第128話 受勲パーティー

 控室で待つ事小一時間、先程の侍女達に先導されてパーティー開場に連れてこられた。


 入場するなり、王の隣まで案内される。


「本日の主賓である、竜騎士カイト、聖騎士ダン、魔導師ミラ、祭司アイナ、僧正ザインである」


 職業ジョブ名で呼ばれるのはなかなか無いので、少し戸惑っていたが分かりやすく紹介する為だなと気がつく。


 王にそう紹介された後、五人は来賓として呼ばれている貴族に向かって、教えられたとおりに男性は胸に手を当てる敬礼し、女性はスカートの裾を摘んで上げる優雅な挨拶をした。


 そうすると、貴族達からも大きな拍手が湧き上がった。

 どこからともなく、新しい英雄の誕生に祝福を!とか賛辞があちこちから飛び交うのだった。


 その後は、王からカイトへ勲章を授与される。

 これは5人同時にランクアップを果たした功績を称えてと言う事になっているらしい。


 星勲章スターエムブレムと言うもので、とても栄誉あるものだ。


 本来は、ここで同時に騎士ナイトの爵位を与えられるが事前に辞退を伝えてある。


 理由は、ユニオンの盟主を差し置いて爵位を貰うわけにはいかないと、尤もらしい事を言っておいたが、純粋に貴族の仲間入りにはなりたくないだけだ。


「ところでカイト、我が娘の婿になる気はないか?器量が良いのだが未だに嫁ぐ相手が見つからないのだ」


「王様…。大変名誉な事だと存じあげますが、既に心に決めた人がいるので辞退致します。ご期待に添えず、申し訳ございません」


 カイトは、いつも以上に気を使いつつ王に返答する。

 こんな事でゴタゴタに巻き込まれたくない。


「そうか。ん、もしやアイナ殿か?」


「はい、その通りです。王女様がとても素晴らしい方なのは存じ上げていますが、私には彼女以上に素晴らしい女性はいません」


 丁寧に、そしてキッパリと言い切ったカイト。

 それってほぼプロポーズじゃね?とダンとザインは思ったが口には出さなかった。


 言われたアイナは、顔を真っ赤にしながらも耐えていた。


「はっはっはっ、流石は英雄の一員なだけはあるか。相手がアイナ殿では仕方あるまい。今の事は忘れてくれて良い。今日は沢山の馳走を用意させた。皆の者、新しき英雄達の誕生を大いに祝おう!」

 

