1章3節5項(21枚目) 裏話(仮面暴徒)

 必要な場面で動員したいと考えている。

 従って消耗・損耗を避ける方針で行く。

 その方針に沿い、明朝まではあらゆる交戦を控える。その事態に発展させるとしても、進行を阻止する敷地に踏み込んできた者たちだけとし、他は牽制けんせいで済ませる。身を守るため、敵を遠ざけ、近づきすぎない気構えでいく。その方向で防衛にはげむように。

 また日課である町の出入口の監視は続ける。

 仮面暴徒ブレイカーの支配下にある町から逃げ出す真似をさせないためにも、いつも通り、見張りを立てておく。実際に監視の目を潜ろうと計る者がいれば、いつも通り、捕縛する。近い将来、計略に利用することも考え、その人員を確保するために行動する。仮面装属ノーブルという名の期待にすがり、町から逃げ出す輩を引き留めるためにも実行する。

 ただし仮面装属ノーブルが近くにいれば、見逃す。

 己の身を第一と考え、ちょっかいをかけない。下手に戦いに発展するのを阻止するために無視する。無闇に散らさないためにも積極的に行動を起こさない。

 それだと仮面暴徒ブレイカーの人質である町の人々に逃げる口実を与える行為に等しい。いくら仮面装属ノーブルに抗う身内の数を減らすためとはいえ、不利な状況に陥るばかり。ホコアドク付近にいる仮面装属ノーブルの手勢は多く、仮面暴徒ブレイカーの味方を増やす算段が極めてない以上、囲んでいる資材を手放すのは惜しい話である。

 だから見せしめで殺す。

 確保に当たるためにも最初に監視の目をあざむこうとした者の命を刈り取り、見えやすい場所に死体を放置する。

 その結果を以ってして、この町から離れる意味を教える。今まで仮面暴徒ブレイカーが行ってきた実績を鑑みれば、冗談でないことはうかがえる。

 間違いなく、酷い目にうため、蛮行を冒すな。

 親切にさとすためにも釘を打つ。この布石で損失を最小限に持っていく。

 以上を仮面装属ノーブルに対する行動指針とする。

 長期戦になる覚悟で行動に当たる。疲労を残さないためにも、交代に気を配るように。

「色々と話し合ったが、このように行動しろ。他の者にも伝え、はげませろ」

 首領が締めくくり、書斎しょさいに集った3人を解放する。ここにいても望むべき状況にならないため、行動に移らせる。

「承りました。早速、その指示に従いたいと思います」

 3人を代表して、ダイガが口にする。

 そして首領に背を向け、書斎しょさいから出て行こうとする。

 他の2人、ストレージ兄弟もダイガに追従する。返事を行動で示した。口の代わりに挙動で意思疎通を図った。

「言い忘れたことがあるから、ちょっと待て。振り返る必要はない」

 その言葉を聞いて、ダイガは足を止める。そのダイガを追い越し、書斎しょさいの扉に手をかけようとしたストレージ兄弟も同様に動きを止める。そのままの姿勢で首領が発する内容に耳を傾ける。

「俺たちの下にいる女2人は逃がさないようにしろ。大事な客だから引き留めておけ。仮面装属ノーブルが攻めてきた今でもそれは変わらぬ。苦労をかけるがそこにも人員を割け」

 さらなる対応を強いられた。

 上からのお願いであるため、無下に断ることはできない。

「それも合わせて、行動させていただきます」

 それを分かっているため、ダイガは反論しない。覆してもいいことは起きないと分かっているため、そのまま受け入れる。

 また客と言っても丁重に扱う意味ではなく、拘束する意味であることを理解した上でその者たちと接する。

 とらわれの身分は変わらないことを前提で他の者にやらせる。

 首領に命令された時点でその答えに辿り着いた。やっていることは首領と変わらず、下の者に押しつけているだけにすぎない。

 違うのはりである。敷地の防衛と出入口の監視と囲む者たちの監視に回す人員の配置調整にはげまなければならない。現場監督兼執行者の2人に手分けさせるとしても、全体像をつかんでいなければ、方向性が誤ったときの対処が取れなくなる。

 だからかじ取りとしての機能を果たすためにも、投げることもできない。

 首領が描く構図を実現させるための手配にはげまなければならない、副首領に就いているダイガは頭を悩ませるばかりである。実務の運用の要である役割を担う者は苦労を強いられる。

 現実に起こすために活動を強いられる現場監督兼執行者以下の者たちも苦労を重ねる。ほとんどの者が事情を知らないから、溝が広がるだけである。上の意向が把握できないから、下りてきた指示を素直に受け取れない部分もある。特に己のままを取り上げられる行動を強いられる場合、顕著けんちょに表れる。

