1章3節2項(18枚目) 作戦会議(仮面装属)
ホコアドクの外。町唯一の出入口の目と鼻の先。
大輪開いた悪意を封じ込めるために行われている。
それ故に分かりやすい場所に構えている。視線が通りやすい場所で張っている。
取り逃がさない狙いがあって、この場所を選定している。
それらの目的が町中では果たせそうにないから、外に布陣している。
討伐に
事前調査の結果を受け、町中での構築は早々に諦めた。
町中であっても、場所を分散すれば、全ての目的は果たせる。
しかしそこに
その点を重視していないため、切り捨てた。
様々な事情を抱え、現在、
「恥ずかしく思わんのか」
ここは先に組み立てたテントの中。
「この程度の内容しか残せないくせに
この男、今回の
興味が失せ、目を通していた資料を机に落としながら。
「人に伝達する文面になっていないにも程がある」
苦言を呈した中身に言及した。
そして捨てた資料を指差し、払い退けるように手振りをした。
「全く、その通りかと思います。実際に目にしますと、酷い有り様です」
その姿を見た男、今回の
「全くだ。
キハルが言うように抵抗グループが渡した用紙に書き込まれていた情報は
一応、何に対しての不満かは把握できるものの、その把握に時間を要してしまう内容だった。
日時・場所・被害状況が抽象かつ
一度読み通し、その後で挙げられた事柄を自身で整理しなければ、
人一倍
しかし状況説明としては失格である。
全体を
理想を追求すべく、至る所に指示を出す。その結果を受け止め、その上で指示を出す。
ときには理想の水準を下げる決断を強いられる場面もある。足並みを揃えるべく、全体の認識を上書きに走らなければならない場面もある。理想と現実との板挟みとなり、その妥協点を探り、行動しなければならない。
理想を
故に統率者は常に頭を悩ませる。理想を現実に落とし込むことに
そのことに時間を注ぎ込みたい者からすれば、解読作業に時間を要したくなかった。
そこに重要な情報が記述されているのであればまだしも、その情報すらなかった。
だから本当に時間の無駄であった。
抵抗グループから受け取った情報を要約する作業自体は別の者にやらせた。その内容を聞いた上で、キハルもその内容に目を通した。全て自身で
それでも労力に見合った情報は手にできなかった。
噂や新聞などで手にできる被害状況がより鮮明になったにすぎない。討伐に役立つ情報はなく、相手にするだけ無駄だったと認識するばかりであった。
「1年近くも自分たちの町を占拠されておきながら、この程度しか分かっていないとは。半年くらい前から潜入している
抵抗グループを見下し、身内の有能さを自慢するキハル。
「まあ、その点は比べるまでもありません。比較すること自体、
レックも上司の意見に同調した。
彼が補足するように一般人と比べるまでもなかった。
逆に
本部に所属する
もちろん
しかしその場合、何かしらの
支部長や統括長や専任講師など、色々な立場で各所に回される。各所を円滑に循環させるため、派遣される。その職務・職場・区間などに
ホコアドク治安局行動隊長がその枠組みに入る。彼も
町の行政機関の1つ、治安局に貸し出された形である。ホコアドクも最終的な監督先は
その話はさておき、
3
しかし功績が大きくとも、度々、問題行動を起こす者であれば、飛躍は難しい。
組織に貢献をもたらす者として、上層部に認められなければ、実力と
そして
職務に特化した部門のどれかに組み込まれる。その単位を
それぞれの
今回の討伐は
また討伐事情を外部に
ただしそれは慎重に期しただけであり、理由は他にある。
単純に務める
しかしその点があっても、必要な人材は揃っている。
まず
続いて
残る討伐参加者は以下の通り。
非公式な参加者も含めれば、20名になる。
この者は情報の横流しに徹しており、直接、
またこの者から流される情報の受け皿として、同
当然、副司令官に任命してもおかしくない、指揮官としての最低限の実力は備わっている。レックより
このように
その時点で優劣は決まっていた。抵抗グループとの差は歴然としたものであり、比較すること自体、おかしかった。
「奴らの存在など、最初から当てにしていないからそれはいい」
「時間も限られていますし、私の直属の上司、
流れに
