第127話 師匠を迎えに外国へ。
さて、突然だけど外国へ行こう。
良く考えるとさ、師匠に会いたかったら、迎えに行けば良いんだよね。
オブさんのお陰でリワルドに来てるのは分かってるんだし、移動して無ければ現在地も判明してる。
そして私には、ベガやリフ、リジル、グラム、ロッティという空の道を使える家族が居る。ならば座して待つなんて性にあわないし、さっさと行って会ってしまおう。
「あ、あー! あたしも行くぅー! ノンちゃんのお師匠様、あたしも会いたい!」
「うーん、僕も行こうかな? 道案内くらいは必要だろう?」
「出来ればオイラも行きたいでござる」
「タユもっ、ノノちゃんのお師匠様に、会いたいな……?」
「俺も大先生の師匠とか気になり過ぎるぜ」
そんな訳で、唐突に思い至った外国旅行な訳だけど、なんか希望者が殺到した。
どうしようか。グラムはぶっちゃけ機動戦士のジェットでストリームなアタックをする機体みたいなバーニア移動で無理矢理飛んでいるので、移動方法としては適格とは言えない。
かと言って他の二竜が騎乗に適してるかと言えば、答えはノーだ。大は小を兼ねるけど、過ぎたるは及ばずが如しでもある。
そして竜に騎乗するって、残念ながら後者なんだよね。鞍とか付けるって次元の大きさじゃ無いから。半二足歩行が基本姿勢な西洋竜スタイルだから普通に乗り難いし。
しかし、立候補全員をベガとリフで分乗出来るかと言うと、これも答えはノーだ。
ステータス的な問題は無いから乗せる事は可能なんだけど、単純にスペースが無い。数人どころか百人だって乗せられるSTRがあっても、ベガとリフだけでは六人とか無理だよ。
オブさんは今ショタっ子化してるから省スペースだけど、ユノスケさんと
と言うか、ゼルくんに至っては筋肉質で体が大きい。ベガなら子供と一緒にゼルくんが乗ってギリギリ二人ってところか。うん、普通に無理。
しかも、
「ん? いや、
「………………ん? え、オブさん、なんですかその、スタンバイって」
話しを聞く。
「…………え、
おいィ! 聞いて無いぞバーラぁッ!?
仕様書メールにもそんなん書いてなかったじゃないか!
なんで今、目を逸らしたの? 明らかに「あ、やっべ……」って顔したよね?
「…………
「--ッッッ!? ッッ!?」
今のはアカンですよ
いやね、誰でもミスくらい有るからね、それは良いんだ。問題はそこじゃなく、「あ、やっべ……」って目を逸らしたことだよ。
スグにごめんなさいするなら良いけど、誤魔化そうとしたね? ダメだよ。お仕置だよ。
「知らなかったんだねぇ。……やっぱ、積極的に筆談でお喋りしてくれる
そんなこんな、私たちはセザーリアって国へ移動を開始した。しばらく黒猫亭の仕事はウルに任せる。最近頼もしくなってきたしね。
ちなみに移動方法は結局、私のドラゴンにお願いする事になった。
方法は騎乗じゃなく、ゴンドラを作って持ち運んで貰う形に落ち着いた。
その際、リジルとロッティがその仕事を賭けて決闘する事になったけど、十分ほど時間を使った結果、今回の勝利者はロッティになった。
最近のロッティって、レイフログでルルちゃんの舞いを見て勉強したのか、戦闘機動に「武」が感じられるんだよね。
速度特化である程度の耐久があり、攻撃力もあるスタイルが結構ルルちゃんと似てるし、だからその動きを模倣してみようってなったのかな。
ルルちゃんって自分のステータスビルドが冬桜華撃流に合ってないって嘆いてる時あるけど、そんな事無いんだよなぁ。
確かに冬桜華撃流に一番合ってるステータスビルドは、STRとVIT、そしてDEXの三つを重点的に上げた形だ。
高い耐久でどっしり構えて、高い技量で綺麗に舞って、高い膂力で確実に斬り裂くのが一番良い。
けど、別に敏捷特化ビルドと相性が悪い訳でも無いんだよね。冬桜華撃流ってさ。
一番重要なステータスはDEXであり、舞いの練度さえ確保出来るなら、AGI特化でもちゃんと使える。
高い敏捷と技量を合わせた緩急のキレを舞いに乗せて、ここぞって所に深く斬り込む。それもまた、冬桜華撃流の活かし方である。
じゃないと、ルルちゃんに比べて紙耐久な私なんか、冬桜華撃流が全然使えない事になるじゃんね。
まぁ良いや。とにかく一堂、一時間ほど空の旅です。
「そして到着!」
「いやぁ、空路ってやっぱ便利だよねぇ。あの長かった旅路が一時間に……」
なにやら嘆くオブさんだけど、良いじゃん。その旅路で
さてさて、と言う訳で目的地に到着です。オブさんが逃げる時に「あばよセザーリア! 二度と来ねぇよバァァァァーーカっ!」って誓ったらしいセザーリアです。二度と、来ちゃいましたね?