 立場と実力を考えると、そうそう冒せることではない。

 しかしくすぶりは溜まる。

 押さえつけたところで我慢を重ねることには変わりない。許容が超えれば、何を仕出かすか分からない。

 反旗をひるがえそうと行動を起こす者がいれば、脱退を試みる者もいる。果てには自死する者さえもいるだろう。

 はたまた周囲を感化させ、決起に走る者もいるだろう。自身の意見が通らないから、全体の意見に仕立て上げ、行動を共にさせようとする者も現れるだろう。

 どのような場合であっても、上の意向に背くことは明白である。

 対象になる者を粛清しゅくせいしても変わりない。抑制はされるものの、先延ばしにしているだけである。元を断たない限り、繰り返される。寛容かんように受け止める土壌の整備、もしくは息抜きできる余暇の充実にはげまなければ、事態は変わらない。

 そのような意味を込めて、交流を行っている。すれ違いを起こさないように努め、潤滑じゅんかつな流れを生んでいく。組織をくさらせ、崩壊に至らないためにも。

 意見交換を行うように取り計らっている。上の者が抱える事情を示し、下の者が抱える不満を示す場を設け、歩み寄れるようにしている。軋轢あつれきを生まないためにもけ口を作っている。互いにぶつける場を用意している。

 組織のふところ事情と今後を踏まえると、全ての事情の説明及び全ての意見を吸い上げることはできないが、汲んでやることはできる。思いやり、解消に至らせる行動に移す選択肢ができる。

 その判断も含めた上で首領は構図を描いている。組織が瓦解がかいしないところでバランスを取り、構想を築いている。求めるべき成果をはじき出している。思惑悪くない方向に傾かないように気を付け、進めている。

 そのためにも首領は次なる行動に移る。

 現場で駆けずり回る仮面暴徒ブレイカーの重要な役どころに就く3人が消えるなり、席を立ち、壁を2度叩く。ノックで響かせる。

「君たちとも話したいから、顔を見せてくれたまえ」

 そう言うなり、壁の一部が崩れる。大窓と向き合う正面扉以外から侵入する。仮面暴徒ブレイカーの重要な役どころに就く残る2人、仮面暴徒ブレイカーに個人的に協力するコレクターを名乗る者と仮面装属ノーブルが送り込んだ密偵が隠し扉から姿を現す。

 しかし2人ともローブとフードで体と顔を隠していた。

 首領が呼び出した人物なのか疑問に思える出で立ちだった。仮面暴徒ブレイカーを示す上着も覗かせないから、その真偽を余計に難しくさせていた。

「2人とも待たせてしまったが、裏で話を聞いていてくれたかね」

 けれど首領はその点を気にしなかった。

 警戒することなく、事を進めるから、求めた人物で相違ないのであろう。

采配さいはいは聞かせてもらった」

「下働きする奴らが徒労になる方針だったな」

 自席に戻った首領。

 そして書斎しょさいの隅にあった椅子いすを持ち出し、首領の対面に腰かける2人。

 その2人は席に着くなり、各々、先ほどの質問に答えた。

「ほう、どの点を言っているのかな?是非ぜひとも答えてくれないだろうか」

 不可解と申した者に問いを投げる首領。腹を立てたわけではなく、純粋に気になっただけである。

 その証拠に書斎しょさいに集まった者たちに仮面装属ノーブルに対する方針をぶつけていた際に見せた荒ぶりがなかった。態度に出さないように我慢している兆候ちょうこうは見えず、淡々と返すだけだったことからして、それは明白である。

