Turn88.姫『負傷者救護』
ペデロペを打ち破ったことで、いよいよ戦いは終わった。
負傷した多くの兵士たちを治療するために、医療兵が慌ただしく駆け回ったものである。
お姫様も自らの傷が癒えぬ間に、戦いに貢献してくれた兵士たちを労って救護に励んでいた。
「ありがとうございます、お姫様……」
「いえ。構いません。お互い様ですわ」
薬を塗り、包帯を巻く──。
お姫様は常日頃から医療の知識と技術を学び、資格までも習得していた。
いつか自分を守る勇者様が手負いになった時に、自分が力になってあげたい──そうした思いから学んだことだが、まさかこんな形で役に立つとは思わなかった。
「残当も消え去りました。もう襲っては来ないでしょう」
城外で戦っていたテラもまた、兵士を引き連れて無事な姿で帰ってきた。
テラからの報告は信用に値するものであろう。お姫様は頷き、脅威が去ったことを素直に喜んだ。
「ねぇ、ピピリ……」
次いで、お姫様はピピリ・ガーデンに視線を向ける。
比較的軽傷な彼女はお姫様に呼び掛けられると立ち上がり、背筋を正した。
「はいっ! 姫様っ!」
「悪いのですが……依り代様たちを会議室に集めてくれないかしら。まだみなさんとは、きちんとご挨拶もできていませんから……」
「御意ですのねっ!」
ピピリは元気に返事をすると敬礼し、任務を遂行すべく走り出した。
「あの、お姫様……」
畏れ多くもテラは横から口を挟んだ。
「今戦いが終わったばかりで負傷している者も多いのですから、また日を改めてからでも良いかと思いますが……」
テラの意見は最もだろうが、お姫様は首を横に振るって返す。
「いいえ。できるだけ急がねばなりません。……あの魔王の幹部の方が言っておられました……。十三人の依り代様たちの中に、魔の物を紛れ込ませていると……」
「なんですって!?」
「手負いの今こそが、刺客にとってはチャンスとなりましょう。あちらが動き出す前に、こちらでどうにかその正体を掴まなければなりません」
「なるほど。そう言う理由があって、急いでいるわけですね」
お姫様のその言葉に、テラも納得して頷いたものだ。そして、ふと不穏なことを口にする。
「だとしたら……もう一戦、相手の出方次第では行わなければならないということですね」
「ええ。その可能性はあるでしょう。しかし、そうなれば今度こそ死者が出るかもしれません……」
お姫様は悲しそうに目を伏せ、そうならないことを心の中で祈るのだった。
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