ケルガラとはまた違った王都の景色だけど、その文化に頓着する事無く、私は容赦無くロッティへ王城の庭に着陸するように言った。
もうさ、私って完全に自重を止めたんだよね。
急造の為にギシギシしてるゴンドラを降ろして貰い、私はセザーリアの国土に初めて降り立った。その場所か初っ端から王城の敷地内って控えめに言ってクレイジーだよね。そしてクールだ。ははっ(乾いた笑い)。
「何者だァァァァッッ!?」
「襲撃だァぁああーッッ……!」
当然、周囲は騒ぐ。当たり前だ。私も逆の立場なら騒ぐしキレる。多分今頃斬りかかってる。
無警戒な所を突然、最も守らなきゃ行けない領域の内側に巨大なドラゴンが降ってくるんだから、混乱も必至に決まってる。
騎士やら兵士やら、色々と出て来て私達を囲む。ロッティは「どうする?」って視線で聞いてくるけど、別に障害でも何でも無いから、今はほっといて良いや。師匠を回収したら帰るし。
「ノノンちゃん、とりあえず僕が取り成してみるよ。一応、この国で薬聖って肩書きを押し付けられてるしね」
「あ、じゃぁオブさん、お願いしますね」
とりあえず、自信が有りそうなオブさんに一旦お任せする。
そして、任せたオブさんが五秒くらいで諦めて戻って来た。
……早くない? 私、オブさんに任せてる間にお城の作りとか見物しようかなって思ってたのに。
「ごめんノノンちゃん。代償でショタ化してる僕のこと、あいつら理解出来ないみたいだ」
「あ、なるほど」
うん、そりゃ仕方無い。まぁ私も、別にそこまでお城の外観をじっくり眺めたかった訳でもなし、別にいいや。
言うてそこまで見るとこ無いしね。なんか、「うん、異世界のお城だねぇ」って感じの感想しか出て来ないし。異世界情緒ってだけならケルガラで充分だ。
お城その物に関する感動とか、特にないもん。そんなのジワルドで散々見たし。私ってほら、ジワルド大好きな廃人だったから、ジワルド内にあるお城とか全部当たり前にじっくり見てるからね。今更、普通に建築されたお城を相手に、新しく感動し直すポイントとか無い。
「オブさん、師匠にメール出来ないんです? 呼べばいいのでは?」
「あ、その手があったか」
オブさん、案外抜けてる所あるよね。うん、こう言うところある。
私が自分でメールを出せれば良いんだけど、実はリワルドってフレンドリストがジワルドと共有じゃ無いんだよね。だからリワルドではまだ師匠と会ったことの無い私は、師匠にメールが出せない。メールを出すにはフレンドコードが必要だからね。
と言うか、もし共有だったとしても、私ってば存在ごとバグって消えそうになって、その後にリワルド産のプレイヤーとして生まれ変わったって言う特殊な経緯を持った存在なので、多分どっちにしろフレンドリストは初期化されていたんだろうと思う。
でもなぁ、共有されてたら、ちょいちょいフレンドリストを開いて、リワルドに誰かやって来て無いかって確認も出来るのに。出来ないもんなぁ。
オブさんと師匠が居るんだから、他にも来てたっておかしくないよね。
タカさんとソルさんもそうだし、この時点でも私を含めて五人もいる。だったら、私が知らないだけで結構な人数がリワルドに来てる可能性もあるよね?
もっと居たら嬉しいなぁ。ぺったんこさんとか来ないかな? あの人は超紳士だけど、マジのガチで真性のロリコンなので、
えっちなこと出来ちゃうしね!
