第90話 本当の目的

 ナイトメア討伐クエスト達成に伴い、ユニオンメンバーがキャンプに集合した。


 今は、せっせとドーラが夕食の準備を整えている。

 集まったメンバー達は流石に疲れたのか、ぐったりと座り込み各自で水分補給等をしている。


 俺は受けたクエスト内容が達成状態なのを確認し、次の目的地を地図で眺めていた。

 次の目的地は当然に【旧王城】だ。

 【旧王城】は中に入れば、Sランクの敵がウヨウヨいる化け物の巣窟だ。


 だが、今の俺なら問題無く行けるだろうと思っている。

 それにランク上げるにしても、それくらいの敵が相手じゃないと上がらないのだ。


 俺の最高スキルは当然『動物調教アニマルテイミング』…では無く、『動物知識アニマルロア』だ。


 どちらもスキルを使うと上がっていくが、『動物調教アニマルテイミング』が成功しないと上がらないのと違い、『動物知識アニマルロアは使うだけで上がっていく。

 もちろん必ず上がるわけではないが、2つのスキルを比べると上がる頻度がかなり違う。


 しかし、他の派生スキルを使う事によってもスキル熟練度は上がるので、最初の頃から比べれば、どちらのスキルも上がりやすくはなっているのでそれほど気にならくなった。


 ただそれでも、スキルが上昇するにあたって上がりづらくなるのは避けられない。

 理由は、スキル利用した際に上昇する基準があるからだ。


 例えば〈アニマブースト〉を使った場合は、自分と同格もしくは格上と戦わないとスキル上昇の判定が入らない…というのがLBOでは常識だったが、この世界でも同じようだった。


 なので、今回スキル上げしたいメンバーを全員戦わせている。

 当然、ペット達もその制限を受けているので同じく連れてきている。

 スキルを上げるためには、難易度が高い”旧王城”に連れて行かないといけないのだ。


 全員が一息ついた後に、夕食を食べてお腹を満たした。

 ついでに、全員に疲労回復スキルを発動する。


神聖術セイクリッド発動!〈祝光〉!!」


 きらきらと神聖な光が全員を包む。

 疲労を濃く出していたメンバーも、一気に顔色が良くなった。


「ユートさんて、ヒーラーに転職した方がいいんじゃないですか?」


 と回復職ほんしょくのアイナに言われてしまった。


 目的のために取ったとはいえ、効果は誰でも一緒なので言っている意味もわかる。

 まして、蘇生術リザレクションなんて持ってるので、教会で働いたほうが儲かる気もする。


 しかし、自分も根っからの冒険家なので、じっと同じ場所に居るだなんて耐えられそうに無かったし、教会のあの雰囲気は俺には合わないと思う。


「時と場合によるな。これからもっと回復職の3人が育ってくれれば、必要もなくなるだろ?」


 とニヤリとしながら、アイナを見て言った。

 

