第119話 逃げ出した薬聖。



 はっはっはぁー!

 ざまぁ見やがれバァァァァーーカッッ!


「さぁ行こうぜ恋児魅こにびちゃん! 僕らは自由さ!」

『同行許可、感謝する』

「良いさ別に! 僕も一時契約して貰ってるしね!」


 僕は逃げ出した。あのクソポニテを城に残して。

 指名手配? もう知るかバーカ!

 当然、追っ手は掛かるだろう。なにせフリーだった幼神おさながみを引き連れての逃走だ。薬聖やくせいである僕の身柄と合わせて放っておく手は無いだろう。


 だけど心配は無用。


 何故なら僕と同じ様に、城での生活に嫌気が差していた恋児魅こにびちゃんが協力してくれた。

 恋児魅こにびちゃんは誰とも契約して無かった幼神おさながみだけど、今回の逃亡に際して僕と一時的に契約した。後で解除出来るらしい。

 この子の求める代償は強制ロリコン化と幼児化。そう、幼児化出来るんだ。これどう考えても最強の変装術じゃん?


「さ、恋児魅こにびちゃん。そろそろ武装化しようか。僕は子供になったから身バレしないけど、君の容姿はバッチリ覚えられてるからね」

『りょ』

「まぁそれに、君の代償で僕も今はロリコン化してるから、君が近くに居ると欲情しそうで超怖いんだ。出来るだけ武器で居てくれ」


 そう、恋児魅こにびちゃんの代償を受けてる僕は今、ロリコン化してる。

 だから目に映る恋児魅こにびちゃんが可愛くて可愛くて仕方ない。思わず「やっぱり○○○は最高だぜ☆」って口走りそうになる。

 これがロリコンの見てる世界なんだね、知りたく無かった。


「さぁ行こうぜケルガラに! あばよセザーリア! 二度と来ねぇよバァァァァーーカっ!」


 ◇


「嘘じゃん」

『なかなか、良かった』

「……嘘じゃん」


 逃亡二日目の夜、僕は恋児魅こにびちゃんに裏切られた。

 いや、ガチの裏切りじゃない。だけど、手痛い裏切りだ。


「………………嘘じゃぁん」

『気持ち良かった。オブも妾のなかは良く締まって、よかったはず。いっぱい出された。幸せ』


 宿の一室で、幼児化してる僕は恋児魅こにびちゃんと同じベッドに居て、二人とも裸だった。

 そう、僕は恋児魅こにびちゃんに手を出した。いや、


恋児魅こにびちゃん、なんで?」

『いや、食事。幼神おさながみは代償が食料。妾、ずっと絶食してた』

「いやマジか。それは確かに辛いけど……」

『悪いと思ってる。だから精一杯気持ち良くした。不満?』

「いや確かに恋児魅こにびちゃんはビックリするくらいテクニカルなテクニシャンだったけどさ」


 逃亡初日の夜に何も無かったから、もう二日目から油断してた僕。

 そこに恋児魅こにびちゃんが激重の代償を積んできて、油断してた僕はあえなく恋児魅こにびちゃんに欲情した。欲情させられた。

 幼さに見合わない、淫靡で魅惑の笑みで僕を誘った恋児魅こにびちゃんにやられて、ついさっきまで僕は恋児魅こにびちゃんをメチャクチャにしてた。耳元で歯が浮くような赤面必死の睦言むつごとを聞かせながら腰を振ってた。


 代償が落ち着いた今思い出すと、恥ずかしくて死にたくなる。


『気にしなくて良い。誰にも言わないし、契約を解除するまでの関係。むしろオブも楽しめば良い』

「いや、まぁ、割り切った関係に理解が無いわけじゃ無いけどさぁ」


 恋児魅こにびちゃんと筆談を介して話す。これもピローなトークと言えるのだろうか?


『幼児に手を出したと思うから辛い。今はオブも幼児。だからこれは、ただの幼さ故の過ち』

「赤い彗星もビックリすぎる過ちだよ…………」


 いや辛いわぁ。何が辛いって、今は微塵も辛くないのが逆に辛い。

 代償のせいで恋愛対象と性欲対処を一時的に書き換えられてるから、むしろ恋児魅こにびちゃんに手を出すのは当たり前だと理性が言ってる。

 でもこれさ、契約を解除したらどうなるの? この記憶が、元の感性に戻った後も僕を苛むんだろう?

