Turn152.魔王軍元賢者『仲間たちの裏切り』

 賢者ニュウ──。

 多大な魔力を持った回復と補助のエキスパート──。


 自信家であるニュウは、勇者なきこの世界でお姫様を守り切る自身があった。

「私たちが敗れても、お姫様だけは絶対に生かさなければならないわ。お姫様は、勇者様に繋がる唯一の希望なのですもの。再びこの世界に勇者様を呼び戻すべく、お姫様には生きていてもらわなければならないわ」

 例え自分の身を犠牲にしても、お姫様は守り抜く──。

 ニュウには圧倒的な覚悟と大役を遂行する自信があったのである。絶対にお姫様は守り抜く──。

 しかし、ニュウはあくまでもサポート役である。

 守り専門家である彼女は、敵にダメージを与えることはできない。

──そこで、攻撃役である賢者アルギバーや大魔導師テラの力が頼りになる。

 自分が守っている間に、二人に敵を倒して貰わなければならないのである。


「はん、任せておけよ。すぐに蹴散らしてやるからよ!」

「全ての魔力を注ぎ込んでも後衛の貴方達には手出しをさせないわ」

 仲間たちの頼りになる、力強い言葉であった。

 ニュウも二人を信頼した。


──が、結果はどうであろう。

「あぁあぁっ!」

 ニュウは悲鳴を上げながらも、必死に補助の呪文を二人に向かって唱えた。二人が攻撃を受ければすぐさま回復呪文を唱え、サポートに徹する。

「早く……早く、倒してよ……!」

 長期戦であった──。

 自信家のニュウも心が折れそうであった。余りにも長い戦い──疲労が凄まじい。

──敵に剣聖アルギバーは切り付けられ、血飛沫が上がった。

──敵に殴りつけられたテラの体が宙を舞う。


「倒してよ。……早くっ!」

 ニュウは絶叫し、呪文を唱えた。

──が、呪文は発動しなかった。

「どう、して……?」

 無尽蔵とも言われているニュウの魔力も、余りの長期戦の末に途絶えてしまったのである。

「なんで、なんで! どうしてよ!」

 ニュウは放心したものだ。魔力を限界にまで使ったというのに──未だに敵は倒れていない。


──何をしていたの?


 血だらけになり、ボコボコになって意識を失う仲間たち──。

 そんな二人とは裏腹に、健康体である敵はゆっくりとニュウに近付いてきた。


 これは──。


 ニュウは絶望し、脳裏にとある考えが浮かんだ。


──攻撃組の怠慢だ。

 どうして全力で戦ってくれなかったの──。


 目の前でお姫様に忍び寄る魔の手に、ニュウはこれ以上抗うことはできなかった。

 ガックリと、膝を落とす。


 これは、裏切りなんだ──。


 魔王に連れさらわれるお姫様を前に、ニュウは意識を失ったのだった。


──こうして、ニュウは暗黒面に落ちた。そして魔王に志願し、裏切り者たちに復讐を果たすべく闇の力を手に入れたのだった──。


「大いなる力の前に、抗うことなんて無駄なんだから……。さっさと諦めなさいよ、裏切り者が!」

 ニュウは逃げ惑う人間たちを見ながら、一人腹を抱えて笑うのであった。

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