Turn119.魔王軍狂姫『新たなる刺客』

──ドッガァアアァァンッ!

 破壊音が轟き、城が揺れる──。

 お姫様は深夜のそんな音と揺れで、ベッドの中で目を覚ました。

「大変です! 敵襲です!」

 慌ただしく兵士が叫びながら、お姫様の部屋の中に駆け込んできた。

「またホワイトドラゴンですか?」

 体を起こしつつお姫様が尋ねると、兵士は首を横に振るった。

「いいえ。今度は賊が侵入致しました。すぐにお逃げ下さい!」

「そんなことはできませんわ。依り代様たちもおりますから、まずは避難をして頂かないと……」

「いいえ……」

 兵士はお姫様の心配の声に、首を横に振るってみせる。

「テラ様はおろか、依り代様たちもやられてしまいました。城内はほぼ壊滅……このままでは全滅の恐れもあります」

「そ、そんな……。相手は? どんなモンスターなのですか?」

「いえ、モンスターと言いますか……」

 お姫様の問いに、兵士はモゴモゴと口籠る。

「賊は、女一人です……」



 ◆◆◆



「ぐ……ぐぐっ……!」

 玉座の間──。

 筋肉隆々のドリンキィ・フリンキーの巨体が、片手一本で持ち上げられていた。

「ウフフ……勇者の側近たちっていうのは、たいしたこと、ないのね」

 自分よりも数倍もある大男を軽々と放り投げたのは、白装束に身を包んだ赤目の少女であった。

 ドリンキィは既に相当痛み付けられたようである。床を転がり体が壁に打ち付けられるが、呻き声を上げるだけで起き上がることはなかった。

 そんなドリンキィに白装束の少女は近付いていく。

「どうかしら? 私の蛇の毒は……。体が痺れて動けないでしょう? 気持良くって?」

「うぅ……うぅ……」

 呻き声を上げるだけのドリンキィの返答に、白装束の少女はつまらなそうだ。

「もういいわ。そのまま凍っておしまい」

 白装束の少女は長い黒髪を掻き上げると、ドリンキィに向かってフゥと息を吹いた。

「……うぅ……あぁ……」

 するとドリンキィの体がみるみると氷結していく──。

 やがて、ドリンキィの体は完全に凍り付き、大きな氷塊ができた。


 白装束の少女は部屋の中を見回すと、肩を竦めた。

「肝心の勇者様っていうのは、どこに居るのかしら。ここまで暴れたっていうのに、姿を現してくれないじゃない……」

 玉座の間は、見るも無残な状態となっていた。

 ドリンキィと同じ様に氷漬けになる者も居れば、恐怖に顔を引き攣らせながら石化した者まで居た。

 大魔導師テラもまた、力及ばず石像にされてしまっていた。

 そんなテラの頬を撫でながら、白装束の少女は息を吐く。どうやらこれ以上の増援はないようだ。


「仕方ないわね。待ってるのもあれだし、こちらから探しに行くとしようかしら」

 白装束の少女は目的を遂げるべく、長い裾を引き摺りながら部屋の外へと出て行ったのだった。

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