第87話 限界、決意、タユ先生。



「にゃぁぁあ♡ にゃっ、にゃん♡ なぁうっ?」


 セーフの一角、談話室で迎えるいつもの日常。

 あたしは背中の高いふかふかの椅子に座りながら、ノンちゃんを抱き締めて、そしてノンちゃんから抱き締められながら、山ほどのキスをされてた。

 大好きなノンちゃんと唇を重ねるのは、凄くドキドキする。変な気持ちになってくる。ダンジョンから出るまで、一線を超えないで居られるか、ちょっと自信が無い。

 あたしはノンちゃんが好き。大好き。愛してる。

 最初の頃は、元々ノンちゃんの事が好きだったし、ノンちゃんとキスするのも。でも、ある時から、あたしはノンちゃんとキスする時に特別な気持ちが混ざるようになった。

 ダンジョンで戦って、どれだけ敵が強くて、どれだけ大変だったのかを思い知らされる。

 腕を折られて、足を千切られ、頭を噛み砕かれては死んでいく弱いあたし。

 ここに落ちた頃は、千三百階層付近にいた頃は、ノンちゃんも沢山怪我をして、それでも「大丈夫!」と笑ってた。

 どれだけ、……どれだけ苦しかったんだろう。どれだけ痛かったんだろう。

 あたしたちみたいな、なんの役にも立たない足でまといを引き連れて、一人で全部背負って、一人で傷付いてたノンちゃん。

 あたしなんか、ぺぺくんが居てくれて、誰かを守る必要も無いのに苦戦してる。しかも死んでもリスポーン出来るあたしと違って、ノンちゃんはあの時死ねなかったし、リスポーン出来たとしてもあたしたちを守るためには絶対に死ねなかった。

 どれだけ、辛かったんだろう。どれだけ怖かったんだろう。

 戦う度、死んでここで生き返る度に、ノンちゃんがあたしたちに注いでくれた愛情を知る。


「…………ノンちゃん、大好きだよ」

「にゃぁぁあん♡ ちゅっ、ちゅぅ♡」


 ノンちゃんはあの時、言ったよね。

 一番大事なのがあたしで、あたしに何かあったら折れるって。

 あたしのためだった。あんなに怖いのも、痛いのも、辛いのも苦しいのも、全部あたしのためだった。

 きっと全部じゃない。他のみんなを助けたかった気持ちは嘘じゃない。

 でも間違いなく、その気持ちを一番向けられたのは、あたしなんだ。


 ノンちゃんが、愛おしくてたまらない。


 もう、良いかな? このまま、ノンちゃんを襲っていいかな?

 二人のお部屋に帰って、ノンちゃんのこと襲って食べても良いかな?

