第74話 全員集合

「あとで馬車を寄こすから、必要なものを持ってきてくれ。もし必要なものが足りなければこれで買ってから来てくれないか?」


 そう言って、マイニャに金貨10枚を渡そうとした。

 しかし、両手で制されて受け取り拒否された。


「あわわ。こんな大金受け取れません!それに…こんな大金持ってたら途中で誰かに襲わます…」


「あー、そうか。確かに何かあったら困るよなぁ。じゃあ、渡すのは1枚にして後は明日以降に仲間と買い出しに行くことにしよう」


 そう言って、金貨1枚だけをマイニャ渡して、残りを主人に渡した。


「これは?」


「支度金だ。何かとマイニャを支援してあげてくれ」


「分かりました、ありがとうございます。これから娘をよろしくお願いします」


「わかったよ。まぁ、改装したりしないといけないかもだから、こっちもちょこちょこ使わせてもらうと思うよ」


「その際は是非とも私どもにお任せください」



 そのあと、簡単な身支度をしてから馬車を用意してもらい、マイニャを御者として乗せてギルドまで送ってもらった。


 買い出しが終わったら屋敷に直接届ける事になったので、ギルド前で別れてあとで会おうと約束した。

 今日は荷物を届けるだけで、明日の朝から働きに来てくれる事になっている。


 ギルドの中に入ると、カイト達が待っていた。

 丁度いいタイミングだったみたいだ。

 カイトは俺を見つけると声を掛けようとするが、後ろから掛けられた声に遮られた。


「パパーーーー!!もう、帰ってきてたんだね!大丈夫だった?!」

「ユートさん!俺ら超頑張ったよ!もう、超褒めて!」


 二人の子供が俺に飛びついてきた。

 よく見ると、結構ボロボロ感がある。


 うん、大きなケガはしていないようだな。


「リン!シュウ!お前たちも帰ってきてたか。はははっ、その様子だとかなりしごかれてきたみたいだな」


 いつもは懐かないシュウも、よっぽど頑張ったのか褒めてくれと抱き着いてきた。

 それだけでも、どれだけ頑張ったのかよく分かった。


 頭をよしよしとしてあげつつ、よく頑張ったなエライぞと二人を褒めてあげた。


「ユートさん、お待ちしておりましたよ。その子達は…?」


 言葉をかけ損ねたカイトを見兼ねて、ザインが声を掛けてきた。


「あー、待たせて済まなかったな。この子達は、地獄の塔で手助けしてから一緒にいるシュウとリンだ」


 さ、挨拶してというと、お行儀よくリンとシュウが挨拶した。


「リンといいます。職業は剣士です!パ…ユートさんに地獄の塔で助けていただいてから一緒に暮らしてます。よろしくお願いします」


 とお嬢様風に、レザースカート摘まんで挨拶した。


「シュウだよ。職業は戦士!リンと一緒にユートさんに助けてもらって一緒にいるんだ。よろしくお願いします!…あ、この人達?迷宮ラビリンスで困ってた人達。俺らと一緒だね!」


 と日本風にお辞儀してから、あっとした顔でそう言った。


 そこで、やっとカイトも会話に入ってこれた。


「俺はカイト。リン、シュウよろしくな。今回俺がユートさんに頼んだんだ。おかけでここにいる全員が助かったよ。本当に感謝している。こっちはアイナ、ミラ、ザイン、ダンだ」


