第109話 カイトの戦い
旧王都の廃墟で戦っていたカイトは、なんとか1体目の”アークデーモン”を倒した。
2体目のアークデーモンを倒すべく、奥へ駆けていく。
一体目と違って、相手は既に臨戦態勢になっていた。
初っ端から魔法を繰り出してきた。
地面から黒い槍が迫り上がる。
「くぅっ、シャドウジャベリンかっ!」
カルマの固有技の"エビルジャベリン"程威力は無いが、闇属性の中級魔法なので結構なダメージが入る。
しかし、カイトも二度目の戦いだ。
ただダメージを受けるだけでは無い。
隙を見せている相手に、スキルで反撃を試みる。
「剣技〈光輪〉!」
光の輪が剣から次々と出されて切り裂く光属性攻撃が相手に炸裂した。
弱点属性は良く効くようで、少し怯んだように見える。
「まだだ!グラン!」
グランを呼び寄せると、その背中に飛び乗り空中から頭を狙って攻撃を仕掛ける。
空中から、剣を横に構えてすれ違い様に一閃する。
アークデーモンはグアアアアッ!と呻き声をあげたが、直撃を避けたようだ。
すれ違うカイトに向けて、強烈な炎のブレスを吹きかけた。
「があぁっ! あっちぃい!!」
油断してたのかつい声を上げてしまうが、痛みに構っている場合ではないと懐からポーションを取り出す。
すぐさま飲み干し、HP回復を確認しつつ体勢を立て直した。
そのまま旋回すると、今度は真正面から突撃する。
「剣技<七星>!!」
掛け声と共に宙に飛び、急下降する力も利用しながらカイトの最大技を繰り出した。
カイトに気を取られていたアークデーモンの腹に、グランは体当たりを決行していた。
ドズーーンと大きな音がして、アークデーモンがのけ反る。
グランは、その反動を利用してバックステップで退避するも、自分よりも格上の、しかも鋼鉄のような悪魔に激突したので、グランも少なくないダメージを負って涙目になっているように見えた。
グランが作ってくれた隙を逃すことなく、カイトが繰り出した<七星>の剣閃が余すことなくアークデーモンを切り裂いく。
ゴガッガッガッガッガッガッア!!!
切り刻まれて踊るように藻掻く悪魔は、最後の力でカイトに横薙ぎに裏拳を放った。
着地する瞬間を狙われて完全無防備だったカイトは直撃を喰らい、階段の側面の壁まで吹き飛んでいった。
「うごおおっ!…がはっごほごほっ」
渾身の一撃とはいえ、たった一撃で瀕死に陥るカイト。
「がぁ…、流石Sランク。一瞬でも油断すればこれだ…」
カイトが強烈な一撃を受けるのを見て、一瞬駆けつけようと足が踏み出てしまうアイナ。
だが手助けをすればもう一度やり直しだ。
大きな声をあげられないので、駆け付けようとした仲間を手で制してから自身にポーションを振りかけるカイト。
しかし、先に動いたのはアークデーモンの方だった。
瀕死のアークデーモンがカイトの止めを刺しに動き出した。
グアラアアアアン!!
咆哮を上げて気力を振り絞ったグランが、背を向けていたアークデーモンに攻撃を仕掛ける。
グランは一回転して勢いを付けたしっぽを思い切りぶち当てたが、Bランク魔獣の攻撃なのでそれほどダメージは与えれなかったようだ。
しかしグランの方に振り向かせることに成功した。
心の中で、グランナイスだ!と叫びつつ、すぐに起き上がり次の攻撃を準備する。
まだ、胃の中で何かが暴れているような感覚があるが、構っている場合じゃない。
ここでやれなければ、あの人と肩を並べることなど一生出来ないだろう。
──ここで決める!!
心でそう叫び、剣を強く握り締めた。
「奥義・
カイトは、極限まで高めた剣気を刃に変え、瞬時に14連以上の剣閃を飛ばすコンビネーション技を繰り出す。
背を向け油断していたアークデーモンに回避する術は無く、そのすべてがその背中に吸い込まれていった。
グオオオオオオオオオオオオオオ!!と、アークデーモンは断末魔を上げると、ついに塵となり消えた。
「はぁはぁ…おし、やった!やったぞ!」
戦場にいることも忘れてプレートを確認する。
そしてそこには討伐数2/2と文字が浮かんでいることを確認する。
「カイトッ!!」
先ほどの壁との激突からずっと気が気でないアイナは、カイトが見事アークデーモンを倒したと判断すると、すぐさま駆けつけて治療を開始した。
仲間たちもすぐに駆け寄ってくる。
「大丈夫かカイト?結構派手に吹っ飛んだように見えたが」
「次までインターバルが10分くらいです。少ししか休めないので、治療を優先しましょう」
ミラも心配そうに、『だいじょうぶなのですか~?』と言いながら顔を覗き込んできたが、二人が治療をしているので出番なしと周りの警戒に当たった。
この中で一番クレバーなのはミラかもしれない。
普段はおろおろしている風だが、ここぞという時はこの子の冷静さはこのメンバーで一番だと思う。
現に、この子の判断が先の【
「念のため、結界魔法掛けるね。"アムレトバリア"!」
自分たちを囲んで、半透明の壁が六角形を模って作られた。
これは、ソーサラーが良く持っているスキル『
俗にいう魔除けらしいが、同格以下なら寄せ付けない効果があるらしい。
維持するのにそこそこMPを使うらしく、MP枯渇状態の時には使えない。
また、警戒する必要のない時には使わないので使いどころが難しいスキルでもある。
「ありがとう、みんな。ユートさんに無理するなって言われたのに、後で小言を言われそうだよ」
全員、ははははは!と笑いながらも、そんなことは無いはずだと分かっていた。
あの人なら、きっと褒めてくれる。
そんな風に思っていた。
知らない間に随分とユートへの信頼が上がっているようである。
こんな命が掛かる世界で、率先して人の命を救いに行く大人なんて見たことも無い彼らがそう思うのは当然の事かもしれない。
ましてや、自分の命の恩人となればだ。
生活も用意してくれて、全部やってくれている。
ユニオンの盟主というよりは、みんなのお父さんのように慕われ始めていたユートだった。
「よし、もう大丈夫だ。治療ありがとうなアイナ、ザイン!ミラとダンも見張りありがとう。ここからは、俺も露払いに参加する。ダン、体力は大丈夫か?きつくなったら一旦戻るから、言ってくれな?」
「ったく、どの口が言うんだか。大丈夫、かなり温存をしている。まだまだ問題ないよ」
片手をひらひらさせて、問題ないよとジェスチャーを交えつつダンは答えた。
どうせなら、今日中に終わらせてしまいたいというのが全員の本音だろう。
しかし、無茶して大ケガしたら計画が遅れるのも理解しているので、無茶はしないと決めていた。
「じゃあ、次の
「ああ、見てて分かったよ。だから正直先にやって貰ってよかったわ。俺なりの攻略の仕方が見えたよ」
そう言って、ダンは不敵に笑うのだった。
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