1章3節2項(18枚目) 作戦会議(仮面装属)

 ホコアドクの外。町唯一の出入口の目と鼻の先。

 仮面装属ノーブルはそこに拠点を築いている。監視・ねぐら・資材置き場など、様々な用途を盛り込んだ簡易的な基地を構築している。

 大輪開いた悪意を封じ込めるために行われている。

 それ故に分かりやすい場所に構えている。視線が通りやすい場所で張っている。

 取り逃がさない狙いがあって、この場所を選定している。

 威圧いあつしていることを嫌でも相手に理解させる目論見があって、この場所に建てている。

 それらの目的が町中では果たせそうにないから、外に布陣している。

 討伐にいた人員や物資の置き場も考えると、町中で展開するのは難しいと判断した。

 事前調査の結果を受け、町中での構築は早々に諦めた。

 町中であっても、場所を分散すれば、全ての目的は果たせる。

 しかしそこにこだわっていない。

 その点を重視していないため、切り捨てた。

 様々な事情を抱え、現在、仮面装属ノーブル仮面暴徒ブレイカー討伐のために準備を整えている。拠点構築はその一環であり、他にもやるべきことがあるため、割り振って、進めている。

「恥ずかしく思わんのか」

 ここは先に組み立てたテントの中。椅子いすに腰かける1人の男が声を荒げる。

「この程度の内容しか残せないくせに仮面暴徒ブレイカーの抵抗グループを名乗るとはな。自称でも痛々しい限りだ」

 この男、今回の仮面暴徒ブレイカー討伐部隊の総司令官、キハル・ソンシャン。仮面装属特務局ノーブル・レェインパーティー第三等級熟練者サード・エキスパートに位地する者が吐き捨てた。

 興味が失せ、目を通していた資料を机に落としながら。

「人に伝達する文面になっていないにも程がある」

 苦言を呈した中身に言及した。

 そして捨てた資料を指差し、払い退けるように手振りをした。

「全く、その通りかと思います。実際に目にしますと、酷い有り様です」

 その姿を見た男、今回の仮面暴徒ブレイカー討伐部隊の副司令官、レック・レーフェンはその指示に従った。仮面装属諜報局ノーブル・サイレントパーティー第五等級熟練者フィフス・エキスパートに位地する者が処分するつもりの資料を手に取り、キハルの意見に同調した。

「全くだ。愚痴ぐちつづった内容をよく報告書とのたまえたものだ」

 キハルが言うように抵抗グループが渡した用紙に書き込まれていた情報は仮面暴徒ブレイカーが起こした出来事に対する不満で占められていた。

 一応、何に対しての不満かは把握できるものの、その把握に時間を要してしまう内容だった。

 日時・場所・被害状況が抽象かつ曖昧あいまいである。流れに沿っておらず、一色単にまとめられていた。

 一度読み通し、その後で挙げられた事柄を自身で整理しなければ、つかめない代物だった。読み進めていく段階で理解するのは困難だった。

 たかぶった感情を乗せに乗せた構成になっていたため、内容が滅茶苦茶であった。事実と私情が重なっており、その線引きを難しくしていた。

 人一倍悔恨かいこんが強く、圧倒的な隔たりのある仮面暴徒ブレイカーに怯え、直接訴えられない気持ちだけは文章を通して理解できる。

 しかし状況説明としては失格である。

 全体を見据みすえ、求められる成果を上げなければならない者からすれば、出来栄えは不十分であった。

 理想を追求すべく、至る所に指示を出す。その結果を受け止め、その上で指示を出す。

 ときには理想の水準を下げる決断を強いられる場面もある。足並みを揃えるべく、全体の認識を上書きに走らなければならない場面もある。理想と現実との板挟みとなり、その妥協点を探り、行動しなければならない。

 理想を放棄ほうきできる情勢でもなければ、歩みを止めることは許されない。譲れないものであれば、あるほどに。

 故に統率者は常に頭を悩ませる。理想を現実に落とし込むことに奔走ほんそうする。

 そのことに時間を注ぎ込みたい者からすれば、解読作業に時間を要したくなかった。

 そこに重要な情報が記述されているのであればまだしも、その情報すらなかった。仮面暴徒ブレイカーの首領の正体や行動の目的、そして保有する戦力など、敵対者を退ける足がかりとなるべき肝心な情報が欠如していた。

 だから本当に時間の無駄であった。

 抵抗グループから受け取った情報を要約する作業自体は別の者にやらせた。その内容を聞いた上で、キハルもその内容に目を通した。全て自身でまかなうことに比べれば、作業時間は短縮できており、煩雑はんざつさも低減できた。理解もしやすかった。

 それでも労力に見合った情報は手にできなかった。

 噂や新聞などで手にできる被害状況がより鮮明になったにすぎない。討伐に役立つ情報はなく、相手にするだけ無駄だったと認識するばかりであった。

「1年近くも自分たちの町を占拠されておきながら、この程度しか分かっていないとは。半年くらい前から潜入している諜報局局長サイレント・マスターの方がよっぽど分かっておるわ」

