第166話 アリアネルとユート

 ───運ばれる事、十数分。

 俺達は王城に到着した。


「それではパーティー開始までに時間がありますので、それまではこの控室でお待ちください」


「分かりました、ありがとうございます」


 色々と対応してくれているマーズさん感謝を伝え、皆で談話しながら待つことになった。


 部屋は男女で別となっている。

 女性はお色直しやらパーティードレスに着替えたりとか大変なのだ。


 男の方も着替えはあるが、城の使用人たちがすぐに取り掛かり着替えてさせられた。

 ちなみに警護の為といって、カイト達は冒険者装備のままだ。

 

 先日、さんざん踊らされたので辟易しているのがバレバレである。

 ちなみにミラとアイナはちゃんと着替えているが。


 そんな中、カルマがスーっと近づいてきて話しかけてきた。


「主よ、あの時に魂の輝きが変わったようだが、何かありましたか?」


「うん、が消えたよ」


「やはり・・」


んだな?」


「ええ、気が付いていたのは我とニケのみですがね。そして、主が獲得した新しいスキルについても知っています」


「!?」


 びっくりした顔のまま、カルマの方を凝視してしまった。

 周りのメンバーも何事かと、こちらを注目している。


「そのスキルは、この世界を統べる資格を持つ者が与えられるスキルです。そのため、そのスキルの事はあまり口外しない方が良いでしょう」


「そうなのか?でもさ、ギルドに登録したらバレるんでは?」


「覚醒スキルを認識出来る程、ギルドのあの装置は高性能ではないかと。なので大丈夫でしょう」


 今更そんな事を気にしてもしょうがないか。

 どっちかというと、死に掛けてたとはいえ実在する人間の体を乗っ取ってた事実の方がショックだよ。


 他のメンバーも同じだろうと思うと、この事実だけは伏せておいた方がいいかもしれない。


 もしかしたら、儀式の時に既に知ったかな?

 いや、彼が特別な存在だったから出来た事なのかも知れない。

 藪蛇になりそうだし、この事実は時が来るまで伏せておこう…。


 その後、2時間ほど待たされてやっと呼ばれた俺たちは侍女たちに連れられてパーティー会場に案内された。


 王座には、当然この国の王様が座っていた。

 その隣には聖女であり、王女でもあるアリアネルがいる。

 

