第134話 勝負の行方。
「…………ねぇノンちゃん。もう十分以上は、経ったよね?」
「うん。経ったねぇ?」
「……勝負はどうなったの?」
「あれから、食べれる物の話しもっ、食べれないけど美味しい物の話しも、一切出なかったよねっ?」
私の若き日の過ちを暴露してから十分後。つまりゲーム開始から数えたら更に数分は過ぎていて、完膚無きまでにタイムアップである。
「結果、知りたい?」
「うゆ。……え、て言うか、時間過ぎたんだから、あたしたちの勝ちじゃないの?」
「…………そう、だよねっ?」
「ふふ、んふふふふふふ」
まさか、勝利目前からの転落、からの逆転勝利なのかと、ルルちゃんとタユちゃんがソワソワしてる。超可愛い。
もうとっくに負けてるのに。
「ルルちゃんルルちゃん、良いことを一つだけ、教えてあげるね?」
「え、なに、なんでノンちゃん、そんなにニヤニヤしてるの?」
「…………えと、タユたちの、勝ちっ、……だよ、ねっ?」
あれから、二人が言うように、本当に一切、条件に合致する話題は発生してない。
そして私が毒キノコを食べて死んだ話しも完全に真実であり、当時の私を殺した犯人であるオブさんに確認してもらっても構わない。
だから、そのままの現状を受け取るなら、私が負けた事になる。
現状をそのまま、受け取るなら、ね?
「……ふふふ、あのね? 二人は嘘を見付けたら一分以内に宣言が必要だけど、私の方は別に、勝利宣言が必要だなんてルール、なかったよね?」
しかしごめんね二人とも、間違いなく私の勝ちなんだ。
私は勝った上で、勝利を報告してないだけ。勝ちましたよと教えて無いだけで、勝った事実に変わりは無い。
詐欺師側が勝った時に勝利宣告が必要だとか、そんな取り決めは一切無いからねぇ。
ちなみに、なんで私が勝利を宣言してないかと言えば、特に理由はない。
強いて言うなら、さっきルルちゃんを煽った時の反応が可愛かったから、また色々と可愛いところを見せて欲しいなって思ってるだけ。
んふふ、私って性格悪いねー!
「……………………え?」
「でもっ、嘘なんて、……なかったよね?」
「いやいやいや、………嘘ならしっかりと、あったよ? 二人は間違い無く、それを見逃してる」
「……どれ?」
どれだろねぇ?
もう二人に残された勝機は、私が用意した勝ち駒にイチャモンつけて論破する以外無い。
だから、先に答え合わせから入って、論ずる必要すら無くしてあげよう。私ってば優しいぃい!
「えとっ、つまりノノちゃんは、勝ったけど、勝ったよーって、言ってないだけ……?」
「そのとーり。もう二人は、私の嘘を完全に見逃してるからね」
私の、唐突な勝利宣言。
しかし、マジらしい空気を読み取ったルルちゃんは慌て始め、タユちゃんも頭にたくさんの「???」を並べて混乱してる。
あー可愛い。私のお嫁さん超可愛い。
ルルちゃんは動作的に、誰かにメールでも出したかな? オブさんに聞いたのだろうか。
「う、嘘だよー! ほら嘘! あたし今オブさんに、メールでちゃんと聞いたよ! ノンちゃんと初対面で、毒キノコ食べさせて殺したって、オブさんも言ってる! て言うか、あれが嘘だったら結局はあたしの勝ちのはず!」
あ、やっぱり聞いたんだね。
懐かしいなぁ。オブさんと私の初邂逅の日。アレは苦しかったもんなぁ。
「えと、本当に、……あの後は、口に入れられる物の話しなんて、一つもしてないよっ?」
「うにゅぅあ、もうあたし、わっかんないよぉ……。うぅぅ〜」
あら、ルルちゃんが拗ね始めちゃった。
あんまり焦らしすぎるのも良くないし、答え合わせは始めちゃおうか。
「じゃぁ、一つずつ行こうか。答え合わせだよ」
「むぅ……」
「ノノちゃんっ、どういうことなのかなぁ? 本当にタユたちっ、負けちゃったの?」
「うん。それは間違いなく。とりあえず、もう私は詐欺スキル切ってるし、ここからもう嘘を言わないから、そこは安心してね。これ答え合わせの大前提だから」
「うんっ。わかんないけど、わかったよっ」
「…………ふーんだ。どうせあたしは、ドヤ顔で負けた莫迦だもーん」
「ふふ、拗ねちゃったルルちゃんも可愛いなぁ。じゃぁ、まずは確定してる真実を並べるね?」
一つ、私がこの勝負中に口にした嘘は、一つだけである。それ以外は全て真実しか口にして無い。
一つ、ルルちゃんの解答権は間違い無くルール通りに失敗している。
一つ、毒キノコの話しが終わってから今この瞬間まで、私は一つも嘘を口にしていない。
一つ、私が二人に仕掛けた嘘は、確実に口頭でハッキリと二人に伝えている。
