第84話 お気付きになられましたか。
「どうして私が後方支援なのよっ!?」
私はとある天幕の中で、書類仕事をしている弟にそう怒鳴った。
「言わずとも分かるでしょう? 今は姉上のワガママを聞いてる場合じゃないんです」
ゼイルちゃんと、ハルちゃんと、ミナちゃんが居なくなってから一年を超えて、二年目の節が見えて来た。
これこそが激動と呼べる時代の変化なのだと、私は真に理解することが叶った。
「戦力は多い方が良いでしょうがっ!」
「姉上程度の深度…………、いえ、今はレベルと呼ぶのでしたか。とにかく姉上程度のレベルの探索者など、居ても居なくても変わりませんよ。お願いですから事態を引っ掻き回さないで頂きたい」
「なんでそんな意地悪言うのかなっ、この子は!」
シルバーラビットとか言うふざけた銀色の兎によって、私たちの常識はブチ壊された。
今はダンジョンと呼ぶ巣窟に張り付いた、超大型の映写魔道具によって解説付きで映し出される、ダンジョン内部の映像。
「お姉ちゃんはこれでも銀級なんだぞっ!」
あの可愛くて可愛くて可愛いノノンちゃんが、シルバーラビットの仲間によってこの世界にやって来たお客さんだったとか、実はノノンちゃんが凄く強くて可愛いこととか、あの妖精さんもお客さんだとか、聞いてもないのに色々と語る煩い銀の兎。
ノノンちゃんのお屋敷に居たらしい超高位の魔物、……モンスターが集結したりとか、知られざる秘術の会得方法とか、様々な情報を日々ばら撒かれ続け、私たち人間は気持ちが昂り続けたまま疲弊して行ってる。
「ですから、金等級ですら足りない状況で、銀等級の姉上に何が出来るのですか?」
「そんなの、これから強くなれば良いんでしょ! 私にダンジョン潜らせなさいよっ! なんで普通の銅級すらダンジョンに入ってるのに私はダメなのかって聞いてるの!」
「ダメに決まってるでしょう。……ゼイル達の生存すらまだ確定してないんですから、最悪はもう私と姉上しか父上の子が居ないんですよ?」
「王太子のイクシが居れば十分でしょ!」
「もう、聞き分けてください姉上。私は父の名代としてここに居るのです」
私も何かしたい。ぜイルちゃん達のために何かしたい。そう思って、何よりも直接的に力になれることはダンジョンの攻略だと思った私は、今こうして弟に噛み付いてる訳だ。
ここにはイクシの他にも仕事をしている人がチラホラと居る広い天幕。だからイクシも城で見せているような柔らかく取っ付きやすい態度ではなく、政務用の硬い態度で私と喋っている。
「何よっ! 生存が確定してないって言うけど、シルルたんと妖精さんの会話で、三人とも生きてるって分かってるじゃん!」
「それでも、姿は見えてないでしょう?」
「--あー、王太子さんよ、ちょっと良いかい?」
私とイクシが言い合っていると、天幕の入口を捲って顔を覗かせる男が声を掛けてきた。
赤みの強い赤茶色の髪が目立つ金等級探索者、眼傷のビッカだ。
「どうしました?」
「あー、お嬢と妖精の故郷から来たお客を、二人ほど見付けた。話し聞くだろ?」
「ッ……!? よ、良く報告に来てくれました! その人たちはどこに?」
「俺の後ろに居るぜ。取り込み中みたいだが、入れてもいいかい?」
「もちろん! 姉上、大人しくしていてくださいね?」
言われなくても分かってるわよ!
