1章4節

1章4節1項(25枚目) 西の大陸を牛耳る人類

 人種が西の大陸に寄りつかない理由。こぞって東の大陸に押し寄せる事態になっているのか。

 単純に不便と言う理由で片付かない。

 確かに東の大陸に比べれば、西の大陸は自然の恵みを取り戻せていない。広さは東の大陸と差し支えないほどであっても、万遍まんべんなく、発展を促せるほどの資源を持ち合わせていない。原動力になり得るものが各地に必ずしもあるわけではないため、どうしても全体が活気あふれることにはならない。

 しかし発展が望めないわけではない。

 地域を選定し、資源を集中させれば、その可能性は十分にある。全体の豊かさは東の大陸よりも劣るものの、限られた地域に焦点を当てれば、遜色そんしょくないと言ってもいいほどに仕上げられる道は残されている。

 何も東の大陸を真似る必要はない。土地柄それぞれの条件下に基づき、住みよい場所にしていけばいい。

 全てが同じと言うわけにはいかないのであれば、特色に応じた措置を施す他あるまい。余所よそで成功した事案を取り入れてもゆがみが生じるだけである。泥濘ぬかるみとらわれ、不自由極まれない事態に陥るだけである。

 外から見て、ゆがみであったとしても、そこで生きる者たちが不満に思わないのであれば、わざわざ問題として取り上げなくてよい。解決すべき課題として扱わなくてもよい。余計なおせっかいを働く必要はなく、介入に臨むものでもない。それぞれで成り立つのであれば、下手に関わることではない。

 東の大陸をおびやかすものでもない限り、西の大陸に乗り込まなくてもいいだろう。

 その意味で仮面牢武クローザー仮面装属ノーブルが動くのであれば、致し方ない。蛮行ばんこうを止めるためであれば、仕方がない。生きるための略奪であっても、生活がかかっているのは狙われる側にも言えることだ。それを守るためであれば、反撃されても文句は言えまい。

 その点を踏まえれば、発展に繋げる開拓は困難極まるものであろう。

 しかし挑戦する価値がないわけではない。

 東の大陸では見られない独自の領域を築き上げる野心を持ち合わせているのであれば、しがらみから出るのもやぶさかではない。

 大それたものでなくとも、自己実現を果たしたいのであれば、東の大陸から離れるのも選択の1つであろう。束縛そくばくが付きまとい、のびのびとできないのでれば、外に飛び出すのも一考すべきであろう。

 どのような形であれ、己が望むのであれば、手を緩めず、事を進めるべきであろう。手にできなかったときに悔しさを抱かないためにも。

 不便を解消するのも、自我を確立させるのも、全ては工夫次第。行動を起こす前から悲観することではない。

 一時期、仮面装属ノーブルが世界を統治していたほどだから、全く暮らせないわけではない。注ぎ込める労力に違いはあれど、町や都市など、区画整備に走らない限り、生活自体は営める。無理を重ね続けず、土台を固めていけば、不便な西の大陸でもやっていける。

 それでも誰も近寄ろうとはしない。

 並大抵では解決できない、どうしようもない大きな問題が立ちはだかっているから、西の大陸に渡ろうとしない。

 人間に似通った人類、仮面の暴走獣バーサークと呼称される種族が西の大陸に住みついているから、人種は西の大陸に足を踏み入れることを躊躇ちゅうちょしている。

 その種族は仮面の適合者バイパーに姿を変える仮面を被らずとも、その仮面に宿る性質を扱える。

 自身が特殊な仮面のような存在であるため、わざわざ被らずとも、その性質を発揮できる。内に宿った性質を使うことでその体現を可能にしている。

 もちろん、自身に相応しい仮面を被れば、その性質も扱える。より強大な存在に変貌へんぼうする可能性も秘めている。

 この種族は特殊な仮面がばら撒かれた後に誕生した生命体である。

 外見は己の意思で変えられるため、人種に近しい姿で過ごす者もいれば、その姿からかけ離れた姿で過ごす者もいる。内に宿る性質に適した本来の姿はあるものの、調整できる。

 内に宿る性質の影響により、体の構造を完全に人種に寄せることは難しいものの、似せることはできる。変異点を目立たせなければ、十分に通用する。紛らわせられる範囲に収まっていれば、人種の枠組みで暮らしていける。本来の姿から遠のく分、消耗が早まるものの、やっていけないことではない。

