Turn178.剣聖『突き付けた剣先』

「主よ、汝が我の身ここにあらんことを誓いて、加護の光を我に授けんとする……」

 テラが呪文を詠唱すると手の中が輝き、光の玉が生み出された。その玉は、テラが魔力を込めると徐々に肥大化していく。


「うぉりぁあぁあぁっ!」

 そんなテラの横からアルギバーが飛び出し剣を振るった。一撃、二撃──剣圧を放った後に回転斬りを繰り出す。


──パリーン!

──バリーン!

──カーン!


 粉々に割れた鏡の破片が、キラキラと光の粒となって周囲に飛び散る。

 さらにアルギバーは手を休めることなく剣を振るい続けた。

──テラも同様だ。


「フラッシュリア!」

 テラが叫ぶと、手の中で肥大化した光の玉が弾け飛ぶ。 雨あられの如く──光の弾丸が周囲に飛び散った。

 光の弾丸が当たり、次々に鏡が割れていく──。


 二人の猛攻により、倉庫内にある全ての鏡を割れるのにそう時間は掛からなかった。


『ふふふ……』

──しかし、それでも倉庫の中に響いたのはニュウの余裕の笑い声であった。こうなることはニュウも想定していたようである。

『割ってくれてありがとう』

 感謝の言葉すら口にする始末──。さらなる策が、ニュウにはあった。

『お陰で、攻撃の方向を増えるわ。あなた達は自ら自身を窮地に追い込んだに過ぎないわ』

 テラはすぐに自分たちの失態に気が付いて顔を顰めたものだ。──が、愚鈍なアルギバーは状況が飲み込めておらず首を傾げている。

「あん? どういうことだ?」

「あらゆるところからの攻撃に備えなきゃいけなくなったってわけよ」

「はぁ?」

 アルギバーが怪訝な表情をしたのと同時に、ニュウが動き出す。

 割れた鏡の破片の中にニュウの姿が現れる。

「ダークネスルートビーム!」

 ニュウが暗黒色の光線を放つと、それはあらゆる細かな鏡の破片を反射しながら暴れ回り、アルギバーの左肩を撃ち抜いた。

 反動でアルギバーが床にドサリと倒れる。

「アルギバーッ!?」

 テラが心配して叫びを上げる。

「ああ、大丈夫だ……」

 ところが、アルギバーは撃ち抜かれた左肩から血を流しつつもすぐさま立ち上がった。

『さすがは頑丈ね……』

 床で折り重なり集合体となった鏡の破片からニュウがヌッと姿を現しながら笑う。

 その体に暗黒のオーラが縄目状に巻き付いて彼女の体を覆っていた。


『ならば、これならどうかしらね』

 ニュウが手を掲げると、暗黒のオーラはニュウの体を離れて床、壁、天井──倉庫内を縦横無尽に駆け回る。

「な、なんだこりゃ……」

 アルギバーは倉庫内を激しく動き回る暗黒のオーラを目で追った。

──パーンッ!

 同時に、爆発音が起こったのかと思えば床に散らばった硝子の破片が爆風で巻き上げられ宙を舞った。

 キラキラとした光の粒が散布される。

『これで終わりよっ! ダークネスエリア!』

 ニュウが体から暗黒のオーラを出して、周囲に放った。暗黒のオーラはあらゆる鏡の破片を反射しながら四方八方からテラとアルギバーに襲い掛かる。

 アルギバーは剣をおさめると後ろに飛んで、テラの後ろに引っ込んだ。

『……なんですって?』

 テラの両手に光の玉が煌めいている──。

「シャインバースト!」

 呪文を唱えつつ、テラは両手を左右に広げた。すると、テラを中心にした光のドームが展開されていく。それは肥大化していき、周囲のものを飲み込んでいった。

 飛散した鏡の破片は撃ち落とされ、闇のオーラは浄化されて消え去ってしまう


「きゃぁぁああぁっ!」

 魔王から力を授かった影響であろうか──聖なる光のドームに触れるとニュウは激しく悶絶し、衝撃を受けて吹き飛ばされた。

「あぁ……うぅ……」

 転げ、壁に体を打ち付けられたニュウは呻く。


「これでチェックメイトだな……」

 そんなニュウが意識を取り戻すよりも先に、間合いに詰め寄ったアルギバーがその喉元に剣を突き付けた。

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