ノノンちゃんと、妖精さんの故郷から来たお客さま。少しでも正しい情報が欲しい私たちは、私たちの世界には、これ以上ない重要なお客さまじゃないの。
「よっし、大丈夫らしい。入ってくれ」
「うぃーっす」
「……おっふ、クソイケメンと超美少女が居るんだけど」
眼傷のビッカが引き連れて来たお客さまは、なんか、こう、覇気のない普通の男性が二人。
え、これが本当にノノンちゃん達の同類なの? そんなに強そうに見えないけど…………。
◇
「え、じゃぁ二人ってそんなに強くないの?」
「まぁそうっスね。正直ののんたんと比べたら、ゴミより劣るくそ雑魚っすよ」
「て言うか、画面に映ってた妖精もそうだけど、あの二人と比べたら向こうの奴らって大抵ゴミだからね?」
「それでもこっち、リワルド? 基準で言えばまぁまぁ強いッスよ?」
ソルとタカと名乗る二人は、正直期待する程の戦力にはならなかった。
騒動が始まってから一年。あの兎が喋り始めてから半年。ごく一部の金等級に限れば、レベル九十は比肩できてしまう程度の力でしかない。
それでも彼らが言う通り、まだ大半の探索者はレベルが五十以下なので、それと比べれば間違いなく強者だし、騒動の前であったなら、英雄とさえ呼ばれたかも知れない強さではある。
だけど、妖精さんとシルルたんを手伝いに、あそこまで行けるほどでは無い。
「いやいや、千以降の階層を当たり前の顔して探索出来る奴って、向こうでもそんなに多くは無いッスからね?」
「俺達もビッカの兄貴に聞いてやっと正確に事態を把握しましたけど、ぶっちゃけあの場に【双鎌妖精】が居るのは奇跡ですよ」
「…………俺、年上っぽいあんたらに兄貴とか呼ばれるの嫌なんだが」
彼らの話しは確かに貴重だ。何せあの魔道具の画面に映る妖精や、親切に色々と教えてる風を装って情報を絞ってる兎とは違って、聞きたいことを聞けてその場で返答してくれるのだから、とても貴重な存在なのよね。
でも、それ以上の価値なんて…………。
「なるほど、お話しは分かりました。色々と虫食いだった情報が足せて助かりましたし、お二人の存在は我々にとって何より得難い。もし色々と協力していただけるのであれば、我々もお二人に拠点や資金の提供を提案したいのですが、如何でしょう?」
「おっほ、宿屋暮しから家持になれるんですかね?」
「ええ、相応の家屋を提供させて頂きます」
私が軽い失望を覚えると、何やら私とは真逆の答えに行き着いたらしいイクシが、びっくりするくらいの優遇を提案した。
「ちょっとイクシ、そんなに出す程のことなの? 繋ぎ止めたってそこまでの戦力にはならないのよ?」
「目の前で軽くディスられる俺達」
「つらたん」
「姉上、失礼な事を言わないでください。このお二人は妖精がリワルドと呼ぶこの世界にとって、現在唯一無二の宝なんですよ」
「イケメン王子様の方が優しい件について」
「役割逆が良かった」
うるさいなこの人達!
て言うか、この二人が宝? なにが?
イクシが人材を評価する時、世辞は絶対に言わない。なら今イクシは本当に、この二人を人材の宝だと思っているんだ。
「……はぁ、分かってないみたいですね。良いですか姉上、いまから少し情報を整理しますから、よく聞いてください」
「…………分かったわ」
「まず、私たちが認識するべき世界が三つあります。一つは私たちが住むこの世界、リワルド。そしてこのお二人が生きているリアル。最後にリアルに内包されたリワルドに酷似した遊戯の世界、ジワルド。この三つが今密接に関わってますね?」
シルバーラビットと妖精さん、そしてシルルたんが口にする情報を繋ぎ合わせ、そして今手に入ったソルとタカの情報で穴を埋めると、そのようになる。
私はその情報を情報として頭に入れただけで、真に理解した訳じゃない。けど、この様子ならイクシはちゃんと何かを分かって、何かしらの結論を出したのだろう。
ソレをいま私と、ついでに同席している眼傷のビッカに対して教えようとしている。
「ここで重要なのが、向こうの世界で主だった世界はシルバーラビットや妖精、そしてこのお二人がリアルと呼ぶ世界であって、私たちのリワルドに酷似した世界であるジワルドは、あくまで擬似的な世界だということ。…………お二人、私のこの認識は合ってますか?」
「お、おお、たぶん」
「かなり正確に認識してると思うッスよ」
それが私には分からなかった。
擬似的な世界って何? 世界は世界じゃないの?