 優しいお兄さん風に二人に挨拶するカイト。

 そのまま、全員が自己紹介した。


「アイナよ。職業はプリーストよ。よろしくね可愛い戦士さん達」


 アイナは、栗色のロングストレートの髪を少しかき上げながら、子供たちに目線を合わせるように屈んでにこやかに挨拶した。

 お姉さん感が半端なく似合う人だなぁ。


「ミラなのです。これからよろしくね」


 ショートボブの黒髪がマッチした童顔のミラは、リンと変わらない背の大きさなので、やはり二十歳には見えない。


「ザインです。ユートさんの力量を目の前で見て感服しました。職業はビショップです」


 白の司祭服が良く似合うザインは、逆の意味で二十歳に見えない。

 俺より老けてないか?とは言えなかった。


「ダンだ!職業はパラディンだ。テイマーなのに俺より強いユートさん見て、未熟さを痛感させられたよ。これからよろしくな!」


 角刈りに近いショートヘアのスポーツマン顔。

 ガントの若い頃に似てそうだ。


「おうおう、人が手続きしているときに顔合わせとかひどくないか?」


 と、ギルドから報酬をもらってきたガントがやってきた。


「俺はガントだ。パドの村で会ってから一緒に冒険している鍛冶屋だ。修理とか作成とかあったらいつでも言ってくれ」


 がははっと笑いながら、カイト達と握手をした。

 その際に、あんたら無事で良かったよ、ユートが居て良かったな!と言ってた。


「ガント、お疲れ様!3人にも伝えないといけない事があったから丁度良かった」


「おう、なんだ?いいもん出たか?」


 鑑定するならすぐやるぞと手を出したが、俺は手のひらを横に振る。


「実はな、屋敷の購入出来たんだ。今からここにいる5人も一緒に行くからお前たちも来てくれ」


「マジか!?もう買ったのかよ。てか、この5人もって事は…一緒に住むのか?」


 カイト達を見ながら、もしや同じなのか?という顔で聞いてくる。


「あー、そこはこれからの話だな。とりあえず行こう。向こうで話したい事もあるからな」


「ん、そうか。じゃあ、宿屋は引き払うのか?あ、まだ住めないか」


 普通なら寝具とか用意しないといけないので、それだけでも大変なのだ。

 だが、あの屋敷なら問題ない。


「いや、今日から住めるぞ。なので今日で解約だ。5人を送ったら迎えに来るから準備しておいてくれ」


「本当に急だなぁ。分かったよ。じゃあ、リンとシュウ行くぞ?お前らも風呂入りたいだろ?」


「うん、わかったー!じゃあ、パパ後でね!」


「了解!ユートさん、ちゃんと迎えに来てね」


 そう言って、5人にもまた後でといって3人は宿屋に向かった。


 ミラが後ろで、今ユートさんをパパって言ってました!!とか騒いでいるが、断然スルーだ。


「じゃあ、お前たちも早速行こうか。今、ニケとカルマも連れてくるから外で待っててくれ」


「分かりました、俺もグランを裏手から連れてきますね」


 そう言ってカイト達も外に出る。

 俺もギルドから出て、じゃあと言ってから宿屋へ向かった。


 中に入って、宿屋に主人に今日で終わりだからと伝えにいった。

 まだ契約的には残っていたが返金はいいと言ったら、とても感謝された。

 チェックアウトは、あとでガントがすると伝えて部屋の荷物をストレージに入れてから出てきた。


 馬小屋へまわり、ニケとカルマに出発することを伝えた。

 ついでに、屋敷を買ったのでそっちに移住する旨も伝えた。


『さすが主様、もう家を買われたんですね。しかも我らの事にも気を使っていただけるとは感謝の極みです』


「ふふ、流石ですね。我もここが気に入らないわけではないですが、移れるのは嬉しいですよ」


 少なからずとも、狭いとは思ってたみたいだな。


「そうか、じゃあ早速移動する。昨日の5人も一緒に行くからまた乗せてってくれ」


「承知」


『分かりました主様』


 ニケとカルマを連れて、ギルド前に戻ってきた。

 さすがに町中で飛んだり走ったりは出来ないので、ギルドから郊外に出るまで歩きだった。


 そこからは、【迷宮ラビリンス】からの帰りと同じように乗り分けて屋敷の前に来た。


 まずは、屋敷の門の施錠を外して、それから門を左右に開いた。


 そこに飛び込んできたのは、2年以上放置されていた屋敷とは思えないほど綺麗に整った庭だった。

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