一つ、二人は間違いなく、私の嘘を耳にしている。
「まぁこんな所かな? そもそも、答え合わせの時間は嘘を付かないけど、この五つは更に絶対の絶対に真実だよ。この五つのどれか一つでも嘘だった場合、その時点で私の負けで良い。なんなら、それで私の負けになった場合は、私へのお願いの数も期間も、倍にしていいよ。お願いも二人が別々にしていい」
「え、ほんと? よし! あたし真剣に考えよっと」
「ふふふ、まだ、諦めないっ」
私は絶対の真実とした五つをわざわざ紙に書いてまで二人に渡す。
それを手にした二人は必死に文を読み、少しでもルール違反を見付けたら絶対に私を縛り上げてメチャクチャにしてやろうと、目を皿のようにしている。
可愛いなぁ。二人は私をどれだけ縛りたいのかな。
ここから逆転、出来るといいね? でも残念。二人に教えてあげるよ。
詐欺師って言うのは、誰よりもルールに縛られてるが故に、誰よりもルールの外に居る存在なんだよ。
「……なにこれぇ。本当にこれで、ノンちゃん嘘ついたの?」
「…………嘘は一つだけっ、だよね?」
「たしか、ノンちゃんはあたしを煽りながら、まだ嘘をついてないとも言ってたよね。じゃぁあれも真実ってことだよね」
「五つにも、キノコの話しが終わってから今まで、一つも嘘は無いって……」
「はぁぁあ? キノコの話しが始まるまで嘘がなくて、キノコの後も嘘がなくて、キノコの話しだって、ノンちゃんはキノコの愚痴しか言ってなかったよ? あ、キノコが美味しいのが嘘?」
「それは無しって、最初に言ってたよっ……?」
「うぇぇえ、あたしもう本当に分かんないよぉ…………」
にひひひぃ、考えて考えてぇ?
困ってる二人は可愛いなぁ♪︎ 正解したら、罰ゲームは絶対にやるけど、その代わりに人生が終わるレベルの全力ヨシヨシをしてあげるからねぇ♪︎
私の赤ちゃんにしてあげるから、頑張ってね。
「えとっ、じゃぁ、キノコを怨んでるのが、嘘? ちょっと、過剰に怒ってたし、嘘っぽかった、かもっ?」
「…………ノンちゃん?」
諦めムードのルルちゃんが私に聞く。ジト目で「合ってる?」って感じで。
「いや、マジで怨んでるよ。このキノコは根絶やしにしたい」
不正解です。ちなみにオブさんの事は別に怨んでない。その時は怒りもしたけど。
まぁその日から弟子入りの日まで、再会する事も無かったんだけど。
「むぅっ……」
「んー、じゃぁ猛毒が嘘?」
「でもでもっ、ノノちゃんは齧ったら死ぬって、ちゃんと言ってるっ」
「そっかぁ。なら猛毒が嘘だと齧ったら死ぬのも嘘になるから、嘘が二つになるね…………」
「…………えと、当時の現物って話しが、嘘とかっ? 同じ種類を用意してある、だけ?」
「でもこれ、ノンちゃんが自分の歯型で間違い無いって言ってるよ?」
「えとっ、隠れてこっそり、齧って用意した、とか?」
「食べたら死ぬのに? 勝負の途中でリスポンしちゃうよそれ」
「………………えと、たまたま、ポーチに食べかけがあった、とかっ」
「タユ先生、さすがに無理が無い?」
思考の坩堝に落ちて行く二人に、少しだけ言及。
「そのキノコは、『たまたま持っていた別件の食べかけ毒キノコ』じゃありません。ちゃんとこの勝負に関わりのあるキノコだし、『たまたま』じゃない。それを食べたら死ぬのも間違い無い」
「でもでも、無毒化出来るんだよねっ?」
「出来るよ。それも間違い無い。だからもう二つ、ハッキリと宣言して真実を追加ねしてあげる。『そのキノコは間違い無く私を一度殺してるキノコ』であり、『私はそのキノコを勝負中に齧ったりして無い』よ」
さて、気が付くかなー? 楽しいなぁ♡
「…………難しいよぉ」
「……あー、あたし、分かっちゃった! 犯人がオブさんなら、これってオブさんが自分で毒を仕込んだ、普通のキノコ何じゃ無いのっ? だから『毒キノコ』って呼び方が嘘! でも毒入りのキノコでもあるから本当でもある! それなら他の言葉とも矛盾しない!」
「でもシルちゃんっ? それだと、タユたちが分かる『明確な嘘』じゃ無くなるよ……?」
「……あ、そっか。…………じゃぁコレさ、そもそも、キノコだって言うのが嘘なんじゃないのっ? ノンちゃんは実話のお話しの時、コレのことを『足元の毒物』としか言ってないもん! 実際、石にしか見えないし、キノコじゃなくて別の何かかも……!? それなら今これ、手元に本物が有るんだから調べたら確認出来ちゃうし、『明確な嘘』の条件は満たしてるんじゃないかなっ!?」
ルルちゃんが私の方に向かってバッと振り向く。「これが正解でしょ!」と言わんばかりに。
しかしざーんねーん!
