Turn130.村の娘『勇者とコンタクト』
『どうだ? 見つかったか?』
『いいや。完全に見失っちまったよ。あのワンコロ、どこに行っちまったんだ。みんなで探しているが、見つかりそうもない』
マローネは、ドア越しにそう聞こえてきた声に胸を高鳴らせたものだ。
「どうやら、ワンちゃんは上手く逃げ切ってくれたようね……」
マローネはホッと胸を撫で下ろした。
──しかし、そうなるとマローネを縛り付けていた呪縛も消えてなくなった。これ以上、ゴードンに従っている必要はないのである。
まどろっこしいのは苦手な性分であった。
いくら見張りが付けられていようとマローネには関係ない。要は、勢いが大事なのだ。
「ねぇ、ちょっと!」
『何事だ?』
マローネが声を上げるとドア越しに男の声がした。
「トイレに行きたいのだけれど、開けてちょうだい!」
──ガチャリ!
マローネの要望で鍵が開き、部屋の外に出ることが出来た。
「トイレに行きたいってのに……」
廊下を歩くと後ろから監視の如く付いて来る男に、マローネは冷ややかな目を送った。
「逃げ出さないとも限らないからな。ゴードン様から、常に見張るように言われておる」
ハァと、マローネな溜め息を吐いたものだ。
そうして廊下を歩いていると、たまたまこちらに向かって歩いて来る勇者と擦れ違った。
過ぎ去り間際、マローネは突然、声を上げた。
「勇者様にお話があります! 助けてください! この村の村長……ゴードンは悪い奴です!」
「な、なにっ!?」
見張りの男も、まさかそんなにも堂々とマローネが声を上げるとは思わなかったようで大いに慌てたようだ。しかし、勇者の手前、無理に口を塞ぐような真似も出来ず、オロオロとするばかりである。
「え、村長が悪い人……?」
ロディッツィオは訳が分からなかったが、取り敢えず足を止めてマローネに視線を向けた。
「おいおい、嬢ちゃん。何を勝手なことを……!」
「うるさいっ!」
なんとか場をおさめようとする見張りの男を、マローネはピシャリと一蹴する。
「勇者様の前で、これまで通り、また悪さをするつもり? そんなの、勇者様が黙っちゃいないわよ!」
「うっ……!」
見張りの男は何も出来なくなって後退ってしまう。
マローネは額の汗を拭うと、状況が理解できず頻りに瞬いているロディッツィオの手を引いた。
「兎に角、ここでは不味いです。お話があるので、こちらへ!」
マローネはロディッツィオを適当な部屋の中に引き摺り込んだ。
◆◆◆
「なるほど。そんなことが……」
マローネから事情を聞いたロディッツィオは頷いた。この村の水面下でそんな事態が起こっているとは──それは、ロディッツィオも知らなかったことである。
「ですから、どうかお助け下さい。勇者様」
マローネはロディッツィオの手を取って、瞳をキラキラと期待に輝かせた。
勇者に助けて貰えれば百人力である。これで、ゴードンも手出しができなくなるはずだ。
ところが、ロディッツィオから「申し訳ないけど、力になれそうにないよ……」と弱々しく返された時のマローネの失望っぷりといえばなかった。
「ええっ! なんでですかっ!?」
「僕には……本当は、力なんてないんだ。とてもじゃないけど、その盗賊団相手に戦えるような気はしないよ……」
「何言ってるんですか! 自信を持って下さいよ。なんせ、勇者様なんですから!」
「いや、それは……」
モゴモゴとロディッツィオが口籠るので、マローネは首を傾げたものである。
──トントン。
ロディッツィオに助け舟でも出すかのようにタイミング良く扉が誰かにノックされ、話が中断してしまう。
『勇者様。こちらにおられるんですかな?』
外から聞こえてきた声は──ゴードンのものだ。
どうやら手下からの報告を聞いて、駆け付けて来たらしい。
マローネは慌てて窓に手を掛けた。ここは二階だ。容易に飛び降りることは出来るだろう。
「勇者様、一緒に来てください!」
マローネに強引に手を捕まれ、ロディッツィオも仕方なしに彼女に続いて窓から飛び降りることとなった。
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