手続きをしておいた。

 

「それじゃ、みんなで宿に戻って温泉と飯だ。目いっぱい食っていいぞ~!」


「「「おおお~!!」」」「「「わ~っ!!」」」


 と男女問わずに全員から歓喜の声が上がる。 


 みんなこの世界に来てから色んな苦労をしただろう。

 少しは、こういうオイシイ思いをして欲しいと思ってた。


 また、この世界に生まれて俺らに協力してくれている子達にも、沢山労ってあげたいと思っていのだ。

 彼女らが居なければ、俺はこんな生活は出来なかったに違いない。


 俺らはその日の宿屋を貸し切りにして、一日療養に費やすのだった。

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