「町の奴らを盾代わりにして、勝利を収めても、目的が破綻はたんしないか。いなくなってしまえば、お前たちの苦労の押しつけ先が消えるだけだぞ」

 コレクターは首領の催促さいそくに応じる。首領の反応を楽しむため、なじるように返した。仮面暴徒ブレイカーが掲げる旗がなくなると面白がるように首領を指摘する。

「それは結果論だ。誰も望んで行動したわけではないことを覚えていてくれたまえ」

 諦観ていかんの意を込め、首領は話をあっさりと流そうとした。長く付き合うまいと、話を切りにかかる。

「だがそれで周囲が納得するとでも」

 しかし首領の答えに納得しなかったのか、コレクターは食い下がる。

 それも当然か。望んでおらず、考えに及んでいなければ、何をしても許されるととらえかねない発言をすれば、食いかかるのも当たり前か。

 己に不利益が生じても、文句を言うなと宣言しているようなものだから。

 首領の言葉を許せば、実際に損害を被った際、何もできなくなる。追及はできず、泣きに入るだけだ。実利に見合わない投資と消費を強いられるだけである。

 だからこの者は抵抗しているのであろう。

 周囲に影響を及ぼしかねない問題であるかのように振舞うのはそれが理由であろう。苦しむ様を眺めようと楽しむ反面、考えを隅々まで巡らせろと発破をかけているのであろう。

 首領を責めるのは自分に被害をもたらせないように取り計らせるためであろう。口答えしたのはそのことを促すためであろう。

 だからしつこく絡むのもうなずける。

「確定した後に文句を言うのは簡単だ。揚げ足を取るのは無能でもできる。

 所詮しょせん、身を削ることも肥えさせることもできん貧者の戯言ざれごとだ。物事を収めるべく、どのように事なきを得るかに働きかけられない者には言われたくない台詞だ」

「私を無能だと言いたいのか」

 首領は追求に苛立いらだったのか、コレクターの気分を害する内容を吐いた。

 そしてその者は見事に乗っかった。

 いや、乗せられたというべきかもしれない。

「勘違いしてもらっては困るが、君をおとしめるつもりはない」

 すぐさま、訂正に入るのがその証拠である。えて突っかからせ、話題をらそうとする辺り、計算していたのではないかと疑ってしまうほどに。

「この統治領域フィールド仮面装属の統治領域ノーブル・フィールドで仮面を持つことを認められていないにも関わらず、その禁を破ってまで、君は仮面を保持している」

 首領はコレクターが犯す悪行をばらした。

「それだけに留まらず、大量の仮面を抱える、蒐集癖しゅうしゅうへきを君は有している。君の出身である仮面展意の統治領域インテル・フィールドではそのような行為がある程度許されていたとしても、ここでは不味まずい行為だ」

 さらに他にも犯していた悪行もばらした。

 仮面装属ノーブルが送り込んだ密偵が書斎しょさいにいるにも関わらず、堂々と打ち明ける首領。

 所業しょぎょう自体、調査されているため、今さら隠しようがない。仮面装属ノーブルに報告として上げられているため、言い逃れることもできない。

 それでも捕えかねない要因を自ら作り出す始末である。

 非難していたコレクターが危惧きぐした事態に向かっていた。例え裏取りできていたとしても、自供に追い込むような真似に向かわせていたことに違いはない。

 しかし誰もそのことを気にしない。

 図らずも、自身に不利益をもたらす事実を打ち明けられたコレクター然り。

 首領に視線を送られても無視する仮面装属ノーブル刺客しかく、ウィンヴィロード・アマステマイ然り。

 抱える事情は違えど、お互い、今さら何だと突っぱねるかのように沈黙を貫いていた。

「しかし君は考えなしに動いていない。

 俺と手を結ぶことで仮面を手放さないようにしている。外部顧問として組織に協力することで自身を守っている。

 そして俺たちと協力関係にある今でも己の理想のために蒐集しゅうしゅう活動にはげんでいる様を俺は知っている。

 現状に満足せず、邁進まいしんしている様を知っている。

 そのことからして、どうして君を無能と呼べる。誇らしいことではないか」

 誰も口出ししないから首領の話は続いた。 

 無能でないことを説明し、怒りをき出しにするコレクターをなだめる首領。大袈裟おおげさたたえる。

 首領の言動により責める立場がいつの間にか入れ替わっていた。

 しかし首領がコレクターを気に入るのは理解できる。

 配下にあらず、遠慮えんりょなしに文句を言ってきても、距離を取らないのもうなずける。

 実に首領好みの人物である。己の道を邁進まいしんする自身の姿に重なる辺り、そのことがうかがえる。

 首領が言うように仮面装属の統治領域ノーブル・フィールドで仮面を持てる者は限られている。

 集団単位で言えば、仮面装属ノーブル以外、仮面を持つことを許されていない。統治領域フィールドで内紛を起こさないためにも蒐集しゅうしゅうすることを禁止している。正式な担い手は自分たちだけであり、残りは紛い物と見なして駆逐くちくしていた。

 しかし蒐集しゅうしゅう活動に及ばなければ、仮面装属ノーブル以外でも認められている。

 事前に話を通しておけば、仮面装属の統治領域ノーブル・フィールドであっても、仮面を持つことができる。仮面組織パレスの一角である仮面展意インテルもしくは仮面牢武クローザーの関係者たちであれば、自身が持つ仮面くらいは許される。通達した仮面であれば、認められている。

 仮面装属ノーブルにとって憎たらしい存在であっても、同盟関係を結んでいる以上、色々とやり取りがある。その一団を迎えるため、便宜べんぎを図っている。円滑えんかつに事を運ぶため、その辺、割り切っている。

 ただし仮面装属ノーブルが定めた秩序にのっとった範囲でなければならない。

 当たり前ではあるが、悪事を働き、蒐集しゅうしゅう活動に勤しんでいれば、話は大分、変わる。その場合、取り締まられる対象になる。そこに例外はない。

 個人単位で言えば、仮面の適合者バイパーでなければならない。仮面装属ノーブルに属する者、もしくは仮面装属ノーブルから認可を受けた者以外、仮面を持つことは許されていない。先ほどの例外を除けば、それらの条件を満たしておかなければならない。

 その場合の前者は条件付きではあるものの、仮面装属ノーブルに属していれば、仮面の所有は保障される。

 仮面の適合者バイパーに姿を変えられる限り、剥奪はくだつされることはない。失態を積み重ねない限り、そのような仕打ちにはわない。

 逆に後者の場合、いくつかの手順を踏まなければ、仮面を所有する認可は下りず、その保障もない。

 手始めに仮面装属ノーブルに仮面を所有している事実を届けなければならない。

 申し出を行い、仮面の適合者バイパーに姿を変えられるところを見せなければならない。仮面装属ノーブルに貢献しうる人材なのか、見極めなければならない。

 仮面の適合者バイパーに姿を変えられる事実が確認できれば、その者に対して、依頼が投げられる。

 受諾する誓約せいやくを交わし、依頼をこなせば、仮面の所有が認められる。依頼の難易度に応じて、届け出た仮面を所有できる期間が決まる。届け出た者はその期間を獲得するため、依頼をこなしている。

