第79話 風呂とセッケン
俺達がユニオン【ウィンクルム】を結成した事は、ニュースとなり瞬く間に町中に広がった。
娯楽の無いこの町では、噂話の広がりは本当に早い。
『Sランク冒険者ユートがAランク冒険者カイトのチームと、Bランクに昇格したばかりのライ率いるチームが同盟を結びユニオン結成!』
と町のかわら版に載っていた。
「で、認めておいて言うのも何なんだがな。…お前、何をするつもりだ?」
ここは、町のいつもの酒場。
ガントと息抜きがてらに二人で酒を飲みに来てたが、たまたま来たゼオスに捕まった。
「何をって言われても、今のところ冒険を一緒にするくらいしか考えてないかな~?そもそも発案者はライだからなぁ。あいつが利便性が上がるっていうから手を組んだって感じだよ」
「お前なぁ。冒険者だけのユニオンなんて、軍隊作るのと変わらないんだぞ?それが、この町のトップクラス冒険者が集まるユニオンなんて、冗談みたいな話なんだよ。下手したら国に目を付けられかねないぞ?」
「そこまで
「いやいや、
そんなやり取りを見て、ガントがあっはっはと笑ってた。
「ユートにそんな大層な思想はないぜ?どっちかと言うと、みんなでいれば楽出来る!くらいだぜ?」
「あー、それは否定しないなぁ。あとは、楽しいだろうしなー。この先もどんどん増やしていくからな、まぁ…気にすんなっ!」
ほろ酔い気分の俺は、だんだんとテキトーになってきた。
「気にするわっ!おいこら、真面目に聞け!」
俺とガントはゼオスをからかいつつ、ゼオスもなかば諦めて、3人のおっさんの酒盛りは深夜まで続いた。
───帰り道、ガントと二人で歩きながら帰る。
「なあ、本当のところは、計画はあるんだろ?最近、俺は設備の新設やら改築やらでまともに話してなかったけどよ」
「ああ、あると言えばあるさ。ただ焦ってもしょうが無いし、ゆっくりやろうと思ってる。あ、そういえば、大浴場はいつ出来るんだ?」
「そうだな…。ん、大浴場ならあとはお湯入れる魔法設備整えば完成だぜ?ちゃんと、男女分けて入れるように仕切ったから、入る時間も気にしないで済むぜ」
なんと、もうすぐじゃないか。
早く広い風呂に入りたいな、日本人としては。
「おー、さすがだな!本当にお前には感謝してるよ」
殆どの新設した設備は、ガントが居ないと出来なかった。
ほんと職人様々です。
「それを言うなら俺の方こそだよ。ひとりなら、こんな生活するどころかよ、未だに宿無しだったと思うわ」
「あー、パド村の時は村人が泊めてくれてたんだったな。てか、お前って意外と人に好かれるよなぁ」
普通に泊めてくれるとか、いくら気のいい村民でも普通はしない。
なんというか、憎めない奴なんだよなぁ。
「あー、でもユートみたいに女性にモテたりはしないのが悲しいとこだぜ」
「ん?俺がいつモテてんだ?まぁ、妻帯者だし全く無縁ではなかったけども」
一応結婚出来たんだ。
それまでには、それなりに恋愛してきたという自負はある。
「げ、お前まじかよ。良くそんなんで…いや、俺が言えたもんじゃないが…。まぁ、俺は
「こらこら、何を言ってんだ」
なんとも物騒な事を言うやつだ。
人に恨み買うような事は今の所してない…筈だ。
「屋敷に使う資金をゼフに結構預けておいたけど、足りてるか?」
「ああ、まだまだ余ってるぜ。畑も家畜もいるからよ、日々の食事代とかは、かなり低コストらしいぞ」
「みたいだな。あのメイド服で高速に畑耕してるの見たか?見た瞬間俺は吹いたぞ」
「見た見た!早いのにすげー綺麗に耕されてて、正直、感動したぜ」
メイド達の仕事ぶりは、俺の想像を遥かに超えていた。
たった5人で全ての仕事を賄ってくれている。
また、その速さと正確さが尋常じゃない。
見てると倍速でビデオを見てるようだった。
「あ!そうそう。喜べよユート!なんと石鹸が手に入ったぞ!」
「まじか!何処で手に入れたんだ?」
「師匠と話してたら、
この世界で、石鹸とかかなり貴重品だと思うのだが、1個銀貨3枚という事だった。
月あたり100個しか作ってないらしく、それ以上は買う人もいないので作らないとのこと。
そもそも風呂ある家なんて稀な世界だ。
貴族か金持ちしか家に風呂なんてない。
で、まだ売れ残ってた石鹸を100個を全部買ったみたいだ。
定期購入したいと言ったら、考えとくと保留になったみたいだ。
「その
劇薬でもある、水酸化ナトリウムがないと石鹸は出来ない筈だが、こんな魔法の世界で作る奴がいるとは思えなかった。
「どうだろうな。あ、名前聞いたぜ?アムリタって言ってたな」
「神の酒の、あれか?」
「だよな?偶然か?」
「じゃ無いとしたら、その彼も俺らと同じってことか?」
「そうだな。だが、彼じゃなくて、彼女だけどな」
そこは、どうでも良かったがその人物は気になるな。
「今度買いに行くときに、俺も連れて行ってくれ」
「分かった、必ず声をかけるよ」
───翌日、ついに大浴場が完成した!
魔導具と言われる特殊に加工されたアイテムで、水を熱してお湯を作り出したら、これまた循環させるアイテムでお湯を大浴槽にお湯を送り込む仕組みだ。
「あー、やっぱ風呂はいいなぁ。最高だわ」
「自分で作っといてなんだが、最高の出来だぜ」
男湯には、俺とガントの他にもメンバーの殆どが入っていた。
「こんなのに初めて入りましたよ!」
と、ライも大喜びだ。
石鹸も好評で使うとツルツルすると喜んでいた。
どうやら、ここまで固形のソープは無いという事だった。
しかも、体に直接使えるような肌に優しいのが出来ないみたいだ。
そのため、ここまでのはそこそこ裕福な家くらいでは買えないという事だった。
───女湯
「わーい、久々のお風呂~、しばらく体拭くだけだったから嬉しい〜!」
リン達も久々のお風呂を楽しんでいた。
「こっちに来てから初めてのお風呂なのです。ガントさんが石鹸を買ってきた時は、ビックリしました!まさか、こっちで石鹸まで使えるなんて。うう〜、幸せですぅ〜」
「そうねミラ。王国の宿屋にお風呂なかったし、石鹸自体売ってもいなかったわね。今まで我慢してきたけど、お風呂に入れるのはとても幸せね」
ミラとアイナはアストラに来てから初めてのお風呂に感動していた。
「私の家に一応あるのですが、こんな大きな浴槽に入ったのは初めてです」
「え、サナティさん家に風呂があるんですか?」
他のメンバーは、サナティがこの町の警備長の娘だと知らない。
「はい、うちにあるのは浸かるというよりは温まるだけなので、人ひとりが入れるくらいです。こんな大きなお風呂は見たこともないですよ」
男女ともに浴槽の大きさは一緒だが、その広さは20人くらいは入れるほどの大きさで、全員足を延ばして入って寛いでいた。
女子は、全員先に石鹸を使って体を洗ってから入っている。
綿で作られた手拭いで泡立ててから使うと、サナティはアイナから教えてもらったようだ。
初めての感覚に大変喜んでいたと、ガントに皆がお礼しに行ったときに教えてくれた。
その時のガントの顔はとっても崩れていたので、師匠にチクってやると言ったら一瞬で真顔に戻った。
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