第137話 超えて越えて絶ち招く。



「…………ッッッッ!? ぐぅィアっ!?」


 スキル発動と同時に、私は師匠のを斬って見せた。


「なぁっ、何が起きてるッ!? 拙者は、何故いま斬られたっ!?」


 師匠が驚く。そして叫ぶ。

 いま私は師匠の正面に居て、そして師匠が斬られたのどこか?


 --そう、もう一度言う。である。


 どっかの麦わら一味の剣士じゃないけど、背中の傷は武士の恥であり、師匠の背中がここまでバッサリいったのは、だいぶ久しい経験のはずだ。

 そんな、慌てふためく師匠に対して、私は笑って口を開いた。


「ふふ、なんでだろうねっ!?」

「ぐぅ、このッッ! リワルド産のネームドスキルめぇッ……!」

「ごめんね師匠。でも、は師匠の悪い癖だよ」


 師匠が持ってる弱点って言うか、欠点。

 意識的にせよ、無意識下にせよ、師匠はスキルを見下してる。人が人の身で使える技の方がずっと優れていると、心の底からそう考えてる。

 だから、極端な話し、師匠はスキルを使った戦闘もバカ強いのだけど、無意識の内になるべくスキルを使わないように戦っちゃう癖がある。そして、師匠はそれでも勝ててしまう。だからこの悪癖の根が深い。

 つまるところ、師匠は【剣閃領域】が大好きであり、すぐに使いたがり、【剣閃領域】の中だとしてしまう。スキルが嫌いだから、スキルを潰してくれる自分のネームドスキルを信じ切ってる。

 師匠が【剣閃領域】を発動してる間は、師匠の戦闘思考が少しだけ、ほんの少しだけ劣化する。

 マトモにスキルが使えない状況の中に居るから、警戒の方向性がリアル準拠になるのだ。あからさまにファンタジーへの攻撃警戒が薄くなる。


「今の攻撃、【剣閃領域】使ってない師匠だったら反応出来たと思うもん」

「…………ぐぅッッ」

「ね、師匠もちょっと、自覚あるはずだもんね。まぁ、でも、どうせ二撃目からは対応して来るんだろうけどさ」


 私はもう一度刀を振り、そして師匠がステップを踏んで不可視の斬撃を避ける。


「……ッ? 像の操作か? いや、当たり判定の操作……?」

「ふふ、流石は師匠だね。でも惜しい、ちょっと違うよ」


 たったコレだけの時間で、すぐにネームドスキルの効果に当たりを付けちゃう師匠はマジでバケモノ。私ってば良くこの人に対して勝率五割を稼げたよね。誰か私を褒めてくれない?

 ほんとに惜しい。でも残念。師匠、正解はだよ☆


 私がルルちゃんのオマケで手に入れた、ダンジョン事変のお土産。二つのネームドスキルの片割れ。

 副音声が無い方の詠唱で発動出来る、私の新しい力。


 ・【夢幻舞刀】

 ・効果『愛する者の半径百メートル、もしくは視界内でのみ発動可能。発動中、使用者は幻影虚像の生成、操作が可能になり、自身の持っている当たり判定を幻影に移し替える事が出来る。発動条件を満たしている間は効果が持続し、効果終了時に発動時間と等倍のリキャストタイムが発生する』

 ・代償『使用している間、常に想いが強まり続ける。支払った代償は二度と元に戻らない』

 ・詠唱

 ・『此処ここに居て、此処ここに在る。なれば捧げる猫の舞い』

 ・『この想いにこの誓い、白の歌に寄り添う黒は、灰へと混ざる夢に鳴く』

 ・『だから銀にこいねがう。幻想げんそう掻き消すうつつが在らば、我が心刀しんとうを契りとせよ』

 ・『--さぁ踊ろう? 白乞う黒あなたと私の【夢幻舞刀むげんぶとう】』


 ああヤバい、使ってる間、どんどんルルちゃんの事が好きになって行く。ヤバいヤバいこれ思った以上に代償がデカい。

 これ、こんなのもし、一時間とか使ったら、もうルルちゃんしか考えられなくなる。廃人になる。マジで人生が壊れる。ダメダメやばいやばい。

 これは、本気でヤバい……!