「ありがとうございます。これで合ってるなら話しは早い。ジワルドはリアルからの干渉で好きに姿形を変えられる世界であり、シルバーラビットはジワルドとリワルド、そのどちらにも何かしらの影響を持っている超存在。そしてその行動を鑑みるに、シルバーラビットはリワルドをジワルドに近付けようとしている」
もう、この時点で私はちんぷんかんぷんだ。
教育に差がなく、能力に差がないと言われてるケルガラの王子だが、絶対そんな事ない。イクシは間違い無くお父様の子供の中で一番頭がキレる。
「ですが、ジワルドがリアルの影響で姿形を簡単に変えられる世界でも、リワルドはそんな簡単にアレコレと変えられる訳じゃ無い。ジワルドのように、最初から死なない戦士を呼び込んでダンジョンを攻略なんてさせられない。だからシルルさんがプレイヤーへと変化させられる事になった」
「……NPCがプレイヤーってなんかすげぇよな」
「正直意味わかんね」
お前らも分からないんかい!
「良いですか姉上。ここでこのお二人が何よりも価値を持つ理由は、このお二人がプレイヤーである事です」
「…………? え、でもそんなに強くは無いじゃない?」
「ですから、強さは関係無いんですよ。プレイヤーで有るか無いか、それだけが凄まじい意味を持つんです」
分かんないよ! もうハッキリ結論から言ってよ!
お姉ちゃん頭悪くは無いけど、イクシと比べたら凄い残念な感じなんだから!
「ジワルドとリワルド、この二つの世界で一番大きな違いは、ジワルドがリアルに紐付いた擬似世界、つまりある種の嘘であるのに対し、リワルドはどちらかと言えばリアルに近い世界なことです」
「……? え、でも私たちのリワルドが似てるのは、ジワルドなんでしょ?」
「そうです。つまりジワルドに似てて、リアルにも近い世界。要するにリアルとジワルドが一つに混ざったような世界が、このリワルドなんですよ」
「…………それが、何の意味があるの?」
似てるとか近いとか言っても、結局は別の世界の話しじゃない?
ジワルドがお遊びの為の世界で、リアルからジワルドに行く人は命を落としてもジワルドの中なら生き返れる。
でもだからって、近くて似てるとか言っても私たちは生き返れないじゃない。
…………あ、死なないからってこの二人を死亡を前提にしたダンジョン攻略に使うとか? そう言う話し?
「姉上、リアルの人間は、ジワルドに行って初めてプレイヤーになれるんです。リアルに居るままではプレイヤー足りえない。そしてジワルドに生きる人々、NPCと呼ばれる存在も、ジワルドの中でプレイヤーに変化など出来ない。…………ですが、私たちはリワルドにおいて、NPCで有りながらプレイヤーに変われる。それをシルルさんが証明してみせました」
「……え、考えると確かにそれってヤベぇことじゃね?」
私はまだイクシが何を言いたいのか分からないけど、タカと名乗った方の男は何かに気が付いたらしい。
え、私ってこんなに覇気のない顔の男より頭悪いの? ちょっと傷付くんだけど……。
「タカ、なにがだよ?」
「いや考えてみろよ。この人達にとってここがリアルだとして、NPCがプレイヤーになれる世界ってことはだぞ? 現実がゲーム化するって事じゃね?」
「………………え、うわっ、こわっ!」
「だろっ!?」
…………えと、ごめんなさい。何言ってるか分からないわ。
ゲームって言うのは、あなた達が言うジワルドの事よね? 遊戯の世界であるジワルドがゲームで、リアルがゲームに? ん?
「そうですね。タカさんのおっしゃる通り、それもかなり重要な意味を持ちます。それを踏まえた上で、お二人が既にプレイヤーである事は、何にも勝る意味があります」
「あ、俺もイケメン王子様の言いたいことちょっと分かってきたぞっ! つまりあれっスよね? 王子様は俺達のシステムメニューが使いたいんじゃないっスか?」
「 そ う で す ! そ の 通 り っ ! 」
うっわ声でかっ……!?
