Turn121.勇者犬『よく喋る悪党は』
「あなた達……どういうつもりよ!」
抵抗虚しく、男たちに捕まったマローネはそのまま洞窟の奥へと連れ込まれた。
マローネは縄で手足を縛られ、身動きが取れなくなっていた。
周りを取り囲んだ男たちがニヤニヤと笑いながら武器を手にしている。
僕はなんとかマローネを助けようと、体を捩ったものである。だが、首が縄で結ばれていて柱に括り付けられていたので行動範囲は絞られていた。
なんとか脱出しようと歯で縄をギリギリと噛んだが、どうにも上手くいかない。
何故だろう──体の力が全然入らなかった。
「ここには白龍様がいらっしゃるんじゃないの!? 勝手に入って許されないわよ!」
マローネが声を上げると、リーダー格の髭面の男が馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「白龍様だぁ? さぁな? ここは、俺達ランテ盗賊団がアジトとして使わせてもらっているが、そんなものは見たことがないがね」
「そんな……白龍様がいない?」
髭面の男の言葉に、マローネは眉を潜める。
「俺達がここに入った時には、もぬけの殻だったよ。その前は知らねぇがな。村人たちが持って来る供え物をくすねるにはここをアジトにした方が丁度よいだろう?」
そう言いながら、髭面の男は紫色の宝石を手の中で弄んでいた。
「それは、私が白龍様のために持ってきたものよ! 返してよ!」
「おいおい。こればかりじゃないぜ。今まで村の連中が持ってきたものは全て、俺達ランテ盗賊団のものになっているんだからな。今さら何を言っていやがる」
「全て?」
「ああ。俺たちランテ盗賊団は元々、この辺りを根城にしている盗賊でね。近隣の村や旅人を襲っていたのだが……それよりも供え物を頂く方がもっと楽だろう? だから、持って来させたものをくすねているのさ。頭が良いだろう?」
チョイチョイと髭面の男が自身のおつむを突く。
「白龍様のお供え物を横取りだなんて……なんてことを! また、白龍様がお怒りになられて、災いが起こるかもしれないじゃない!」
「だから、その災いも、俺達のでっち上げってぇのが分からねぇのか」
フゥと、髭面の男は息を吐く。
「村人たちが白龍を恐れてお供え物を持って来るように俺達が村を襲撃したのさ。それで、祟りと思わせて、白龍に逆らわないようにした。……完璧なシステムだろう? 全て、頭が考えたのさ」
「そんなことが村の人知れたら……みんなも黙っちゃいないわよ! 騙すなんてひどいわ!」
「そりゃあ、無理だな」
マローネの叫びに、男たちは肩を竦める。
「頭が上手くやってくれてるから、ここでの情報は村人にバレたりはしない。現に、お前だってここのことは知らなかっただろう?」
「かしら……? さっきから何なのよ、それは!」
苛立ったようにマローネが唾を飛ばす。散々騙されて、怒りが溜まっているようだ。
「……ああ、ゴードン様だよ」
髭面の男は意外な名前を口にする。
「頭が村長の座に居座っている限り、ここのことはバレやしないさ」
「ゴードンの奴が……やっぱりね。何か悪さをしているんじゃないかと思ったわ」
目の敵にしていたゴードンが本当に悪の親玉であったことに、マローネは大して驚いていない様子だ。
ゴードンが黒幕であるならば、僕やマローネがこの場に残って居ることは知っているはずだ。邪魔な僕らを消すために敢えてイソイソとこの場を離れ、盗賊たちに指示を送ったのだろう。
「……でも、随分と親切に教えてくれたわね。いいのかしら? そんな種明かしまでしちゃって」
「構わねぇさ」
男たちの顔付きが険しくなり、手にしたナイフをマローネの喉元に当てる。
「種明かしをしたのは、嬢ちゃんの最期だからさ。全てを知った以上は生かしてはおけねぇからな」
「そ、そんな……」
ペラペラと自分から喋っておきながら、なんとも理不尽な話だろう。端からマローネを殺す気であったらしい。
マローネは喉元に刃物を当てられて、顔が青褪めている。
──助けなければ!
そんな思いが強くなる。
ふと、体の奥底からパワーが込み上げてくるのを感じた。
体からオーラを放ち、覚醒状態となった僕の全身の毛は逆立った。
「ワンッ!」
僕は縄を引き千切ると、マローネを守るために前へと飛び出して吠える。
「うわっ、縄を引き千切りやがったぞ!」
突然の僕の乱入に、男たちは驚いているようであった。
牙を剥く僕に、男たちの腰が引けている。
「ワォオオォンッ!」
さらに遠吠えをすると、一人の男が驚いてサーベルを地面に落とした。
すかさずマローネはその刃で手足の自由を奪っている縄を切った。
「ありがとう、ワンちゃん!」
マローネは僕の頭を撫でると立ち上がり、祠の入り口に向かって走り出した。
「ま、待ちやがれっ!」
慌ててマローネの後を追おうとする男たちの前に僕は立ち塞がり、獰猛に牙を剥いてやった。
「ぐぬぬぬっ!」
お陰で、男たちも迂闊にマローネを追跡することができなくなってしまった。
マローネの姿が遠ざかり見えなくなると、僕もその後を追って駆け出した。
盗賊団たちは呆然と立ち尽くし、僕らを追うどころではなくなっているようであった。
マローネは、このことを村のみんなに知らせるべく必死に走った。
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