第68話 5人の絆
次のフロアに入ると大きな体育館くらいの広さになっていて、奥の扉が小さく見えた。
中には既にモンスターが沸いていて、ひーふーみーよー…とっても沢山いた。
ざっと数えて20体くらいか。
リッチロードも3体いる。
しかも入った瞬間にさっきまでなかった来た入口に扉がガシャンッと降りてきた。
「逃がす気は無しだな」
こういう形だと、いまの陣形だと5人組に被害が出るかもしれないな。
ちょっと残念だけど、俺も下がってニケとカルマに任せよう。
ちなみにスキルはかけっぱなしなので、いつでも突っ込めるハズだ。
「ニケ、カルマ」
「主よ、言わなくても分かるぞ。我らで行こう」
『主様、お任せください。若者たちを守ってあげてくださいね』
そう言うが早いか、ふたりが全力で突っ込んでいった。
「まとめて駆逐してくれよう、グラビティホール!」
カルマが部屋の中心地に大きな真っ黒い重力の渦を作り出した。
グラビディフィールドの進化版みたいで辺りにいるモンスター達をどんどん引き寄せていく。
『さあ、主様の邪魔をしたことを後悔する時間です。風よ!雷よ!我に力を!くらえ〈
今までよりも更に魔力を込めて、必殺のスキルを撃ち出した。
その光景は凄まじいの一言だった。
中心に吸い寄せられた挙句に、竜巻に飲まれて切り刻まれ、さらに雷に何度も撃たれて一瞬で灰となった。
つか、怖っ! 何そのコンボ。
俺でも喰らったら死ぬぞ、それ。
5人組もその光景を見て、この世の終わりを見ているようだと呟いていた。
唖然としながらも、周りは警戒していたが入口側には敵は湧いてこなかった。
重力に引き寄せられなかった敵も、〈天嵐〉が収まる前に動いていたニケとカルマにボコボコに殴られてあっさりと塵と化していった。
「ユートさん。実は魔王とかっていうオチはないですよね?」
とカイトに聞かれても仕方ないと自分でも思った。
本来ならモンスターハウスだ!とか慌ててそうな場所を5分で突破し、さくさくと進んでいく。
このフロアで最強格は当然リッチロードなわけで、それが藻屑のように蹴散らされている事から地下4階の最奥地にいるであろうボス以外は、脅威では無くなった。
その後はちゃんと陣形を元に戻して、俺らの戦闘訓練に全員を付き合わせながら進むこと計1時間弱。
ついにボスの部屋までたどり着いた。
正直、俺のあの真剣な「油断したら死ぬからな?」みたいな発言はどこにいったんだろうと言うくらい順調だった。
結果的に、しゃしゃり出ないで貰えたから良かったのだが。
「さてと、この奥にボスらしき反応があるとニケが言っている。一旦全員休憩するぞ」
そう言って、5人にも水と少量の木の実を渡した。
戦闘に参加してないと言っても、1時間臨戦状態で歩いているので疲れない訳がない。
ましてや、このフロアは自分たちと同格以上しかない。
緊張がさらに疲労を呼び寄せる。
「ありがとうなのです」
とミラが言って受け取り、仲間に配っていた。
「最初、テイマーって聞いてさ。心の何処かで大丈夫かなって思っていたんだけどさ、自分の視野の狭さに呆れるよ。ユートさんは本物のSランク冒険者だな。俺等なんかじゃ逆立ちしても敵わない」
とダンが自嘲気味に呟いていた。
「ああ、本当だな。戦闘もこなせて回復も出来て、バフも可能。それでいてペットが最高に強いってちょっとチートっぽいよな」
と冗談気味にザインも言う。
「それだけ努力していたって事でしょう?私達はゲームの時も、現実になってしまった今も、中途半端な覚悟しかなかったというだけだと思うのです」
とミラだけかなり真剣に言っていた。
そういうのはおじさんちょっと照れくさいので遠慮して欲しいな。
しかし、一点だけは違うかな。
