Turn254.魔界演奏家『急接近』
再びグラハムは宿を出て、三味線を楽器屋に持って行くところであった。先の戦いでは、随分と乱暴に扱ってしまったので破損や劣化がないか見てもらうことにしたのだ。
ドリェンに貰った大事な楽器である。壊れてしまう前に、直せるところは直しておきたいものである。
「長閑でやんすね〜」
通りを歩きながら、グラハムはしみじみと呟いた。
別の場所で戦いが起きていたなどとは思えない。この町の中は戦いとは無縁で、平和そのものであった。
グラハムは杖をつきながら歩いていた。そんなグラハムの空いた方の手をドリェンが引く。
「あっ、先生……」
ふと、ドリェンは何かが目に止まったようで足を止めた。
「……あの露店を、少し見てきてもいいですか?」
武器商人が通りに広げた露店を指差す。
それがグラハムに伝わったかどうかは分からないが、グラハムは「構わないでやんすよ」と頷いた。
「ありがとうございます」
承諾を得たのでドリェンはグラハムから手を離し、露店へと駆けて行った。
並んでいる凶悪な武器類を、ドリェンは興味深そうにマジマジと見詰めていた。
しばらくそうして時が流れ──やがてドリェンも満足したようで、露店を離れてグラハムの元に戻ろうと歩き出した──。
別に買いたかったわけでも欲しいものがあったわけでもない。ただ、それに興味が惹かれて眺めたかっただけで、満喫できたので十分であった。
「楽器……?」
歩き出したドリェンの耳にぼそりと声が聞こえた。
しかし、それが自分に向けられたものであると気付かずにドリェンは歩みを進めた。
「なぁ、あんた……」
──男に呼び止められた。
今度こそ、それが自分に向けられたものであると分かるとドリェンは足を止めて相手の顔を見た──。
鎧を身に纏った短髪ツンツン頭の騎士が、そこには立っていた。
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