「ごめ、ごめんね師匠、予想よりも代償がキツいから、すぐに終わらせるッッ」

「負けぬわぁぁあ!」


 私は幻影をばら撒く。虚像をばら撒く。そして師匠の剣閃が私に届く瞬間、私の自分の当たり判定を虚像に飛ばした。


「なんだこのズルいスキルはっ!」

「ほんと、ズルいねコレっ」


 当たり判定が消えた私を斬り付けた師匠は、居るのに居ない私を斬った妙な手応えにイラついている。

 しかし私は気にせず、師匠の周りに十人ほどの私を並べて襲い掛かった。

 攻撃の瞬間だけ当たり判定を手に入れる幻影虚像が入り乱れて、徹底的に師匠を襲う。

 右腕だけしか当たり判定の無い私が格闘戦を仕掛けたり、刀身だけ当たり判定を持ってる私が斬りかかり、脚だけ当たり判定がある私が蹴り飛ばし、刀の鍔だけ、柄だけ、鞘だけに当たり判定を持ってる私達が師匠の攻撃を防いで行く。

 その全てが毎秒当たり判定を入れ替え、そして師匠には見た目で当たり判定がどこか知る術が無い。

 …………なのに、なんか、ちょいちょい当たり判定有るとこを的確に斬って来るの本気でバケモノ。

 直前に攻撃して来た幻影の攻撃して来た場所を斬るなら分かるけど、攻撃に参加してない幻影の当たり判定がどこか、勘だけで斬って来るの止めて欲しい。

 しかし、初めて使うスキルだから、まだぎこち無いけども、流石にそろそろ慣れてきた。攻めるぜ殺すぜ私の師匠!


「…………ッ!? な、今、なぁぁあっ!? 刀身の当たり判定すらバラバラにしてるのかっ!? しかもッ、『見える』に『見えない』幻影まで被せッ……!? こんっ、外道が過ぎるぞッッ!?」

「えへ、死んでね師匠♡ 大好きだよ♪︎ えいっ!」

「拙者もノノンが大好ギャァァァァアアアッッ……!?」


 幻影を二十体に増やし、全員が持ってる刀に、少しずつ当たり判定をばら撒いた。そしてその上に『ただの風景』の幻影を重ねて、私の虚像を隠したりもする。これが最初の『不可視の斬撃』の正体だ。ふふふ。

 刀身の先から十センチずつくらいをバラして、幻影の刀に反映する。

 流石の師匠も、いくら師匠でも、人であり腕が二本しか無いのなら、当たり判定が二十個近くバラけて四方八方から同時に斬りかかられたら対応出来ない。

 普通ならば、二十人近くに囲まれたとて、本当に二十人全員が一度に襲える訳じゃない。ぶつかり合っちゃうからね。だけど、当たり判定が消失して存在が重ねられる幻影なら、本気で二十人同時攻撃が可能になる。当たり判定残ってる場所以下は重ね放題だからね。

 そのうえで、さらに『ただの風景』を重ねて光学迷彩してる幻影もいるのだ。ふふ、チェックメイトだぜ。

 まぁ、次に戦うことがあったら、それでも普通に対応して来るんだろうけどさ。その時はその時で、こっちもスキルの使い方をもっと磨いておくだけだ。

 何だかんだ、初めて使うから単純な利用しか出来なかった。でも効果の内容を思えば、もっと悪さが出来そうだ。


「…………………………かはッ、……むっ、無念ッ」

「ふぅ♪︎ 楽しかったぁ……♡」


 四方八方から、当たり判定削られてカミソリみたいになってる刀で削られた師匠が、血を吐いて倒れた。ふふ、可愛い。

 そんな師匠との楽しい模擬戦を終えて、私は空に向かってピースサインを決めたのだった。


 ◇


「ノノン、ノノンッ…………!」

「はーい、よしよし。仕方ない師匠ですねぇー? 自分の弟子を相手に、こんなに甘えちゃうダメな師匠には、お仕置でヨシヨシですよぉ?」


 今、戦いが終わってリスポーンして来た師匠を、全力で甘やかしてる。


「ぁあノノン…………」

「ふふふ、弟子にヨシヨシされて嬉しいんですか? もう、ダメな師匠ですねぇ?」

「…………ぁぁあ、せっ、拙者は、ダメな師匠なのだぁっ」

「んふふふ♡ でも、そんなダメな師匠も大好きですよ。可愛いですよっ、いっぱいヨシヨシしたげますね♪︎ よしよーし、よしよーしッ……♡」


 はい、そんな感じで師匠をメロメロにしました。

 上手く出来てるか自信無いけど、師匠はずっと、こうされたかったんだよね?