「違いまーす! 間違い無くそれはキノコの一種でーす」
「うゃ、みゅぅぅう、またあの可愛くてムカつく顔してるぅ……!」
「ぷっぷっぷぅ〜!」
「なんなのその、さっきからぷっぷっぷーって! 可愛いから止めてよ! 怒れないじゃん!」
「ぷぃー!」
「もう! ちゅーしちゃうぞ!」
「良いよ♡」
とりあえずすぐに抱き合ってキスした。
相変わらずルルちゃんの舌は、甘くて美味しいぜ!
「………………みゅぅ、なんか、勝ち負けどうでも良くなっちゃった。ねぇノンちゃん、もっとちゅっちゅして? もう良いからお部屋いこ?」
「あら、キスしたらルルちゃんがとろとろになっちゃった。でもルルちゃん、負けが確定したら無条件ヨシヨシだからね?」
「ぁぅ……、えと、…………その時は、可愛がって……、ね?」
きゃはぁー! ルルちゃん可愛いよぉぉお!
良いよ良いよ、いっぱいヨシヨシしたげますからねぇ♡
「ノノちゃんっ、もう降参しても、いいかなっ?」
はいギブアップ入りました!
「ふふふー、しょうが無いなぁ。じゃぁもう、答え合わせを次に進めてあげるね。ちなみに、二人がさっき羅列した中の一つに正解あったよ」
「「ッッッッッッッ!?」」
ではでは、最後の答え合わせと行きましょうか。
「でもいきなり答えをドーンって出すのも色気が無いから、少しずつ情報を開示しようね。あ、そうだ。正解を口にしてたお利口さんには、ご褒美の手加減ゼロのスーパーヨシヨシをしてあげるからね。楽しみにしててね」
「ッッッ!? え、まってノンちゃんッ!? アレってまだ手加減してたのっ!? むしろそれを嘘だと言って欲しいよっ!?」
「…………ぁぅ、タユじゃ、ないよねっ? きっと、正解を口にしたの、シルちゃんだよねっ!」
「タユ先生!? 突然の裏切り!?」
はい、じゃぁいきまーす。
「まず、この食べかけキノコくん。このクソ菌類についてる歯型ですが、おかしい事がありますね?」
「………………? え、なにが? ノンちゃんの歯型が可愛い事とか?」
「えと、石にしか見えないのに、騙されて食べたことが、そもそもおかしい、かなっ?」
「んぐふっ……!? い、いやもう、それは本当に、当時の私が莫迦過ぎただけなんだよ……。くそぅ、答え合わせで急所を刺されるとは思わなかったっ、胸が痛い……」
さて、私の歯型がついてるキノコくん。間違い無く私はこのキノコを齧ってるし、キノコは齧ったら死ぬ。そして私はオブさんに騙されて毒キノコを食べて死んだ。
コレは全て真実。間違い無く真実。
「良く考えてね。なんで今の私と歯型が完全に一致するのかな? おかしいよね?」
そう。真実だからこそ、おかしいね? 矛盾が出るよね?
「……どゆこと?」
「えと、齧ったなら、歯型も合うんじゃないのかなぁ?」
「本当に? 私はこの世界に来て成長するようになって、その後に
ジワルド時代の「ののん」は八歳設定。
そんな今の私と、一年近い差がある私の歯型が、完全に一致するって、おかしいよね?