 抵抗グループを見下し、身内の有能さを自慢するキハル。

「まあ、その点は比べるまでもありません。比較すること自体、烏滸おこがましいと言えます」

 レックも上司の意見に同調した。

 彼が補足するように一般人と比べるまでもなかった。

 仮面装属ノーブルは優秀な人材を集め、各分野に登用している。それぞれの能力に見合ったところに配置し、遺憾いかんなく、力を発揮してもらい、実績を上げてもらっている。

 仮面の適合者バイパーであれば、大抵、本部に配属される。統治機構の中心部で持てる能力を発揮してもらっている。

 逆に仮面の適合者バイパーでなければ、仮面装属ノーブルの実働を大きく支える専門機関や本部の窓口となる支部に配属される。仮面装属ノーブルが下した決定を実現すべく、日夜勤しんでいる。

 本部に所属する仮面の適合者バイパーの下で直接働く場合もあるが、その場合、専門機関や支部から借り受けた形となる。仮面の適合者バイパーでもない限り、本部に抱え込まれることはない。

 もちろん仮面の適合者バイパーも専門機関や支部に配属される。

 しかしその場合、何かしらの役職クラスを担い、派遣される。

 支部長や統括長や専任講師など、色々な立場で各所に回される。各所を円滑に循環させるため、派遣される。その職務・職場・区間などにける責任者を仮面装属ノーブルでは、役職クラスと呼んでいる。

 ホコアドク治安局行動隊長がその枠組みに入る。彼も仮面装属ノーブルの一員であり、ホコアドク治安局に派遣された仮面の適合者バイパーである。

 町の行政機関の1つ、治安局に貸し出された形である。ホコアドクも最終的な監督先は仮面装属ノーブルになるものの、直接関わる自治体ではなかったため、そのような配属になっている。

 その話はさておき、仮面装属ノーブルに所属する仮面の適合者バイパーであれば、8つの階級ランクに分けられる。

 3階級ランク初級者ビギナーと5階級ランク熟練者エキスパートで構成されている。第三等級初級者サード・ビギナーが最も低く、第一等級熟練者ファースト・エキスパートが最も高い。

 階級ランクが高くなればなるほど、行使できる権限も強くなり、重要な役職クラスを任せられる。各管轄パーティーの最高責任者である局長マスターやその補佐である副局長サブマスターなどに任命される。

 階級ランクは功績と今後の期待の表れで授与される。その実力を仮面装属ノーブルでは、階級ランクと呼んでいる。

 しかし功績が大きくとも、度々、問題行動を起こす者であれば、飛躍は難しい。

 組織に貢献をもたらす者として、上層部に認められなければ、実力と階級ランクは見合わないものとなる。組織をあだなす、危険因子ととらわれる。

 そして仮面の適合者バイパーやそうでない者問わず、仮面装属ノーブルに集いし者は8つの管轄パーティー、どこかに所属する形となる。

 戦闘局マーシャルパーティー守護局ガーディアンパーティー諜報局サイレントパーティー断罪局ジャッジメントパーティー蒐集局コレクションパーティー政略局タクティクスパーティー工作局ストラクチャパーティー、そして特務局レェインパーティー

 職務に特化した部門のどれかに組み込まれる。その単位を仮面装属ノーブルでは、管轄パーティーと呼んでいる。

 それぞれの管轄パーティーを軽く紹介すると、戦闘局マーシャルパーティーは戦闘を生業とした集団。攻勢に転じ、標的の武装を無力化に図る活動に勤しんでいる。

 守護局ガーディアンパーティーは防衛を生業とした集団。対象の健在を優先し、外敵がばら撒くものから守り通す活動に勤しんでいる。

 諜報局サイレントパーティーは密偵および探索を生業とした集団。情報収集とその操作により、時世を乱さず、発展へと促す雰囲気作りに勤しんでいる。

 断罪局ジャッジメントパーティーは裁定および執行を生業とした集団。不穏分子を摘発てきはつし、均衡きんこうの取れた調和な統治領域フィールドを目指し、活動に勤しんでいる。

 蒐集局コレクションパーティーは仮面の管理を生業とした集団。仮面の回収とその保管、そして相応しき存在に授与して、さらなる発展に繋げる存在に仕立て上げる活動に勤しんでいる。

 政略局タクティクスパーティーは各自治体や支部や関連組織の運営を生業とした集団。立案面・実務面・外交面など、様々な手腕を以ってして、各所を潤滑じゅんかつに回す活動に勤しんでいる。

 工作局ストラクチャパーティー特務局レェインパーティーを除いた、各管轄パーティーへの支援を生業とした集団。資材調達や人材発掘など、各管轄パーティーの職務に支障をきたさないように活動に勤しんでいる。

 特務局レェインは各管轄パーティーの監督を生業とする集団。管轄パーティー単体による判断や対処が難しい事案に取り組み、組織存続を理念に活動に勤しんでいる。

 今回の討伐は撲滅ぼくめつだけを目的にしていないため、本部所属の各管轄パーティーから仮面の適合者バイパーが集められている。撲滅ぼくめつの任務を十分に果たせる戦闘局マーシャルパーティーだけに絞っていないのはそのためである。