 まったくぅ、本当は私にずっとハァハァしてたとか、仕方ない師匠だなぁ。

 ほらほら、頭を撫でて欲しいの? それとも喉をくすぐって欲しい? 私の小さいお胸でぎゅぅってしてあげるからね♪︎

 はい、ぎゅぅ〜♪︎


「ねぇ、クレイジーサイコクソレズ鬼ポニテロリコン開き直り侍ちゃん?」

「……邪魔をするな、オブラート」

「いやさ、君それ、どさくさでノノンちゃんの胸とか揉んでるよね? 流石に見るに堪えないよ?」

「………………も、揉んでなどおらぬ」

「ふふふ、良いですよ♪︎ しょうが無いダメダメ師匠は、私のお胸で癒しちゃいますからねぇ♪︎」

「ほ、ほら、良いって言われた! 拙者悪くない!」

「もうこの侍、どこに行くんだろうか…………」


 オブさんの言う通り、師匠は私に抱き締められながら、どさくさに紛れて私のふわふわおっぱいを揉み揉みしてます。でも今の師匠はダメダメ師匠ちゃんなので、特別に許してあげます。

 もう、大事な弟子にえっちな事するなんて、本当に師匠はダメダメですねぇ。お仕置にもっとヨシヨシしますからねー?


「さて、ダメダメ師匠? ノノンちゃんは怒ってます。分かりますか?」

「……えっ、あっ」


 私が怒ってると言うと、師匠はさっと手を引いて私の胸を揉むの止める。いやそっちじゃないよ。別に揉みたかったら揉めばええねん。怒ってるのはそれじゃない。


「あのね、師匠。なんで私のお嫁さんを避けるの? ルルちゃん寂しがってるよ?」

「……………………だってぇッ」


 師匠がっ、師匠が子供みたいに「だって」とか言うの初めて見たよ!

 でもダメです。私は怒ります。ルルちゃんが悲しむなら、私は師匠にプンプンします。


「ルルちゃんを悲しませる師匠なんて、嫌いになっちゃうぞっ!」

「やッ、嫌だァァ!? の、ノノン、拙者が悪かった! 謝る! 謝るからっ、拙者を嫌いにならないでくれッ……! そ、そんな、ノノンに嫌われたら拙者は、死んでしまうっ……!」


 嫌いになっちゃうぞって言葉が覿面過ぎる。

 泣きそうな師匠をまたぎゅってして、なでなでヨシヨシして、甘やかしながら諭す。


「もう、意地悪しませんか? ちゃんと、ルルちゃんを避けたりしませんか?」

「しない! もうしないからっ!」

「ふふ、じゃぁ許してあげますね? よしよーし、よしよーし……♪︎」


 はい、これで一件落着。

 これから更に、師匠を甘々のとろとろのグッチャグチャのメチャメチャにヨシヨシして、もう二度と私の傍から離れられない師匠にしちゃうからね。

 そうすれば拗ねていじけて、セザーリアに残るとか言わないでしょ。

 まぁもう、セザーリア王都の聖堂には登録して来たから、ファストトラベルは出来るんだけどさ。だから師匠が残っても会いに来れるんだけどさ。

 でもそれはそれだよ! 私は師匠を連れ帰るために来たんだから! 


「…………ノノン、あぁノノン、いまは名前を呼んでおくれっ」

「ふふふー、甘えん坊なモノちゃんですねぇ。もっと甘えて良いんですよぉ♪︎」

「ふぁぁぁあっ…………」


 師匠をヨシヨシしてヨシヨシしてヨシヨシしてヨシヨシしてヨシヨシする。

 もう私が「カラスは虹色」と言えば、七色分のペンキを手に持って世界中のカラスをカラーリングする旅に出ちゃうような状態にする。要はなんでも言う事を聞いてくれそうなレベルまでヨシヨシだ。


「はい、モノちゃん。モノちゃんはダメダメモノちゃんですね?」

「ぁぁ、拙者はダメダメだっ」

「ダメダメモノちゃんは、私のお願い聞いてくれますか?」

「きくっ、聞くッ……! 拙者はノノンの願いなら何でも聞くっ」

「じゃぁ、ダメダメモノちゃんは、ルルちゃんとしっかり仲直り出来ますか? いい子だから出来ますよね?」

「仲直りするぅぅう……!」


 これで良し。

 だけど、流石に一方的に不満を飲み込めって言うのはフェアじゃない。なのでこの際、言いたい事は思いっきり言い合ってもらおうね。

 はい、ルルちゃんも師匠も、どうぞー?