 しかし内に宿る性質を発揮するのであれば、本来の姿に戻るのが好ましい。

 調整を間違えれば、命を落とす。

 体の構造上、内に宿る性質に耐え切れない場合もある。生存を前提にしているのであれば、元の姿で発揮するのが最善である。

 体質さえ手にできていれば、内に宿る性質は扱えるため、必ずしも変態する必要はない。

 けれど真価を発揮させる場合、その固執は叶わない。

 どうしても人種として誤魔化ごまかせられない姿へと変わらなければならない。最も扱うに相応しい構造でなければ、十分な活用は不可能であり、姿は諦める他ない。

 このように外面はある程度、制御できるものの、大きさはそこまで融通が効かない。元の体格を基準に変態しているため、極端に大きくも小さくもならない。せいぜい一回り・二回りほどが限界。巨大にも矮小わいしょうにもならない。

 その辺、仮面の適合者バイパーにも言える。

 形態変化の事情はさほど変わらない。仮面を被らなければ、その制御が叶わない点を除けば、違わない。人種から脱せられない生命体はそのきっかけがなければ、仮面の暴走獣バーサークのような芸当は不可能である。

 扱える性質も似たようなものの、人種の場合、仮面を被らなければ、扱えない。内に宿していないため、当然と言えば、当然である。その点も仮面の暴走獣バーサークと違う。

 その2つの差が人種にとっては命取りである。

 仮面の暴走獣バーサーク仮面の適合者バイパーに違いがあろうと、どちらも生半可な存在ではなく、どちらに軍配が上がっても可笑おかしくない。

 しかしそれは人種がその状態に持ち込めればの話である。

 準備が整う前に仮面の暴走獣バーサークに襲われれば、一溜りもない。人種は仮面を被る所作しょさが必要になるため、それを邪魔されれば、戦局は厳しくなる。

 逆の立場でも同じようなことが言えるものの、人種の方がより不利である。どこかしこにある仮面を表に引きずり出すことを考えると時間がかかる。いきなり変態に持ち込める仮面の暴走獣バーサークの方が有利である。

 常に身構えていれば、心も体も休まる暇もない。人種は疲弊ひへいするばかりである。

 その上、仮面の暴走獣バーサークは人種とたわむれたがる嫌いがある。見下しており、突っかからずにいられない。人種と比べて、優れている点が見受けられるから、調子に乗るのもうなずける。

 人種を隷属れいぞくしているのはそのためである。見下しており、飼われているくらいがちょうどいいと仮面の暴走獣バーサークに思われているからだ。

 礼節を払う価値がない。歩み寄り、意見を汲む必要はない。劣る者とれ合うだけ時間の無駄であり、有意義なものを育む機会が失われるため、有無を言わせぬ用件を押しつけておけばいい。

 悪気もなく、しいたげている。対等と思ってもいないため、相手の立場を尊重することなく、ぞんざいに扱っている。

 大切に扱うとしても、労働として、機能として、はたまた観賞としてであり、決して、相容れることはない。相手のままを受け止める気概を持ち合わせていない。

 多くの仮面の暴走獣バーサークはその認識でいる。

 だから人種は西の大陸に積極的に渡ろうとしない。

 尊厳は奪われ、なす術もなく、扱き使われる目にいたくないから拒んでいる。

 身に危険が迫る生命体の存在を認知しているから近寄らない。実物を目にする機会は滅多めったになくとも知っている。

 西の大陸に渡らせないように仮面組織パレスが情報を流すから知らない者はほとんどいない。

 西の大陸に近い仮面牢武の統治領域クローザー・フィールドに行けば、その存在がいることは確認できる。統治機構が嘘つきでないことは容易に証明される。顔の皮膚ひふがしても、仮面に宿った性質を体現した姿が解けない事実を知ることで否応なく理解してしまう。

 このように仮面組織パレス隠蔽いんぺい工作に走ることなく、常識として広めている。安全に気を遣ってもらいたいが故に呼びかけている。

 仮面の適合者バイパーを囲む統治組織としては仮面の暴走獣バーサークの存在をうとましく思っている。わざわざあざむく必要はない。同列だと思われるのは心外である。

 見てくれと持ちうる代物、そして生み出される結果は似たようなものであっても、仮面の適合者バイパーくまでも人種である。

 全員が全員、ままに振舞い、同族に手をかけないとは限らない。最近、仮面装属の統治領域ノーブル・フィールドで悪逆を働く仮面暴徒ブレイカーが存在するから、何とも言えない。

 しかし仮面組織パレスは無闇にそのような真似を冒さない。

 人々に悪影響を及ぼす存在を対象に手は出しても、等しく全員に対して、ちょっかいを出しているわけではない。秩序から外れた者のみに絞り、行動している。

 統治領域フィールドける権威けんい失墜しっついさせないためにも自らおとしめることはしない。集合体としてはその領域を侵さない。世の中の発展を望み、その信条を掲げる仮面装属ノーブルも同じである。