 また討伐事情を外部にらさない意味で専門機関や支部に所属する仮面の適合者バイパーに声をかけていない。

 ただしそれは慎重に期しただけであり、理由は他にある。

 単純に務める役職クラスから離れてもらっては困るため、声をかけていない。業務に支障を生じさせない面が大きい。不慮ふりょの事故で失脚しっきゃくする可能性を考慮こうりょして、今回の討伐から外している。異動も楽ではないため、控えてもらう形となった。

 しかしその点があっても、必要な人材は揃っている。

 仮面暴徒ブレイカーの討伐に参加する正式な仮面の適合者バイパーは全部で19名。

 まず仮面暴徒ブレイカー討伐部隊の総司令官。

 特務局レェインパーティー第三等級熟練者サード・エキスパート、キハル・ソンシャン。今回の討伐部隊はいくつもの管轄パーティーが入り乱れた編成となっているため、各管轄パーティーに介入できる職務に就く者に任された。

 続いて仮面暴徒ブレイカー討伐部隊の副司令官。

 諜報局サイレントパーティー第五等級熟練者フィフス・エキスパート、レック・レーフェン。

 残る討伐参加者は以下の通り。

 戦闘局マーシャルパーティー第四等級熟練者フォース・エキスパート、セリュ・トーリ。

 蒐集局コレクションパーティー第五等級熟練者フィフス・エキスパート、カステロイド・ジェネシード。

 戦闘局マーシャルパーティー第一等級初級者ファースト・ビギナー、ライク・シン。

 工作局ストラクチャパーティー第一等級初級者ファースト・ビギナー、ハロルド・ローハイ。

 戦闘局マーシャルパーティー第二等級初級者セカンド・ビギナー、ウィルソン・ウール。

 守護局ガーディアンパーティーの構成員で編成された6人組の1チーム。

 断罪局ジャッジメントパーティーの構成員で編成された3人組の2チーム。

 非公式な参加者も含めれば、20名になる。

 仮面暴徒ブレイカーに潜入している諜報局局長サイレント・マスター、ヴィンヴィロード・アマステマイ。階級ランク第二等級熟練者セカンド・エキスパート

 この者は情報の横流しに徹しており、直接、仮面暴徒ブレイカーと対峙することはない。それ故に今回の討伐参加者から外している。

 またこの者から流される情報の受け皿として、同管轄パーティーのレックを副司令官に充てている。

 当然、副司令官に任命してもおかしくない、指揮官としての最低限の実力は備わっている。レックより階級ランクが上であるセリュをえて退けた理由はそこにある。端役を用意したつもりはない。

 このように仮面装属ノーブルには様々な分野に強みを持つ人材が集められており、その中から選ばれた者が今回の討伐に挑んでいる。

 その時点で優劣は決まっていた。抵抗グループとの差は歴然としたものであり、比較すること自体、おかしかった。

「奴らの存在など、最初から当てにしていないからそれはいい」

 愚物ぐぶつだと分かり切っていたため、キハルは抵抗グループをまともに見ていなかった。

「時間も限られていますし、私の直属の上司、諜報局局長サイレント・マスターが集めた情報を改めて確認いたしましょう」

 流れにならい、レックも話題を打ち切り、今回の討伐へと移していく。

 そのために一度、キハルの前から離れた。役に立たない用紙の束を捨てるために。身内が調べ上げた資料を携えるために。

 用意が整ったところで再びキハルの前に立ち、口を開く。

「調査の結果、仮面暴徒ブレイカーが抱える仮面の適合者バイパーは20名。その内の1人は諜報局局長サイレント・マスターになりますから、全部で19名になります」

 レックは手元の資料に目を落とし、その存在に触れていく。

「カマイタチの仮面の適合者バイパーのアストロン・イルルイド。仮面暴徒ブレイカーの首領であり、組織の象徴。元仮面装属戦闘局ノーブル・マーシャルパーティー第三等級熟練者サード・エキスパートでもあります。

 今から2年前に仮面装属われわれを裏切った大逆人。追っ手として放たれた戦闘局マーシャルパーティーとその管轄パーティーの関連組織の構成員、そして先代戦闘局局長マーシャル・マスター虐殺ぎゃくさつして、脱走に成功した謀反人むほんにんであります」

 その者こそ、仮面装属の統治領域ノーブル・フィールドの南方に位置するホコアドクを不当占拠し、仮面装属ノーブルに討伐対象と見定められた暴力組織の首領の正体である。今まで表沙汰おもてざたになっていなかった存在である。

「2つの仮面を持ち逃げし、その後の足取りは不明でしたが、1年ほど前に仮面暴徒ブレイカーを立ち上げました。重要な役どころを除けば、若者で構成された組織です。その組織が仮面装属の統治領域ノーブル・フィールドに名をとどろかせています。

 ただ自身の名を表に出さなかった理由は今も分かっていません。

 自身の存在をほのめかせず、吹聴ふいちょうする真似をしていません。仮面装属われわれおとしめていないのはありがたい話ではありますが、その理由が分かりませんので、不気味ではあります」