「だってシルル殿ズルいじゃないかぁ! 拙者だってあんな、ノノンが好きぃぃいって気持ちが溢れてる詠唱のネームドスキルが欲しかったァッ! 拙者もあんな詠唱を歌いたいぃぃい!」

「それあたしのせいじゃないもん! バーラさんたちに言ってよ! 詠唱なんか無くてもノンちゃんが好きぃぃぃいいって言えば良いじゃん! あたしは言ってるもん! ノンちゃんしゅきいいいいいいいいい!」


 あはぁー♡ 私もルルちゃん好き好き抱いて愛してるぅぅう♡

 もうさっきのネームドスキルの代償食らってるからルルちゃん見てるだけで胸が、胸がドキドキして痛いよッ……!

 ホントに、胸がギュッッッてする。凄い痛い。ルルちゃんを好きって気持ちだけで死にそう。たしゅけて……。


「拙者だってノノンが好きだァァァああああいッッ!」

「あたしの方が好きだもんッッ! ノンちゃんはあたしのお嫁さんだもんっ!」

「でも拙者の弟子なのだァぁあ! 拙者の愛弟子なのだぁぁあっっ!」

「旦那様でもあるもぉぉぉぉん! お嫁さんで旦那様だから最強だもぉおん!」


 うきゅぅっ♡ しゅき、しゅきぃぃ♡

 あ、あぅ、ルルちゃんで頭がいっぱいになるっ、ダメだこれ頭が弾ける。代償がヤバいっ、ちょ、恋濡こいぬ! ちょっと来て!

 恋濡こいぬ、ちょっと仔犬モードになってくれない? 今からガン決まりするまで犬吸いするから、正気を保つ為に協力して? あ、恋無離こいなりちゃんと恋舐魔こいなばちゃんでも良いからっ!

 て言うか二人とも、不満をぶつけ合ってスッキリしてって言ったのに、なんで私の事好き好き合戦になってるの? 嬉しくなっちゃうじゃんね。


「夜のノンちゃん凄いんだぞぉぉお! ノンちゃんの裸って凄い綺麗なんだからねぇえええ!」

「ぐぬぅぅうあああッッ!? 拙者だってノノンのすっぽんぽんが見たいぃいいいいッッ! 全年齢のジワルドでは服なんて脱げなかったのにズルいぃいいいいいいッッ!」


 ほ、本当に師匠は、私の事が、その、食べたいくらいに好きだったんだね?

 そっか。師匠は私のすっぽんぽんが見たかったのか。そっか。


「だがなぁァァっ!? 拙者だってノノンに首を刎ねられた回数なら負けんぞぉぉおお! ぬしは百も千も、愛するノノンに首を刎ねられた経験があるかぁぁあっ!?」

「無いぃぃぃぃ! あたしもノンちゃんに首斬られたいぃぃいい!」


 いや流石にそれはオカシイ。え、ルルちゃん前に殺されるの怖がって私にドン引いてた癖に、いまそんな変な事言うのズルくない? いま代償で頭パーンってなってるよ私。いいの? そんな私にそんな事言うと、好き過ぎでリスキルしちゃうよ?


「ふはははは! ノノンが技を身に付けて幸せそうに笑ってる瞬間を見た事があるかぁっ!? 今のノノンは何でも出来てしまうからなぁッ!? もう中々見れないだろう! これは師匠にしか味わえなかった至福だぞぉぉっ!」

「ズルいぃいいいいい! あたしもそんなノンちゃん見たいぃいいい!」

「技が出来なくてしょんぼりしてるノノンだって沢山見たからなぁァァ!」

「ズルいズルいズルいぃいいいい! あたしもしょんぼりノンちゃん見たいもぉぉぉぉぉん!」


 いや、見てね? 見てるよね? 私けっこう、ルルちゃんの前でしょんぼりしてると思うよ? わりと日常だよね?


