因縁と真相②
「
「そんな表向きのことを聞きたいんじゃない」
「裏なんかないさ」
「
人智を超えた『異能』を用いた、超常の激闘の後。
互いに
『
「……『
拳を強く握り込む
「……確証は?」
「俺だって
「それが、お前を釣るための罠だったらどうする」
「嘘でも罠でも、次に
食い下がる蒼羅。龍親は頭が痛そうにうんうん
「鳳仙家の人間が『
戦場で一騎当千の活躍を
現将軍家を支えた
「…………『天下三剣』の中で一番の武功を上げたから?」
それは一般に
龍親の顔が晴れないからだ。
「一般的にはそう言われてるが、違う。鳳仙の人間の髪はな——
「!!」
蒼羅は目を
その
「髪を
脳裏にぼうっと蘇るのは、あるとき
あのとき、ひとり生き残った中年の
『赤い、赤い髪だった。まるで血をひっかぶったみてぇに……だが返り血じゃない、髪そのものが赤かったんだ』
「
「あぁ、泥汰羅から
我知らず口に出していた言葉を、龍親は
その裏付けを得てしかし、蒼羅の表情は
――鳳仙家は五年前に滅亡している。
ならば、今このときに赤髪の人間なんて存在するわけがない。亡霊として蘇ったわけでもあるまいし。
そう指摘する蒼羅に、龍親はゆるゆると首を横に振った。
「滅亡ってのは言葉の
それを聞いた蒼羅の目に光が灯る。
迷い続けた闇の中で、ついに見つけた希望の光。夜の海を渡る船を導く灯台めいた、己の本懐を遂げるための
しかし希望というにはそれはあまりに
彼自身は知り得ぬその様を見た龍親は、どこか痛ましげに顔を曇らせた。
・・・・・・
新しい
目的地は通りにある甘味処。
周囲の客からの奇異な視線——頭に
近付いていく。目が合う。全速力で顔を
「おい、なんで他人のフリすんだよ」
「だって極楽浄土にいるときに、見知った
ぺしっ
と即座に払われた。
あまりにも一瞬の出来事に、二人の間には奇妙な沈黙さえ生まれる。
「……だめか?」
「……だめ」
きっぱりと断られ、長い溜め息をひとつ。叩かれた手をさすりながら話を振る。
「なぁ、あれで良かったのか?」
「……なにが?」
「お前なら、龍親さんに対してもう少しキツい真似させると思ってたけどな」
朱羽は『白い髪の女』に
彼女はかなり根に持つ性分だと思っていたので、
「まさか。あんなのであたしが満足すると思う? 龍親にはいつか絶対やり返す。ギッタギタのメッタメタのボッコボコにして、泣かす」
苦笑した後、どこか清々しそうな色の瞳には、熱い闘志と冷ややかな反骨心が燃え上がる。
ひとまず
「……やっぱお前は、そういう顔の方が似合ってるよ」
強く
どうやら本調子まで戻ったらしい。これまで少なからず目にして来た彼女らしからぬ
「雷がこわーいって子供みたいに泣き
——あっ。
口が
当人はひどくにこやかな顔で小首を
「……忘れろ、って言ったはずだけど?」
「ほら、昔の恥ずかしい思い出が急に
「そ、お
両手に三食団子を持った朱羽の猫目が
「ほーら、貴重な経験させてくれたお礼。たーんとおあがりー、今日はあたしの
言うや否や、三食団子が口を目掛けて勢い良く突き出された。伸ばした左右の手で細い手首を掴み、あわや鼻先で
——串の先が刺さったらどうしてくれる。
「待て、早まるな朱羽ッ!!」
「幸せのお
「悪意しか感じられねぇんだよ!!」
などと声を交わしながらしばらく取っ組み合っていた二人は、
「「…………」」
周囲の客からの冷ややかな視線に気付いて
朱羽は小さく頬を染めながら、こほん、と咳払いをする——
「その髪って、生まれたときから白かったのか?」
「まさか。ある日突然、真っ白になっちゃったの」
「そんなこと有り得るのか?」
「有り得るからこんな色なんでしょ」
「前はどんな色だったんだ?」
「……なんだと思う?」
己の髪を一房さらりと
蒼羅は顎に手を添えてしばし考え込む。
出会った最初こそ
「はずれ」
「おい、まだ答えてないだろ」
「どうせ教えたって信じないと思う」
「あぁそうかよ。……でも、その色がお前には一番似合ってると思う」
「こんな
急にむっとした表情に変わってそっぽを向く朱羽に、蒼羅は苦笑混じりに
「そうか? 俺は初めて見たとき、白絹みたいな綺麗な髪だと思ったけどな……」
「……え?」
「あ、いや、だから、すげぇ上質な着物でも織れそうだなって……」
思わぬ反応に急に気恥ずかしくなり、
「人の髪で着物を
「いや、今のはナシだ、取り消――」
「いい、取り消さないで」
やや食い気味に
そっぽを向いた朱羽の表情は伺い知れないが……細い指先で絶えず
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