 情報収集とその操作を専門とする職務に就く者。その最高責任者が調査しても、分からない部分はあった。

 その事情は脱走者の腹心にならない限り、判明しないことだろう。

 そこまで良好な関係を築くのはさすがの諜報局局長サイレント・マスターでも無理だったという話であろう。懐柔かいじゅうに時間が足りなかったということだろう。

「狙われることにビクついていないのは確かだ。怯えていれば、わざわざ内情を探らせようと仕向けるくらいに目立つ行動も起こさない。表に名をせず、慎重に行動していたに違いない。末端を切り捨て、自身が生き残れるように組織を構築するはずだ」

「首領の正体が判明した時点で過去の資料を探りましたので、それについては同感です。好戦的な性格でしたあの者が今まで控えていた方が不思議です」

 元身内であったこそ、おそれていないと推察できた。両者の意見は一致していた。

「狙いはあるのだろうが、今は捨て置こう。早々に明かすとしても、討伐部隊われわれほうむってからであろうしな」

 憶測おくそくではあるものの、キハルは何かしら想像できていた。仮面装属ノーブルにとって、悪辣あくらつな未来が。

仮面装属われわれの影響力を削ぐときに仕掛けると思われます。

 元とはいえ、悪逆を働く者が身内にいたことを広め、仮面装属われわれに反抗する不穏分子を増やすつもりでいるのではないでしょうか。不満を抱かせ、その者たちに厄介事を起こさせ、仮面装属われわれの身動きを封じるのが狙っているのではないでしょうか。小規模でありますが仮面暴徒ブレイカーに続かんと行動を起こす事例がありますので、その可能性は十分にありえます。自分たちが今以上に好き勝手にするためにも、まだ惜しんでいるのではないかと考えられます」

 レックも同じだった。キハルがえて口にしなかったことを語るあたり、想像に及んでいた。討伐が失敗すること自体、許されないと分かっていつつも。

 間違ってもそのような未来に辿たどらないように心がけていたが故に思い起こしていたのであろう。任務の成功を絶対とするために。

「仮にその不穏分子を暴れさせずとも、勢力に取り込み、拡大も狙えます。討伐に来た仮面装属われわれを退けることを証明できれば、それも夢ではありません。仮面装属われわれからすれば、よろしくない事態ではありますが」

 自らの力を喧伝けんでんできれば、傘下さんかを増やすのも難しいことではない。

 悪辣あくらつに生きたいが、取り締まれたくない。途中で終わらせたくはない。

 金持ちになりたいが、苦汁を味わいたくない。楽して儲けたい。

 人を意のままにはべらせたいが、報復は受けたくない。裏切られたくはない。

 そのように思う者の後ろ盾になる約束を持ちかければ、目論見は果たせる。資本・資材・人材の提供と組織への忠誠を約束させれば、それも夢ではない。

 持ちかける側にあめを差し出せば、下に付くのも悪くないと考える。出費を差し引いても、十分な魅力みりょくがあるため、乗らない手はない。

 持ちかけられる前に門を叩く者も現れる可能性もある。仮面装属ノーブルを退けるほどの組織を味方にできると思い、自ら頭を下げに来る者がいてもおかしくない。

 仮面装属ノーブルによる仮面暴徒ブレイカーの討伐が失敗に終われば、そのような未来もありえる。

「そして他の仮面組織パレスの介入も望んでいるのではないでしょうか。

 弱みに付け込み、仮面装属われわれの弱体化に走らせ、統治領域フィールドの拡大を望むように仕向けるかもしれません。仮面の再現を試みる仮面展意インテルであれば、その手に乗るかもしれません。探求のため、統治領域フィールド割譲かつじょうを望んできてもおかしくありません。

 仮面暴徒ブレイカーからすれば、目のやり場が移ってくれるので、喜ばしいばかりかと考えられます」

「奴もそこまでは望んではいないだろう。他の仮面組織パレスの介入で自分たちがままに振舞えなくなるのを嫌うだろうしな」

 レックの意見に途中まではうなずいていたが、最後だけは否定するキハル。

 しかしばっさりとはいかない。

 可能性を残すようにレックの意見を修正する。

「気に留めておくが、その辺も含め、今は触れないでおこう」

 余計なことに突っ込まず、先に進めろと暗に促すキハル。

 仮説を積み重ねても、裏付ける証拠がなければ、それは妄想もうそうである。

 分からないことに時間を費やしても、可能性を芽吹かせるだけである。選択肢が増えても決定づける材料にはならない。虚構きょこうを現実に変える、何かしらの起爆剤がなければ、行動の起こしようがない。その状態で実行に移しても、望む結果は上げられず、損失が増えるだけである。

 偶然、引き当てる可能性にける状況に追い込まれてもいない限り、闇雲に走るわけにもいかない。手段が出尽くしてもいない限り、その希望にすがるのは早すぎると言える。

 出自を明かすタイミングとその狙いは今も諜報局局長サイレント・マスターに探らせている。事情の把握に努めており、忘れているわけではない。

 そのときが来るまで待っている。他にもやるべきことがあるため、先にそちらを片付ける。

 分からないうちはあらゆる可能性を視野に入れる。突発的な出来事に対応できるように備えている。

 それくらいしかできないため、判明している情報の認識合わせを先に済ませる。ただそれだけである。

「かしこまりました。

 それでは首領が表明しない理由は放置させていただきます」

 キハルの意図を読み取り、理解したことを明かして、話を先に進めていくレック。

「次第に悪名が高まる仮面暴徒ブレイカーの内情を探るべく、仮面装属われわれ諜報員ちょうほういんを何人も送り込み、調査に当たらせました。

 しかしその全てと連絡が途絶えてしまい、内情は明かされませんでした。

 それで業を煮やした私の直属の上司であります、諜報局局長サイレント・マスターが自ら動き、密偵にはげみました。その結果、仮面暴徒ブレイカーを率いる者が元仮面装属ノーブルの構成員だと判明しました。仮面暴徒ブレイカーに属する人数、仮面暴徒ブレイカーに個人的に協力する者の存在、主力となる仮面の適合者バイパーなど、情報が鮮明になるにつれ、討伐の準備は推し進められ、現代に至っています」

「そういうことだ。局長マスターに位地する者が全て強者というわけではない。戦闘能力や職務にける実力より統率力が優先されるから、必ずしもね退けられるわけでもない。意に沿わぬ者にやられるのも普通に起こる。

 それでも戦闘局マーシャルパーティーを冠する者を負かすほどだと、さすがに脅威きょういだと思われても仕方がない。

 だから私が仮面暴徒ブレイカー討伐部隊の総司令官として任命された。

 先代戦闘局局長マーシャル・マスターを倒した実績のあるアストロン・イルルイドを仕留められる存在として白羽の矢が立てられたわけだ。

 特務局レェインパーティーであり、原初の仮面ルートの1つでもある仮面の適合者バイパーのこの私、キハル・ソンシャンが選ばれた。原初の仮面ルートを基に作られたとされる、そこいらの複製の仮面ブランチの使い手に負けるつもりはない。その1人である仮面暴徒ブレイカーの首領を名乗るアストロンにも当然、負けるつもりはない。格の違いを叩き込んだ上で殺してやる」

 そのような経緯があって、仮面装属ノーブル本部の選りすぐりの仮面の適合者バイパーがホコアドクに詰め寄っている。仮面暴徒ブレイカーの討伐参加に都合がつく人材という制限は科せられているものの、今回の任務を十分に遂行できるだけの人材は揃えられたとキハルは自負している。

 特に世界にばら撒かれたとされる特殊な仮面の祖と言われ、強力な性質を宿している仮面の使い手であるキハルは、部隊の中でも優秀だと断言できる実力を有していると自惚うぬぼれている。

 普段から抱く揺るぎのない自信と確固たる誇りに加え、今回の仮面暴徒ブレイカー討伐部隊の総司令官に任命されたことで、その想いをさらに増長させている。

 事実、キハルが持つ仮面に宿る性質は生易しいものではないため、浸ってしまうのも無理はない。

「あなた様の素晴らしさは今さら評価するまでもありません。

 しかし相手はその者だけではありません。

 我々も招集されていることをお忘れなきよう、よろしくお願いいたします」

 めつつも釘を刺すレック。彼1人の手で全て解決するのであれば、部隊を率いていないのは明白であるため、足元をすくわれるように密かに口にした。無礼であると知りつつも。

 調子に乗るなと言っているような物言いでもあるため、そのことでとがめられないうちに話を進める。

「残る仮面暴徒ブレイカーが抱える仮面の適合者バイパーで重要な役どころに就く者を挙げますと、、岩の仮面の適合者バイパーのダイガ・ロンロッソン。仮面暴徒ブレイカーの副首領であり、実務面にける最高責任者です。首領の右腕に当たります。

 それに続いて、放射の仮面の適合者バイパーのフレン・ストレージと反射の仮面の適合者バイパーのシュシュン・ストレージ。現場監督兼執行者の役割を担っている双子の兄弟です。兄がフレン、弟がシュシュンです。

 副首領は彼らに同年代である配下の掌握しょうあくを命じています。副首領は配下も含めた彼らの成果に応じて、首領の思想を実現すべく、指示を出している模様です。

 副首領が彼らより一回り上ですので、妥当ではあります。年の近い者同士で苦楽を共にさせ、団結を高めようと考えているのでしょう。

 後、仮面暴徒ブレイカー内で指揮する権限を有していないものの、個人的に仮面暴徒ブレイカーに協力している、所有の仮面の適合者バイパーのコレクター。

 通称で押し通す、この者は仮面暴徒ブレイカーの主力となす仮面を提供したとのことです。アストロンが仮面装属われわれから持ち逃げした仮面の1つであり、原初の仮面ルートの1つでもあります所有の仮面と100枚の仮面を交換して、手に入れたとのことです。

 未だに協力している理由は不明ですが、標的の1つに数えています。取り返さなければならない仮面を保有していますので対象に含めています。

 仮面暴徒ブレイカーに潜入しています諜報局局長サイレント・マスターは首領の懐刀として扱われていますが、それは除外しています。

 仮面暴徒ブレイカーで重要な役どころに就いている仮面の適合者バイパーは以上となります。

 他は猛牛・念力・あり占貌せんぼう猪突ちょとつ仮面の適合者バイパーになります。あり仮面の適合者バイパーに関しますと、10人いるそうです。

 仮面暴徒ブレイカーが抱える仮面の適合者バイパーは以上になります」

 レックは間を空けることなく、資料にまとめられていた内容を読み上げた。直属の上司である、諜報局局長サイレント・マスターの部分は即興で付け加えられたものではあるものの、判断として間違っていなかった。