別にそれを推奨したい訳じゃないし、他の普通のロリコンが
来ないかなぁぺったんこさん。
「ほい、呼んだよー。あとは待つだけさ」
「…………んぁっ、え、なんです?」
「いや、だからメールを鬼クソポニテに送ったってば。どしたの? 何かあった?」
私が鍛冶の師匠を思い出してると、オブさんに声をかけられてビックリしちゃった。ぼーっとしてたや。
「えと、ぺったんこさんとか、この世界に来ないかなぁって思いまして」
「あー、確かに。僕と同じ生産職の師匠仲間だし、来てくれたら色々助かるよね。それに、ペッタンコくんはこの世界と相性が良さそうだ」
「ですよね、ですよね。早く来て、
「そだねぇ。彼なら、
ぺったんこさんは、オブさんからの信頼も厚い。
本当に紳士だからね。私みたいな性犯罪者系ロリコンじゃなくて、自分がロリコンである事に悩んじゃうタイプのロリコンだった。
心の底からロリが好きで、愛してて、幼い女の子と恋愛したくて、その果てに性欲までぶつけたいのに、そうする事で相手の女の子にどれだけの負担を強いるか、どれ程の不幸を強いるのかを真剣に考えて、そうして自分の気持ちをベキィッてへし折れる強いひと。
ロリが好きだからこそ、ロリを悲しませたくない。傷付けたくない。だから自分に蓋をする。自分を踏み付けて、押さえ付けて、遠くから愛らしいロリを見守ってる。そんな人だった。
「…………彼には、幸せになって欲しいねぇ」
「ですねぇ」
本当はそんなに我慢強く無いのに、ロリに対する態度だけは絶対に変えなかった。
ロリの方から迫って来て、欲に負けそうになった時はその場から全力で逃げ出すような人だった。
本気でロリが好きで、だからこそロリに真剣だった。紳士だった。そして真摯だった。
まぁ、そもそもジワルドでは性的な行為なんて出来っこないんだけどさ。
ちなみに、ロリに迫られたって話しは実話だ。プレイヤーが相手じゃなく、NPCの幼女に一回だけガチ恋された事があり、泣きながら愛を叫んで逃げ出した過去がマジである。
相手の幼女NPCも、ただ逃げ出されたのでは無く、泣きながら愛を叫んでたぺったんこさんの姿を見たお陰で必要以上に傷付くことも無く、その話しは平和的に終わった。
あの人、本当に心が紳士だから、幼女にも普通にモテちゃうんだよね。
その時の子は今でもぺったんこさんが大好きだが、いや正確には私が死んでコッチに来るまでは少なくともそうだった。けど、ぺったんこさんの苦しみとか、世間体とかもちゃんと理解して、その後は程々の距離感を保って過ごしていたはずだ。
うーん、いい話しだ。爪の垢を煎じて飲ませたいね。私に。
それと、ぺったんこさんは真性なので、見た目がロリなだけで中身が育ってる幼女キャラのプレイヤーには結構普通に対応出来る。それでも見た目は好みなのでドギマギくらいはするけど、要はあらゆる意味で「幼さ」に惚れるんだろうね。
ただ逆に、私が弟子入りした時なんかは、私の中身が実際にある程度若いと判明した時には慌ててた。そして釘を刺された。
自分はガチのロリコンだから、あんまり距離を詰めたり優しくされると恋してしまうから、気を付けてくれと。もし気持ち悪かったら、いつでも弟子を止めて良いからと。
当時の私は十一歳くらいだったかな? いや十二歳だったか。それでも見た目が幼女であり、そのくらいの若さ、つまり幼さが残っているなら危ないんだそうだ。
まぁ結局、一回はガチ恋されたけど。でも凄い紳士に対応してくれた。口説かれた事なんて一回もない。
鍛冶の修行では一切の私情は持ち込まずに技術を教えてくれた。良い人なんだぁ。
正直なところ、その時の私はぺったんこさんが相手なら、ゲーム内の恋愛なら恋人になっても良いって思ってた。多分真剣な告白をされたら、オッケーしてた。
もちろん現実での私は達磨なので、会ったりは無理だし性的な事は何も出来ないし、なんなら生命維持装置をちょっと外すだけでほぼ即死するような存在だったが、だからこそゲーム内で完結するなら、私は本当にぺったんこさんを受け入れても良かった。
けどぺったんこさんは、ロリは己の命よりも尊く、大事にするべき存在だと思ってるので、最後まで私との仲が進展することは無かったのだけど。
「…………今思うと、私の師匠ってロリコン多くないですか?」
「おや、それって僕も含んでる?」
「いやいや、オブさんは違いますけど、師匠--、モノちゃんはロリコンだったんですよね? それでぺったんこさんもロリコンだし、今思うとトムさんとか勇者さんとかも怪しかった気が…………」
「えっ、アイツらロリコンだったの? それは流石に知らなかった」
「いえいえ、怪しかったなぁーってだけで、事実かどうかは分かりませんよ」
ふと、後ろを見る。
なんか他の皆が静かだなって思って見れば、私達を囲みつつもロッティの存在にビビり散らしてる騎士達に手を振ったり、お城の庭を眺めたり、お城を見たりと自由にしてた。
ユノスケさんなんかはちょっとアホなのか、強そうな騎士に声をかけて試合に誘ったりしてる。あなたは莫迦なの?