「……あ」
「えっ、でも! ………あれぇ?」
二人が混乱し始めた。楽しいなぁ。うふふ、ルルちゃんは後ですぐにでもヨシヨシしたげますからねぇ。
タユちゃんも夜を楽しみにしててね♪︎
「そもそも、…………なんで食べかけが存在してるの?」
「……にゅ?」
「…………? もちろん、自分を殺したキノコを持ってるのは変な事だけど、でもっ、ノノちゃん、自分を殺した事があるキノコだって、言ってたよっ?」
「ノンちゃん、ちょっと良く分からないんだけど」
そろそろ、真実をお教えしましょうか。
「二人とも、ちゃんと聞いてたの? 私はちゃんと二人に言ったよ? 当時初心者だった私は、『足元にあった石にしか見えないその毒物を一口で食べて』死んだって。ちゃんと二人に、そう言ったよ?」
嘘と本当。虚実と真実。
詐欺師は描く現実は、いつだって騙し絵みたいに姿を変えるんだ。
「……? そう、だね?」
「…………うん? …………ぁ」
ルルちゃんは首を傾げてて、タユちゃんは「あちゃー」って顔をし始めた。
「ふふ、タユちゃんは気が付いた? そう、私はちゃんと真実を口にしてるんだよ。最初からさ? 『一口で食べた』って。一口食べて死んだんじゃ無いよ。一口で食べて死んだの。私が当時食べた毒キノコは、食べ切ってるんだよ」
仕込みはルルちゃんが全部回収したね。釣り針は全部食べてくれたね?
だからそう、これは、仕込みじゃ無くてただの真実。だけどたった『一文字』だけ埋め込んだ毒の種。
「なんで食べ切ったはずの毒キノコが、ここにあるの?」
詐欺師は真実で騙すんだよ。
「………………………………ッッ!?」
「え、あれぇ!? でもっ、ノノちゃんはこのキノコで死んでるって!」
「もしかして、『現物』って言うのが嘘なのっ!? でもノンちゃん、勝負中に用意したキノコじゃないって言ってたよ!? 齧ったら死ぬとも言った! ほぼ即死する即効性の猛毒だって!」
「だよねっ? 『現物』以外が全部本当なら、絶対に矛盾しちゃうよっ」
「たまたま偶然持ってた別物じゃないとも言ってたよ! これが『現物』じゃなかったら、嘘が一つ収まらないよッ!? 現物じゃないのに、勝負中に齧って無くて、たまたま持ってた物でも無いなら、もう存在するのがおかしくないッ!? 実はこのキノコって幽霊なのッ!?」
ルルちゃんが混乱して訳わかんない事言い始めた。
さてさて、しかし本当に? 本当に矛盾するだろうか?
良く考えて欲しいな。矛盾するからこその矛盾しない真実だって、あるんだよ?
「私はそのキノコを齧って死んだ。毒は即効性で食べたらほぼ即死する。私はオブさんにそのキノコと同種のキノコで殺されてる。それは勝負中に用意したキノコじゃない。たまたま持っていた別件のキノコでも無い。コレは全部真実だよ。嘘は一つも無い」
「…………いや、おかしいでしょ」
「うんっ。どこかに嘘が無いと、『現物』が嘘にならないよっ?」
「それに『現物』が嘘だったら、他にも嘘が出て来るもん。嘘が一つだけって真実も嘘になって、ノンちゃん負けちゃうよ?」
うん。もうこれ以上は、引っ張り過ぎかな?