 あたしも本当は、ノンちゃんが正気に戻ってから、ちゃんと気持ちを伝えてから、恋人になってからが良いと思うけど。

 でも、もう我慢するの辛いよ。ノンちゃんが大好きだよ。もう手を出しちゃって、責任取った方が楽だし気持ち良いよって、あたしの悪魔が囁くの。


「にゃぁあっ♡ んー♡ ちゅっ、ちゅぅう♡」


 それに、もうノンちゃんも限界が近い。


「…………ノンちゃん、絶対に助けるからね」


 ノンちゃんがここ数日、猫化して元に戻らない。

 ずっとにゃぁにゃぁ言ってて、あたしがセーフに居る間はずっと傍に居て、時間が許す限りずっとキスを求めるようになった。

 キスの方はあたしも嬉しいから良いんだけど、問題はそこじゃない。

 ノンちゃんの猫化って要は、ノンちゃんの壊れ具合の指標なんだ。

 今までは安定してたから、ノンちゃんを癒してあげれば元に戻った。幼児化は治らないけど、人間性は取り戻せた。

 でも今は猫化から戻れない。ここ数日ずっとキスをせがむ猫ちゃんになってる。

 みんなに聞くと、あたしが居ない間のノンちゃんは凄い不安定になってるらしい。

 あたしを探してセーフの中を彷徨い、見付からないと泣き出して、セーフから飛び出して行こうとする。

 みんな必死でノンちゃんを引き止めて、お菓子とかで釣って何とかなってるけど、もうそれも限界らしい。


 このままだとノンちゃんが、もう少しで消える。バグとして世界から消えちゃう。


 嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 ノンちゃんが消えるとか絶対に嫌だ。ずっと一緒に居るんだ。この気持ちをちゃんと、ノンちゃんに伝えるんだ。伝えたいんだ。ノンちゃんと結婚したいんだ。消えるなら、死ぬなら、一緒に世界から消えたい。

 早く、早く最下層に行かなくちゃ。ノンちゃんが消えるまでに間に合わせなきゃ。

 待たせてごめんね。もうすぐ助けるからね。絶対に助けて見せるからね。


「ノンちゃん、あたし明日、最下層に行ってくるね?」

「にゅぁ? にゃぁあ♡」


 もうノンちゃんは、あたしが何を言ってるのかも分からない。

 ただキスを求めて、依存させたあたしを求めて、不安に怯える小さな黒猫。

 あたしが背負わせた。あたしが苦しめた。あたしが傷付けた。

 何も出来なかった弱いあたしを守るために、こんな状態になっちゃった愛しくて可愛いノンちゃん。

 目が濁ってる。いつも綺麗でキラキラしてて、自信と信念にギラギラしてたあたしの大好きなノンちゃんの目が、恐怖と不安に濁ってる。

 ノンちゃんも何が怖いのか分かってない。何に不安を感じるのか分かってない。

 それでも不安で怖くてたまらないから、あたしに唇を重ねてる。

 インストールされた情報の意味、ノンちゃんを依存させる方法で症状を食い止める意味が良く分かった。

 今のノンちゃんにあたしが居なかったら、もうとっくに壊れきって消えていた。


「絶対に、助けるからね」

「にやあ♡」


 唇を重ねて、ちっちゃい舌をノンちゃんに捩じ込んだ。

 行かないでって、消えないでって願って、ノンちゃんとキスをする。

 混ざる唾液と、絡む舌が気持ち良い。ずっとこうしたい。もっと味わいたい。

 たぶん、あたしも、もう壊れてる。

 ノンちゃんが好きで、たまらなく愛おしくて、そんなノンちゃんを求める気持ちと、ノンちゃんが消えそうな不安で心が砕けそう。

 レベルは足りてる。まだギリギリ、カンストはしてない。だけど千三百と九十七まで上がって、死ぬ気でスキルも磨き続けた。

 あたしはノンちゃんみたいに、何でも出来る凄い人じゃないから、だから逆に良かった。

 鍛えるスキルを徹底的に厳選して、あとは自分を追い込むだけ。大変だったけど、ぺぺくんが言う「地獄」とやらは温かったよ。

 だって、今この瞬間にもノンちゃんが消えるかも知れない恐怖に比べたら、どんなモンスターから凄惨に殺されたって怖くない。

 レーニャさんはまだ足りないけど、最悪は即死しない程度に実力は磨けた。

 正直まだ戦力には数えられない程度だけど、頭数には加えられる。

 だからもう十分。あたしたちは明日、最下層を攻略する。


「……ねぇノンちゃん。外に出たら、あたしノンちゃんに告白するね」

「にゅぁ? にゃぁう♡」

「それで、ノンちゃんと恋人になれたら、もっといっぱいキスしようね。おでかけして、買い物して、いっぱいイチャイチャして、それでお母さんとお父さんにも許してもらったら、あたしと結婚してね?」

