Turn81.姫『残党』
一度は窮地に追いやられたお姫様たちであったが、大逆転── 一気に勝利をおさめた。この戦いの一番の功労者はノリット・ソートであろう。
デスサタンの圧倒的な力によって負傷者は多かったが、幸いなことに死人はでなかった。それも全て、極限で防いでくれたノリットの隠された能力のお陰である。
「ありがとうございました、ノリット様」
お姫様はノリットの功績を讃えて、感謝の言葉を述べた。
当のノリットはお姫様に頭を下げられて、困惑したように目を瞬いている。そして、キョロキョロと荒れ果てた広間に横たわるデスサタンの亡き骸を見回した。
「これらを……俺がやったのか……?」
ノリットは自覚がないようで、呆然と立ち尽くしていた。
そんなノリットを、命を救われたみんなは褒め称えた。
「凄いや! あんな凄まじい呪文を放てるなんて!」
「尊敬しちゃうわー」
「いや、俺は……」
しかし、どうにもノリットの態度は煮え切らない。まるで自分がやったのではないとでも言いたげに肩をすぼめている。
みんなの注目がノリットに集まる中──ガタリと、瓦礫の山が動いた。
「く、くそぅ……。やってくれるじゃねぇか……」
瓦礫の下から這い出して来たのは、一体のデスサタンである。運良く致命傷は避けれたようだが、全身傷だらけで立っているのもやっとの状態であった。
デスサタンは既に瀕死の状態であったが、みんなは先程こてんぱんにやられた記憶から、デスサタンを恐れてと後退ってしまう。
恐怖の対象となり、人々は逃げ惑うばかりであった。
「……どいてくれ」
静かな声が上がる──。
料理人であるノトフエ・エルマーが、ゆっくりと前に進み出た。コック帽に白いエプロンを被った普通の料理人──しかし、どうにも彼女の様子はおかしかった。
──ノトフエ・エルマーの瞳は光り輝き、髪は逆立っていた。
「なんのつもりだ?」
ノトフエ・エルマーは手にしている鍋を構え、包丁の刃をデスサタンに向けて戦闘態勢に入る。
デスサタンはなんの冗談かと、ノトフエ・エルマーを一見すると鼻であしらった。
「貴様如きでは、我の肉体に傷一つつけることすら不可能であろう」
ノトフエ・エルマーは何も答えなかった。
余裕の笑みを浮かべ、茶化すデスサタンをひたすらに睨み付けていた。
「次元斬首斬!」
一瞬、視界からノトフエ・エルマーの姿が掻き消えたかと思えば、デスサタンの背後から声がする。
高速でデスサタンサタンの背後に回り込んだノトフエ・エルマーは、叫びながら包丁を振るった。
途端に──デスサタンの全身に、切れ目が入る。
「……なっ!?」
デスサタンが自身の身に起こったことに気が付いた時には、既に遅かった。その体はバラバラに切断され、床に崩れ落ちたのであった──。
「あ、あのデスサタンを一撃で……?」
再び目の前で行われた奇跡に、誰しもが目を見張ったものである。
「ゆ、勇者様……」
お姫様は、すぐにノトフエ・エルマーの側へと駆け寄った──。
ところが既に遅く、瞳は元のくすんだ灰色に戻り、逆立っていた髪もぺたんこになる。
「あれっ? 何があったんでしょうか……?」
ノトフエ・エルマーは我に返ったようで、不思議そうに周囲を見回している。
「勇者? どういうことだ?」
誰しもが、ノトフエ・エルマーの変貌ぶりに困惑して首を傾げた。
「勇者様だよ……」
声を上げたノリットに、みんなの視線が集まる。
「勇者様が、俺達に力を貸してくれたんだ。……確かに、戦った時の記憶はないが……朧げだが憶えているよ。誰かが俺に、力を貸してくれたんだ。そんなことが出来るのは、勇者様だけだろう?」
「……ああ……」と、また別のところから声が上がる。病床に伏していたはずのヒョロガリの剣士チビリング・ガーリーもこの場に姿を現し、ノリットの言葉に同意するように頷いた。
チビリングも以前──ベヒーモスに襲われた時に、勇者の力によってその身を助けられた一人である。
「……勇者様は、常に俺達と共にあらせられるのだ……」
チビリングの言葉に、依り代たちは顔を見合わせた。失敗とも思われた勇者降臨の儀式だが、何らかの効力を齎したらしい。
絶望に打ちひしがれていた城のみんなの表情も『勇者の影』が側にあることが分かり、活力を取り戻していくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます