第143話 セリオンの決意
アーカニアの村飛び経って数時間。
帰りの空路も平穏そのものだった。
もはや隠す必要もないので、ディアナとヘカティアもドラゴンロードに変化させてから飛んできている。
最初はめんどくさーい、疲れるーとか言ってたので、じゃあ、お留守番だねって笑顔で言ったら、すぐさま変化して『いつでも行けます隊長!』とか言ってた。
だからそのセリフ、どこで覚えたの?
ドラゴンの姿で敬礼とか器用な事をするなー。
そんな寸劇がしばらく続いていたが、邪魔が全く入らないので放っておく事にした。
【ノーガス大山脈】に入る前に、へカティアとディアナを人型に戻してニケに乗せて再び山頂を目指した。
流石にリーダーが俺に従属しているので、フロストドラゴン達も俺らを襲ってくる事は無かった。
『ユートか、随分と早かったではないか。上手くいったのか?』
「ああ、セリオン。この通りだよ」
そう言って俺は竜玉を掲げた。
光ると同時に、そこから"幻龍"が現れた。
『おや?今度はこのボウズを仕留めるのか、主殿?』
出現してすぐ目の前にセリオンがいたので、戦闘に呼ばれたと思ったようだった。
『ほー、これが幻龍なのか。こんなヒョロい龍なら私でも倒せそうだがな』
「セリオン、お前は見た目に惑わされ過ぎだ。そんなんだから、俺等にあっさり負けるんだよ。幻龍であるイドラの方が遥かに強いぞ?」
実際、セリオンとイドラが戦った場合はイドラの圧勝だろう。
エリアボスはHPにボーナスを受けるが、テイムした場合はその恩恵が消えてしまう為に今のイドラは通常個体と同程度のHPに下がっている。
ある意味イベントボスなので通常個体が存在しているかは謎だが、それでもセリオンよりも高いのだ。
だが戦いにおいてそれだけが重要ではない。
戦い方が最も重要となる。
セリオンはその有り余る力をそのまま使う直情型だが、イドラは高いステータスに奢らずに絡め手を中心に使い戦う策略型だ。
俺も『攻撃予測』スキルを覚醒していなかったら、勝ち目はかなり薄かっただろう。
『ほう、主殿はよく見ておるな。流石我に己のみで勝利しただけはある。セリオンとやら、お前がこの先も主殿に付いていくつもりなら、もっと力を付けないとお荷物になるだけぞ?』
『ぐっ…、反論する言葉が無いな。というか、ニンゲンの身で"幻龍"に勝ったのか!?そんな
「ふっふっふ。これでも、へカティアとディアナ以外は、タイマンしてから仲間にしているからな。セリオンはそう言う意味でも特殊だな」
元々捕まえる気は無かったが、カルマの提案で急遽に
普段の俺のスタイルでは絶対しないやり方だ。
なので、役目を終えたセリオンは自由の身にするつもりだ。
「さて、最後に神殿まで永久氷晶を運んでくれ。そこでお別れだ」
『ほ、ほう。本当に開放する気か?』
「ああ、それが約束だからな。大丈夫、その後に俺から襲ったりしないから」
開放して用済みになったら、肉と素材にバラされると思ったのだろうか?
俺はそんなセコい事はしない。
まー、素材が欲しく無いと言えば嘘にはなるが、どうしても欲しいわけじゃないのだ。
───
セリオンに永久氷晶を運ばせて、氷の神殿前まで来た。
そこでカルマに乗せ換える。
カルマなら重力魔法を行使することで、重さを気にしないで運ぶことが出来る。
ただここまでは空を飛んで運ばないといけないので、永久氷晶の冷気でダメージを受けないセリオンに運ばせたのだ。
「じゃあ、セリオン。ここで契約を解除してやろう。〈契約解除≪リリース≫〉セリオン!…よし、完了だ。もう巣山に戻っていいぞ?」
パーティーからセリオンの名前が消えた。
無事解除が出来たようだ。
「これからは、奢ることなく精進しろよ?また会う事は…そうそう無いだろうけど、達者で暮らせよな!」
そう言って、その場を離れようとした時だった。
『待って欲しい。ユートよ、我と正式に契約をしないか?』
真剣な眼差しで俺を見ながらセリオンが言ってきた。
「どうした?プライドの高いお前がそんな事を言うとは思わなかったけど」
『我は気が付いたのだ。自分がいかに狭い世界の中で王になった気分で胡坐をかいていたのかを。その結果は、先日の戦いだ。相手がお前達でなければ、もしかしたら一族は殲滅していたかも知れない。だからこそ、もっと力を付けたいのだよ。その為には、ユートについて行くのがいいのではないかと思ったのだ』
どうやら、先日負けたのが相当堪えたらしいな。
竜族はどの一族もプライドが高く、自ら相手の軍門に下るなど殆ど考えられない。
ましてや、知性が高い
「俺はいいが、本当に来るのか?正直、今の時点でも戦力は足りているし、出番が無いかもしれないぞ?」
あの幻龍イドラでさえ自分を過剰戦力と見做して竜玉に棲み着いたのに、それよりも弱いセリオンでは全く出番がない可能性がある。
せいぜい誰かの乗り物として活用するくらいだろうか。
『確かに今はそうだろう。だが我も、もっと強くなり必ず役に立ってみせよう。それに我と正式に契約すればあの山の主はユートになる。あの山にある資源も自由に採取出来るようになるぞ?』
なんと、それは有り難いな。
俺だけなら問題ないが、ガントとか他のメンバーが来た際に襲われたりしないのは途轍もないメリットだ。
「それは有り難いな。ああそうか、ヒョウや他の雪人族にあそこで採取させれば氷晶とかの安定供給が狙えるか? …でもさ、逆にセリオンにとってメリットはあるのか?お前だけ強くなっても意味ないだろう?」
『あの山のフロストドラゴンはすべて我の眷属だ。我が強くなれば眷属も強くなるのだ。もちろん、同じ山脈内でも違う山のやつらは別の一族なのだが、我が一族が強くなれば他はどうしてくれてもいい』
なんとも勝手な理由ではあるが、言っている事はわかるな。
しかも、自ら提案してきている時点で普通の調教≪テイム≫だけでいいのが確定する。
それだけでもこの先強くなるだろうが…。
「カルマはどう思う?」
「主の思うままにすれば良いかと。デメリットは特にないかと」
カルマもそう言っているが、どうしても腑に落ちない。
やはり、いつも通りのやり方がいいな。
「いいだろう。しかし、俺は本当の忠誠を誓えるヤツじゃないと仲間にしたくない。お前が負けたのは俺じゃない、カルマとニケにだ。それでお前は俺に忠誠を誓えるのか?」
『そ、それは…。しかし、それもある意味でユートの力だろう?』
「そうだな。でも、俺に負けてないお前が俺に心から従えるのかと聞いているんだ?」
『それは…そうじゃないかもしれないが、だとするとどうすればいいのだ?』
俺は、ニヤリと嗤いセリオンに言った。
「なら、俺とタイマンで真剣勝負だ!本気でだぞ?手を抜いたら、そのまま肉にしてやるからな!」
『な、なんだと?!いくら”幻龍”に勝ったと言え、正気なのか?』
「もちろんだよ。その代わり俺も一切の手を抜かないからな?」
こうして、俺とセリオンのタイマンバトルが始まった。
あれおかしいな。
最近の俺ってなんかバトルジャンキーみたいな感じだな。
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