 キハルも解釈を間違っていないと判断したから口出すことなく、レックが読み上げる事柄に相槌あいづちを打っていた。

「いえ、最新情報を加味すれば、全部で18名です。ウィルソンが猪突ちょとつ仮面の適合者バイパーを始末しましたので、主戦力は減っていました」

 ふと思い出し、内容を訂正するレック。

 その瞬間に大きく溜息ためいきを吐くキハル。

「そうだったな。思い出したくもないのだが、あの馬鹿が勝手に宣戦布告したのだったな」

 今まで堂々と構いていたキハルだが、ウィルソンの話題になると、態度を大きく変えた。机に顔をうずめるほど、気を重くしていた。

手筈てはずはきっちりと教え込んだはずだ。そうだよな。お前も聞いていたよな。そうだと言ってくれ」

 顔を上げないまま、レックに同意を求めるキハル。泣き言をかますほどに病んでいる。

「はい。私も同席して、あの者の返事を耳にしました。本部を出発する前に2回、進軍中に3回、ホコアドクに着いたと同時に1回、計6回とも私が教え込みました。指示があるまで、絶対に仮面暴徒ブレイカーに手を出すなと言い含めました」

 右手で顔を覆い、キハル同様にうんざりとした態度で返事するレック。苦労しているのはキハルだけでなく、両者は同志であった。ウィルソンの行動に手を焼いていた。

 悪辣あくらつな手に染める仮面暴徒ブレイカーをいち早く倒し、一番の被害者である町の人たちを救い出す。それを為し得れば、他に被害を受ける人たちも救えるため、絶対に潰す。

 平定に目を向けてくれていること自体、悪いことではない。

 しかし物事には段取りというものが存在する。

 ところ構わず、突っ込んでも、被害は悪戯いたずらに増えるばかり。

 単純に考えて、仮面装属ノーブルとその下位組織を総動員すれば、仮面暴徒ブレイカーの問題は早々に片付く。

 けれど他のことがおろそかになる。

 新たな問題や抑え込んでいた障害が表に出てしまうのは目に見える。統治領域フィールド混沌こんとんに導く事態に発展するのは分かり切っている。

 そこまで踏まえた上で問題に対処しなければならない。他で弊害へいがいを発生させないように推し進めなければならない。確実に被害は生じるとしても、その影響が波及しないように努めなければならない。

 そのような当たり前のことを理解していないから、キハルとレックは困り果てている。

 志高く、情熱あふれる者であっても、そこに能力が備わっていなければ、実績は上げられない。知識や技術や運など、成し得るだけの何かとみ合わなければ、夢幻ゆめまぼろしである。

 育成機関であれば、弾かれて当然の人材である。相性のいい仮面を授与する機会もなかった。

 しかしウィルソンは勧誘で仮面装属ノーブルに入った。

 今は在籍していないが、当時、声をかけられた者により、ウィルソンは仮面装属ノーブルに迎えられた。人々に対するあり余る慈愛じあいと実力が見込まれ、輪に加わった。所属する時点で狼の仮面の適合者バイパーだったため、大いに組織に貢献してくれるものだと思われていた。

 けれどふたを開ければ、欠陥品だった。

 ままに振舞い、人々をいじめる者たちを許せず、突っ走る傾向にある。指示や作戦の無視は当たり前、加害者が抵抗するのを止めても殺してしまうことが山ほどあった。

 自身が納得しなければ、平気で約束を破る。被害者に痛めつけた分はその者に代わり、痛めつけ返す。

 そのようなことを繰り広げるから、被害を撒き散らす。身内だけでなく、周囲の評判も下げる。

 最終的に解決に繋がっている。

 けれど余計な問題にも対処する事態を招いている。

 仮面装属ノーブルに負担が圧し掛かり、毎度、迷惑をかけている。

 だからウィルソンの階級ランクは中々上がらない。

 戦闘能力だけで言えば、第五等級熟練者フィフス・エキスパート匹敵ひってきし、下手すれば、第四等級熟練者フォース・エキスパートに届くやもしれない実力がある。

 しかし度重なる問題行動と反省の皆無さで昇級は見送られている。

 当人はそれを全く気にしていないため、毎度、功績とともに多大な問題を持ってくる。経緯に裏付けられた問題児であるため、本部に配属されている。

 僻地へきちに飛ばしても、問題を起こすのが目に見えている。事態の収拾も遅くなるため、目の届くところで監視している。

 今回の討伐も選出しなければ、独断で仕掛けていたため、仕方なく引き入れた。上層部の意向で面倒を見る羽目になった。前々から勝手に飛び込もうとしていたから、その予想は容易にできた。

 今日もお目付け役の目をい潜り、町に出かけ、猪突ちょとつ仮面の適合者バイパーを成敗した。途中で連れ戻さなかったら、仮面暴徒ブレイカーが拠点にする屋敷に乗り込んでいたことであろう。