 没収されるのを阻止するため、期間が過ぎないように気を配っている。うっかり過ぎてしまえば、そのような目にう。所有する前提でいるのであれば、当然のことであり、忘れてはならぬことである。

 また仮面を所有する権利とは別に報酬も支払われる。

 内容を明示した上で契約に臨ませている。契約者が選べるように複数の依頼を提示している。自身に見合ったものを選択できるように配慮はいりょしている。

 必ずその中から選ぶ必要もない。

 依頼をえり好みしたいのであれば、数多の依頼が集まる、仮面装属ノーブルの関連組織に向かえばいい。業務代行を募集している組織で管理されている依頼から選び、契約に至り、そして依頼をこなせば、先と同様の資格と報酬が手に入る。

 依頼を受け、成功に導かなければ、仮面を所有する権利は貰えないものの、選択肢を縮める必要はない。仮面の所有を認めさせる方法はいくらでもある。 

 依頼の中身は難易度によって様々である。厄介事であっても、無茶無謀むちゃむぼうなことは強いられない。依頼には必ず仮面装属ノーブルに属する者が同伴することになっている。その者と組み、依頼をこなすことになる。管理下に入り、遂行することになる。圧し掛かる負担が分散されるようになっている。一方的に背負い込むようにはなっていない。

 なぜなら依頼を失敗すれば、その同伴者の評価に関わる。監督不行き届けになり、処罰を受けることになる。組織内での出世や地位に影響が及ぶため、その者も真剣に取り組む。失敗しないように方策を打つ。認可を受けようとする者だけが必死になっていない。

 所謂いわゆる、運命共同体と言ったところだ。互いの協力がなければ、依頼をこなせないかもしれない状況を生んでいる。そのような仕組みにしている。

 そこまでの過程を経て、仮面の所有が認められる。

 いくつもの依頼を受け、何度も成功させれば、仮面装属ノーブルから勧誘を受けるかもしれない。下手を打たない限り、仮面の所有が保障される場所に所属する機会も巡ってくる。同伴者だった仮面装属ノーブルの眼鏡に適えば、1度の依頼でもあり得る。

 その辺は出会いが大きく関わるため、何とも言えない。気にかけてくれる存在がいなければ、話にならない。数をこなせば、湧いてくるとも限らないため、くさらず、頑張る以外ない。

 仮面装属ノーブルに属することを望むのであれば、それは僥倖ぎょうこうであり、望まぬのであれば、依頼を受け続ければいい。各々の選択で仮面装属ノーブルに貢献してもらえれば、組織としては満足である。互いに損はしていない。

 そしてくまでも仮面の所有が認められるのは届け出た人物に限られ、他の者には当てはまらない。

 同じ仮面を使い回ししたいのであれば、それぞれで届け出を行い、資格を獲得しなければならない。

 仮面装属ノーブルから許可を受けていない者が仮面を保持していれば、没収される。

 本来の持ち主から離れた代物であっても、同じである。返却されることはない。強奪され、取り返せなかった時点で諦めてもらう他ない。強引ではあるものの、所持するに相応しくない存在だったと言われれば、それまでである。

 その理屈は仮面装属ノーブルに属する者にも言えることなので、理不尽であっても平等と言える行いである。仮面を失えば、仮面装属ノーブルから追放され、階級ランク役職クラス剥奪はくだつされる。自ら取り戻さない限り、復帰することは叶わない目にわされるため、周囲から文句を言われる筋合いはない。

 どちらにしても仮面の適合者バイパーであり、その力を以ってして、仮面装属ノーブルに利益をもたらせなければ、仮面の所有は認められない。

 貢献に値もしない仮面の保有者ホルダーはもっての他である。仮面に選ばれし者に奪われ、害意を撒き散らされる可能性がはらんでいるため、保持することを認めていない。

 そのこと自体、仮面の適合者バイパーにも言えるが、自身が変身できる分、まだ抵抗が見込める。姿を変えられもしない仮面の保有者ホルダーではその可能性も望めないため、例外なく、取り締まりの対象になっている。

 これらの規定にのっとれば、仮面装属の統治領域ノーブル・フィールド内でコレクターは罪を犯していると言える。首領が指摘する通りである。

 しかしそれは仮面暴徒ブレイカーを率いる首領にも言えることである。

 いくら元仮面装属ノーブルであったとしても、脱退したのであれば、仮面を持つことは認められない。謀反者として扱われている以上、届け出るだけ無駄である。抹殺されるだけである。