イクシってそんな大声出せたのっ……? 耳痛いんだけどっ。
「王子様はあれっスね、あの兎を警戒してるんッスよね?」
「そうです! そうなんですよ! 良かった、分かってくれる方がいらっしゃるとはっ」
「タカさんよ。一人で分かってないで俺にも教えてちょ?」
「ソルもちょい考えろよ。あの兎ってつまり運営だろ? お前が運営だったら、レベルが二桁で止まっちゃってるジワルド風のゲームにテコ入れするなら、何をするよ」
「………………そりゃまぁ、レベリングしやすいイベントじゃないか?」
「だろ? で、この世界がリアルとジワルドを兼任してるような世界だっつぅなら、イベントの対象はNPCである一般人だろ? あの激カワうさ耳幼女ちゃん以外に誰もプレイヤーが居ない世界でレベリングイベント、つまり大量のモンスターとの戦いとかさせられたら、普通に考えてめちゃくちゃ死ぬんじゃね?」
「…………あっ」
……え、待って待って、今もしかして凄い怖いこと言われてない?
イベントって言うのは、あの兎によると何か大きな催しの事よね? 催しってお祭りとかじゃないの? 人が死ぬような話だったのあれ?
イクシの話しよりは分かりやすいけど、分かったからこそ分からなくなったと言うか……。
「……え、じゃぁヤベぇじゃん」
「そう言ってんじゃん。で、つまり王子様は早急に備えが欲しいんだよ。あの激カワうさ耳幼女ちゃん以外にも、イベントに耐えれるこの世界産のプレイヤーを、大量にさ」
「…………それが、俺達となんか関係あんの? 正直くそ雑魚ナメクジの俺らなんて、死なない肉壁にしかならんぞ?」
「だからだよ。すげぇ悪い言い方すると、王子様はその死なない肉壁が大量に欲しいんだよ。そして肉壁を大量に生産する手段も欲しい。……そうッスよね?」
「…………はい。あの、ほぼ完璧にご理解頂けてる見たいですが、肉壁って表現は少々、その、私も立場がありますので」
「あーごめんなさいッス」
「…………で? 俺らは何させられんの? パワレベ出来るほど強くねぇぞ?」
「ジワルドと同じシステムならどっちにしろ、パワーレベリングしたらヤバいだろ莫迦。さっき言っただろ、俺達のシステムメニューだよ」
「………………? あっ、EXPブースター!?」
「そうそれ。ダンジョンの中に居るメンツを除けば、いま王子様の手元で唯一システムメニューを使って公式アイテムを買える存在が、俺達な訳よ」
なるほど。私にもやっっっっっっと分かったわ。
EXPブースター。ダンジョンの中でシルルたんがゴリゴリ飲んで使ってる、レベルを上げやすくする秘薬の事。
そう、そうよね。この二人はプレイヤーなんだから、シルルたんや妖精さんみたいにシステムメニューって言う光の板を使って、あの秘薬を簡単に手に入れられる人達なのよね。
もう、イクシも最初からそう言ってくれれば良かったのに!
