Turn010.魔王軍魔術師『厳戒態勢令』

魔王城の中では、大きな騒ぎになっていた。

囚えていたはずのお姫様が、いつの間にか牢獄から逃げ出していたからである。

魔王軍幹部である魔術師・ペデロペは不機嫌に眉を顰め、目の前の部下たちを睨み付けた。

「お前たちは、何をしているのかね! 姫の脱走にも気が付かないとは、まったく……」

小柄な体型であるペデロペよりも何倍も大きな巨体である魔物たちが、彼の言葉でしゅんとなって肩を縮ませている。

「も、申し訳ありません……」

「言い訳など聞きたくない!」

ペデロペは、魔物の頭を杖でポカリと叩いた。

──そもそも、牢獄に封印の呪文を施したのはペデロペなのである。自分の術式は優れているから脱走することは不可能だと、牢屋の前に魔物を配置させなかったのもペデロペなのだ。

それなのにプライドの高いペデロペは、そのことを棚に上げてひたすらに部下たちを叱責し、罵詈雑言を吐き捨いた。──さすがは魔族といったところであろうか。


「警報が鳴っただろうが! それでも、捕まえられないとはどういうことだ?」

「それが、どうやら警報は誤報のようでありまして……。現場に急行しましたが、姫の姿は見つけられませんでした……」

「このっ、このっ!」

ポカポカと、ペデロペは口ごたえをする魔物の頭を散々に叩いた。

「言い訳など聞きたくもない! 姫を城から逃したのは事実であろうが!」

部下を叩きまくってストレス発散をしたペデロペは、心なしかスッキリした表情になる。

鼻を鳴らすと窓辺に向かい、外に広がる荒廃した大地を見下ろした。

「……まぁ、良い。辺りはトラップ地帯だからな。哀れな姫も、城を逃げ出したことを後悔するだろう。……確実に死ぬだろうなぁ。あの数のトラップを一つも掛からずに通り抜けるというのは、さすがに不可能だろうからなぁ」

フフフ、とペデロペは残忍な笑みを浮かべる。

まるでお姫様が酷い目に合うことを楽しんでいるかのようである。


そんなペデロペの残忍な思考に、大型の魔物たちでさえも思わず息を飲んだのであった。

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