 そしてある1人を除けば、仮面暴徒ブレイカーで届け出している者はいない。

 ほぼ全員、規則を無視している。好き勝手に行っている。

 その事情を建前に仮面装属ノーブル仮面暴徒ブレイカーを討とうとしている。

「俺たち個人が掲げるものは違っても、そこに至るには協力するのが合理的だと判断したのであれば、見下すはずもあるまい。機嫌を損なわれては互いの強みが活かせなくなる。提供を拒まれれば、今後の活動が危ぶまれる。己の渇望も遠ざかるものになる。それらの点を考えれば、君をさいなむわけがないだろう」

 早い話、仲間であるから、いじめる真似をしないと首領は言っている。近い将来、道を違えることになるとしても、それまでは仲良くするつもりでいる。

「そう思うのであれば、下手な挑発をしてくるな」

 これ以上、怒ったところで何も良いことはないため、食いつくのを止めるコレクター。今のところ、破産に追い詰められる状況になっておらず、またその前段階にも達していないため、付き合うまでである。

 逃げ切れる状況でもないため、手を振り解かないことにした。仮面暴徒ブレイカーが切羽詰まった状況に追い込まれていれば、それも可能だが、そのときは己の身も危ういと思われる。

 出し抜いて逃げるのも難しいとコレクターは考えている。とらわれの身にならないためにも首領との協力に手を抜くわけにはいかないと思っている。連携に支障を生じさせないためにも手を引くことにした。本気でもない怒りを首領に向けるのを止めた。

 しかしせめてものの抵抗をした。

 言葉遣いを気を付けなければ、裏切ることになるかもしれないぞという意味を込めて、首領に言葉を返す。

 出し抜いて逃げること自体は考えている。すきあれば、離脱することを視野に入れている。ともに沈んでやるほど、れ込んだ仲でもないため、見切りをつけるタイミングを計っている。ギリギリの利益を抱えられるように処置を済ました上で姿を消すつもりでいる。

 そのようなことを考えた上での発言である。

「私は心配しただけにすぎん。お前の命令は配下の願いを切り捨てるものだ。自分たちのやりたいことをやるためにしいたげる存在を取り上げるのはどうかと思ってのことだ。気に食わず、数に物を言わせ、楯突たてついたところでお前に勝てないのは分かり切っている。

 しかしそれがきっかけで仮面の適合者バイパーを失うのは私は嫌だぞ。

 今回の戦いに負けない策だとしても、仲間割れを引き起こす事態に発展させる真似は引き起こしたくないものだ。

 理由は違ってもお前にとっても痛手だろう。共同資産を手放す事態にはしたくないぞ。

 だから口を出さずにいられない」

 あまり刺激させないためにも先の言葉を緩和する。協力相手を気遣っている印象を残すように言葉を添えた。

「苦労の押しつけ先は別の場所を襲えば、すぐに見繕える。風評と脅威を以ってすれば、それは比較的簡単なことだ。一部とはいえ、仮面装属ノーブルを退けた実績をちらつかせれば、難しいことではない。

 しかし仮面に選ばれし者を陣営に迎えることはそういうわけにもいかない。

 占貌せんぼうの仮面とその使い手である女を確保しているから言っても同じことだ。判断は容易くとも、見合う仮面を用意できるかは別だし、その者を引き込めるかどうかも別だ。

 だから規模を削ってまで、一時的に仮面装属ノーブルを退けられても嬉しくはないぞ。

 足止めされ、先に進められないのであれば、目指すところを目指せられなくなる。それだけは勘弁してほしいものだ」

 首領が取ろうとする作戦は間違っていないと評価する。おだてて、気分を害しない方向に持っていく。

 目くじらを立てたいわけではない。首領の行動も理解している。

 苦労の押しつけ先を食い潰してでも、ここに来た仮面装属ノーブルを退けようとしていることくらい、分かっている。今後に向け、手勢を減らさないように動いていることくらい、見抜いている。

 首領の配下が歯向かってきたときにどのような態度を見せるかと思ったから、試しただけにすぎない。下手を打たないためにも練習に付き合ってあげただけだ。

 神経を逆撫さかなでするつもりはあっても、責めるつもりはない。

 そのような意味を持たせた弁明をコレクターは行っている。責めていた部分、手を切るかもしれない材料を隠蔽いんぺいするために。

「身内が裏切るときは君に期待する。この屋敷にある仮面のほとんどは君の所有物だ。安心して任せられる」

 無用な心配はいらないと言ってのける首領。コレクター自身に当たらせることで発生しうる障害を解決していた。

 首領が言う、コレクターの支配下の例外にある存在を指差しつつ、コレクターが気にかける危惧きぐを潰していると本人に説明した。

 そそのかしても、術中にはまらない者たちもいる。独り勝ちしようとするものではない。仮面の適合者バイパーとしての資格を失うことはもちろん、そこで将来を途絶えさせたくないのであれば、裏切る真似は止めておけ。下手に動くべきではない。

