Turn32.異世界の少女『傀儡の族長様』
その村──異世界にある《デオドラント》地域にあるトトス村は、完全に荒廃していた。
かつてはこの地域にも国があり、町が栄えていたものである。ところが魔王軍の侵攻によって焼け野原にされ、人が住めるような環境ではなくなってしまった。
砂漠化したデオドラント地域には、連日砂嵐が吹き荒れ──とても生物が住めるような環境ではなくなってしまった。
お陰と言っては何だが、魔王軍もその地域には近付かなくなった。
地域に生き残った人々はそのことを逆手に取り、砂漠の中にトトスの村を造って細々と隠れ住むことにした。
この砂嵐の外の世界では一体何が行われているのか──まだ魔物たちの脅威に晒されているのか──この村に住む人達には、外部の情報が一切入らなかった。それには、不便もあるものである。
そんな最中、突如として現れたのが、このテラという少女であった。
彼女は言葉こそ発することはできなかったが、絵を描いて村人たちに外の世界の様々な情報を伝えてくれた。──それを、村人たちは神の啓示と崇めたものである。
物言わぬ彼女を、村人たちは『族長』として奉った。
──しかし、そんなテラに目を付けたのが悪しき存在であるレイリーであった。
レイリーは物言えぬ彼女を我がものとし、利用することを考えたのだ。
テラの世話役を買って出て、徐々に村人たちに取り入っていった。
テラの側近の座にまで上り詰めたレイリーがやりたい放題にやっても、最早異議を唱える者はいなくなった。その立場を利用して、レイリーはテラを拘束し、必要な時以外は地下の部屋に閉じ込めたのだった──。
今日も鎖に繋がれたテラは、村人たちの前に出された。
──助けて!
壁に絵を描きながら、テラは心の中で叫んでいた。
──助けて、助けて!
「ンン……ンン……」
誰もそんなテラの悲痛な叫びに、気付いてくれる者はいない。テラを一種の神格化している村人たちの目には、そんな彼女の脆弱な部分は写らないようだ。どんなに救いを求めても、そのことに考えが到る人間はいなかった。
「おお……素晴らしい!」
村人たちは感嘆の声を上げ、テラが描いた絵に賞賛の拍手を送るばかりであった。
そんなテラを眺めながらレイリーはねっとりとした笑みを浮かべていた。ペロリと舌なめずりをし、まるで彼女が苦痛に悶えるのを楽しんでいるようであった。
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