「にゃぁ♡ にゃぁあ?」

「それでそれで、もっともっといっぱいキスして、いっぱいイチャイチャして、その、えっちなことしたり、赤ちゃんつくったり、もっとえっちなことしたりしようね?」


 もう、あたしも頭のなかグチャグチャで、自分でも何を口走ってるのか半分くらい理解してない。

 て言うかここ、談話室なんだよね。二人きりの個室じゃないんだよね。

 何人か部屋に居るの、今思い出した。ネネちゃんが真っ赤になってて、ミナちゃんが鼻血を吹き出して倒れた。もう慣れた。

 あたしとノンちゃんがちゅっちゅしてるのは、もうセーフの中だと日常風景過ぎて誰も気にしないんだけど、さすがに同じ歳くらいの女の子が二人、えっちなことしようねって言い合ってる様は刺激が強過ぎた。

 空気に耐えられなくなった男の子が四、五人ほど、前かがみになりながら談話室から出ていった。

 残った女の子は両手で目を塞ぎながら、指の間からあたしたちを見てる。


 …………あれさ、本当は『見てないよ!』って意思表示なのに、何よりも『見てるよ!』って宣言なのおかしくない?


「あわっ、あわわわわ…………、シルルさん、ノノンさんと、そのっ、えっちなことするの?」


 見てるだけかと思ったネネちゃんが、そんなこと聞いてきた。

 え、普通聞く? いや、こんな所で口走ったあたしが悪いんだけどさ。


「まだ分かんないよ。ノンちゃんと恋人になれるか分からないもん」

「でもでも、ノノンさん、シルルさんのこと大好きだったよ? シルルさんが告白したら、恋人になれるんじゃないの?」

「もしそうだったら、うん。するよ。あたしノンちゃんとえっちなことする。いっぱいする。あたし、ノンちゃんと結婚して、赤ちゃんが欲しい」


 もう逆に吹っ切れたあたしは、もう自信満々に宣言する。あたしノンちゃんとえっちなことするよ。いっぱいするよ。て言うか今からでもしたいくらいなんだよ。凄い我慢してるんだよ。

 下手に上がっちゃった知能とかのせいで、あたしの心って子供と大人が混ざってて色々変なことになってるんだよ。八歳なのに思春期と結婚願望が混ざってもう、あたしどうなってるのコレ? 自分でももう分かんないよ。


「……あわわわっ、その、その時って、シルルさんとノノンさん、どっちが赤ちゃん産むの?」

「……………………え、あれ、どっちかな」


 言われて気付いた。なにか二人で赤ちゃん産めるアイテムを探して見付けるのは決まってるけど、そのアイテム使って赤ちゃん産むのって、あたしとノンちゃん、どっちかな?


「……えっ、わかんない。どうしよう、どっちがいいかな?」

「あわわっ、ネネわかんないのっ」

「あ、あああたしも分かんないっ。どしよ、ノンちゃんはあたしの赤ちゃん産んでくれるかなぁ? それとも、あたしがノンちゃんの赤ちゃんを産むのかなぁ?」


 どっちかな、どっちが良いんだろう。

 考えてみる。ノンちゃんがあたしの赤ちゃんを産んでくれる未来と、あたしがノンちゃんの赤ちゃんを産む未来。


 ………………え、どっちも好き。選べない。え、無理。


 ノンちゃんにあたしの赤ちゃん産んで欲しい。ノンちゃんをあたしの物にしたい。ノンちゃんをあたしで染めてめちゃくちゃにしたい。

 でもそれと同じくらい、ノンちゃんの赤ちゃんを自分で産みたい。ノンちゃんの物になって、ノンちゃんにめちゃくちゃにされて、ノンちゃんだけのあたしになりたい。


「…………えと、どっちも赤ちゃん産んじゃ、ダメなのかな?」

「……ッッ!? タユナちゃん、もしかして天才?」

「その手があったの……!」


 そっか。そうだよね。どっちかじゃないとダメなこと無いよね。

 あたしがノンちゃんの物になって、ノンちゃんだけのあたしになって、ノンちゃんの赤ちゃんを産む。

 それでノンちゃんもあたしの物にして、めちゃくちゃにして、独り占めして、ノンちゃんにもあたしの赤ちゃんを産んでもらう。


 …………え? 幸せすぎない? 大丈夫? あたし死なない?


