Turn232.剣聖『急な侵入者』
棺桶に閉じ込められているアルギバーは、置き去りにされたテントの中で退屈していた。棺桶の中では満足に体を動かすこともできないので、僅かにあいた覗き穴から外を見ることくらいしか暇を潰せるようなことはできない。
とは言え、テントの中の光景に変化があるわけでもないのですぐに飽きてしまう。
「はぁ……」
退屈をして息など吐いていると──異変が起こった。
──バシャーンッ!
突然、地面から水が湧き出てきた。大量の水がグルグルと渦を巻きながら隆起していく。
──そして、その水は徐々に造形を変えていった。
ウネウネと水がのたくり、やがてそこに現れたのは──長い髪をした少女であった。
少女はテントの入り口から注意深く、外の様子を伺った。
「……大丈夫。まだ、気付かれていない……」
ブツブツと呟き、安心したような顔になる。
──ベンベンベンッ!
相変わらずどこからかともなく楽器の音色が聴こえて来てが、少女は耳を澄ませると惚れ惚れした表情になる。
「……先生は、本当に凄いわ……。私の力を、ここまで解放してくれるんですもの……」
そう言いながら少女は右手を掲げた。
──手の先が半透明になり、液体化する。
「……私の……本来の私の力を、ここまで引き出せるなんて……」
『なんだ、ありゃ……?』
「……誰っ!?」
『あっ、やば!』
驚きの余り思わず口に出してしまったアルギバーは、少女に存在を気付かれてしまう。
不自然に部屋の隅っこに立っている棺桶を、少女はキッと睨んだ。
「……そこか……!」
少女の手から大量の水が噴き出した。それは真っ直ぐにアルギバーが隠れている棺桶へと伸び、激しい衝撃で棺桶を弾き飛ばした。
棺桶はテントを巻き込みながら吹っ飛んだ。
その場に立っていた少女を覆っていた隠しがなくなり、魔物たちの前に姿が露わになる。
「ネズミが! 見付けたぜぇ……」
少女を視界に捉えたがエリンゲは、舌なめずりをしたのであった。
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