「うっ、精進します」


 アイナは苦い顔をしてそう答えるのだった。


 アイナもザインも聖職者なので神聖術セイクリッドは持っている筈だ。

 なら、この〈祝光〉は覚えるくらいまでは上げておいて貰おう。


 まあ、MPが結構消費するから、MP回復効果のアーティファクトを持っている俺のようにポンポン使ったりは出来ないだろうけどね。


 ただし、休憩時や普段の時にも使えるので覚えて損はない。

 というか、聖職者なのだから上げてないと職業何?って聞きたくなる。


「ちなみに今、『神聖術セイクリッド』の熟練度どのくらい?」


「私は…85ですね」


「俺は…90ちょいですね」


 アイナとザインが答えた。


 思った以上に低い。

 てか、何のスキルでランク上げたんだ?と思ったのでストレートに聞いてみる事にした。


「思った以上に低くないか?最高スキルは何だ?」


「私は、『治療術ヒーリング』です。ここまでの戦闘で120MAXになりました」


「俺も、『治療術ヒーリング』ですね。今115くらいです。次が戦鎚術ハンマーアーツで110ですね」


 なるほどなぁ。

 確かに『治療術ヒーリング』の方が上がりやすいスキルだし、そうなるのも仕方無いのかもしれないな。


 『治療術ヒーリング』であれば、アイテム使う事でMP消費なしで回復することが出来る。

 そのアイテムは定番の”ポーション”と、”ヒーリングバンド”と言われるものだ。


 ”ヒーリングバンド”は、通称”包帯”と言われいるもので、見た目は殆ど包帯だが魔力の糸で作られていて、巻くとすうっと消えて巻いた部分の傷が癒える。

 更にHPも少量回復するアイテムだ。


 これはペット治療にも使えるのでテイマーの俺も持っている。

 お金が無い時よく使っていたが、HPが回復量がペットポーションの方が高いので、今はほとんどポーションしか使っていない。

 スキル上げの時は”包帯”で上げたりしているが。


 ”包帯”はペットポーションから比べると1/20くらいと低コストで、スキルが高ければ高いほど効果が上がる。

 ケガしてないと効果は無いが、治癒魔法も併用するのが普通なので特に問題ないのだ。

 更に嵩張らないので、治療師の必需品とも言えるアイテムだ。


 因みに、『治療術ヒーリング』を持っていると、通常魔法の”ヒール”系の効果が人間(亜人種含む)の回復時に上昇する。


 しかし仲間ペット達の回復効果は上昇しない。

 そのため俺は、獣医学バラナリーを持っているのだ。このスキルはペットの回復行為すべてが対象になるので、ポーションだろうが通常魔法だろうが精霊魔法だろうが、すべて効果が上昇する。


 というわけで、餅は餅屋に任せるのが一番。


「じゃあ、『神聖術セイクリッド』をもっと上げた方がいいな。専門職の割に低すぎる。最低110までは上げておいてくれ」


「「わかりました」」

 

 この世界で妥協することは、イコール死を意味する。

 俺の蘇生術リザレクションも万能でないし、蘇生失敗する度に全スキルが下がるのでポンポン死なれても困る。


 そもそも、死なれること自体は嫌だしね。


「ん?アイナは『治療術ヒーリング』がカンストしたのか…、じゃあSなれるな…」


「え、私がSランク!?」


「驚くことはないだろ?LBOの時と同じく条件クリアすればなる事が出来る。カイトも『剣術ソードマン』がカンストしたから、二人とも帰ったらクエスト受けに行こうか」


「よし、俺もついにSランクだ!」


 アイナが困惑するのを余所に、カイトが歓喜の声を上げる。


「まぁ、クエストクリアしないと駄目だからな。受けたら計画を練ろう」


「そ、そうですね。俺の場合はSランクモンスターをソロ討伐ですよね」


「ああ、テイマーの俺でも出来たんだ。しっかりサポートするから心配するな」


 カイトはランクアップクエストの難易度を思い出したようで、上がりかかっていたテンションが下がっていく。

 まぁどっちにしろ、帰ってからの話だ。


 アイナは、回復職ではないので討伐では無いはずだ。

 実は俺も回復職のクエスト内容を聞いたことないので、どんなものかちょっと楽しみだったりする。


「さーてと、今日の目的の一つであるここのボス攻略に行くぞ!」


「えええっ!?」


 そこで気持ちを切り替えさせるため、本日の本当の目的を全員に告げた。

 本当に行くと思っていなかったのか、特にミラが驚いていたがフォローはしない。


 攻略成功すれば報酬がある事は、成り行きだったが地獄の塔で確認済みだ。

 それならば、ユニオンの箔をつけるためにも攻略はするべきだと思う。

 

 相手はこの街の中心にある王城の5階にいる【ロードオブアビス】という固有名を持った悪魔だ。

 当然SSランクの悪魔である。


 エルダーデーモンよりも更に巨大で、かつ魔獣のような顔をした凶悪なボスモンスターで、魔法も直接攻撃もかなり強力だ。

 正直、偽の熾天使セラフのミカエルよりも強いと思う。


 過去にイベントに参加して一度だけ挑んだことがあるが、その際はのパーティーだったため、正直かなり楽勝だった。


 俺自身も、ニケを壁にして戦っていたためにほとんどダメージも喰らわない代わりに、自分自身の攻撃も届かなかった。


 あの時よりも、自身のスキルもステータスも、そしてニケ達もかなり育っているので問題なく戦えると思っている。


 そして俺はボス戦に参加するメンバーを考えて発表するのだった。

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