「タユナちゃん……! いやタユ先生!」

「タユ先生っ!? え、まって、タユそんな凄い人じゃないよ……?」

「タユ師範、タユ師匠なの……!」

「ふぇえっ、まってタユそんな凄くないのぉ〜!」


 今思えば、タユ先生ってこのダンジョンでも、ちょいちゃい「これじゃダメなのかな?」って言いながら、不安そうに良案を出してた気がする。

 みんなでダンジョンに残ってセーフに籠る案も、確かタユ先生の発案だったよね?

 ……おぉ、タユ先生凄いよ。あたし、これから何か悩んだら絶対にタユ先生に相談しよう。


「……そうだ、タユ先生。あの、あたしがノンちゃんと結婚する時、お母さんたちを説得するのどうすれば良いかなぁ?」

「えっと、まずそのタユ先生ってやめて欲しいな? ……あの、女の子どうしで結婚出来ないのは、お仕事が男の人の役割で、女の子どうしだと赤ちゃんも産めないからだよね? だったら、ダンジョンで赤ちゃんを産めるアイテムを探すだけで、良いんじゃないかなぁ? だって、もうノノちゃんもシルちゃんも、レベルが凄いからお金はたくさん稼げるよね?」


 …………! すごい、本当にすぐ答えが返ってくる!

 しかも現実的で、ちゃんと考えてくれたのがわかるよっ!

 タユ先生凄いよ、「凄くないよ」は嘘だよ。タユ先生は凄い人だから自信もって欲しい。


「えと、ダンジョンには男の子になれるお薬とか、男の子のアレを生やせるお薬があるんだって。でもあたし、男の子にはなりたくないんだぁ。どうすれば良いかなぁ?」

「えっと……、別に良いんじゃないかなっ? だって、女の子どうしだと赤ちゃん産めないのが問題なだけだから、別に本当にお薬使わなくても、『いざと言う時には赤ちゃんを産む方法があります』ってだけで、結婚だけなら十分だと思うよ? ほら、ちゃんと男の人と女の人の夫婦でも、赤ちゃん産まない人だって居るよね?」


 ………すごい! なるほど、確かに、あたしはノンちゃんの赤ちゃん産みたいし、ノンちゃんにあたしの赤ちゃん産んで欲しいけど、結婚するだけなら性転換薬も変貌薬も使わなくていいのか。

 それが存在するだけで、あたしとノンちゃんの間に問題が無い証明なんだ。最悪、使わなくても用意しておくだけで説得出来る。

 お母さんとお父さんに、性転換薬と変貌薬を見せて、これを使えば男の子になれるから、赤ちゃん産めるよって言えば、女の子どうしの問題は問題じゃなくなる。

 タユ先生が言う通り、お仕事は男の人の方が有利だけど、あたしももうこのダンジョンで一生分くらい稼いでるし、ノンちゃんだってジワルドから持ってきたお金が山ほどある。

 それにお金が無くても、ノンちゃんの黒猫荘があったらお仕事はあるもんね。何も問題無いよ! あとは法律の問題だけだけど、それはほら、すぐそこで幸せそうに鼻血を出してビクビクしてる変態のミナちゃんにお願いすれば、なんとかなるよ。

 

「ねえミナちゃん。あたしとノンちゃんが結婚する時、王様は許してくれるかなぁ?」

「んぐっふ……! いのっ、命に替えてもお父様を説得して見せますわっ! このダンジョンから帰れたなら、お二人は王族を三人も救って見せた国の恩人になるのですもの。それくらいの特例は認めさせてみせますのよ。…………だからそう、お二人は全く気にせず、もう沢山えっちなことをしてくださいませ? それで出来ればミナミルフィアにそのお話しをお聞かせ下さればミナミルフィアはどんな特例法案だろうと通してみせますから毎日毎晩えっちなことをしてミナミルフィアに教えてくださいませっ……!? というよりもうミナミルフィアの前でえっちなことしてくださいませんかっ!? ミナミルフィアは大人しくしてますからっ! 背景! そうミナミルフィアは背景なのです!」


