Turn129.魔王軍狂姫『かわいいペットたち』

「つまらないわ。逃げてしまうのですもの」

 冷気に満たされて氷結した城の中、白刃大蛇子は窓からボーッと外の景色を眺めていた。


──グルルル!

──ガルルルルッ!


 暗闇の中、二体の巨大な猛獣が唸り声を上げると、大蛇子はそちらに視線を向ける。

「そう怒らないでちょうだいよ。私だって驚いているのですもの。勇敢なる者と書いた勇者が、まさか敵前で逃亡するだなんて、誰が予想できるものですか。せっかく、お前たちを連れてきてやったのにねぇ……」


──グルルッ!

──グゥッ!


 血に飢えた二体の猛獣は、尚も血肉を欲しがって唸り声を上げていた。むざむざ獲物を逃した、そんな主人の怠慢を許す気はないらしい。

「なら、お好きにすると良いわ。探索ついでに暴れておいで。もしも勇者を見付けたら、構わないからその場で殺しておいで」


──ガォオオォォッ!

──ギャウギャウッ!


 血の気立った二体の猛獣は咆哮を上げると、ドタバタと慌ただしく足音を鳴らしながら城を出て行ってしまった。

「さて……」

 大蛇子は再び窓の外に視線を向け、地面を走る猛獣たちを見送った。

「確か……近くにあるのはペンチャ村、だったかしら? その村、終わったわね」

 クスクスと大蛇子は残忍な笑みを浮かべた。

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