 王がそう言うと、盛大な歓声と拍手が巻き起こり、飲み物が運び込まれてパーティーが始まった。


 パーティーは立食になっており、侍女達がある程度盛り付けてくれた食事を食べつつ、様々な貴族に挨拶されるというのが延々続いた。


 ダンなんかは途中から食べるのに集中していたが、果敢にアタックしてくる貴族子女に囲まれ冒険譚をせがまれてタジタジになっていた。



 やがて日も落ちた頃、会場ではダンスパーティーが始まった。

 貴族や王族が豪奢なドレスを纏い、優雅にダンスを踊っていた。


 カイトも、もう既に何度目になるか分からないお誘いを受けて踊っていた。

 最初は踊れないのですと断ったのだが、合わせていただくだけで大丈夫ですと言われては断ることも出来なかった。

 そのおかげで、少し上達してきた。


 そんな時、会場に降りてくる一人の女性がいた。

 その女性が現れた瞬間に、感嘆の声や歓声があがる。


 聖女であり、第一王女のアリアネル・ハイセリアだ。

 ダンス用のドレスに着替えて来たようだ。


「皆の者、盛り上がっているようですね。折角ですから、私も踊ります。…カイト殿、私をエスコートしてくださるかしら?」


 周りでは、私めがお相手をと多数の声が上がっていた中でカイトが指名された途端に声が止んだ。

 様々な種類の視線がカイトの突き刺さるが、断るという選択肢は最初から用意されていない。


「はい、喜んで承ります。聖女様」


 そう言って、アリアネルの手を引きフロアの中央までエスコートしてからダンスが始まる。

 二人に合わせて演奏家達が優雅な音楽を奏でた。


 二人と一緒に踊りたいと思った貴族たちも続々とダンスを始めて、さながら舞踏会のようだった。


「ほう、少しは様になってきたではないか。やはり、アイナ殿には勿体ない。考え直さぬか?」


「そう言っていただけるのは大変恐悦ですが、僕と貴女では釣り合いませんし、王族となんて考えただけでも目眩がします。アイナの事が無くてもお断りしていますよ」


「ふふふっ、正直なやつよな。…まぁ、残念だが仕方あるまい。妾も1度くらい選んだ男と付き合ってみたかったのだがな」


「僕よりもイイ男なんていっぱいいるでしょう?」


「それがな、この国の貴族連中は結婚が早くてな、気に入った頃にはもう結婚している。しかも、相手が15歳とかだぞ?本当にどうかしている…」


 そこからは、周りからは仲良さげにダンスしている様に見えていたが、ずっと愚痴を聞かされ続けるカイトだった。


 良かったのはそのおかげで、それ程気を使わないでも良くなった事だ。


 ダンスが終わったあとも、ワインを飲みながら愚痴や昔話をされて途中から話に参加してきたアイナやミラが一緒になって、最後にはカイトのダメ出し合戦になっていた。


 カイトの心がかなり抉られて、ダンとザインに慰められていたが、その二人にも飛び火して炎上していた。


 そんな事があったが、聖女と打ち解けた五人は最後は楽しむ余裕が出てきた。


 夕食は、会食となるため王族とカイト達だけ王家のダイニングルームへ招かれて、他の貴族たちとは別の部屋での食事となった。


 今夜は、そのまま城の客室で泊まることになるらしい。


「今夜は良い日となった。若き英雄達よ、これからの活躍を期待しているぞ」


 そんな言葉を贈られて、頑張りますとしか言えなかった。


 軽い世間話をしながら食事をするカイト達。

 緊張で半分も味わえなかったが、見た目も豪華で高級な事だけは分かった。


 正直、屋敷の料理の方が美味しいかもとは、口が裂けても言えない。


 皆が食べ終わる頃に、アリアネルが思い出したように質問をしてきた。

 アリアネルは、カイトに愚痴を嫌と言う程聞かせたおかげで、気を許しているのか口調を崩して話しかける。


「そう言えば…、貴方達のユニオンの盟主が今ランクアップクエストを受けていると聞いてるのだけど、本当?」


 もちろん周りに目が無いのを確認して、周りに聞こえないようにはアリア自身も配慮している。


 結構年上なのかと思ってたら、聞いてみると24歳とカイトより少し上という感じだった。


「ええ、本当ですよ。ユートさんはテイマー職なのに、戦闘も回復もこなすオールラウンダーなんですよ。きっと直ぐにクリアして帰ってきます」


 カイトはお酒が回っているのもあって、少し口が軽くなっている様だった。

 

「へぇー、面白いわね。普通そんなに手を伸ばすと器用貧乏になるものだけど」


「それが、いくら俺がまだAランクだったとはいえ、俺よりも段違いに強かったんですよ。もちろん仲間ペットも凄い強かったけど、それとは違う強さも感じるんだよなぁ」


 その話を聞いて、アリアネルはユートにとても興味を持ったようだった。


 この年頃でこれだけの力と名声を得たならば、大抵の男は自分より格上とは言わない者が多い。

 なのに、素直に称賛されるそのテイマーは何者なのかと。


「面白い話を聞けたわ。本当にクリアして帰ってくれば会えるし、その時を楽しみにしてるわ」


 そう言うと、『今日はここらでお開きね』と言い残して去っていった。

 王達も、そのままお休みになられると言う事で、一緒に退室していった。


「ふふ、テイマーのユートですか…。どんな人なのか、楽しみに待ってるわ」


 そう一人呟き、楽しそうに笑うのだった。

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