 いやマジで辛いわぁ…………。


『むぅ、気にしなくて良いのに。むしろ、相性が良くない代償でも、罪悪感と気遣いと優しさに塗れてると味わい深いと知れて良かった』

「あ、うん。食べる代償にも質があるのね」

『オブはなかなか。このまま契約しっぱなしでも良いかと思ってしまう』

「止めてくれぇ…………」

『むぅう、何が不満? 気持ち良かったはず。妾がんばった。オブも楽しんだのに、その態度は少々酷い』

「止めて止めて止めて、僕の行動を改めて口にしないで……」


 いやさぁ、ショタ×ロリでもロリ×ショタでも、需要は有ると思うよ?

 でも僕って中身が三十後半、も少しで四十に成ろうってオジサンなんだよね。


『とにかく、妾の食事には付き合って欲しい。それとも妾、餓死した方が良い?』

「さすがにそうは言わないけど、肌を重ねる必要は本当にあった?」

『恋愛感情を向けられるだけでも多少は食べれる。けど、オブは塩味のスープだけ食べさせられて、食事を諦められる?』

「あ、ごめん。そのレベルなのかい? わかった、うん。僕が悪かった」

『むしろ、オブは気にし過ぎ。妾に食事をさせてると考えれば良い。これは性的な事ではなく、妾の食事。ごはん。生命活動』


 う、うん。わかった、なるべく割り切ろう。

 流石に恋児魅こにびちゃんに絶食しろとは言えない。と言うか、今日まで絶食してたんだから、一度食事を始めたなら我慢も難しいだろう。

 この子に食事を止めろと言うなら、僕も食事を止めるのが筋だ。そしてログアウトして日本に帰って普通の生活がある以上、僕にはこの子と対等になるのは無理だ。

 向こうで絶食して倒れでもしたら、コッチに来れなくなるし、騒ぎになる。


『というか、食べ足りないからもう一回したい』

「…………は? マジ? 五回したんだよ? え、もしかして男性の独り善がりで実は女性の方は全然……、ってやつ?」

『いや、ちゃんと妾も気持ち良かった。だからもっと欲しい。恋神こいのかみは基本的に色狂い。恋にも色にも狂ってる』

「マジかよ……」

『これは食事。ただの食事。本当に誰にも言わないし、契約を解除するまでの関係。だから、オブも楽しんで欲しい。これは妾が望んだ、妾の遊び。オブは子供の遊びに付き合ってるだけ』


 ぐっぅぅあ、代償がッ…………!?


 ベッドの上でポイポイと紙を出しては筆を動かす恋児魅こにびちゃんが、また淫靡に笑う。

 幼い裸体を隠す毛布を少しずつはだけさせ、瑞々しい肢体をチラチラと見せて僕の理性を壊していく。


『この恋は遊び。この性も遊び。だから、本当にオブは気にしなくて良い。むしろ、無理をさせてる妾が辛い。出来れば楽しんで欲しい』


 ◇


 あの日から数日経った。慣れた。いやもう開き直った。

 今の僕は間違いなくお子様なのだと開き直る事で、僕は精神的なダメージの回避を試みてる。

 契約を解除して感性が元に戻ったなら、「ああ、昔はこんな青い情欲をあの子にぶつけたものだね。ふふっ」って感じで昔を懐かしむように、記憶にセピア色のフィルターをかける作戦だ。

 上手く行くといいな。


『関所は見張りが居た。どうする?』

「そうだね。流石に最強の変装をしてるとは言え、無警戒に近付いてあげることも無いよね」


 セザーリア脱出を試みる僕達は、逃げ出した薬聖と幼神おさながみを確保する為の見張りにしか見えない大量の軍人が蔓延る関所を見て、回れ右をして最寄りの町まで帰って来た。