そしてゼルくんはと言えば、今頃「あ、これって良く考えると国際問題じゃね?」と気が付いたらしく、ちょっと脂汗を流して静かにしてた。
うーん、やっぱり彼もアホである。ゼルくんから筋肉さんへ降格か? いやでも、ここまでプレイヤーがこっちに来てるなら、本物の筋肉さんであるテンテンさんも来る可能性だってあるし、その時の為に筋肉さん枠は空けておこうか。
「あ、そうだ。オブさん、ちなみに師匠に送ったメールってどんな内容だったんです?」
「んー? 『素敵なサプライズを用意したから練兵場まで来い』って書いたよ」
「えっ、ここって練兵場だったんですか。庭じゃなかったのか……」
マジか。訓練とか邪魔しちゃったのかな。それならちょっと申し訳無いや。
「あれ? 私が来てる事は書いてないんです?」
「はぁ? サプライズの内容を先に教えるとか、サプライズの概念を超越し過ぎじゃない? 大丈夫? 疲れてる? お嫁さん揉む?」
「あ、サプライズって私の事なんだ…………。まぁ揉みますけど」
「ぅゆ? ……ぁんっ♡」
たまたま近くまで来てたルルちゃんの胸を良い感じに揉んだ。
…………そういえばルルちゃん、最近おっきくなってない?
えっ、あれっ!?
もしかして見た目の成長って幼児性限定!? 胸の成長は許されるのっ!?
マジかよ
「おぉ、ノノンちゃん、流れるように揉んだねぇ……」
「あっ、まってノンちゃ……、んっ♡」
「まって流石に続けるのは止めたげて? お嫁さんの痴態を見知らぬ騎士や兵士に見せていいのかい?」
「あ、それは嫌です」
私は継続して揉み揉みしていた手を止めた。お手々が気持ち良かったから、つい…………。
ルルちゃんのふわふわのお胸を揉んでるとね、こう、お手々が気持ち良くて幸せになれるんだよ。
こう、ね? 手のひらで包むと、まだ私達って上の下着はちゃんとした物は使ってないから、手のひらに豆が当たる感覚が有るんだよ。それがもう幸せで幸せで…………。
「ノノンちゃん、君って奴はどんどんオジサンっぽくなってくね? 大丈夫? 寄生されてない? 虫下し調合しようか? 処方要る?」
「心の中のロリコンおじさんって寄生虫扱いなのか…………」
でも良いよ、私の中のロリコンおじさん。私はあなたを受け入れるから、これからも立派なロリコンで居ようね?
「------ッッ!」
そんな感じで雑談してると、遠くから師匠の声が聞こえた。どこだろ。
「あ、上に居るじゃん。なんだよ、バレちゃったね。せっかくのサプライズなのに空気の読めないクソポニテだなぁモノムグリちゃんは」
「あー、よく考えたらロッティが目立ちますし、師匠なら私が見てなくても気が付きますよ」
「あちゃぁー! 確かにそうだ!」
オブさんに言われてお城の上の方を見れば、そこから見覚えのある赤茶色のポニーテールと、濃い灰色の着物を纏った女性が見えた。師匠である。
「あ、飛び降りた」
「うわマジかあのロリコン侍」
そしてお城の尖塔っぽい場所の頂上付近、その窓から見えてた師匠が、そのまま飛び降りたのが見えた。
流石に、いくら到達者のステータスでも、その高さからの落下ダメージは危ないよ?
師匠は私と同じで避けタンクっぽい回避アタッカーなんだからさ。ステータスビルドが紙耐久でしょ?
「ノノォぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお----」
落ちて、落ちて、落ちて、落ちて----…………。
「--ぉぉおおおんんンンッッッ………………!」
そうして師匠は地上に「ダンッッ……!」と降りてきた。
会いたくて、夢に見るくらい会いたくて、やっと会えた師匠が、今目の前に居る。
「……ッッッッッッノノン! 我が弟子よぉぉおおおッッ!」
だから、嬉しくって、楽しくなって、私は一気に気持ちが上向き、玩具にはしゃぐ赤子のような気持ちで、駆け出した。
「ししょぉ-!」
「ノノン!」
夢では斬りかかって来たけど、流石にあれは夢だけでしょ。確かにあれも師匠っぽくはあったけど、流石にやり過ぎな夢だった。
私の記憶が、そこに残る師匠の「師匠らしさ」を強調し過ぎた結果があの夢なんだろう。
だから、今日はきっと、普通に届く。師匠も腰の得物に手を添えてないし、両手をいっぱいに広げて歓迎してくれてるし。
うん。だからきっと、このまま--…………。
「ぶ、無礼者ぉッ!」
「このお方を
--抱きつける。そう思ったのに、邪魔されてしまった。
師匠の登場で割れた騎士の壁が再び閉じて、私と師匠の間に立ち塞がる。
しょんぼりする。また師匠に抱き付けなかった。ちょっと悲しい。
でも、この人たちは仕事してるだけだし、今の師匠はこの国で肩書きを持つ人で、私は空からやって来た賊なんだ。この反応は当たり前だし、流石の私もこれは怒れない。怒る資格が無い。
でも、ギュッでしたかったな。ぺぺちゃんにも、オブさんにも、再開出来た時は必ずしてたから、師匠にもギュッてしたかった。
-キィンッ………………!
そう、しょんぼりしてる私の耳に、そんな
次いで、悲鳴。
「イッ--…………」
「ぎぃやぁぁぁぁぁあッッ……!?」
見れば、師匠が能面のような顔で、抜刀術の構えをしていた。そして私の前に立ち塞がった騎士二人の腕が、剣を握って私に向けていた腕の先が、ポロッと落ちた。斬り落とされてた。
今のは、瞬刀雷鳴流の
「…………ぬしら、覚悟は良いか? 拙者とノノンの、やっと会えた我が弟子との再開に、斯様な邪魔立てをして、…………よもや、命が在ると思うなよ?」
ゾッとする声がして、その音の出処は無表情な師匠の口だった。
あ、ぅえっ、師匠の口から今、赤い気炎が出なかった? もしかしてバーサークしてる?
うわっ、自己バーサークって師匠いまどれだけブチ切れてるのっ。
ビュルビュルと利き腕から血を流す、鎧ごと断ち斬られた騎士二人に、師匠はもう一度抜刀術を使ってトドメを刺そうとしてる。
流石にこれだけの事で人死はやり過ぎかなって思った私は、なので今度は自分から両手を広げて師匠を呼んだ。
「ししょー! おいでー!」
「むっ……?」
「いまは、私ぃー!」
騎士にトドメを刺すより、今は私を優先するべき。そう伝えて、今度は自分から駆け寄らず、師匠から抱き締めてくれるのを待つスタンスをとる。
思えば、夢でも今も、私から飛び付いて抱きついたし、仕切り直した今回は師匠の番だよ。
「ふっ、そうだな。…………よし、ののーん!」
「ししょぉぉおー!」
「ののぉぉーん!」
そして今度こそ、私と師匠は抱き合った。
師匠だ。師匠が居る。ここに居るよ。師匠がここに居るんだよ。
「えへ、えへへへ。師匠だぁ……♡」
「うむ、拙者だぞ。…………やっと会えた」
「うぇへー、嬉しいなぁ」
嬉しくて、温かくて、膝を折って目線を合わせて抱き合ってくれる師匠に、私はスリスリと頬擦りをする。んへへぇ、お嫁さんと恋人のお陰で、私はちょっとだけ、甘えるのが上手になったんだよ。
「師匠だ、師匠だァ〜♪︎」
「ああ、ノノンは温かいな。……会いに行けず、済まぬ。こっちも色々あってな」
「良いもん。大丈夫だもん。私は師匠の弟子だから、師匠が大変なら、私が迎えに来てあげるよ」
腕が無くなっちゃった騎士二人の悲鳴をバックに、私たちは温かさを交換し続ける。
ぽかぽかして、いい匂いがして、嬉しくなる。幸せになる。
「………………チッ、後ろが煩いな」
えへへーってなってると、良い加減悲鳴が癪に触った師匠が視線を後ろに向ける。私から見ると師匠の肩越しに正面の風景だ。地面が赤く染って凄いことになってるねぇ。
「ぬしら、たかが腕が落ちた程度でピィピィ泣き喚くな鬱陶しいッッ! 情けないにも程があるぞッ!」
怒った師匠がムチャクチャを言う。いや、NPCさん達にとって、腕が落ちるって大事故だからね? 師匠の基準って結構アレだからね?