 うん知ってた。ミナちゃんは変態さんなんだ。

 もう、あたしとノンちゃんがところ構わずちゅっちゅしてるから、ミナちゃんもところ構わず鼻血を吹く。なので、セーフに居るみんなはもうミナちゃんが変態さんなの知ってるんだよね。

 それを見た貴族の子たち、凄い顔してたなぁ。

 お城の外で長く生活してるから、ミナちゃんは喋り方も少し荒くなって来ちゃったけど、それでもミナちゃんはミナちゃんだった。

 ノンちゃんはミナちゃんがあんまり好きじゃないみたいだけど、あたしはミナちゃんと結構仲良しなんだよね。

 今も会話の隙をついてあたしにちゅっちゅしてくるノンちゃんを見て幸せそうに鼻血を吹くミナちゃんが、あたしは割りと好き。

 ミナちゃん鼻血吹きすぎて、多分プレイヤー化したらステータスに最初から『流血耐性』とかのパッシブスキル生えてそうだよね。


「えと、背景になるの? 邪魔しない?」

「しませんわッッッ!?」

「……じゃぁ、いいよ? もうあたし、見られるの慣れちゃったし」

「…………っっっしゃぁぁあ! 人生勝ち申しましたわぁぁっ!」


 勝ち申したらしい。魂の叫びだった。


「ちなみに、どれくらいの距離で見ていて良いのでしょうかっ!?」

「……背景、なんでしょ? 壁際に居てね?」

「ぐぅぅっ、でも確かに邪魔をしてお二人の絡みに不破が生まれたら本末転倒ですわっ。……分かりましたのよ。ミナミルフィアは王族の名に恥ない、完璧な壁になって見せますわ」


 王族の名に恥ない壁ってなに。

 少なくとも、壁にならざるを得ない時点で、有史以来の赤っ恥王女だと思うよあたし。


「そのかわり、いっぱい優遇してね? あたしとノンちゃんの結婚通してもらって、あと探索者の資格とか、税金とか」

「お二人のえっちなことを一回拝見する度に何か一つ優遇措置を取らせていただきますわっ!? わはぁーい生きてて良かったですわぁー!」

「………………えと、それだと三回見せなきゃいけないのかな。あたしは慣れちゃったけど、ノンちゃん大丈夫かな?」


 …………冷静に考えると、八歳の女の子がなんて話しをしてるんだろうね?

 なんであたし、命懸けのダンジョンの中で大好きな人とキスをしながらお友達にえっちなこと見せる約束してるの? 頭おかしくない?

 いやもう頭おかしいのか。ダンジョンに篭もりすぎてみんなどっかしら壊れてるんだ。

 ミナちゃんは女の子どうしのえっちなことが好き過ぎる方向に壊れて…………、いや本当に? ミナちゃん割りとアレ最初からじゃなかった?

 まぁいいか。あたしもノンちゃんを依存させて、ノンちゃんに依存する方向に壊れてるし、男の子たちも練兵所で命懸けのレベリングにハマり始めてる。命を賭けることを楽しみ始めてる。

 他の女の子達も生産の練習に没頭する事で現実を見ないようになって来て、最近作業着のまま三日くらいお風呂に入らなくなった貴族の令嬢とか居るからね。

 タユ先生は完全に大丈夫っぽく見えるけど、実はタユ先生って女の子の中だと珍しい戦闘参加組なんだ。いつから練兵所通いを始めてたのか私は知らないけど、今はレベル百八十くらいらしい。結構強いよね。


「…………いいなぁ」

「ふぁ、タユ先生?」

「にゅぁっ、えと、なんでもないよっ」


 思わずって口振りで盛れたタユ先生のナニカ。

 今見てたのって、あたしとノンちゃんのキス?


「…………えと、タユ先生もキスしたいの? 誰か好きな人いるの?」

「ふぅぇえっ!? そ、そんなことないよっ! タユ、ノノちゃんとちゅーしたいとか思ってないよっ……!」


 ……んぉ? え、つまりそれって、そう言うこと?