「ふ、ふーんだ! あたしなんて、ノンちゃんの性奴隷なんだからね!」

「拙者だってノノンの性奴隷になりたいィィッッ! ノノンからメチャクチャにされたぃぃいいいッッ……!」

「メチャクチャにしてくれるもぉぉぉおん! ノンちゃんとっても上手で気持ち良いんだからねぇええええッッ!」


 止めろ止めろ! みんな見てんだよ! ここ練兵場だよ! 陛下も王女も騎士も兵士も居るんだよ!

 人聞き悪いこと言わないで! それにルルちゃんが私の性奴隷なのは事実だけど私もルルちゃんの性奴隷だからね! ルルちゃんがしたい事全部して良いんだからね!


「それにあたし、オブさんのお薬のおかげで、ノンちゃんの赤ちゃん産める準備出来てるんだからね! あとはお股から血が出るの待つだけなんだよ!」

「オブルァァァァァアアアッッッットゥー! 拙者にもその薬を寄越せぇぇぇぇッッ!?」

「嫌だよバーカ」

「何でだぁぁあッ!? と言うか貴様、オブラートおぬしぃッッ! 散々と拙者の事をロリコンだと莫迦にした癖に! 自分だって幼女とイチャイチャしてるではないか!」

「あ? なに失礼なこと言ってるの? 殺すよ? 僕は恋児魅こにびちゃんが幼女だから好きなんじゃなくて、恋児魅こにびちゃんが恋児魅こにびちゃんだから好きなんだよ。君みたいなゴミクズ性犯罪思想カミングアウト幼女性愛クレイジーサイコクソレズ鬼ポニテロリコン開き直り侍と一緒にしないでよ。て言うか、例の薬は流石にゲストプレイヤーには効かないよ。僕達はゲームキャラでしか無いからね。子供作れないからね」


 ついにオブさんへと飛び火したの笑うわ。

 て言うか罵倒がどんどん長くなっていくんだけど。


「ぐぅぅぅう羨ましいぃっ! みんな、みんなズルいぞッ! 拙者なんか最近、何故か言裸ことらが拙者の事を怖がるからイチャイチャ出来ないのに! みんなイチャイチャしやがって! 拙者に見せ付けやがってっ!」

「……それ、あの子が身の危険を感じただけじゃないの?」

「モノムグリちゃん君莫迦なの? 言裸ことらちゃんは恋神こいのかみじゃなくて言神ことのかみなんだから、恋愛観とか倫理は普通なんだよ? それをさぁ、いくら若く見えるっても、三十路くらいの女に手を出されそうになったら怖がるに決まってるじゃん」

「ちくしょぅぅうううううう!」


 あ、師匠と戦ってる時に何故か言裸ことらちゃんが武器化しないのかと思ったけど、仲悪くなってるの?

 あー、これも代償の弊害なのかな。だって師匠は今まで私にロリコンを隠し通せるくらいには、本人に悟られない自制が出来たはずだもんね。

 なのに嘘禁止の代償を被って、ちょっと色々と正直になっちゃってるのかも知れないね。なるほど、なんか最近の師匠がダメダメ過ぎる気がしたけど、代償のせいなのか。

 ふむ。師匠と言裸ことらちゃんにも、後で【抱擁聖母】入りのヨシヨシをしてあげよう。二人ともに代償緩和のバフ付ければ、魂がオギャってる限りは代償が軽くなるし。どっちかだけでも軽減出来るけどね、ちゃんと二人にやれば代償軽減とバブみ変換の効率も上がるから。

 と言うか、実は私、自分にオギャりバフが付けられないから、恋濡こいぬの代償を完全に消せてないんだよね。二重軽減出来てないから。

 まぁそれでも下着がサラサラしてるくらいに軽減してるんだけどさ。


「て言うか君、正直ノノンちゃん以外でもロリなら誰でも良いんだろう?」

「そんな訳あるかぁぁあッッ! 拙者はノノンこそを愛しているッ!」

「じゃぁ、逆にその状態で手を出されそうだった言裸ことらちゃんが怖がるのは当たり前じゃ無いのかい? 君の中で一番は別に居るのに、お遊びで手を出されそうだったんだからさ」

「…………ッッ!? あっ、ぃあ、えと、それはっ」

「……そこで言葉に詰まるって、最ッ低だろうよモノムグリちゃん。君さ、言裸ことらちゃんにしっかり謝った方が良いと思うよ? 契約切られても知らないよ? 幼神おさながみからの契約解除は自由なんだからね?」


