Turn265.魔界演奏家『二連撃』

──ベベンッ!

──ベンッ!

「ウガァアアアァッ!」

 グラハムの奏でる三味線の音色が激しくなると、ドリェンのパワーも相対的に増していることはピピリも見てすぐに分かった。

「今すぐその演奏をやめるのね!」

「……嫌でやんす」


──ベベンッ!

 挑発でもするかのようにグラハムは弦を鳴らした。


 勇者のためにもアルギバーのためにも──早々とグラハムの演奏を止めなければならない。

 懐から二本の短刀を取り出したピピリは両手でそれを構えた。


「やれるものなら、やってみるでやんすよ」


 空気感が変わったことを察したグラハムは、ピピリが戦闘態勢に入ったことを悟る。

「止めてみせるのね!」

 ピピリは走り出し、グラハムとの間合いを詰めた。

 そして体を回転させながら短刀でグラハムの体を切り付けた。

「ふっ……」

──グラハムは鼻を鳴らし、後ろに跳んでその攻撃を軽やかに躱した。


──ベベンッ!


 岩の上に立ったグラハムは、今の一撃で全てを察したようだ。

「お前さんに俺っちを止めることはできねぇでやんすよ。俺っちも魔族の端くれ……視力を塞いだ代わりに能力を研ぎ澄ました俺っちを、捕まえることはできないでやんす」

「それでも……やらねばならぬのねっ!」

 飛び掛ったピピリだが、またも簡単にグラハムに躱されてしまう。


──ベベンッ!


 再びピピリの神経を逆撫でるかのように、グラハムは三味線を鳴らして聴かせる。

「ほぅれ……どうしたでやんすか? 俺っちを止めないと、お前さんのお仲間も……勇者も死んでしまうでやんすよ」

 未だかつて、こんな状況があっただろうか──。

 魔族の中でも下位の存在と扱われてきたグラハムが、ここまで他を圧倒させるとは。そんなことはこれまで一度たりともなかった。


 調子付いてきたグラハムは、さらなる口撃を繰り出す。

「お前さんたちはもう終わりでやんす……『別レロ』。そして……『霞メ』!」

 二発の弾丸を勇者に向かって放ったグラハムは、余裕の笑みを浮かべたのであった。

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