「えっと、纏めるとアレか? あの兎野郎はこの世界の運営で、この世界をこれから面白おかしくする為に色々とアプデする。それについて行くためには、この世界のNPCは自分でプレイヤーになる必要があって、それをシステムメニューで補助出来るのが俺達だと」
「そゆこと。一人二人とプレイヤーが増えて行けば俺達はお役目無くなるけど、それまでは俺達にしか出来ない事だろ」
「え、金はどうすんだ? 俺達持ち?」
「あーそっか、タカお前気付いて無いのか。ショップ見てみ? この世界だとゴールドが課金通貨としても使えるぞ」
「…………………は? うわマジだっ!? はぁ最高かよジワルドに戻る前にコッチで課金アイテム買い放題じゃん!」
「まぁ俺もそれはするけど。それはそれとして、後は王子様がお金を用意して、俺達がEXPブースターとかドロップブースターとか、課金装備とかレシピとか、色々と代わりに買ってあげれば、この世界に生きるNPCの皆さんはプレイヤーに成りやすい環境になる訳だ」
要するに、イクシが危惧していたのはシルバーラビットがこの世界を、お遊びでしかない世界に近付けようとする事で発生する被害に対してだったのね。
ジワルドはプレイヤーが遊ぶ世界。つまりプレイヤーに合わせて世界が弄られてるはず。
なのに私たちの世界にはシルルたん以外のプレイヤーが居ない。
プレイヤーを前提とした世界に変わっていく世界に対応するには、私たちの世界にもプレイヤーを増やすしかない。
この二人やノノンちゃん、妖精さんがこっちに来たのはそもそも偶然だから、ジワルドのプレイヤーを大量に呼んで助けてもらう事も出来ないし、私たちは私たちで自分を助けないといけないのね。
それを助ける様々な道具、それを簡単に入手出来る二人の存在は、確かにプレイヤーである事が既に何よりの価値である。
「正直まだ、シルバーラビットが情報を絞っていて分からないことも多いです。何故世界が似てるのか、なぜ世界が近しいのか、なぜ擬似世界であるはずのジワルドを経由して、リアルに近いはずのリワルドに来れてしまうのか、まだまだ真実には程遠い」
確かに、言われてみれば色々と気持ち悪いわね。
擬似世界にそっくりで、擬似世界から遊びに来れてしまうリワルド。それじゃまるで、リワルドまで擬似世界で偽物みたいじゃない。
「姉上、それは恐らく違います」
「…………ッ」
顔を顰めてたら、イクシに考えを読まれて否定された。
なによ、ミナちゃんみたいな事しなくても良いじゃない。私だって女の子なのよ? 考えを読むなんて失礼だわ。……まぁそんな事思ってないけど。
「私たちの世界は、リワルドは、少なくとも擬似世界では無いはずです。…………ノノンさんの死がそれを証明してます。ノノンさんが死んで、ジワルドの体でリワルドに来たのは、つまりそう言うことです」
ノノンちゃんが実は死んでるとか初めて聞いた時は、あの兎をどう殺してやろうかと思ったけど、今は置いておこう。
「……えっと、ごめん何で? ノノンちゃんがリアルで死んだって事から、何が分かるの?」
「単純な事です。私たちの世界も擬似世界だったなら、そもそもが酷似してるジワルドからコチラに来る意味が無い。元々リアルと繋がりの強いジワルドでは無く、わざわざリワルドを選んだのには何かしらの理由があるはずです」
…………あ、そっか。
リワルドが擬似世界なんだったら、そもそもノノンちゃんの体はジワルドのものだったんだし、同じ擬似世界ならジワルドからコッチに来る理由なんて無いわよね。条件ほぼ一緒なんだから、元々居た場所で済む話だもの。わざわざ移動させる必要が無い。
あー段々分かってきたわ。リワルドが向こうにある二つの世界、そのどっちにも近い特性を持ってるってイクシは言ってたわね?
なら私たちの体は、私たちが住んでいるリワルドと似たような性質を持っているんじゃ無いかしら?
つまり、魂を保管しておく為の体と、ジワルドのプレイヤーみたいに本当なら何回でも甦れる性質。
その二つを兼ね備えた私達が生きる、二つの特性を持った世界。
だからジワルドの体でリアルの魂を持ったノノンちゃんが来たのね。
多分ジワルドでは、リアルの体と紐付いてない魂は留めて置けないのよ。擬似世界だから本物は置いておけなかったんだわ。
つまりイクシは、本物を置いておける私たちの世界は、それだけで擬似世界じゃないと言う証明だと言いたいのね。
ホントにもう、イクシの話しは回りくどいわっ!
「そもそも、ノノンさんをコチラに送ったと言うシルバーラビットの仲間と、ノノンさんがリアルで死んだ事故。この二つは別々に起きた物であり、ノノンさんの魂が完全にコチラに来たのは徹頭徹尾完璧に偶然です。しかしそれでも、ジワルドがノノンさんの魂を受け入れられるなら、ノノンさんがシステムメニューを使えないのはおかしい」
…………ごめんなさいまた分からなくなったわ。て言うかイクシ、めちゃくちゃノッてるわね? 口の回りがいつもより早いもの。
「ノノンさん以外のプレイヤーはシステムメニューが使えます。ノノンさんにはログアウトとやらを使うための体が無いので、それが出来ないのは仕方ありません。ですがそれなら、シルルさんだってログアウトは出来ない。ならログアウトが出来ないだけでシステムメニューが使えて然るべきです」
……うん、そうね?