ちょっと楽しく過ぎて、遊び過ぎたね。ちょっと伸ばし過ぎたや。
シャーロキアンだってもう少し簡潔だよね? あはは、そろそろ締めようか。
さて、では最後の真実をご開帳と行きましょう。
「ねぇ二人とも、毒を食べて死んだら、私はどこで目覚めるかな?」
「え、そりゃぁ、ベッドでしょ? リスポン地点だし」
「…………あっ、あぁぁぁあ、ぅぅう、ノノちゃん狡いよォっ」
「え、なにどうしたのタユ先生っ」
タユちゃんは気が付いたね。
「ねぇルルちゃん。勝負の前に寝室に運んだアルペちゃんとクルリちゃんの寝顔、可愛かったよ。二人の寝顔って癒されるよねぇ? 私ベッドに横になって間近で見ちゃったよ」
「……………あっ、あー!? え、うわっ、それ有りなのッ!? うわッ、うわぁ!?」
はい、これが真実。
「そう。私はこの偽物キノコ君を、勝負の前に、アルリちゃん二人を寝室に運んだあの時に齧って、その場でリスポーンして、しれっとリビングに戻ったんだよ。だから勝負中にキノコは齧ってないし、この勝負の為にわざわざ齧ったキノコだからこの勝負に関わりがあるし、たまたまの別件キノコでも無い。そして私はちゃんとこのキノコで死んだのも事実だし、このキノコは当時の私を殺した物と同種のキノコだよ」
ぜーんぶ真実。このキノコが『オブさんに騙されて食べさせられた現物』ってお話しただ一つだけが、私が通した嘘である。
「並べた真実の通りに、キノコの話しが終わった後は一つも嘘をついてないし、勝負が始まってから私が嘘をついてないと宣言するまでも嘘は一つも無かったし、二人を負けさせる嘘以外は何一つ、ほんの少しも嘘は言ってないよ」
その代わり、「私は勝負が始まってからまだ何一つ嘘なんかついせぇぇえん」と宣言した直後、本当にそのすぐ後にポロッと混ぜ込んだ、釣り針無しの毒餌だけが嘘だったんだ。
「ね? 『一口で食べた』はずのキノコが目の前にある。『明確な嘘』でしょ?」
「…………うわっ、そのレベルで『明確』だったんだね」
「みゅぁあっ、負けちゃったよぉ! タユっ、タユ赤ちゃんにされちゃうよォ……!?」
「あ、しかも正解当ててたのもタユ先生だね? じゃぁノンちゃんの本気ヨシヨシは、タユ先生がされるんだね?」
「ッッッ!? だ、ダメだよっ!? タユ、赤ちゃんから戻れなくなっちゃうよっ!?」
もちろん赤ちゃんにしますよ? 安心してるけど、ルルちゃんはむしろ、日の高いうちはエンドレスでヨシヨシされるから、大差無いからね?
「ちなみに、私が警戒してたのはルルちゃんだけだから、ルルちゃんが私の撒いた釣り針に引っ掛かって脱落した瞬間、私の勝ち確だったよ」
「え? でも、タユ先生の解答権残ってたし、勝ち確は言い過ぎじゃない?」
「そ、そうだよねっ? …………でもタユ、解答権を使うまでも無く負けちゃったね」
「ふふふ、言い過ぎじゃ無いんだよねぇ。二人とも忘れてない? これ、ただの詐欺技術のお披露目じゃなくて、『詐欺スキル』の検証実験でもあったんだよ?」
「…………あっ」
「そう言えば……」
思い出して欲しい。これはむしろ、罠でも釣り針でも仕込みでも無く、二人が気が付けるように添えたヒントの一つ。
「よーく思い出してね。私はこうも言ったよ。相当なステータス差があり、スキル練度も高く、詐欺の腕も良ければ無茶な嘘を通せる可用性が生まれる程度の精神干渉効果があるってさ?」
「……言ってた、ね」
「うんっ。言ってた」
「ならさ、程々のステータス差が有る相手に、まぁまぁのスキル練度と、そこそこの詐欺の腕を持つ者が詐欺スキルの精神干渉をすれば、たった一つの小さな嘘から完全に目を逸らすくらいの事は出来ると思わない? 例えば、私とタユちゃんの間で、『一口で食べた』を『一口食べた』くらいに誤魔化すとか、さ? たった、たった一文字だけを誤魔化すくらいなら、ね?」
そうなのだ。私の狙いはタユちゃんだけだった。
ルルちゃんはリワルド初の到達者であり、成長度も最大で、MINが【D-】とは言っても、到達者に相応しい数値は持っている。
だけど、ルルちゃんみたいに特殊な事情が無く、成長値もレベルも伸び切って無いタユちゃんが相手なら、『無茶じゃなく些細な嘘』から意識を完全に逸らす程度の事は、余裕である。
だから、詐欺スキルの精神干渉を跳ね除けて嘘に辿り着ける可能性を持ってる相手、ルルちゃんだけは、解答権を奪う必要があった。
だからこそ、わざと『ここが嘘ですよ』と疑わざるを得ない仕掛けをあっちこっちにばら蒔いた。
まさか全部に気が付くとは思わなかったけどね? だからこそ、何個も仕込みをしたんだし。
「………………ぁぁあ、最初っからあたしたち、ノンちゃんの手のひらの上だったのぉ?」
「たしかに、全然気にしてなかったなぁ……」
「この勝負がもし、『この幸運の壺は本物です!』って感じの詐欺だったら、いま二人はまんまと騙されて、ゴミを買ってる訳だよ。これが詐欺スキルの効果なんだ」
ちょっとドヤ顔しつつ「し、心配だから気を付けてよね!」ってツンデレ風デレデレムーヴを二人にカマすと、二人は「詐欺って怖い!」と理解してくれた。
「一応、私がちゃんと負けられるように、ヒントもばら蒔いてたんだよ?」
「………………は? え、あたしたち、そんな手加減もされてたの?」
「え、どれかなっ?」
「釣り針は全部食い付いたのに、ヒントは全部スルーしたルルちゃんには、ちょっと笑いそうになったけど」
「止めてよ! 死体蹴り良くないよノンちゃん! あんまり苛めると、あたし泣くからね!?」
「泣いたらヨシヨシしたげるね?」
「ちくしょう隙がない!」
まぁ、流石に負けたくないから、ヒントはちょっと控えめだったねどね?
