第57話 執事とメイドの願い

「なっ!ミルバを何処へ連れて行った!!」


『ミルバ様と仰るのですね。心配ありません。最高の饗しを致しますので』


 猟奇的な発言にも聞こえるが、居場所が分からないと探しようがない。

 しかし、警戒して無かったとはいえ、反応出来ない速さとか…。

 結構反則的なやつらだな。


「じゃあ、俺もそこに案内してくれ。お前達と話がしたいんだ」


『我々とですか?畏まりました。では、食堂へご案内します。こちらへ…』


 そう言うと音もなく歩き出す。

 

 よく見ると周りの家具や調度品などが、襲撃から数年経って誰も使ってないのにかなり綺麗だ。

 きっとここの亡霊達が綺麗にしているんだろうと考えた。


『こちらです、旦那様』


 ゼフがそう言うと扉が勝手に開いた。


 そこには、豪勢な料理の前で気を失っているミルバが席に座っていた。

 きっと連れて行かれた時に失神したんだろう…。


『お客様は既にお席についていらっしゃいます。さあ、こちらへ』


 そう言って椅子を引く。

 その洗練された動きに促されて席についた。


 目の前の料理は本物だろうか?

 湯気が立っている。

 最悪でも即死はないだろうと思い、いくつか取り分けて貰った。


 一口食べてみる。

 お?とても美味しい。

 これが亡霊が作ったものじゃなければ、普通に食事を楽しめたのだが。


「なぁ、ゼフ。単刀直入に聞く。何が未練で未だに現世にいるんだ?」


『未練…ですか?…特には有りません。我々は普段通りに生活しているだけです』


「じゃあ、なぜに霊鬼なんてものになってここにいるんだ?」


『…ほう。私の事を見抜いておりましたか。でしたら、お答えしましょうか。私は…私達はこの屋敷に長年務めておりました。しかし、ある貴族の企みによりこの屋敷の者達は皆殺しになりました。もちろん、襲撃者に恨みはあります。ですが、それよりも何もできずに死に行く自分が許せませんでした』


 悲壮な顔で告白するゼフ。

 その無念さは、あの天使の塔での俺と同じかそれ以上だろう。


「その思いでここまで力を付けたのか」


『はい。次に会うことがあれば必ずや自らの手でその息の根止めて見せようと…。物に触れるようになるだけで1年は掛かりましたが、そこからは順調にここまで己を鍛えれました』


 そう言って一部だけ筋肉隆々してみせる。


「凄い執念だな」


『年老いると執念深くなるのでしょう。しかし、まさかメイアまで修羅の道に入るとは思いませんでしたが…』


「彼女も同じ理由か?」


『少し違うと思います。彼女は、他のメイド達から姉のように慕われてましたからな。彼女達が目の前で殺されてしまった時に、かなりの怒りと悲しみを感じた為のようです』


 そう言い、メイアの方を見つつ、彼女は優しいのでと付け加えた。


『私は、あのとき彼女達を助けることが出来なかった。新しい旦那様。私達の願いは一つ。私達を襲ってきたあの下劣な一味を、この手で仕留めさせて欲しいのです』


 瞳に怒りの炎を滾らせ俺に訴えてきた。


 さて、どうしたもんだろうか。

 まだ買うとも決めてない。

 ここの主となれば復讐を手伝えと言いかねないなぁ。


 それは俺に人殺しを手伝えと言ってるようなもんだ。

 …さすがに、それはなぁ…。


「その後はどうするんだ?」


『え?』


 メイアがキョトンとする。


「人殺しをして、そのあとお前たちはどうするんだと聞いている」


『それは…』


「より、業を深めればその後に待つのは破滅だ。成仏ではなく、消滅させられる道しかないぞ?」


 悪霊が暴れて人を殺すなど、ギルドが放置する訳が無い。

 どう転んでも討伐されるだろう。


『それでも…!』


「なぁ、気が付いているか?お前たちのせいで他のメイド達もこの地に縛り付けられているのを。もはや自我すらないのにここに縛られているのもいる。お前たちはそれを望んでいるのか?」


『…。分かっております。私達のせいであの者どもが成仏出来ていないのを。

 しかし、この気持ちをどうする事も出来ないのです!思い返せば思い返すほどに滾る怒りが、湧いてくる悲しみが、私達を縛り付けていくのを!!』


「わかったよ。俺がまずお前たちを解放してやろう。その黒い気持ちを解き放ってやる!そこのメイドよ、ミルバをソファーに寝かせて守りにつけ!」


『承知しました御主人様』


 ミルバとメイドを残し、ゼフとメイアと一緒に中庭に来た。


『一体何を?』


 ゼフが訝しげに聞いてくる。


「決まってるだろ?お前らを浄化する。消えたくなければ耐えろよ?」


 言うか早いか、詠唱を開始する。


「天より降り注ぐ光の御子よ、彼の者達に清らかなる祝福をもたらせ!〈聖なる祝福セイクリッドブレス〉!!」


 幾重にも重なる光の帯が、ゼフとメイアを包み込んでいく。


 二人の体から煙が上がっている。

 聖なる光に灼かれて存在を削られていく。


『ガアッ、私共を消し去る気ですか!?』


『私が居なくなってしまっては、あの子達がただ消えてしまう!!』


 二人の霊鬼は、必死に抗っていた。


「お前たちは一度死んているんだ。本来この世に居るべきじゃない。だがそれでも、抗ってみろ!」


 そう言ってさらに魔力を込める。

 見えないように神秘術ミスティックを発動し、双剣に聖と光を込めた。


『うおおおおおっ!貴方も…オマエもオレを消そうトするノカ!!許さんゾォおっ!!』


 ゼフが老執事から筋肉が膨れ上がった真っ黒な鬼の姿に変化する。


『ぎゃあああっ!ああ許せない!ユルセナイイイィッ!!』


 メイアも変化して、スリムで引き締まった体の紅色の鬼女の姿になった。


「さぁ来い!お前たちの怒りを全て跳ね除けてやる!」


 そう言いながら魔法でステータス強化を行い肉弾戦に備えた。


 ここから、俺と二人の力比べが始まるのだった。

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