 釘を刺しつつ、首領はコレクターを持ち上げる。警戒に目を向けさせないためにも調子に乗せようと画策する。さらなる面倒を抱え込まないためにも必要な措置を取った。

「そう思うのであれば、貸してやった仮面を失わせてくれた責任をどう取るつもりだ。私の蒐集しゅうしゅう物の補填ほてんをどうしてくれる」

 しかし裏目に出てしまった。

 今日、バイ・カンポのせいで仮面が壊れた件に口を尖らせるコレクター。

 最初に問いかけたときは違い、すごみを利かせる。不機嫌そのものであった。

 依存していることを強調しすぎたせいでコレクターの心象しんしょうを刺激してしまった。

「仮面が壊れた責任をこちらに求められても困る。お互い、同意を得た上であの者に仮面を渡した。立ち会いに応じておきながら、今さら、文句を言うものではない」

 しかし首領は問い詰めに来た相手の態度を全く気にしていなかった。

 仮面を借り受けている身でありながら、開き直っている。

「気性が荒いのは知っていただろう。仮面を与えれば、よりままに振る舞うのは分かり切っていたことだ。

 それでも迫る危機に抗うためには仕方なかったのではないか。

 俺も不安はあったが、使える者は使うべきであろう。然るべき過程を得ずに何人も増員したのは心苦しいかもしれないが、ここでついえるよりははるかにマシであろう。

 それを分かった上で俺の誘いに乗ってくれたのではないか」

 くまでも協議の末に決着をつけたと言い張る首領。主義を多少曲げてでも付き合ってくれているのではないかとさとしにかかる。

 この統治領域フィールドの秩序に反し、すねに傷を持つ者同士でもあるため、過度に持ち上げることはしなかった。来賓らいひんとしてではなく、互いの協力者として身を寄せているため、そこまで丁重に扱わなかった。

「それでも自覚を持ってほしいものだ。

 仮面に選ばれし者にはそれなりに振る舞ってもらいたいものだ。未熟であっては仮面がいくつあっても足りない」

 全てのままが通じないことはコレクターも分かっている。今ここで実力行使に出られれば、敗北するのは目に見えている。首領個人の実力を正しく見積もれているため、み込める部分はみ込んだ。

 それでも己の信条に従い、行動するコレクターにとっては譲れないことだった。

 だから食いかかる。

 冗談など、一切なく。関係を続けていきたいのであれば、頭に入れていて欲しいものだという意味を込めて。その言葉を以ってして、これ以上の追及は避けようとしていた。

「君のこだわりはわかっている。

 だからこれから先のことを話し合っておきたい」

 首領も余計に食いかかる真似はせず、話を切り上げる。

 仮面を集めるだけにき足らず、それに相応しい存在を見つけ、そこに宿る性質を振る舞わせる。

 使い手の器量にまで気にかける、コレクターの神経質な部分を首領は知っている。

 仮面とその使い手を1つと見なし、その組み合わせで手元に置く。仮面に宿る性質を行使するに相応しき存在に囲まれ、日々を堪能たんのうする。反意を拝むことのない日常で生きていく。

 所有するため、売買するため、観賞するためなど、蒐集しゅうしゅうを足がかりに欲を満たすのはありふれたことである。

 しかし一種の道具として扱う、その境地は異端そのものである。

 主を殺せば、手元にある仮面を己の意思で自由に扱える。

 その意味を忘れさせるほどの手綱たづなを握る者でなければ、到底無理な話である。

 少なくともそれを可能にするだけの何かがない限り、ここまでの理想は掲げ続けられない。

 コレクターはそれを可能にする方法を知っており、欲していた。実現の見込みを抜きにして、蒐集しゅうしゅうが認められている仮面展意の統治領域インテル・フィールドで活動に勤しみ、没収される覚悟で仮面装属の統治領域ノーブル・フィールドに乗り込んだのもそれが理由だ。

 無謀むぼうなのは分かりつつも、手に入れる算段を高めるため、範囲を拡張した。

 その結果、当時、仮面装属ノーブルの一員だった首領に出会い、意気投合した。凡人では持ちこたえられない、その異常までな精神と行動に首領が共感して、手を結んだ。

 コレクターが欲しがる代物を用意すること。

 仮面とその使い手を結びつける代物を用意すること。

 そして先の役割を果たす人物を用意することを約束して、首領はコレクターに申し入れた。

 その約束のうち、2つは首領が仮面装属ノーブルから出奔しゅっぽんする際に解決し、それによりコレクターは首領の傍に付いた。

 そして程なくして、残る1つも果たされるとコレクターは首領の申し入れを受け入れ、正式な協力者になった。

 けではあったものの、奇跡的にもコレクターが望んだ方法を自身が使いこなせたから、手を切らずに済んだ。

 お互い、見合う価値を交換して、仲良くやっている。

 お互い、交換している価値を見逃すほど、甘くはない。

 お互い、相手のふところにある自分の価値を回収しないまま、たもとを分かつつもりはない。

 全ては己の野望のために動いている。そのため、相手が不遜ふそんな態度を取っても、ある程度、許している。失うわけにもいかないから、要求をんでいる。簒奪さんだつされるわけにもいかないから、従っている。