「まず、私はちゃんと、『ベッドに横になって来た』って教えたね? そこを思い出せたら、リスポーンした可能性に辿り着けたかも知れないね」
「うわ、そこから手加減されてたの……」
「ちょっと、ショックだねぇ……」
「まぁその時はルルちゃん解答権無かったし、タユちゃんは精神干渉で絶対に正解出来ない状態だったけどさ。本当なら、ルルちゃんがあそこで速攻引っ掛からなかったら、もっと色々と隙を見せて行くつもりだったんだけどさ。そのパターンだったらヒントを使って勝ててたかもね?」
「……あたし音速で自爆したんだね。しかも一番ダメな形で」
「そうなるねぇ。ルルちゃん焦ったなぁって思ったもん」
仕込み終わってさ、さぁ釣り針垂らして釣果を待つぞって構えようとしたら、入れ食いだったからね。笑っちゃったよ。
「他にも、敵がルルちゃんしか居ないんだから、ルルちゃんが知っててタユちゃんは知らない、『ノノン先生』のお話しとかでルルちゃんだけを露骨に狙い撃ちしたり」
「……され、てたねぇ」
「タユは、そもそも獲物さんだったんだねっ」
「他にもまだあるよ。わざわざ精神干渉の効果を教えたのも、『だから警戒してね』って意味だし。精神干渉の効果はステータスの差で変わるよって、私はちゃんと教えたし、そもそも、ルルちゃんに聞かれて私は、『精神干渉を使う』ってハッキリ宣言したよね?」
うん。そう、私はルルちゃんに「使うの?」って聞かれたから、ちゃんと「使うよ」と正直に教えてあげてる。
そしてその通りに、私はちゃんと精神干渉の些細な補助を使って、タユちゃんに対して『キノコが本当に現物か否かは些細な問題』だと刷り込んだ。
「…………言われて見れば、ほんとにそうじゃん。詐欺スキルの勝負で詐欺スキルの詳細教える意味ないじゃん! うわ、凄い手加減されてるじゃんあたしたち! うわぁぁ悔しィィい!」
「まぁ、ヒントと一緒に『精神干渉は心配ないよ』って毒も混ざてたから、ソレに関しては完全な手加減って訳でも無いんだけど」
「でも悔しいもん! あたし泣いちゃうから、あとでノンちゃんが責任もって慰めてよね!」
「任せろー! いっぱいヨシヨシするからね!」
「あ、そっかあたし、もう負けちゃったから、ヨシヨシから逃げれないんだ…………」
「そうだよぉ♡」
私はニチャァと笑った。
いや、なんかね、私って自分のヨシヨシだけ特別視されてるのは納得してないけど、それはそれとして、ヨシヨシ自体は楽しいから好きなんだ。
甘やかすの楽しいよね。それが好きな相手なら、尚更だよ。
生きてた頃も、達磨になる前だったら、私は精一杯背伸びをして、お父さんとお母さんに甘えて、それで甘やかし返してた。
お料理を作ってお家で待って、帰って来たお父さんにお疲れ様って、お仕事頑張りましたねーって抱き締めたし、お母さんにも、いつもありがとうって、頑張ったお母さんはお家で何もしないで甘えて良いですよーって、私は二人をぎゅってするのが好きだった。
私がお家で家事をするのが好きだったのは、私の原点は多分それなんだ。
…………なのに、なんで今の私はこんなに脳筋に育ってしまったのか、自分でも謎だ。
「ノンちゃん」
「ん?」
「もしかして、さ。負けたらお願いを聞くって話も、さ…………」
「……うんっ♡ もちろん誘導したよ? 負けたら恥ずかしいねって言われて、ルルちゃんが言い出してくれたね? この誘導も少し精神干渉使ったけど、正直それ要らないくらいにルルちゃんってば食い付き良かったよね。すぐに言い出してくれたもん」
「うわッ、うわぁぁぁあっ、もう最初から最後まで全部全部! ノンちゃんの手のひらの上だったじゃん!」
つまりはそういう事、私は最初に、詐欺スキルを実際に食らってみるかと聞いたんだ。
だから二人には、実際に詐欺に遭って貰わないとダメでしょう?
