第64話 不時泊《ビバーク》

 ───遡る事1時間前

 3人は既に虫の息といっても過言ではない状況だった。


 二人を〈ゲート〉により外に送り出したミラは気を失ってから大分時間が経っているが、一向に目を覚ます気配がない。

 それどころか、呼吸が浅くなり命が危険な状態にある事を誰が見ても分かるほどだった。


「ミラ!死ぬなよ!カイトが絶対助けを呼んで来てくれる!諦めるんじゃないぞ!」


 ビショップであるザインは、魔力が少し回復するとミラにヒールを掛けてなんとか命を繋いでいた。


 もう一人の仲間のダンは、自分のせいでこの状況を作り出したと思い込んで必死で二人を守っていた。

 しかし、精神的にもかなり限界だ。


 3人はカイトとアイナを外に送りだした後に、比較的に敵が出現しない地下4階の入口のフロアで不時泊ビバークしていた。


 簡易テントを張り中にミラを寝かせて治療をしつつ、外に敵が出現すれば二人でなんとか撃退するという事をもうかれこれ数時間行っている。


 出現する敵はせいぜい1体か2体だが、同じAランクのモンスターな上に碌に休息を取れない状態だ。MPが枯渇した状態では、状況はどんどん悪化していくのは目に見えていた。


「すまんザイン。俺がもっとしっかりしていれば…」


「何度も言わせるな!俺らは仲間だ。一人のせいなんかじゃ決してない。カイトなら…、カイトなら絶対に助けに戻ってくる。それまでなんとか持ちこたえる事だけを考えるんだ」


 普通に考えれば町に戻り治療を受けてから、自分たちと同じかそれ以上の冒険者を探して戻ってくるのは、どんなに早くても1日以上掛かるだろう。


 それが数時間でこの状態では、正直かなり絶望的だった。


 きっかけは、噂になっていた冒険者の話を聞いた時だ。

 なんでも、Sランクのテイマーが現れたのだという。


 それだけでもかなり胡散臭い話だったのに、そのテイマーが【地獄の塔】のケルベロスを討伐してきたという。


 さらに今度は【天使の塔】へ攻略へ出発したというから、自分たちも負けていられないと、この【迷宮ラビリンス】に行こうという事になったのだ。


 聞いた話によると、この町にはSランク以上の冒険者はいなかったらしく実に数年ぶりに現れたとのことだ。

 Aランクも数人しかいないという。


 その中の一人、Aランクだという槍使いの冒険者が言っていた。


 【迷宮ラビリンス】のクエストなんて誰が行くんだよ、死にに行くようなもんだと。


 自分達の討伐対象は、この階で度々現れる死霊系モンスターのリッチだ。


 結果的に討伐数は目標数を超えたので報酬を貰うことは可能だろう。

 


 悪い想像しか湧いてこないが、諦めるわけにはいかない。

 諦めるという事はすなわち、”死ぬ”ということだからだ。


 カカカカカッと死者の笑い声が聞こえてきた。

 また奴が出たか!


 バッと外に飛び出し二人は臨戦態勢に入る。

 小一時間毎に出現する同格のモンスター、リッチだ。

 魔法が強いだけでなく、物理攻撃もなかなかに痛い。


「まだ、お前らに俺らの命をくれてやるわけにはいかない。やるぞダン!」


 ザインもダンも魔力はもう殆どない。同格相手に魔力なしで戦う必要がある。


「ああ、そうだな。最速で倒そう!一気にいくぞ!」


 ダンが槍を構える。

 ダンは構えた槍に青い光が集まるのを確認したと同時にリッチに攻撃をした。

 槍術スキル〈スマッシュ〉で貫いた。


 ザインも魔力がほぼ尽きているためメイスを構える。


「うりゃあああ!」


 気合と同時にリッチを殴りつけた。


 リッチはその攻撃に怯まずに、そのまま魔法を発動させてきた。

 カカカカカカと言ったと同時に闇魔法シャドウボールを放った。 


 ダンに魔法が当たるが、かろうじて盾で防ぐことに成功。

 幸い、ダメージもそれほど無いようだった。


「くっ!その程度なら!」


 魔法を防ぎ切った後に槍で再び体を貫く。

 

 さらに、ザインのメイスで追撃した。


「ほんと、しぶといっ、なっ!!」


 ダンもさらに槍で滅多打ちにした。


 次の瞬間、ウオオオオオオオオ…!っという雄たけびと共にリッチは消えていった。

 足元にはいくつかの小さな宝石と指輪が落ちていた。


「また外れか・・・」


 リッチの落としたアイテム類を見てそう呟く。


 リッチは、稀にマジックポーションを落とすことがある。

 それがあれば少しは生き長らえるのだが、なかなか出なかった。


 既に肩で息をしている程体力を消耗してしまった。

 死をこんなに身近に感じたことが、今までの人生であっただろうか。


 もしかして、ここで死んだら元の世界のベッドで目が覚めるんじゃ…?


 あり得ない。

 もう、そんな事は無いと分かってい筈。


 だが、そんな露にも期待出来ない事を二人は知っている。


「く…カイト、早く戻ってきてくれ…」


 二人は今にも折れそうな心を叱咤しながら、そう願う事しか出来なかった。

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