Turn39.異世界の少女『不思議な言葉』

 地下道を、レイリーは進む。

 そして、最下層の牢獄の中に、テラを投げ入れた。

「ンンゥ……」

 乱暴に扱われ、テラは悲鳴を漏らした。

 レイリーも気が動転しているのだろう。牢獄の鍵を閉めると、何やらブツブツと呟いた。

「折角、魔王様の目を眩ませるために砂嵐を起こしたのに……まさか、勘づかれてしまうとは……。ここで長居はしていられないぞ!」

 慌てたレイリーはそそくさと、その場から走り出した。


──ステ……ステマジ……ヘルワン……。


 ふと、背後で何者かの声が耳に入ったような気がしてレイリーは足を止めた。

 振り向き、再度牢獄の中に目を向ける。

 相変わらず、テラは横たわったままピクリとも動いてはいない。

「いや……。まさかな……」

 レイリーは思い直した。テラの喉は魔法で潰しているはずである。そもそも、彼女が喋れるはずなどないのである。

 レイリーは先程の声を単なる空耳と思い返した。

 そして、再び牢獄から離れて通路を走って行ったのであった。


「ンゥ……ンゥ……ンゥ……」


 牢獄の中──残されたテラは自身の手を見詰めていた。

 岩が突き刺さって貫通し、血で滲んで肉が見えている痛々しい手──。

 ところが、その手から出血は止まっていた。


「ンゥ……」


 テラの瞳から涙が溢れた。

 ──勇者の加護が、負傷したテラの窮地を救ってくれたのである。

「ステマジヘルワン……ステマジヘルワン……」

 何故か、喋れぬはずのテラの口から、その言葉だけはすらすらと発することができた。

 そして、その呪文を唱えるごとに、テラの手は徐々に回復していくのだった。

──血は止まり。

──肉はくっつき。

──皮で覆われていく。


「ステマジヘルワン……」


 テラは何度も何度も、その言葉を口の中で呟いたのだった。

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