第175話 蘇生術の価値

 カミオ達は最近やっと上位冒険者と認定を受けたばかりのチームらしい。


 奇しくも、俺がここのボスを倒したのを聞いて何度目かのチャレンジという事だった。


 ここの部屋は今日初めて入ったらしいが、そこまで敵が湧いてくるとは思っていなかった様だ。


 なんとか最初は持ちこたえていたが、リーダーのカミオが陣形から外れてしまい、そこからは崩れるのは直ぐだったという。


「カミオがBランクで、他の子がCランク?お前ら、この塔を舐め過ぎ。ボスはSランクだぞ?それで勝てると思ってるのか?」


 流石に無謀過ぎると、本気で叱りつけた。

 せめて全員がBランクにならないとボス部屋まで突破出来ないだろう。

 そこまでいっても、Aランク以上がいないと余程うまく立ち回らない限りは勝つ見込みなど無い。


 それは死にに行くようなものなんだ。

 なぜなら、ボス部屋に一度入ったら死ぬか倒すかしないと、その部屋から出ることが出来ないからだ。


「す、すいません。ここまではそんな大きな障害もなく順調だったもので。まさか、こんな事になるなんて」


「リーダーは悪くないんです!俺らがもっと行けると調子に乗ったせいなんです!」


 自分達のせいなんですとリーダーのカミオを擁護するが、そういう事もコントロールするのもリーダーの仕事だ。

 自分自身にも言い聞かせるように彼等にも厳しく伝える。


「それで死んだら元も子もないだろ?俺が居なかったら、お前ら全員ヘルキャットの餌になってたんだぞ?」


「「「ご、ごめんなざ〜い」」」


 まだこの子達は若い。

 リーダー以外は未成年のようだし、こんな所で死んで欲しくは無かった。


 しかしそこで気が緩んだのか、今更自分たちが死んでしまったという事実に恐怖したのか?女の子達の方は泣き出してしまった。


「パパは、皆さんが死んて欲しくないから真剣に怒ってるんだよ?だから、もう泣かないで」


 リンが慰めつつ、『私もここでパパに命を救ってもらったんだよ。だから一緒だね?』と自分の事を彼らに話しをしていた。


 少し落ち着いた頃、周りを散策してきたショウタ達が帰ってきた。


「おっちゃん、ここら辺はあらかた片付いたよ。暫くは安全なはずだよ」


「おう、ご苦労さん。だいぶ慣れてきたようだな」


「うん、馬に乗ると移動が早くなるからこういう時にはいいね。俺もスキル取ろうかなぁ」


「それも悪くはないな。ま、焦らずに考えるといい」


 ショウタとそんな話をしながら、スキルの使い方を工夫するように付け加えある程度レクチャーしてあげた。


「あのー」


 そんな俺らを見て、レオナという子が俺に話しかけてくる。


「もしかして、ここをクリアしたというユートさんですか?」


「ん、そうだよ。良く分かったな?俺がそのユートだ」


「わあっ、お会いできて光栄です!まさか、蘇生まで出来る方だったなんて!」


「それはどうも。ああ、その蘇生についてだけど他の人に言うなよ?余計な面倒事に巻き込まれかねないからな」


「え…あ、はい、わかりました」


 出鼻を挫かれたようにキョトンとして、頷くレオナ。


 俺の蘇生術リザレクションに関しては、この世界では過ぎたスキルのようなのでユニオン内でも一部にしか教えていない。

 知ってるメンバーにも箝口令を布いているくらいだ。


 魔法での蘇生と違って蘇生率が高いのもそうだが、デスぺナ発生率が低い。

 そんなのを知ったら、あれこれと利用しようとする奴らが必ず出てくるだろう。


 LBOというゲームの世界なら、そんな事を気にするどころかアピールしていいクエストに有り付こうと動く人間も出てくるだろうが、ここは現実世界なのだ。

 私利私欲のために利用されるのが目に見えていた。


「おおっ、あんたが英雄ユート様だったか!オラはバーナーというだ。あんたみたいな凄い人間になりたくて、みんなと冒険してるだ!いや〜、会えて光栄だ〜!」


 バーナーが感激しながら両手で握手してきた。


 西洋風な顔で田舎言葉で話をされると少し気が抜けるなぁ。

 悪い気はしないけどさ、もう一度死んだことなんか忘れてしまったかのようだな。


 やっぱ、一度現物を拝んでおくのがいいかもしれないな。

 目標であるボスの実力を見せてそこで諦めるようなら、どのみちこれ以上の成長はないだろうし。


「よし、カミオ。俺たちはこのままボスまで行くからついて来い。お前たちに見せてやるよ」


「ボスへって、おじ様も戦うの?」


「まさか。俺とニケが戦ったら楽勝過ぎるだろ?お前達だけで戦うんだよ」


 ええーっ!とレーナとアーヤが驚いた顔をするが、リンやショウタ達はやる気いっぱいの顔をしている。

 

 全員がAランクなんだし、普通にクリアしてくれないとこの先困るのだ。


「大丈夫、カイトというAランクだったやつは一人でSランク倒させてたからな。お前らもそれくらい突破してくれないと」


「ユートさん、彼等には無茶は駄目って言ったのに、私達に厳しくないですか!?」


「何を言ってる。お前たちはランク的にも十分だろ?大丈夫、いざとなったら助けてやるよ」


 アーヤが涙目で訴えるが却下した。


「ちなみに、おじ様ならひとりで倒せる?」


「…んーまぁ、余裕だろうな。それだけランクの恩恵は大きいからね。今なら素手でもいけるはずだぞ?」


 と笑いながら言ったら、少しドン引きされた。

 あ、うん調子に乗りすぎたかも。


「あー、取り敢えず上の階に上がるぞ。まだ中層だからなここ。さくさく進まないと晩ごはん抜きだからな」


 ええーっ!聞いてないっ!と抗議の声が上がるが無視して『そら、いけいけー』と囃し立てた。


「ユート殿は、意外とスパルタなのだな…」


「そうか?出来ない事はやらせて無いつもりだけどね」


「なるほど。力量に合わせてるということか。それでランク上げが早いのだな…、私も参考にしよう」


 セツナはそう言いつつ、ショウタ達に指示を出しに前線に戻っていった。

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