腕を斬り飛ばされたのに、さらにお叱りまで受けてる騎士さんが可哀想過ぎたので、私は彼らを治療してあげることにした。
「えと、お二方様、その腕を治しますので、落ちた腕を欠損部に添えてくれますか?」
「…………………………言われた通りにしろぉ! 我が弟子の声が聞こえぬのかァッ!?」
私が言ってもスグ動かない二人に、たった六秒程でキレた師匠が怒鳴り散らす。あの、師匠? 腕が落ちてパニックになった人にそれは酷だよ?
まぁ良いや。師匠に怒鳴られると騎士さんは真っ青になって即行動、いや血の気を失って真っ青なのかもしれないが、とにかく欠損部の近くに欠損部位が揃ったので、私は魔法を使う。
流石に今回はちょっと大きい欠損なので、いつも使ってる五節の簡単詠唱じゃなくて、ちょっと強めに十五節くらいにしようか。
三十節くらいの魔法を使えば、欠損部位なんて無くても生やせるけど、正直に言うとアレだよね、腕が治っても落ちた腕がそのまま転がってたら気持ち悪いよね。
わりと真面目に、精神的にも良くないし。気持ちの統合が取れなくて感覚がおかしくなっちゃう人も居るんだよ。だから物が残ってるなら使った方が良い。
さて、まぁそんな訳で治療である。
「お、ノノンちゃんバージョンのクリスタルスタッフじゃん。久々に見たねぇ。それ、ノノンちゃんの奴って明らかに性能高いよね?」
「製作者が凄いので」
私は念の為、ポーチからクリスタルスタッフを取り出した。
陽の光を浴びたクリスタルスタッフは、そのデザインが光の反射を意識して緻密に作られてるので、端的に言って神々しい。めちゃくちゃ綺麗に光るんだコレ。ケバケバしくならず、大人しく控え目に、だけど美しさには妥協しない。そんな儚い煌めきが陽の光で宿るデザイン。
性能も結構凄いんだけど、わざわざ用意したのはまぁ、本当に念の為だね。
プレイヤーならわりと適当な魔法でも簡単に治ってくれるけど、NPCだとそうは行かないから。大きな欠損を治すなら、まぁ下準備くらいはちゃんとしよう。
よしよし、どうせだから、服も専用のに替えようか。
「お、おお! ヒーラーモードのノノンちゃんとか激レアじゃん!」
「あ、相変わらずノノンは、何を着ても似合うな……。はぁ拙者の弟子が尊い…………」
「…………はぁ、なにあれ、ノンちゃん凄い可愛い。…………え、可愛い過ぎない? あたしを殺す気? はぁかわよっ」
「わぅ、ノノちゃん、素敵だよぉ……」
「綺麗でござるなぁ」
ちょっと、外野煩い。
いま私は、凄く、すごーーーーく久しぶりに、和服系装備以外の物に袖を通した。って言ってもポーチの換装システムを使ったから一瞬なんだけどさ。変身バンクなんて無いよ!
みんなが褒めちぎってくれるこの装備は、『聖愛翼【ピュアライト・エンジェルドレス】』って名前の、ヒーラー用の効果がモリモリ付いてる純白のドレスだ。
あえて神官風にせず、でも天使っぽさは残して、あとはとにかく可愛い可愛い可愛いヒーラードレスを! ってコンセプトで作られてて、まぁ要するにめっちゃ可愛いドレスになってる。
付いてる効果は光属性増幅、回復効果増幅、治癒効果増幅、魔力効率増大ってシンプルに纏まってるけど、見た目は本当に綺麗で可愛い。
天使の羽っぽく見えるケープを肩に纏って、あとはウェディングドレスのスカートシルエットと、胸元や肩周りはプリンセス系のドレスを参考にしてある。
とにかく装飾過多。だけど下品にはならず、全てが「可愛い」に向かって全力で走り抜けて、完璧に纏まってる芸術みたいな作品である。
…………正直、これ着るの、とある理由でわりと嫌だったりする。
いや可愛くて好きなんだよ? でもとある理由で嫌なんだ。
まぁ良いや、今は治療だ。
準備が出来た私は、今も血を流し続ける二人に向かって、安心させる為に微笑んで見せた。
「いま、治しますからね」
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