シルルたんがダンジョンの中でそう言ってたわね? 今のノノンちゃんはプレイヤーでもなく、私たちNPCでもないって。だからなにやら大変なのよね? 未だに何がどう大変なのかよく分かってないんだけど。
で? つまりどういう事なの? お姉ちゃんもう頭が痛くなったわ?
「…………あー、また俺分かっちゃった」
……もう良いわ。認めるわよ。タカさん、私はあなたより頭が悪いのねっ。
「ほぅ、では、そのお考えをお聞かせ頂けますか? どうやら姉上は、私の話し方だと頭に入らない様なので」
ごめんねイクシ、馬鹿なお姉ちゃんで。
「ウッス。……要するに王子様はこう言いたいんスよね? 後半のあーだこーだ言ってたのは前半の補強で、本当に伝えたいのは前半に言ってた擬似世界云々のお話し。つまり、ののんたんがリアルの魂とジワルドの肉体でこの世界に来れたなら、逆にリワルドの住人はジワルドにもリアルにも行けるのでは? って言う。ジワルドは置いといて、リアルに行けたらこの世界もリアルッスよね」
……なるほど。もし本当にそれが出来たなら、確かにリワルドは擬似世界じゃないわね。
でもその話しはもう納得してたから良いのよ? 私の弟は本当に回りくどいわね。
「あと、諸々を分かりやすく纏めると、リワルドは
「素晴らしい。……タカさん、お城で働きませんか?」
「あっはっはっは! だから俺達お客さんッスよ! 用事終わったら帰っちゃうッスよっ!」
今のは分かりやすかったわね。
つまり私とイクシは、ノノンちゃんが向こうで死んでからコッチに来たって思ったからごちゃごちゃ考えたけど、タカさんはノノンちゃんがコッチに来てから死んだだけって言いたいのね。
単純に順番の問題だけど、そう考えるだけで色々としっくりくるわ。
ノノンちゃんは他の人と同じように最初、お客さんとしてコッチに来た。そしてその後にリアルの体が死んでしまったから、帰る場所が無くなったんだわ。ジワルドではプレイヤーの条件がリアルに帰れる事だとすると、ノノンちゃんはコッチに来てからプレイヤーの資格を失って、だからお客さんの資格も失った。
そう考えると、凄く単純な話しとして理解しやすいわね。
「…………あれ、じゃぁなにか? 俺達って今この状態でリアルの体が死ぬと、このままコッチの世界に異世界転生すんの?」
「…………………………お気付きに、なられましたか。ソルさん」
「うわ怖っ!? なんつぅ深刻なバグを抱えてんだこの世界っ!?」
「いやでも頑張れば任意に異世界転生出来るってロマンじゃね? 煉炭でも焚きながらログインすればすやぁっと異世界だぞ」
「そりゃお前はたった今王子様からスカウトされたしなっ!? 俺なんてちょっとレベルが高いだけの一般人だぞっ!?」
「嫌ならファストトラベルで帰れよ。戻って来れるか分からねぇけどさ。俺はののんたんに会えるまで待つから」
「いやそれは嫌だ俺も待つののんたんには会いたい握手してもらうんだあと出来ればサインも欲しい」
「オタク特有の早口よ。…………ところで、あの激カワうさ耳幼女も良くない?」
「わかる」
「ののんたんと絡みで見たい。スクショしたい」
「いやもうミルクちゃんもこの世界来いよ。ののんたんと激カワうさ耳幼女ちゃんとミルクちゃんでライブしてくれよ」
「チケット言い値で買うんだが?」
「言い値で売る側なんだが?」
「あっ、マジだっ」
なにやら、多分くだらない内容で盛り上がり始めた二人。この二人、頭良いのか悪いのか分からないわね。なんなの? 向こうの世界ってこんな人ばっかりなのかしら。
それと、話しを聞きながらずっと何かを考えてる眼傷のビッカが、イヤに気にかかる。
彼も、結構思い詰めてた物ね。変な事考えてないと良いけど。
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