 恋児魅こにびちゃんは僕が買い与えた手帳に文字を書き、フード付きのローブを着る事で身を隠してる。

 幼神おさながみ特有の筆談方法である白紙無限生成は目立ち過ぎるので、そのような形になった。

 ちなみに今の恋児魅こにびちゃんは、前に着てた漆黒の着物ではなく、真っ黒いゴシックロリータな服を着て、その上から前の開いたローブを羽織ってる。今の彼女は寡黙な半獣にしか見えないだろう。


『ユノスケ達を残して来た港町も怪しい』

「だろうね。向こうにはモノムグリちゃんが居るし、コッチの行動はある程度予測出来るだろうから」

『なら、遠回りでクリアフィリン経由?』

「そうなるね。いやぁ、一応は隣国の癖に、直通で行けるのが海路しかないの笑うよね」


 今更だけど、恋児魅こにびちゃんが契約もせずに僕達に着いてきてた理由は、僕達が話してたノノンちゃんに興味を持ったかららしい。

 あの子は今、同い歳くらいの女の子と結婚してるし、確かに恋児魅こにびちゃんの代償とは相性も悪く無さそうだ。

 それに恋児魅こにびちゃんが居た運営側の特殊空間、神域とでも呼べる場所で見た色々で、恋児魅こにびちゃんはノノンちゃんとの相性を推理した結果『どちゃクソ相性良好』だと考えたそうだ。


恋神こいのかみが三人だっけ」

『そう。代償については知らないけど、三人も恋神こいのかみが揃ってたら、絶対に酒池肉林になってる。妾もそこに混ざりたい』

「……その予想が正しかったとして、僕は弟子と穴兄だっ、いやいや待て待て。ノノンちゃんには生えてないから若干違う気がする」

『むしろ、オブも混ざる?』

「ホントにやめて。僕は確かにノノンちゃんが大好きだけどね、あのクソポニテと違って性欲の対象では無かったよ」

『むう、契約を切ると決定してるから、今更ながら少しオブも惜しくなってる。オブの代償は美味しい』


 曰く、僕が代償によって消されてる罪悪感や気遣いとかの味は、深みのあるコーヒーみたいな味わいらしいよ。ハマると癖になるらしい。

 コーヒー中毒って根深いからねぇ。


『でも安心して欲しい。本当に誰にも言わないから』

「ほんとに頼むよ。契約が切れた時点で、無かったことにしようぜ? お互いにさ」

『妾にとっては、楽しい記憶だけれども』


 クスクス笑う恋児魅こにびちゃんが、代償のせいでどうしても可愛く見えてしまう。

 この子はとても、淫靡に笑う。

 それこそ百戦錬磨の娼婦が如き、男を誘う笑みである。

 うーん、このままだと本当にどハマりしそうで怖い。

 

『オブは、善い男。サユは見る目があった』

「ふふ、それは光栄だね。……でも、今はサユちゃんの名前出さないでお願い。代償で罪悪感を感じ無いのが凄まじい罪悪感だ」

『無かったことになるから、気にしなくていい。オブも、一夜の買い物をわざわざサユには言わないはず』

「毎晩無料じゃん」

『タダより高いものは無い』

「身に染みたよ」


 軽口を叩きながら、地図を見て旅程を決める。

 ケルガラに向かう為に跨がなくては成らない国は、クリアフィリンって名前の宗教国家で、半獣蔑視が凄まじい国でもある。

 道を歩く半獣に石を投げたら、投げた者が周りから褒められるような頭のおかしい国だそうで、僕は恋児魅こにびちゃんを連れてこの国を抜けるのが今から怖い。


『最悪は武器化するか、動物化する』

「そうだねぇ。いやぁ便利だよね幼神おさながみ。四形態も変身出来るとか」

『ふふっ、もっと褒めるべき。妾はすごい』


 前は面倒くさがってた筆談を、恋児魅こにびちゃんが楽しそうに、毎日沢山してくれるようになった。お陰で僕は、幼神おさながみについてかなり詳しく知ることが出来た。

 その一つに、幼神おさながみは幼子であり、動物であり、装備であり装飾品だってのがある。

 この子達はつまり、幼児の姿と、動物の姿と、武器の姿と、そして装備待機状態って装飾品になれるモードがあるんだ。

 前者三つは言わずもがな、装備待機状態って言うのは、武器化してる時の待機状態であり、アクセサリー化して邪魔にならないように装備される為のモードらしい。

 僕と契約した恋児魅こにびちゃんは大き目のバトルナイフになったけど、大剣とか槍とかだと重宝しそうなモードだね。

 バトルナイフなら腰に挿しとけば気にならないけど、大きい武器は持ち運びが面倒だからねぇ。人払いされてる時とかも持ち込める変身武器ってのは、色々と利用価値があるだろう。