「先代と当代の戦闘局局長マーシャル・マスターはよくあれに腹を立てなかったものだ。私だったら、速攻で首にしている。文字通りの意味で。何なら今すぐにでも」

 机に押しつけていた顔を上げ、テントから出ようとするキハル。あまりにも腹が立ったので、拘束しているウィルソンの下に向かおうとする。

「まあまあまあまあ。落ち着ていください。あれも今回の討伐にいて、必要な人材ですから、大目に見てください」

 いきどおるキハルをなだめるレック。出口へと向かおうとするキハルの前に立ちはだかり、押し留める。レックはキハルより大柄であるため、先に進むことを上手く阻めた。

 細身であり、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうに鍛え上げていないキハルでは押し勝てないのも道理である。ぶつかっても無意味であることはすぐに悟れた。

 この落ち着きぶりではどちらが総司令官か分かったものではない。

「遅かれ早かれ、あれは処分しますので、わざわざ手を下す必要はないでしょう。上層部の指示で抹消することは確定していますので、直接、手を下すのは生き残ったときに取っておいていただけないでしょうか」

 彼の肩を持つかと思えば、違った。使い潰す算段があったため、レックは気長に入れただけだった。

 仮面暴徒ブレイカーに倒されたホコアドク治安局行動隊長が戦闘局マーシャルパーティー第一等級初級者ファースト・ビギナーだったことを考慮こうりょすると、討伐部隊は熟練者エキスパートで固めたかった。

 しかし問題児を処分する事情があったため、討伐部隊に初級者ビギナーも混ぜている。

 頭が回らないウィルソンに勘づかれるとは思えないが、念を期した。熟練者エキスパート匹敵ひってきする初級者ビギナーを2人、紛れ込ませることで隠蔽いんぺいを図っている。

 ハロルド・ローハイは昇級試験と称して、討伐に参加させている。

 もう1人、育成機関から輩出されて1年経過したばかりの新人、ライク・シンを抜擢ばってきしている。

 全てはウィルソン・ウールをほうむるために画策された。処分するに都合のいい案件があったから、そこにじ込んだ。仮面暴徒ブレイカーの討伐がなければ、別の方法で処分していたことだろう。

 当然、仮面暴徒ブレイカー討伐部隊の総司令官を務めるキハルもそのことを上層部から教えられているが、このとき、失念していた。ウィルソンの単独行動に大変腹を立てていたために。

「討伐を行う際、ウィルソンに先陣を切らせ、奴が死んだところで真の先陣を送り込む予定ですので、それまで我慢していただけないでしょうか。腹を立てる者を直接、始末できないのは残念かと存じ上げますが、ここは1つ、手を引いてください」

 説得にはげむレック。一応、戦力に数えているウィルソンの始末を待ってもらうように試みる。冷静でないキハルの気を静め、席に戻そうとする。

「冗談に決まっておろう。本気にするな」

 レックに言われるまでもなく、理解していると答えるキハル。立ちはだかるレックに背を向け、元居た場所に戻った。

 身にまとう空気と態度が本気だったのでとても冗談ととらえることはできなかった。

 それを口にすれば、関係がこじれることは明白だったため、レックは口を結んだ。これ以上の面倒は勘弁してほしかったが故に。

「とりあえず、やるべきことは変わらない。残りの主戦力の到着を待つ。守護局ガーディアンパーティー断罪局ジャッジメントパーティーの計3チームが合流してから仮面暴徒ブレイカーの討伐を開始する。それまでは構築する陣地から牽制けんせいする。プレッシャーをかけ、肉体的にも精神的にも消耗させ、討伐を有利に進める。いつ攻め立てるか、緊張させる。

 奴らの仮面の適合者バイパーが増えたと急な報告を受けなければ、合流予定の3チームを増員する必要もなく、またこのような工作を仕掛けることもなかった。

 しかしなげいても仕方がない。

 痛い目にうよりはマシだ。戦力をケチったせいで失敗したくはないからな。

 あの馬鹿の挑発のせいで攻め入られる可能性は高まってしまったが、そこは諜報局局長サイレント・マスターの手腕に任せよう。当初の予定通り、屋敷に釘付けるように頑張ってもらおう。用心することには変わりないが、負担は仮面暴徒ブレイカーよりマシであろう」

 先ほどの怒りが嘘のようにキハルは冷静に話を進めていく。方針を固めていく。悔やんだところでも過去は変えられないため、今後に視野を向けたようだ。

「こちらとしてはそのように願うしかありません。私たちではどうしようもありませんので、信じる他、ありません。

 ただウィルソンと違い、諜報局局長サイレント・マスターは上手く仮面暴徒ブレイカーを制してくれることでしょう。伊達に局長マスターの座に就いていませんので心配ないかと思われます」

 レックも穿ほじくり返すことなく、話を合わせる。

「そうだな。管轄パーティー階級ランク、そして役職クラスから見ても、信頼に足る御方だ。戦闘バカのあやつと一緒では逆に困る。上層部は何を以ってして、人選しているのか、悩むほどに困惑してしまう」