 取り戻せるのであれば、また話は変わってくるが、そういうわけにもいかない現状だから、今は成りを潜めている。

 単純に相手の価値を利用しなければ、成り立たない状況でもあるため、裏切ることもできない。

 従えさせられない己の不甲斐ふがいなさもあるため、厳しく接することもはばかれる。

 自前で用意できず、代替の目処が立たない以上、頼る以外、他にない。利用できるうちは利用し、障害になり得るその日まで、相棒と見なしていくしかない。

 お互い、それを理解した上で行動している。

「君が傷物にするなと俺に命じた女2人の件も含めてな」

 だから首領はコレクターのままを受け入れている。

 自身にとっても実のある話でもあるため、許している。

占貌せんぼうの仮面を扱える女の有用性は当然だけど、享受きょうじゅの仮面を扱える女がこちらに来れば、大分、お前の計画も進むであろう。陣営に迎えれば、情報収集の道具として重宝すること、間違いないだろうよ」

 例え、片方は可能性にすぎない話ではあっても、余り酷な仕打ちはしていない。機会損失を失わないためにも確保している。

 配下のたける情熱のけ口にしていない。配下をなぐさめる女性は別に用意しており、そこまで手荒にしていない。

 しかしくまでも他の女性と比較してという意味であり、従順に動くようには強いている。

 逆らった場合の仕打ちを緩めている程度である。即処分に走らない措置を施しているにすぎない。

 占貌せんぼうの仮面を扱える女性に関しては配下も納得している。特別扱いする理由を求めに来ない。実演しているから文句を言わない。

 それぞれに相応しい仮面の正体を探り、実際に仮面があれば、授けている。

 どの仮面を持ち合わせているかは配下に知らされておらず、また授けるタイミングは首領のさじ加減である。

 それでも授けられる側が利益を手にすることに変わりない。

 戦いの際、前線を張ることにはなるものの、よりままに生きることができる。

 平時であれば、仮面を持たぬ者に雑務をなすりつけることができる。

 どちらが勝つか等、考えるまでもないため、その者は大人しく従う。

 なすりつける側は時間的余裕が増えるため、己の趣味に興じられる。指名でもされない限り、楽ができるため、悪いことばかりではない。

 そういう事例があるため、占貌せんぼうの仮面を扱える女性を特別扱いしても何ら問題もない。恵みがあることを教えているため、なだめるのは容易だった。

 しかし享受きょうじゅの仮面を扱えるかもしれない女性を特別扱いしていることに関しては納得していない配下もいる。

 何ももたらしていないから当たり前と言えば、当たり前である。実績がないため、そのように扱う意味と言われれば、それまでである。

 仮に首領たちが望む状態で彼女を手中に収めたとしても、配下が自由に扱えるものではない。配下個人の理由で使わせるつもりはないため、秘密にしておきたいと首領は思っている。都合の悪い事実が暴かれる可能性もあるため、限られた者たちだけでいいと考えている。

 公にしたくない事情があるため、それなりの理由で浸透させている。

 正体を探るために捕らえている。

 仕向けられた理由を知るために尋問じんもんしている。裏に潜む存在の意図を推察するために捕らえている。

 誰かに雇われておらず、個人の意思で動いているとすれば、その目的が何かを知るために尋問じんもんしている。他にも味方がいるか、聞き出すために捕らえている。

 その名目で動いているため、手厳しいことを封印させている。死んでしまえば、情報は手に入らないため、禁じている。

 さらに尋問じんもんの場に首領もしくは副首領が立ち合うことで過剰な仕打ちを阻止していた。

 瞬時につかみ、すぐにでも動き出すためにも張りついていた。捕縛した時期的にもそうだったため、初動は大事だった。嘘を吐いているつもりはなかった。誘導しているだけにすぎなかった。

 実際にその女性が何も語らないから、対処の施しようがなかった。多少、痛めつけても、はずかしめても状況は何も変わらなかったため、困り果てていた。

 しかし名目に現実味が帯びて、ある意味、幸運と言えた。

 彼女の存在が不気味ではあるものの、配下の疑問をかわすには有効だった。

「君の言う通りだな」

 現時点にいて利益を上げられている点、そして将来的にも利益が見込める可能性がある点で首領は女性2人を確保している。

 コレクターの話に迎合するのはそれがあってのことだ。ご機嫌取りで丁重に扱っているわけではない。

「死なないでくれるのは嬉しい限りだ。使い切りでないのは非常に助かる。記録が確かであれば、君の言う通り、情報収集で重宝すること、間違いない代物だ。

 しかし過去に使いこなせた者がいないから疑わしい限りだ。

 何せ、過去に被った誰もが仮面の適合者バイパーになったが、その瞬間にこの世を去っていたからだ。もたらしたものを利用できた試しがないから信じ切れないところもある。占貌せんぼうの仮面で選ばれし者もいなかったから何とも言えん」