 あ、ちなみに恋児魅こにびちゃんが僕と契約を解除した場合、また次の契約で武器種が決定するらしい。なのでこのバトルナイフは、僕と恋児魅こにびちゃんの関係性を形にしたような武器になる。


『速くオブの弟子に会いたい。話しを聞くと、信じられない傑物』

「そりゃもう自慢の弟子だし、自慢の師匠さ。料理のね」

『オブの料理は頬が落ちる。それより美味となると、期待しかない』

「期待しててよ。ノノンちゃんの料理は本当に美味しいからさ」


 出来れば、向こうに行った時点でサユちゃん達も居ると嬉しい。クソポニテの事なんか忘れて、みんなで仲良く暮らそう。


「そう言えばさ、なんで恋児魅こにびちゃんはモノムグリちゃんと契約しなかったの? 幼児性愛者で良いなら、あれでも良かっただろ?」

『あれは確かに代償とは相性が良かった。でも、妾あいつ、なんか気持ち悪い。あれに抱かれたくない』

「んぶっふ…………」


 なるほど、代償は好んだけど、生理的にダメだったと。

 そんなパターンも有るんだねぇ。基本的に代償との相性が好感度に直結するって言ってたのに、それでも嫌がるんだから相当嫌だったんだろうね。


『代償は確かに、妾達の存在意義。概念そのもの。でも、幼神おさながみだって生きている。なら各々が抱く好みくらい、あって当然』

「相性が同程度なら、どっちを選びたいかって感じの?」

『そう。その認識で間違いない。妾は、オブと同じくらいの相性持ちと比べるなら、オブを選ぶ』

「…………なんか照れるねそれ」

『オブは善い男。そして好い男。騙し討ちのように抱かせた妾を、それでも心配して気遣ってた。一人の女として大事にしてくれる相手なら、相性が多少悪くても好感くらい覚える』


 待ってくれベタ褒めじゃないか。普通に照れるから止めておくれよ。

 このまま本当に恋したらどうしてくれるんだい?


『構わない。その時は妾、ずっとオブの幼神おさながみで居る』

「あー、契約の繋がりで淡いテレパスも起きるんだっけか。口に出てないのに……」

『だからこそ、オブの優しさが伝わる。性を吐き出されてクタクタになった妾を、心の底から心配して、性愛とは別に慈しもうとした。それはオブの人間性の発露』

「やめてったら。褒めたって何も出ないよ」

『嘘。夜になったら白いのは出る』

「ほんと止めて? まだ昼間だよ恋児魅こにびちゃん。下ネタが過ぎる」

『妾は、自分でも驚くくらいにオブを気に入ってる。相性が良かったら絶対に逃がさない程。この先契約が切れても、オブが求めるなら代償と関係無く抱かれても良い』

「その時の僕って大人に戻ってるじゃん。もし僕が本物のロリコンになっててもダメだよ全く。恋児魅こにびちゃんの体が持たないでしょ」

『だから、そう言う優しさがい。それと、幼神おさながみはそこまでやわじゃない。メチャクチャにして構わない』

「…………恋児魅こにびちゃん、本当に僕のこと気に入ったらしいね?」

『気に入った。猫は気まぐれ、だけどお気に入りには執着する。オブが望むなら、その時の契約者に隠れて抱かれても良い。むしろ抱くべき。内緒にするから妾の中に出すべき。そうした方が良い』

「止めろ止めろ猥談を止めろ。昼間だって言ってるだろ。それにここは外で、僕らは子供だよ。ガチガチの猥談する子供二人組とか怪しすぎるでしょうが」

『妾は筆談。口に出してるのはオブだけ。そしてオブはそう変な事は口走ってない。だから平気』

「…………くそぅ、筆談の利点が僕を殴りやがるっ」


 そんなやり取りで笑う彼女は、やっぱり妖艶で淫靡だ。

 流し目なんて受けたらゾクゾクしてしまう。まったくワールドエレメントってやつは、何を思って恋児魅こにびちゃんをこんな風に作ったんだい? リワルドをロリコンの楽園にでもしたかったのかい?