 うん。そだね、そしたら言裸ことらちゃんに、ぺぺちゃんを紹介しよう。

 なんと言ってもぺぺちゃんは妖精なので、代償なんて無くても元々嘘が付けないのだ。相性が良いとかノーリスクとか、もはやそんな次元じゃない。


言裸ことらちゃん、師匠の事が怖くなったら私に言ってね? とっても素敵な妖精さんを紹介してあげるから」

「〜〜♪︎」


 私はこっそりと、虎耳でめちゃくちゃ可愛い和服幼女にそう言った。

 はぁ言裸ことらちゃん可愛い。確かにこれは、手を出したくなる。でもダメだよ。手を出すなら出すでさ、ちゃんと想いを重ねないと。


「ぬわぁぁあー! 拙者の方がノノン好きだァァァああああッッ!」

「あたしの方がすきだもぉおおおおおおおおおおおおおんッッ!」


 そうして、二十分くらい。二人の好き好き大合戦は続いたのだった。

 えへへ、照れるぅ。


「シルル殿……!」

「ムグリさん!」


 そして何故か、最初よりも仲良くなってた。最終的に「ノノン大好き同盟」的な感じになってた。私も二人が好きだよ!

 仲良くなってしまえば、そもそも二人はお互いに、聞きたいことなんて山ほどある関係なのだ。

 ルルちゃんは師匠に、スキル外の技を学びたい。師匠も師匠で超越絶招とか、接続技について聞きたい。

 そうなれば、あとはもう時間の問題だった。


「えとね、あたしも詳しく理解してる訳じゃないけど、超越絶招が使えた時のことは覚えてるよ。たぶん、これがコツだと思う」

「ふむ、教授頂けるのだろうか?」

「うゆ。あのね、そう難しい事じゃないの。あたしの場合は、ノンちゃんだった。ノンちゃんの為なら、何だってできるって思ったの。世界も、神も、何もかも、ノンちゃんの為なら捻じ伏せられるって信じたの」

「…………技ではなく、心っ?」

「たぶん、そうだと思う。だからムグリさんも、技の練度とかは一旦頭の外に投げ捨てて、一回ノンちゃんの事で頭をいっぱいにして、絶招なんて超えてやるぅーって気持ちで、やってみて?」


 マジか、初耳なんだけど。私も技の練度上げるくらいしか考えてなかったわ。

 そうか、つまり私の場合は、ルルちゃんしゅきぃぃいいいいって気持ちで、絶招を超えれば良いんだな?

 よっしゃ何だよそんなの余裕だよ。ああ、だからルルちゃんはネームドスキル中に超越絶招に至ったのか。代償のせいで想いが強まったから、それがきっかけになったんだね?


「………………ふむ、つまり拙者は、ノノンが好きで好きで堪らなくて頭がどうにかなりそうな、この気持ちを全部全部、一滴残らず刀に込めれば良いんだな? 込めるべきは技じゃなく、愛だったんだな?」


 それから師匠は、「ふ、ならば任せろ。もう出来る気しかせんぞ」とか言って、構えを取る。早速実践してみるらしい。

 師匠はどの流派技で超越するのだろうか? 何を選ぶのか?


「…………今の己をえて行く。この想いでえて往く」


 お、おぉ? え、これ詠唱? それともただのセリフ?

 んー、声に魔力が乗ってる感じはしないから、……いや違うな。これは宣言だ。

 いま、確実に、至って見せるって言う師匠の誓いだ。世界に宣誓して、代償を乗せてるんだ。

 

「塞ぐ一切ち滅ぼす、ことわり啓いて此処にくッ……!」


 もう、これ失敗したら二度と超越絶招に挑戦しないってくらいの気迫がこもってる。

 私は知ってる。こういう時の師匠は絶対に。間違いない。


「秘刀術ッ、超越絶招ッッッ…………!」


 ……お? おおお? え、何それ師匠ズルいズルい!

 自分のオリジナル流派でスキル化とかズルくないっ!? 狡いよねっ!?

 私も師匠に野良猫流作ってもらったけどさ、あれって武術ではあっても武術スキルじゃ無いからね! ズルいぃ! 私もやりたいぃいい!


「--我嶺一刀斎がりょういっとうさいッッ…………!」


 そして、振るわれた。


 師匠が超えて越えて絶ち招いた、その一刀が。


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