Turn76.司書『対悪魔』

 デスサタンは恐ろしいモンスターである。

 悪魔モンスターの強さの中でも上位に位置し、何よりもその残虐さから人々に恐れられている。

 捕まえた獲物の生命を、簡単に奪うような真似はしない。できるだけ長くいたぶって、相手が苦しむ様を見るのが、デスサタンにとっては何よりも楽しいことであった。。


「フレイム・スネイク!」

 眼鏡の男──ノリット・ソートが呪文を詠唱すると、手の中に炎が浮かんだ。

 ノリットがその炎を放つと、地を這いながらデスサタンへと向かって行った。

 足元まで進んだ炎は、一気にデスサタンへと襲い掛かった。

「甘いわッ!」

 デスサタンが手を横薙ぎに払う。──その風圧で、ノリットが放った炎は簡単に掻き消された。

「なっ……!?」

 ノリットは驚き後退ってしまう──。


 突如、広間に現れたデスサタンに向かって渾身の呪文を放ったが、まるで火の粉でも払うかのようにひと振りでかき消されてしまった。


「荒ぶるな、悪魔めっ!」

「てやぁぁああぁあっ!」

 新たな二名が、叫び声を上げながらデスサタンの間合いへと入り込んだ。

 口髭を生やした武術家のシュウゾウ・イバラキと、拳豪と名高い少女リィーム・チェーローである。

 二人は跳躍し、強烈な蹴りと拳をデスサタンに向かって繰り出した。

──ドンッ!

──バキッ!

 見事に、その攻撃はデスサタンの顔と脇腹に入った──。

「なんだ、それは?」

 ところが──デスサタンは痛みに顔を歪めることもバランスを崩してよろけることもない。平然と、二人の武闘家を睨み付けた。

 シュウゾウとリィームの顔が曇る。

──デスサタンは尖った牙を見せて、ニンマリと笑った。

 敢えてその攻撃を真っ向から受けることで、力の差を見せ付けたのだ。

「連爆打打ッ!」

 すかさず、シュウゾウは追撃を放つ。

 まだ、その闘志は消えていなかった。デスサタンに効いていないことが分かると、さらなに強烈な必殺技を繰り出したのである。

 素早く強烈な連続攻撃で、デスサタンの体を殴打していく──。


「ふん、効かぬわ!」

──だが、それでもデスサタンには通用していないようだ。

 相変わらずデスサタンは笑みを浮かべ、余裕そうに腕組みまでしている。


「アイスロック!」

 その隙をついたノリットも、新たな呪文を放つ。

 油断大敵──氷の魔法が、腕組みしたデスサタンをそのままの状態で凍らせてしまう。

「な、なにっ!?」

 さすがのデスサタンも、これには驚いたようだ。

 油断をし過ぎたばかりに氷結され、首から下の動きをすべて封じられてしまう。


 デスサタンの前で、拳豪リィームが低い体勢になる。

「はぁああぁああっ!」

 拳を握り力を溜めた。

 そして、十分にパワーを溜めてから──一気に気を放つ。

「剛烈拳!」

 強烈な正拳突きが、デスサタンの体に打ち込まれる。


「ぐおおぉおおぉっ!」

 デスサタンの体は宙を舞い、背後の柱に激突して倒れる。柱や壁が崩れて、周囲が砂埃に包まれた。

「よっしゃぁっ!」

「やったぞ!」

「ナイスっ!」

 ガッツポーズをするノリットとシュウゾウに向かって、リィームは親指を立てながらウィンクをした。互いの功績を讃えあった。


「……してやられたな」

 砂埃の中から低い声がする。

 デスサタンがのそりと立ち上がる。

 攻撃を受けた衝撃で、全身を包んでいた氷も解けてしまっていた──。

 デスサタンは準備運動とばかりに、首を左右に傾けてコキコキと鳴らす。

「だが、タダでは済まさんぞ」

 ギロリと、デスサタンは三人を睨み付けた。

 その鋭い眼光に、三人は恐れ慄いて後退ってしまう。

「ば、馬鹿な……! あの一撃をくらって、尚も平然と立ち上がるだなんて……」

「お、お終いだぁっ!」

 三人は、絶望に打ちひしがれていた。

──だが、三人はまだ自分たちが置かれている状況を十分にはできていないようだった。

「随分と手間取っているみたいだな」

「助太刀しようか?」

「ハッハッハ!」

──この城は、デスサタンの群れによって周囲を包囲されているということを──。

 この絶望的な状況に──新たなデスサタンが三体も仲間の加勢をしに現れた。

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