 王からカイトと同じく、星勲章スターエムブレムを授与された。

 それと同時に、騎士ナイトの爵位を与えられたのだった。


 もちろん拒否権は無かった。


「これにより、ユートは準貴族として扱われる。これからは国に貢献し、その勤めを果たすのだぞ」


「ありがとうございます。ですが…、国にというよりは、家族の為に頑張らせていただきます」


「そうか…。まぁ、その力が必要となればギルドを通して依頼をしよう。それが冒険者なのであろう?」


「ご理解いただいて、助かります」


「うむ、今後も精進せよ。さて、堅苦しい話はここまでだ。さぁ皆の者、宴を用意した!今宵は存分に楽しむが良いぞ!」


 王様がそう言うとパーティーが始まった。

 俺は敬礼をしてから下がって、みんなの所へ戻った。


「良くもまぁ王様相手に見得を切れるもんだ」


「伝えるべき事は先に伝えておかないとな。後回しにしたら、厄介なことが大きくなってやってくるからな」


「そういうもんなのか?俺には良く分からんが、自由にやらせてくれるならそれに越したことは無いか」


「その通りだ。さあ、折角用意された料理だ。ルガーのとどっちが美味いか食べ比べしようぜ」


「お、そうしようか!」


 その後、みんなで話をしながら食事をした。

 時折、大貴族が挨拶しに来たりしたが形だけで済んだのは幸いだ。


 俺はカイトと違い、魔物を扱う調教師テイマーなので職業的にも軽蔑されやすい職業なのだと、とある貴族の子女が教えてくれた。


「私は可愛いと思うんですけどねぇ、飼いならされた魔物達は従順ですし、お父様方の世代は考えが古いのですよ」


 と、愚痴まで言って去っていった。

 貴族にもいろいろな人がいるんだなぁ。


「ここにおりましたか、ユート殿!」


「あなたは…」


 そこには聖女であり王女でもあるアリアネルがいた。

 パーティー用の白い美しいドレスを纏い、その美しさを際立たせていた。


「そのお姿もお綺麗ですね」


「あら、お世辞だとしても嬉しいわ。最近の殿方は、世辞も上手に言えないのです」


 と、ちらっとカイトの方を見た。

 するとさっと視線を逸らすカイト。


「ははは。みんな、シャイなんですよ。うちの若い者たちも、そういうのがまだまだですからね」


 カイトはアイナに対しては結構ストレートに言えるようだが、他の女子になると急にまごまごしてしまう。


 今更慣れろとは言えないが、(そんな事を言ったらアイナに刺される)もう少し対応出来るようになって欲しい。


「ユートさんとお呼びしても?」


「ええ、構いませんよアリアネル様」


「ふふ、ユートさんも言葉を崩して構わないですよ、この場は無礼講にしましょう。というより、そうしてくれると嬉しいです」


「そういうもんですか?あ…、そういうもんか?」


 きっとお堅い連中とばかりで疲れているんだろうな。

 ここは、相手に合わせてあげるのがいいだろうな。


「ふふ、ありがとうございます。そうだ、改めて、SSランク到達おめでとうございます。知っていますか?実は…現在ギルドに所属する冒険者の中でSSランクなのは、ユートさんだけなんです」


「え、本当か?」


「はい。なので、今の冒険者ギルドの最高戦力は、あなたという事になりますわ」


 そういや、最近Sランクになったやつもいないし、SSランクに成れなかったとギルドマスターも言ってたもんな。


「でも、前に追い出した冒険者達も、SSランクだっただろう?他にはいないのか?」


 サニアの宿屋に置いてきたセツナも、SSランクなのだ。

 これ以上ランクを上げることは出来ないので、問題ありそうならわざわざギルドの登録はしない方がいいかもしれないな。


「ご存じなのですね…。それは内密に願いますね?私が聖女になって5年経ちますが、先の勇者様がSSランクになった以来は、SSランクに達した者はいません。出ていった彼らが勇者に至るような人物であれば、そのまま迎え入れる事が出来たんですが、いかんせん下品な人で」


「あー、確かにね」


 あいつからは、女と酒の話しか聞こえてこない。

 一緒にいたセツナが可哀想だ。


「え、会った事あるんですか?」


「ん?いやいや、会った事あるって人にこの間話を聞く機会があったんだ」


「…そうなんですか?ん~、彼らはまだ生きているんでしょうか?」


「SSランクの戦士なんて、ドラゴンを数匹でけしかけないと死なないと思うぞ?」


「はー、なるほど。まさに人が人を越えた存在というわけですね」


 そっか、そう言われてみれば俺も人間辞めた感じになるのか。

 ちょっと悲しい事実だな。


「ユートさん、貴方は違うんですね。皆さんと話している貴方を見て、皆さんにとても信頼されているように見えるわ」


「これでもユニオンの盟主だからね。それに、メンバーの父親みたいなもんだと自認しているからね。頼りにされないと困るよ」


 そう苦笑いすると、いつの間にかリンが近くに来ていた。


「パパは、本当にみんなの頼れるパパなんだよ!みんなの為にいつも頑張っているの」


「ははは、ありがとうリン。そう言ってくれると嬉しいよ」


 リンの頭を撫でながらそう言うと、アリアネルはびっくりしていた。


「ゆ、ユートさんって、お子さんいたんですね。いえ、不思議ではないんですけど…」


「ああ、本当の子供ではないですがね。でも、本当の子供の様に思っています」


「そうなのね!…これはまだ、チャンスはあるのかしら?」


「ん、今何か?」


「いいえ、こちらの話ですわ。あ、そうだわ、折角なので一曲踊ってくださませんか?」


「!ええ、是非とも。あまり上手ではないですけど、大目に見てくれると助かるなぁ。こほん、…エスコートいたします、お嬢様」


 リンに行ってくるねと言うと、頑張ってね!と両手でガッツポーズしつつ応援された。

 それを見て苦笑いしつつ、アリアネルをエスコートしてホールの中央に移動した。


 その後は、サナティやミラやなぜかアイナまでダンスをせがまれて踊る羽目になった。

 俺みたいなおっさん相手にとは思ったが、逆に気兼ねなく練習出来るっていうのもあるんだろうなぁ。


 その後も数人の貴族子女にもダンスを申し込まれたり、なぜかヘカティアとディアナにまで申しこまれて、結局1時間ほど踊っていた。


 休憩のため、シャンパンを飲みながら涼しんでいると後ろから声が掛かった。


「パパ~、最後にリンとも踊ってくれませんか?」


「ふふふ、いいよ。では、私と踊ってくれませんか、お嬢様?」


 俺が恭しく、膝をついて手を差し伸べてお願いする。


「はい、喜んで!」


 リンが満面の笑みでその手を取り、踊り場でダンスを始める。


 リンがとても楽しそうにダンスをするのを見て、自分が自然と笑顔を浮かべているのが分るのだった。


 ───翌朝。


 王国中にビラが撒かれた。

 その内容は、こうだった。


”新英雄の誕生!ユニオン【ウィンクルム】の盟主がSSランクに到達。人類史上初のSSランク『調教師テイマー』として国王より騎士爵位および星勲章を授与される!”


 俺の、…いや俺達の冒険は、これからもまだまだ続く…。

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