 享受きょうじゅの仮面に素晴らしい一面があるものの、その信憑性しんぴょうせいは欠けていた。期待を寄せてもいいものか判断に迷うところである。

 しかし今、処断できることではないため、そこまで深く悩む必要はない。

 享受きょうじゅの仮面を手に入れたときに彼女に被せてみれば、記録の真偽が明かされる。役に立つか否かはそのときに考えればよい。捕えている女性が従順してくれることも含めて、検討すればよい。

 今はそこに思考を傾けている場合でもないため、放置している。その局面に陥ったときに労力を注ぎ込めばいいので、首領は目をつぶっている。来たる時まで無視することにしている。

「そういう情報は君が所属する管轄パーティーが詳しいだろう。諜報局サイレントパーティーのレクタ・オーンよ」

 自身の語りを裏付けるためか、今まで会話に加わらなかった存在に話題を振る首領。わざとらしく話に加わるように仕向けた。敵対するであろう現役の仮面装属ノーブルの人間を輪に迎えようとする。

「数秒、持ちこたえられればいい方らしい。そのような事例は数百にも及ぶ実験で確認できたようだが、結局、亡くなる始末だ。外す暇なく、天にされる結果を繰り返すから、仮面装属ノーブルはその実験を中止にした。

 伝承を検証できないままに終わったという話を身内の先輩から伺っている」

 口を閉ざし、微動だにしなかった男性は饒舌じょうぜつに語った。敵対するであろう仮面暴徒ブレイカーに対して、己の正体をあっさりと明かして、首領の問いに応じた。

「死刑道具としては優秀でした。実際に使われはしなかったが、そう例える人もいました」

 面白くもない冗談を披露して、話を先に進める。

「しかし再び行えと上層部から言われたところでも行えない実験でもある。

 何せうの昔に奪われてしまったものだから、どうすることもできない。侵入者たちに多大な損害を負わせたようだが、見事に奪われてしまった。堅牢けんろうだった守備を見直す羽目になるほどの被害にわされた事件だ」

 素性は偽っているものの、自身が所属する組織を陥れる切り口にもなり得る話も披露する。

 歯向かう存在を敵と見なす仮面暴徒ブレイカー然り、仮面展意インテルに広まるかもしれない者の前で身内の無様さを明かした。背任行為だと受け取れてもおかしくない行動を犯した。

「そんな話は知っている。前にあんたが教えてくれたことじゃないか」

 仮面装属ノーブルからの刺客しかく、ヴィンヴィロード・アマステマイ、もといここではレクタ・オーンと名乗る男性は組織の権威けんい失墜しっついさせてはならないことを理解した上で冒していた。

 そしてコレクターは何も驚くことなく、文句を言う。

 口を割った者の方に顔を向け、悪態を吐く。取り押さえられる心配もせず、平然としていた。

 かの者が仮面装属ノーブルに属していることを知っているから驚愕きょうがくしないのは当然と言える。仮面暴徒ブレイカーくみする者と知っているからこそ、そこまでおそれていない。警戒しても、過敏にならないのはそういう事情があるからだ。

「まあ、そう言うな。俺がいて、それに答えてくれただけにすぎない。君が俺に女2人の有用性を改めて説いたのと同じだ。実現すれば、仮面を手に入れる目星がつけられやすくなるのだから、はしゃがないでくれると助かる」

 喧騒けんそう慌ただしくなる前に首領は仲裁に入る。その者も首領の大事な協力者であるため、機嫌を損なわせないように接する。元身内であることを知った上で手を結んでいる。利害が一致しているが故に仲良くしている。

 そして今裏切られては困るため、関係を取り持った。

 ここで野望がついえないためにも気遣った。

「ともかく、享受きょうじゅの仮面に相応しい人間を見つけられたのは幸運だった。まだ仮面を手に入れておらず、伝承の実証も済んでいないが、もしものことを考えれば、大事にしておくべきことだ」

 茶々を入れられる前に話を先に進める首領。

「あのとき、君の助言通り、占貌せんぼうの仮面で調べておいて良かった。あれがなければ、連れ込まれた初日に潰す判断を下していたに違いない。事切れるまで何度も猪突ちょとつ仮面の適合者バイパーに立ち向かってきた、あの女の尊厳をはずかしめていただろう」

 無能な判断を止めてくれた感謝をコレクターに伝える。

「もちろん、その情報をもたらした君にも感謝している。有益さを語ってくれなければ、処分していたかもしれない。考えを見直す機会を貰えて、嬉しく思っている」

 角が立たないように仮面装属ノーブルの密偵にも気を遣う首領。

 決して嘘を吐いているわけではない。事実に対し、評価を下しているにすぎない。めるには十分な材料だったから利用しただけにすぎない。

 いさかいに発展しないのであれば、首領は泥も被る所存でいる。理想が果たされるのであれば、躊躇ためらわず、実行に移す。

 ただ、それだけである。

「俺たち3人にとって、幸ある未来にするためにも君たちに頼みたいことがある」

 そのためにも話を戻す。無駄話はこれくらいにして、準備を進めることにした。配下には荷が重い役割を2人に任せるつもりでお願いする。

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