 いや、言裸ことらちゃんの代償は『嘘が言えない』『嘘を嫌悪する』なんてそれっぽい代償だったし、これは恋神こいのかみ特有の事象なのかな?


「さて、乗合馬車は明日の昼に出て、野営を二回挟んでクリアフィリン前の都市に行くらしい。今日はもう宿を取って休もう」

『よし。なら明日の昼前まで時間がある。オブは妾に食事をさせるべき』

「…………恋児魅こにびちゃん、本当に好きだね。代償は幼児に対する恋愛関係の構築だから、ぶっちゃけ肌を重ねる必要無いだろう?」

『性と愛は不可分。一番手頃で、強烈な恋慕を食べれるのは性交の時。あとは死別したりだけど、オブは妾に死ねと?』

「まさか。今ではあのクソポニテよりずっと大事な旅の仲間だよ。今のところはちゃんと割り切れてるつもりだし、お腹いっぱい食べると良いよ」

『そうする。だからオブも、妾の中にたくさん出すべき。妾、自分の体がドロドロになってると、嬉しくなってきた』

「……僕これ、大丈夫かなぁ。地獄に落ちないかなぁ」

『その時は、妾が追い掛けてあげる。一人にはしない』


 ◇


『順調。妾たのしい』

「そだね。ビックリするくらい何も無いね。これが転生系のラノベだったら、起承転結無さ過ぎて読者が怒るんじゃないのかい」

『平和は良いこと。怒られる筋合なんて無い』


 セザーリア脱出に成功した僕らは、順調にケルガラに向かって歩を進めてる。

 クリアフィリン入りを果たして、なるべく首都に近寄らないように道を選ぶ必要はあるけど、それでもトラブルらしいトラブルは無かった。

 まぁあっても捩じ伏せるけどさ。


『強いて不満をあげるなら、思いっきり声が出せないこと』

「立ち寄る村の壁は薄いからねぇ」


 ローブで隠してるけど、幼神おさながみの見た目は基本的に幼い半獣そのものだ。

 半獣蔑視が国是と言うか国法ですらあるクリアフィリンでは、恋児魅こにびちゃんは素性を隠し続ける必要がある。

 だから首都は避け、大きな都市も避け、教会がある街も町も避ける。

 いくらクリアフィリンと言えど、田舎の農村や狩猟村であれば半獣蔑視もまだ薄い。技人よりも力があるなら、半獣と言えど村の戦力なのだ。寂れた村に半獣を迫害して働き手を減らせるほどの余裕なんて無いんだ。

 なので僕らはそう言った村を選んで旅程を組んでいる。お陰で借りる家屋や部屋の壁が薄くて、恋児魅こにびちゃんは食事の時に嬌声を限界まで我慢する必要がある。

 幼神おさながみは基本的に声は出さないけど、それは『出さない』だけで『出せない』んじゃない。制限は会話だけ。つまり喋れないだけで声は出せる。僕が可愛がれば恋児魅こにびちゃんは可愛く鳴くのだ。


 …………言ってて辛くなるな。


 これだけ毎日肌を重ねたら、流石の僕だって情の一つや二つも湧いてくる。恋児魅こにびちゃんの報告だと、日々相性が良くなってるので、僕のロリコン化がガチで進んでるらしい。