 良き隣人であることを世に広めるためにも仮面組織パレスは周囲に呼びかけている。外敵ではないことを証明するため、日夜、活動して、皆に知ってもらえるように努めている。

 その成果が認められているから仮面組織パレスの統治は揺らいでいない。対抗措置として、新たな統治組織を創設する動きが見られない以上、その事実がうかがえる。強き反論を訴える者や団体が今のところ、現れていないため、そのように受け取ってよい。

 人々は見限っていないから、仮面組織パレスから発信された情報を活用している。

 それを基に検討した結果、人種は命をおびやかす真似を冒さない。誰もが仮面の適合者バイパーになれない点を考慮こうりょすれば、多くの人種が西の大陸に立ち入らないのはうなずける。

 腕に覚えのある者や仮面の適合者バイパーであっても行きたがらない。すきを見せれば、やられてしまうため、関わりたいと考える者は非常に珍しい。

 わざわざ痛めつけられたく、近づく者はいない。余程の理由を持ち合わせない限り、ありえないと言っていい。

 このように人種が警戒するくらいに西の大陸では浸透している。日常の出来事へと化している。

 人種を残虐ざんぎゃくに扱うことをことわりに昇華させた国が存在するくらいに根づいている。

 かつては仮面装属の統治領域ノーブル・フィールドの一部であり、西の大陸で唯一栄えていた場所に建国された。

 はるか昔に奪われ、仮面の暴走獣バーサーク主導による統治が行われている。奴隷どれいにしている人種のことなど、全く考慮こうりょされておらず、仮面の暴走獣バーサークのためだけに活動している。

 形はどうあれ、人類の王者と意味する国、仮面解属クラウンに集まる仮面の暴走獣バーサークたちは掲げられた主義主張に賛同している。思惑が全員一致とはいかずとも、また腑に落ちない点があったとしても、声高に否定に走る者はいない。

 全員が全員、己に自信を持っているわけでもなく、また独善的でなくとも、逆らうつもりはない。

 生きていくのに不安を覚えれば、強大な存在に縋るのは道理である。

 誰もが強いわけではない。人種と同様、個体差がある。生命体が持ちうる器量を超越したものを内に宿していたとしても、必ずしも強さに結びつくわけではない。

 種類、強度、そして制御次第で振れ幅は変わる。心意気で伸び縮みすることもあるが、それは土台次第である。基盤きばんが大したものでなければ、大成することはない。

 仮に腕に覚えがあったとしても、どうにもならないことがある。

 環境に抗えるとは限らない。西の大陸で仮面の暴走獣バーサークが生き抜くのは難しい。制御の可否問わず、内に宿る性質に多くのエネルギーを要するため、負担が大きい。能力が高い分、消耗も人種より激しい。

 その点は仮面の適合者バイパーにも同じことが言えるものの、常に仮面の適合者バイパーのような存在である仮面の暴走獣バーサークは相当に強いられる。

 内に宿る性質の保持、形態変化する手順の保持、そしてその変化を実践することの保持。

 扱うことだけにエネルギーを使うわけではない。維持にも使われる。

 仮面に肩代わりさせられる仮面の適合者バイパーと違い、仮面の暴走獣バーサークは切り離せられない。生命機能と同様、欠損すれば、その分、死に近づく。肉体が内に宿る性質に依存しているため、どうしようもない。

 時には発散しなければ、圧し潰される。蓄積も限界があるため、必要な過程である。肉体が侵食され、決壊に至れば、死に繋がるため、避けることはできない。この先も生き抜くことを考えれば、尚更なおさら、やらなければならない。上手い具合、放出できないせいで短い一生で終わる者もいるくらい、重要なことである。

 逆に言えば、先に挙げた3つの保持ができていれば、死に至らない。肉体に影響を与えているから、欠損しなければ、命は保障される。健康体とは限らないが、生き永らえる。

 何はともあれ、仮面の暴走獣バーサークは多大な消費と隣り合わせに生きている。代謝で抑えられるとしても、エネルギーを調達しなければならない。死ぬつもりならまだしも延命することを考えれば、無視できない。

 そのような事情を踏まえると栄える場所に群がるのは当然と言える。忠義を持ち合わせていなくとも、よりよい暮らしを考えるならば、活動への協力も吝かではないと言える。

 東の大陸より資源が富んでいない西の大陸で生きていくならば、それは死活問題である。

 わざわざ人種と同じ扱い、冷遇されてまで、水を差したくはない。譲れない信条を旗印にしているわけでもないから国の言い分を受け入れている。

 そもそも仮面解属クラウンが掲げる主義主張に少しでも同調する気がない者は寄りつかない。

 生まれも育ちもその国であれば、仕方がない部分はあるものの、その場合、離反すればいい話である。受け入れがたい思想であれば、抜ければいい話である。

 もしくは国を変えようと行動を起こせばいい。

 しかし国は許さない。

 途中で離反する者と思想の変革者には刺客しかくが向けられる。裏切り者には死を。後に続く者が現れないように粛清しゅくせいされている。見せしめの意味で始末を命じている。