「この詐欺はね、二人が一方的に、私にヨシヨシの権利を差し出すって言うお話しだったのですよ」
「……………………もう、ぐうの音も出ないよ」
「えと、完全敗北、だね?」
今回のコレを外から見ると、私は二人を一方的にボコれる超超超私が有利なゲームを、あたかも二人が有利なゲームとして差し出して受けさせ、その勝利によって得られる景品も向こうから提案させ、『私は何も要求していない形なのに、何故か最後は総取り』してる詐欺だったのだ。
しかも、さりげなーく『お願いはキツイやつにしない?』とか言って、ほぼ確定で貰える報酬の水増しまでしてやったのだ。実質ノーリスクでね!
「詐欺って怖いでしょ?」
「超怖い」
「……ほんとにっ、自分がやられると、怖さがわかる、ねっ?」
「勝負の内容も一気に全部、二人が有利なルールで押し付けると逆に怪しいでしょ? だから、最初から決めてた癖に私は、ルールを二人に『追加ルール』とか『提案』って形で小出しにしたんだ。アレのせいで二人は『有利過ぎる胡散臭いルール』を『ちょっとずつ拾えるお得感』に誤魔化されて、『有利に見えて実は負け確のゴミルール』に気付けなかったんだね」
「本物の詐欺師が居るぅぅう! 怖い怖い怖い! あたしノンちゃんが怖いよ!」
怖がらないでよルルちゃん♪︎ 私は優しいお嫁さんだよ?
ニチャァっと笑う私は、まだまだ種明かしを続けるよ。
「それにルール説明を小出しのブツ切りにされたから、頭の中で勝負のルールがとっちらかったでしょ? 思考能力を削ぐにもコレは有効な手だし、思考があちこち飛ぶから、逆に私の仕掛けにも気付き易くなる。私がこの勝負で一番困るパターンは、二人が二人とも、私の仕掛け全てに欠片も気付かない事だからさ」
実際、二人が私のお話しを全部「へー、そうなんだ!」と疑いゼロで飲み込むピュアピュアエンジェルだった場合、これだけ仕込んだ全部が無駄になったので、それはそれで凄い困った。
わざわざ勝負前にリスポーンまでして準備したのに、スルーされたら困っちゃうよね。その時は既に組んである作戦を全部捨てて、また一から必勝を組み直さないとダメだった。しかも勝負は始まってるのでそれを十分以内に仕上げないと負けるのだ。
まぁその時はその時で、何とかしたけどさ。
「あとは、どっちか一人勝てば私の負けってルールも、二人とも負けたら引き分け狙いで復帰して良いってルールも、どっちも罠だね。私の勝利条件は、ルルちゃんだけが失格してくれる事だったから、むしろタユちゃんは残っててくれた方が助かるんだよ」
「……ぁあ、そっか。復帰出来る可能性があって、どっちか一人でも当てれば勝てるから、片方はお試しって感じで食い付いてくれるからだね?」
「そうそう♪︎ でもそれだけじゃなくて、タユちゃんが食い付いてルルちゃんが残ったら困るじゃない? ルルちゃんは精神干渉通り難いから、嘘に気付けるかも知れないし。だからそうなったら、一度二人を失格させてから復帰させて、ルルちゃんだけが落ちた形になるまで、私が何回でもやり直せるってルールだったんだね♪︎ 引き分けってのは完全に餌。私は勝ち以外見てなかった。絶対に勝つために用意した引き分けルールだよ」
「…………うわぁあ、詐欺師だァっ」
「でもノノちゃんっ、普通に二人とも失格にした方が、早かったんじゃないの? 復帰出来るルール、要らなかったんじゃない?」
「でも、復帰出来ないルールでルルちゃんが残ったら、その時は目の前でタユちゃんが『明らかな罠』で落とされてるんだし、警戒度が上がるじゃん? そうすると毒餌に食い付いてくれなくなるし、精神干渉が凄い通りづらいから、私が負ける可能性が高くなるもん。精神干渉を通せるタユちゃんだけが残ってる状態に戻せないと、私が確実に勝てない」
「…………ふわぁ、徹底してるねぇ」
そりゃそうさ。詐欺ってそういう物だよ?