 え、もしかして、さっき答えてくれた女の子どうしの解決方法って、すぐに答えられたのはから?


「……タユ先生も、ノンちゃんとキスしたいの? ノンちゃん好きなの?」

「あっ!? えと、あぅ、あぅぅぅぅぅっ……!」


 あたしが聞くと、タユ先生は真っ赤になってしゃがみこんじゃった。

 人ってここまで赤くなれるんだね…………。


「タユ先生も、ノンちゃんと、えっちなことしたいの? 赤ちゃん欲しいの?」

「あぅっ、ぅぅぅうう…………」


 答えは無い。でも、

 つまり、そういう事だよね?

 え、どうしよう。やだな、ノンちゃんは独り占めしたいな。

 あたし、タユ先生のことも大好きだけど、ノンちゃんを諦めて譲れる程じゃないよ。ノンちゃんとタユ先生がえっちなことしてたら、あたし嫉妬だけで死ねちゃうよ。


「ならば三人で致せば良いのではっ!?」


 あ、変態さんミナちゃんが復活した。やっぱそれ流血量おかしいよね? 絶対にそれ流血耐性持ってるのよね?


「…………タユ先生も、一緒にする?」

「あぅぅぅぅううううううッッッ……!?」


 本当は嫌だけど、凄く嫌だけど、ノンちゃんが大好きな気持ちは分かるから、あたしも一緒に居たら、少しだけ我慢してあげるよ。

 あたしからノンちゃんを奪うつもりなら絶対に許さないけど、一緒なら…………。

 やっぱ嫌だな。うーん、どうしようかな。もしかしたらダンジョンを出るまでに、タユ先生のこともっと好きになれるかも知れないし、そもそも選ぶのノンちゃんだし、今は悩んでも仕方ないかな。


「あっはー! ダンジョン最高ですわ! 百合がいっぱいですわぁー!」

「間違いなくこのダンジョンを一番楽しんでるのってミナちゃんだよね」

「ダンジョンどころか人生を楽しんでおりますもの!  いつでもお二人の濃厚な口付けを間近で見れますし! お二人以外にもちょっと怪しい令嬢もいらっしゃるのですよ!」

「え、マジ? あたしとノンちゃん以外にも、女の子どうしでくっつきそうな子がいるの?」

「あ、いえ。その方は片想いでいらっしゃいますわ? ねぇタユナ・フリーデンスさん?」

「ん、あぁ、タユ先生がノンちゃんに片想いってこと? 」

「いえいえ、ノノン様に想いを寄せるタユナさんに、片想いしてる別の令嬢がいらっしゃいまして。はぁ甘酸っぱくて美味ですわぁ」


 ……この閉鎖空間で三角関係とか大変じゃない? 大丈夫? 流血沙汰とかにならない?


「と言うかですね? お二人がちゅっちゅしてる様子を見て目覚めたみたいなのですわ」

「うぇっ!? あ、あたしのせいなの?」


 あー、でも、そうか。こんな狭い閉鎖空間で、当たり前にちゅっちゅしてたら、常識とか上書きしちゃうのかな。

 だって、あたしとノンちゃんがちゅっちゅしてるのは、この場所において正しい事なんだから。それを見て女の子どうしでちゅっちゅしたくなっちゃった女の子が居ても、不思議じゃない。


「王国の未来は明るいですわぁー! あはー!」

「ほんとミナちゃん楽しそう」

「あぅぅう…………」

「あわわわっ、みんなえっちなはなししてるの……」


 違うよネネちゃん。みんなえっちな話しをしてるんじゃなくて、もう空間と空気がえっちなんだよ。


 そんな、ちょっとみんな頭の飛び始めてる場所で、頭の飛んでる雑談で時間が過ぎていく。


 明日はダンジョン最下層に挑戦。そして周回で薬を探して、この生活に終止符を打つ。


 …………景気付けに、やっぱり手を出しちゃおうかな?


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