「いいや、俺もお前たちと同じだったさ。たまたまなんだ。こんなスキルあったりとか、こんな優秀なペット達がこっちに来てくれていたっていうのはね。だけど、天使の塔で俺も思い知らされたんだよ」
「え?天使の塔は無事に攻略したって言ってましたよね?」
俺の言葉にアイナが反応して聞いていた。
「ああ、ボス攻略は問題なかったよ。戦いは厳しかったけど大方問題無かった。だが、その前にな俺らも全滅しかけたんだ」
それを聞いて全員の視線が集まる。
「ボス部屋よりも前に、乱入者がいてな。そいつが今までの中で最高に強かったんだ。予想もしていなかったから、撤退するのも遅れてね、機転を利かせたペット達がいなければ俺等全員死んでいたよ」
「それは、カルマさんとニケさんも敵わなかったという意味ですか?」
「ああそうさ。こいつらが手も足も出ない本物のバケモノだった。ふたりが命を懸けて守ってくれていなければ君たちに会うことも無かったろうな…。その後さ、俺が本当の意味での覚悟を決めて生きるようになったのはね」
思い出すだけで胸を締め付けるあの光景。
俺もあの光景だけは二度と見たくない。
ふたりだけでなく、ほかの家族となったメンバーたちのもだ。
だから失いかけたあの時に本当の意味で覚悟を決めたんだ。
「そんな事が…。だから俺の依頼にも慎重だったんですね」
「ああ、カイトには悪いがその通りだ。二の轍は踏まないと決めていたからな。お前の覚悟が本物じゃなければ受ける気は無かったよ」
俺の言葉を聞いて、カイトがどれだけ真剣に俺に頼み込んでたか改めて思い至ったようだ。
その場にいなかった三人も、カイトに託して良かった。見捨てないで助けに来てくれてありがとうと言っていた。
その様子を見て、この若者たちも心根がとてもいいのだなと感じた。
裏表なく、本当に信頼しているように見える。
ゲーム上の関係だけではこうはならないだろうなと思い、ふと聞いてみた。
「君たち、とても仲いいし信頼しあっているようだけど、元々知り合いなのかい?」
「ああ!はい、そうですね。みんな同じ学校の同級生だったんです」
話を詳しく聞いてみると知り合ったのは高校生の時で、同じクラスだったらしい。
よく一緒にカラオケやらゲーセンやら海やら旅行やら、その時からずっと一緒に遊んでいる親友の集まりということだった。
全員ゲーム好きなのもあり、LBOもバイトしまくって買ったんですよとはザインの話だ。
他のメンバーも同じくバイトしたり貯金をはたいたりして買ったらしい。
「ちなみに、カイトとアイナは彼氏彼女なのです!」
とミラの爆弾発言もあったが。
なるほどな~。
ザインがいるとはいえ回復が出来るアイナを一緒に逃がしたのはそういう理由か。
うーん、自分の命も危うい時にミラも憎いことをするな。
「ははははは、町に帰る前にちょっといい話を聞けて良かった。お前らを死なせないで良かったよ。まぁ、安心しろ。俺らが全力で町に送り届けるからな?」
ここまで聞いたら、年長者の俺が約束を破るわけにはいかない。
元々、約束は守る性格なのでね。
そんな俺の言葉を聞いて、5人も嬉しそうにウンウンと頷いていた。
「よーし、行こうか。おっさんテイマーでも本気出せば凄いんだぜってとこ、見せてやるからな」
そう冗談めかして言いつつ、扉を開いた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴっと重い音をたてて開いていく扉。
その奥には、一体の巨大なモンスターが待ち構えているのだった。
「ははッ、やっぱりお前かよ!よーし、やったろうぜ!」
そう言って、俺らはボス戦に飛び込んでいった。
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