「纏めると、二対一の勝負に見せかけて、実は一体一の勝負になってた。そして私は勝ち確の状況を作れるまで何回でもやり直せる仕組み。と言うかむしろ、タユちゃんは私の味方だったとすら言える、私が勝つための、私の為のルールだったんだねぇ」
「……酷すぎる。あたしのお嫁さん、酷すぎる。こっちもやり直せたけど、その時は引き分けにしかならないし、ノンちゃんが嘘を言ってくれないと引き分けにすら出来なかったし」
「そうそう、つまり本質はそこなんだよね。このゲーム、私が嘘を言わないと進まない仕組みだからさ、ゲームの操作権限が私にだけあったんだよ」
つまり、二人は知らずのうちにゲームマスターに向かって殴りかかってた訳だね。ふふふ、なんと言う不平等。
「ま、流石にこの程度のアレコレなら、例えばこのお城に居る貴族さんとかには使えないんだけどね。彼らは毎日毎日、欺瞞と陰謀が渦巻く政争に身を投じてるんだし」
「…………それ言われると、なんかお貴族様たちが本当に凄い人に思えて来たよ」
「……タユ、今度お家に帰ったら、お父様をヨシヨシしてあげようかなっ」
「あたし、平民で良かったなぁ。毎日こんな怖い生活してたら、頭おかしくなっちゃうよ」
その通りだぜルルちゃん。だから私は、人格さえある程度マトモなら、貴族相手には普通に敬意を持って接しているんだよ。例え私が貴族嫌いでもさ?
ほら、あのテティのクソにも、最初の数秒はちゃんと対応したしね?
私が彼らに求める基準は姫ちゃんだけど、だからってそれ以下が全部ゴミだとは、流石に思ってないよ。だって私の親友は最高の王族だもん。そう簡単に並び立てて堪るかっての。
政治形態も封権制はダメだなって思ってるけどさ、それはそれとして大変な仕事してるのは間違いないんだし。
民と税金に寄生してる奴らって考えも持ってるけど、姫ちゃんみたいに、だからこそ身も心も全部を差し出して王族足らんとした信念は、本気で尊敬してるし。
「ふふふ、正直まだまだ、二人に仕掛けた手練手管は残ってるけどさ」
「うぇあ、まだあるの……?」
「こ、怖くなっちゃうっ」
「でもそんなの、後でゆっくり教えれば良いよね? だって私、もう二人にお願い出来るんだからさ」
「「……あっ」」
さてさて? もう、もう良いよね?
せっかくのお休みなんだし、時間は沢山あるんだし、もうヨシヨシしても、良いよね?
「ふふふ、ふふふふふふふ。まずは、ルルちゃんだよね?♡」
「あ、まってノンちゃん、まだ心の準備とかいろいろ足りなくて少し待ってくれたらあたし凄い嬉しい--」
「だーめ♡ 抵抗は、しない約束だよ?」
真っ青になる私のお嫁さんに、私はゆっくり両腕を広げて、『おいでー』のポーズをする。後はその通りに口を開けば、ルルちゃんは抵抗出来ない約束だ。
「ふふ、タユちゃんは、夜を楽しみにしててね?」
「あっ、えと、あの、タユちょっと、黒猫亭に用事を思い出し……」
「ロッティって私の召喚獣だからね♪︎ 私の許可無くロッティには乗れないよ? それとも、馬車と歩きで帰ってみる? その場合は凄い時間がかかるけど、その思い出した用事に間に合うと良いね?」
私はニチャァと笑ってタユちゃんに告げた。詐欺スキルを再び起動!
本当はファストトラベルで往復可能なのに、別の移動手段を二つも挙げて、しかもその移動方法に関しては嘘が無い。ただその二つを強く意識させて、ファストトラベルから意識を逸らす。
ふふ、これでタユちゃんは精神干渉によって一時的に、ファストトラベルに気が付けない。事実上の
さて、今はルルちゃんだったね。んふ、ふふふ…………。
これより、私はヨシヨシを執行する。
「さぁルルちゃん? おいでー?」
この後めちゃくちゃヨシヨシした。
そしてタユちゃんは夜に赤ちゃんプレイの餌食になった。
はぁー人生楽しぃいー!
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