Turn214.姫『ピピリとアルギバー』
礼拝堂に慌ただしく兵士が入って来たので、お姫様たちの視線はそちらに向けられた。余程の大事なのか、その後から剣聖アルギバーとピピリ・ガーデンも続いて見えた。
「どうしたのですか?」
息を切らす兵士に、お姫様は尋ねた。
すると兵士は床に膝をついて、畏まりながら報告を始める。
「オールゴーの町で魔物たちが暴れ回り、壊滅状態にあるようです。多くの住民の命も奪われたようです」
「まぁ……」
驚いたお姫様が、剣聖アルギバーに視線を向ける。
「魔物たちが町を破壊するなんて……恐ろしいことですね」
「珍しいことではないが、そりゃあ放置してもおくわけにもいかないだろう」
アルギバーが頭を掻く。
「普通の人間たちじゃ、暴れ回った魔物には手も足も出ないだろう。せいぜい、殺されないように逃げ回ることしかできやしないさ」
お姫様は神妙な顔付きになる。オールゴーの町までは船を乗り継いで大陸を渡らねばならない。急いだところで、すぐに行ける距離にはない。
「だが、放ってはおけないな。町を破壊するような魔物たちだ。味をしめて他の町を襲わないとも限らない。早めに倒さないとな」
「アルギバー様……行って頂けませんか?」
剣聖と呼ばれるアルギバーは、そうしたモンスター退治を生業としているのでかなりの場数を踏んでいることであろう。
お姫様の目は、そんなアルギバーへと向けられた。
アルギバーはすぐに返事をせず、身に纏った鎧を鳴らしながらストレッチを始める。
「どうせやることもないのだ……運動ついでにその魔物を倒して来よう」
「剣聖様に向かって頂けるのは、心強いですわ!」
お姫様は手を叩き、笑顔を浮かべたものである。
しかし、アルギバーを一人で向かわせるというのはお姫様としては忍びなかったようだ。そこで、ピピリ・ガーデンに呼び付ける。
「ピピリ、来てちょうだい」
「はい、お姫様。お呼びですかなのね?」
呼ばれて、ピピリはすぐにお姫様の元に駆けて行った。
「聞いての通りです。危険な任務になりそうですが、ピピリもアルギバー様と一緒にオールゴーの町を襲撃した魔物を押さえてはくれませんか?」
「お任せあれですのね」
ピピリは自身の胸を力強く叩いた。諜報員のピピリはこうした任務に慣れているのである。
次にピピリは、相棒となるアルギバーに視線を向けた。
「よろしくお願いしますなのね、剣聖様」
「ああ、宜しく……」
ピピリが差し出した手を取り、二人は握手を交わした。
「もし宜しければ、他のお供もお付けしますが?」
「いや、構わない。ここの守りが手薄になるのも何だからな……。まぁ、足手まといにならなければ、二人でも大丈夫だろう」
「そりゃあ、こっちの台詞なのね。足を引っ張るなら付いてこないで欲しいのね」
僅か数秒で二人の仲は険悪となり、お互いに睨みを利かせたものである。
喧嘩するほど仲が良い──とは、よく言ったものである。お姫様はそんな二人のやり取りをポジティブに捉えて、微笑ましく見守ったのであった。
こうしてオールゴーの町に向かうため、二人も行動を開始することになる。
◆◆◆
「ねぇ、アルギバー」
出発の準備を進めていたアルギバーをテラが呼び止める。
「恐らく危険な旅になるでしょうから、これを持って行って」
そう言って、テラがアルギバーの手に握らせたのは白色の宝石がついたペンダントであった。
「はぁ……? 何だよこれ……」
それを見たアルギバーは、あからさまに嫌そうな顔をする。
「お守りよ。ニュウから何かあった時の護身用にアルギバーに渡しといてって言われたの」
アルギバーは息を吐く。
「何かって……。別に、自分の身くらい自分で守れるが……」
「賢者様の加護付きなんだからね! 有り難く受け取りなさいよ!」
無理矢理にテラにペンダントを渡され、アルギバーは渋い顔をしていた。
どうやらお気に召さないらしい。
それでも、これ以上ゴネても平手打ちが飛んできそうだったのでアルギバーは大人しくそれを懐にしまった。
「まぁ、有り難く貰っておくとするよ」
「肌見放さずに持っておいてって!」
テラも何だかんだアルギバーの身を案じてくれているのだろう。アルギバーがそれを受け取るとホッとしたような顔になる。
「それじゃあ、気を付けてね!」
手を振って見送るテラを背に、アルギバーは自室に戻って旅支度をすることにした。
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