 撤回しよう。冷静ではなかった。先ほどのように行動を起こすまでではないものの、引きずっていた。表情や行動に落とし込まないだけであって、言動には見え隠れしていた。

くまでも今回の討伐は、人々の安寧あんねいのために行動している。悪逆を働く存在を罰するために動いている。

 人々が暮らす世界を悪戯いたずらに不安であおり、動揺させる真似は許さない。立ち上げを認めないし、存在し続けるのも拒否する。仮面装属ノーブルの目が届く限り、阻んでやる。

 そこを間違えるな。各地に流布るふした内容を忘れるな」

 気を取り直し、キハルは討伐の主旨を語った。

 素直に受け取れば、正しき秩序を取り戻すため、罪を犯した者たちを取り締まる。仮面暴徒ブレイカーあおりを受ける人々の苦しみを取り除くべく、部隊を率いている。

 意地悪な見方をすれば、仮面装属ノーブルの息がかかっていない存在の擁立ようりつを拒絶するために動いている。築いた庭園をむしばむ害虫を駆除するつもりで討伐におもむいている。

 果たして、どちらが真意であることやら。

 後者に至れば、数多の人に害を及ぼすのだから、悪いことではない。

 しかし数多の人に幸ある場合であれば、どのような選択をするのか、見ものである。

 そのときが訪れれば、仮面装属ノーブルの存在意義が問われる。

 今がそのときではないから、推し量れない。残念ではあるものの、仕方がない。

「過去の清算と悪しき未来の断絶。隠すにはうってつけの大義であります」

 レックの口から本音がこぼれる。外野からそこを突かれないためにも、討伐の意図を表明している。誤解されてもおかしくない内容にしているのはそのためである。仕向けるためにえて行っている。

「裏切り者と危険因子の抹殺、そして簒奪さんだつされた物の奪還。おまけで持ちぐされとなっている仮面の回収。

 芽吹く秩序の伐採と揶揄やゆされる戯言ざれごとなど、勝手に思わせておけばいい。自分たちの意のままにならぬ存在を認めぬ所業に邁進まいしんするための建前にすぎんと疑われても構わん。

 そのような認識はこれからの行動で示せば、いくらでも上書きできる。弁論を交わすだけ、無駄だ。我々は絶対という保障は保証しない。

 その上書きすら、できない状況に追い込まれないためにも、えて、誤解を生む表明を流している。

 長きに渡り、この星に君臨してきた仮面装属ノーブル転覆てんぷくさせる事態には発展させないためにも、糾弾きゅうだんは甘んじて受けてやる」

 レックが口にした内容に呼応して、キハルはその意味を紐解いていく。互いの認識を合わせるという思惑で。

 現状、自分たちに対抗できる個人と集団が仮面装属の統治領域ノーブル・フィールド内にいないと思い込んでいるから、ここまで強気でいられる。

 ふんぞり返られるのはいくらでもやりようがあると思っているからである。

 事実、その力があるから、決して自惚うぬぼれでもないと言える。

「おっしゃる通りです。仮面装属ノーブルに所属する仮面の適合者バイパー、それぞれの思惑は違っても、その点だけは共有しています」

 レックもキハルと同様の認識だった。真意と傲慢ごうまんな面ですれ違うことはなかった。

「しかしぎつけられる前に終わらせるべきだ。

 情報源が限られているとはいえ、仮面暴徒ブレイカーに迫らせることだけは阻止しなければならない。火消しに走るのも面倒だ」

 それでもいつまでも放置するつもりはなかった。

 キハルは早々に片を付ける気でいる。

「それとあの者が持ち去った仮面、所有の仮面と占貌せんぼうの仮面も回収しなければなりません。あれが解き放たれたままですと、仮面装属われわれとしても不都合ですから、速やかに終わらせなければなりません」

「そうだな。所有の仮面は仮面の適合者バイパーにとって、理不尽とも言える性質を宿した仮面だ。敵に回したくない代物だ。

 そして占貌せんぼうの仮面は勢力拡大にうってつけの仮面だ。

 仮面暴徒ブレイカー仮面の適合者バイパーを抱える数を増やせる秘密はそこにある」

 仮面暴徒ブレイカーの首領に奪われた仮面の存在価値を語るキハル。レックが危険視する理由はそこにある。キハルもその脅威きょういを理解している。

「そこまでの事情を踏まえた上で行動すれば、ウィルソンも処分されることはなかったのですが」

 何か訳を臭わせるような言葉を吐くレック。うんざりとしていた割に気にかける様子を見せる。

「仕方あるまい。仮面装属ノーブルに所属する価値すらなかったということだ。まさかとは思うが、同情しているのか。処分されては困ることが個人的にあるのか」

 その意味深長な言葉に反応し、問いかけるキハル。

滅相めっそうもございません。ただ哀れだと思った次第です」

 間を空けることなく、返事するレック。やましいことは一切ないと証明するが如く。

「そうか。下手に勘繰かんぐって、すまない」

「謝罪されることではありません。お気になさらないでください」

 何事もなかったかのように話を流す。 

「そうか。

 では仮面暴徒ブレイカーの討伐に向けて、より詳しい擦り合わせでもしよう。

 現場での指示を混乱させないためにも念入りにやっておこう」

 それを受けて、次の話題へと移った。

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