Turn216.魔界演奏家『次なる一手』

「さて、どうしたものでやんすかねぇ……」

 宿屋の亭主が部屋の準備を終えるまで手持ち無沙汰になった邪眼のグラハムは、顎に手を当てて考え始めた。

 こうして時間ができたなら、魔王のためにも任務を遂行しなければならない。勇者に次なる攻撃を仕掛けるべきである。


 勇者を殺すことは──実は、容易なことであるとグラハムは考えていた。それ程に自分の能力に自信があったし、強力なものであった。

 ただ一言「死ね」と呟けば、勇者の命など瞬殺である。しかし、グラハムはそれをしなかった。

──簡単に殺してしまっては面白みがない。魔王を追い詰めるような人間なのだ──できれば散々に痛ぶってから命を奪ってやりたいものである。

 邪眼のグラハムとて魔族の一員だ。折角なら、ターゲットをとことん追い詰めて苦しめたい──そんな願望に駆られていたのである。

 だから、まだ命を奪うつもりはない。恐怖を与えられればそれで良い──。


「そうでやんすね……」

──そして、思い付いた言葉を口にする。

「『刺サレル』ってぇのは、どうでやんしょう……。傷一つでも負ってもらうでやんすよ」

 誰ともなしに邪眼のグラハムは呟き、クスクスと笑うのであった。

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