 マジで怖い。マジで怖いマジで怖いマジで怖い。

 だって恋児魅こにびちゃんを手放すのが普通に惜しくなって来てる。毎日可愛がる恋児魅こにびちゃんとの夜が楽しくて仕方ない。

 このままだと、契約を切っても僕は恋児魅こにびちゃんが忘れられない真性のロリコンになる。


『……悪いとは思ってる』

「いや、良いよ。恋児魅こにびちゃんが悪い訳じゃないだろ」

『でも、妾は最初、オブを騙して抱かせた』

「良いってば。恋児魅こにびちゃんはお腹が減ってたんだろ? しょうがないさ。悪いのは恋児魅こにびちゃんをそう作ったワールドエレメントだろう? 恋児魅こにびちゃんが気に病むのだけは絶対に間違いだ」

『……そう、優しくされると、妾、本気になる』


 うーん。この代償ってやつさ、ふざけた効果の癖に、人の在り方を簡単に捻じ曲げてるんだし、実は相当取り返しのつかない重さだよね。

 責任の取り方、今から考えた方が良いかなぁ……。


『ごめん。良く考えたら、もう手遅れだった。妾、オブが好き』

「んっふ……。光栄だけどさ、不意打ちは止めて?」

『サユも裏切らないよう考える。だから、一緒に居たい』


 くそぅっ、こんな、しおらしくお願いされたら男なんて頷くしか無いじゃん!


『オブは、大人に戻りたい?』

「そりゃぁ、ねぇ」

『なら、妾の契約をオブの弟子に回す。オブの弟子は既に女児と婚姻してるし、自身も既に女児でもある。だから妾の代償は、ほぼ意味を成さない。それで、妾がオブの嫁二号になれば、妾自身の代償も解決』

「出来ればノノンちゃんに迷惑は掛けたくないんだけどねぇ。……て言うか、嫁二号ってなにさ?」

『一番は、サユのはず。だから妾、二号で良い。なんなら、わらわめかけでも良い』

「僕そう言う物言い、あんまり好きじゃ無いなぁ。サユちゃんの事は置いといてさ、僕だって君を適当に扱う気なんて無いんだぜ? まだ分からないけど、責任を取るなら取るで、しっかり取るさ。めかけなんて言うなよ」

『だ、だから! そう言う優しさが、いの! オブは莫迦!』


 徒歩で次の村へ行く途中、潤んだ目の恋児魅こにびちゃんにべしべし叩かれた。

 くそ、凄い可愛い。これがロリコンの見てる世界か。


「いやこれ、優しさかい? 取るべき責任を取るってだけだろう? 恋愛の如何いかんは置いといても、僕は恋児魅こにびちゃんも凄い大事な仲間だと思ってるんだよ。何年も一緒に居た訳じゃないけどさ、ここまで旅した仲じゃないか」

『もう! もう! オブは莫迦! 好き!』

「文句に好意を混ぜてくる不意打ち止めてよ。ロリコン化が進んじゃうだろ」


 ただでさえ代償のせいで今幸せになっちゃってんだから。


『それで、サユはどうする?』

「んー。そもそも、僕って異世界からお邪魔してるプレイヤーだろ? その辺むしろ、僕が聞きたいねぇ。僕ってこの世界の人と子供とか作れるの?」

『無理。オブの弟子のような手段を取らないと無理』

「じゃぁ、僕はサユちゃんの想いに応えるべきでは無いのかも知れないねぇ」


 やはり、お客さんはお客さんでしかないのだろう。

 そう思って寂しげに笑っちゃった僕に、恋児魅こにびちゃんはムッとした顔でポコポコと僕を叩いた。


『それはおかしい。子供なんて、本当に欲しければ養子でも良い。その結論をサユを挟まずに出すのはおかしい』

「……それもそうか。て言うか恋児魅こにびちゃん、君だって充分優しくないかい? 今のは、その通りだから自分を選べって言うのが一番得だったんじゃないかい?」

『それをしたら、妾はオブの傍に居る資格が無い。妾が好きになったオブの優しさを踏み躙って、オブの傍に居るなんて絶対に御免。妾はもう、本当にオブが好き』

「…………あーヤバい凄いにやける。めっちゃ照れる」

『照れるオブ可愛い。興奮して来た。早く今日の宿を借りると良い。妾は今日も声を我慢するから』


 僕も、腹を括るしか無いのかなぁ。


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