 命の危険があるため、逆らおうとする者はそうそういない。余程の度胸と力量がなければ、行動することもない。

 それに仮面解属クラウンから離れられたとしても、生き抜くのは難しい。

 西の大陸で資源が富んだ場所など、仮面解属クラウン以外なく、奇跡的に何とか生きていける場所も先約がいる。生存できる場所は内に宿す性質で変わるものの、同系統・同等のものであれば、衝突しょうとつするのは必至である。

 そこでの縄張り争いでせつけなければ、疎外されるだけである。受け入れるに値しない者を引き入れる余裕もないため、見放されるのは当たり前と言える。自身がおびやかされるのであれば、爪弾つまはじきにされるのは仕方がないと言える。

 奪取してでも居座りたいのであれば、敵対者を排除する他ない。将来、自身がそのような目にわされても文句がないのであれば、果敢に挑めばいい。

 過度な干渉を嫌うのであれば、未開とされる場所に向かえばいい。同族といがみ合いたくなければ、その望みは叶い、そこにある資源も独占できる可能性もある。

 大陸以外にも世界には島が点在する。そこに辿り着ければ、その可能性は拾える。

 しかし躊躇ちゅうちょしてしまう。

 腹を満たす量の資源があるのか不明な場所に飛び込むのは危険である。大きな賭けであり、動くに値する情報がなければ、難しい。死地に向かうようなものであるから、易々と取れる行動ではない。

 西も嫌、島も嫌なら、東に渡ればいい話だが、それも簡単にはいかない。

 共存が難しいだけではない。お互いの都合を理解し、容認することは果てしない道のりであるが、先に解決しなければならない問題がある。

 唯一、西と東の大陸を結ぶ、陸続きになっているところで日夜戦いが巻き起こっている。そこを通過しなければ、東の大陸に踏み入ることはできない。西の大陸からの侵入者を阻む、仮面牢武クローザー仮面装属ノーブルの軍勢を突破しない限り、その先の展開はない。

 ただ単に東の大陸に渡るだけなら、何も陸から行かなくとも、空や海から行けばいい話である。内に宿す性質にはそれを可能とするものもあり、決してできないわけではない。

 全ての空や海に目を光らせているわけではないから、待ち構える軍勢とぶつからないように迂回うかいすればいい。命が保障され、辿り着ける道筋は限られているものの、日夜戦いになっている場所を通るより勝算はある。

 踏み入れられるところ、全てに防衛網をけるわけではない。

 またすきのない堅牢けんろうな守りは構築できても、多大な消費が伴うため、その維持は簡単ではない。ほころびはどこかにある。

 そのことを踏まえれば、ずっと楽と言える。試す価値はある。

 しかし渡るだけが目的ではない。

 個人はともかく、仮面解属クラウンは国で消費する資源をまかなうため、また豊かな土地を頂戴ちょうだいするため、進行している。

 育みはしているものの、大食漢である種族を満足させる量は提供できていない。どうしても行き届かないところは出てしまう。肥沃ひよくな土地柄でないことも考慮こうりょすると用意できる量が十分でないのは当然である。

 それを補うために遠征している。

 あわよくば、人種の統治領域フィールドを支配することを企んでいる。あらゆるものを手中に収めようと考え、軍隊を派遣している。自称:生命体の頂点に立つ種族として、その力量を見せつける意味合いを込め、行動を起こしている。

 現状、企みの全ては上手くいっていない。前者は少なからずとも何とか確保できているものの、進行は人種の統治組織に阻まれている。踏み入ることはできても、支配までには及んでいない。

 仮面解属クラウンが掲げる主義主張を示す結果は今のところ、道半ばであり、仮面牢武クローザー仮面装属ノーブルはその企みを阻止している。

 しかしかんばしくはない。

 仮面の暴走獣バーサークの侵略に対する被害や損耗は確実にあるため、悩みはつきない。

 人種にとっての外敵を排除する方法、仮面の暴走獣バーサーク殲滅せんめつが最も手っ取り早い単純な解決方法ではあるものの、とても現実的ではない。

 手強いと言う理由だけでなく、補給が容易でないから西の大陸に踏み入ろうとしない。みすぼらしい場所で物資をまかなえるとは考えていないため、見送っている。

 全世界の支配者として今も仮面装属ノーブルが君臨していれば、起こりえなかったことかもしれないが、仮定するだけ無駄である。

 現実逃避したところでも問題は残る。解決したいのであれば、向き合う他、どうしようもない。

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