そのために一度、キハルの前から離れた。役に立たない用紙の束を捨てるために。身内が調べ上げた資料を携えるために。
用意が整ったところで再びキハルの前に立ち、口を開く。
「調査の結果、
レックは手元の資料に目を落とし、その存在に触れていく。
「カマイタチの
今から2年前に
その者こそ、
「2つの仮面を持ち逃げし、その後の足取りは不明でしたが、1年ほど前に
ただ自身の名を表に出さなかった理由は今も分かっていません。
自身の存在を
情報収集とその操作を専門とする職務に就く者。その最高責任者が調査しても、分からない部分はあった。
その事情は脱走者の腹心にならない限り、判明しないことだろう。
そこまで良好な関係を築くのはさすがの
「狙われることにビクついていないのは確かだ。怯えていれば、わざわざ内情を探らせようと仕向けるくらいに目立つ行動も起こさない。表に名を
「首領の正体が判明した時点で過去の資料を探りましたので、それについては同感です。好戦的な性格でしたあの者が今まで控えていた方が不思議です」
元身内であったこそ、
「狙いはあるのだろうが、今は捨て置こう。早々に明かすとしても、
「
元とはいえ、悪逆を働く者が身内にいたことを広め、
レックも同じだった。キハルが
間違ってもそのような未来に
「仮にその不穏分子を暴れさせずとも、勢力に取り込み、拡大も狙えます。討伐に来た
自らの力を
金持ちになりたいが、苦汁を味わいたくない。楽して儲けたい。
人を意のままに
そのように思う者の後ろ盾になる約束を持ちかければ、目論見は果たせる。資本・資材・人材の提供と組織への忠誠を約束させれば、それも夢ではない。
持ちかける側に
持ちかけられる前に門を叩く者も現れる可能性もある。
「そして他の
弱みに付け込み、
「奴もそこまでは望んではいないだろう。他の
レックの意見に途中までは
しかしばっさりとはいかない。
可能性を残すようにレックの意見を修正する。
「気に留めておくが、その辺も含め、今は触れないでおこう」
余計なことに突っ込まず、先に進めろと暗に促すキハル。
仮説を積み重ねても、裏付ける証拠がなければ、それは
分からないことに時間を費やしても、可能性を芽吹かせるだけである。選択肢が増えても決定づける材料にはならない。
偶然、引き当てる可能性に
出自を明かすタイミングとその狙いは今も
そのときが来るまで待っている。他にもやるべきことがあるため、先にそちらを片付ける。
分からないうちはあらゆる可能性を視野に入れる。突発的な出来事に対応できるように備えている。
それくらいしかできないため、判明している情報の認識合わせを先に済ませる。ただそれだけである。
「かしこまりました。
それでは首領が表明しない理由は放置させていただきます」
キハルの意図を読み取り、理解したことを明かして、話を先に進めていくレック。
「次第に悪名が高まる
しかしその全てと連絡が途絶えてしまい、内情は明かされませんでした。
それで業を煮やした私の直属の上司であります、
「そういうことだ。
それでも
だから私が
先代
そのような経緯があって、
特に世界にばら撒かれたとされる特殊な仮面の祖と言われ、強力な性質を宿している仮面の使い手であるキハルは、部隊の中でも優秀だと断言できる実力を有していると
普段から抱く揺るぎのない自信と確固たる誇りに加え、今回の
事実、キハルが持つ仮面に宿る性質は生易しいものではないため、浸ってしまうのも無理はない。
「あなた様の素晴らしさは今さら評価するまでもありません。
しかし相手はその者だけではありません。
我々も招集されていることをお忘れなきよう、よろしくお願いいたします」
調子に乗るなと言っているような物言いでもあるため、そのことで
「残る
それに続いて、放射の
副首領は彼らに同年代である配下の
副首領が彼らより一回り上ですので、妥当ではあります。年の近い者同士で苦楽を共にさせ、団結を高めようと考えているのでしょう。
後、
通称で押し通す、この者は
未だに協力している理由は不明ですが、標的の1つに数えています。取り返さなければならない仮面を保有していますので対象に含めています。
他は猛牛・念力・
レックは間を空けることなく、資料に
キハルも解釈を間違っていないと判断したから口出すことなく、レックが読み上げる事柄に
「いえ、最新情報を加味すれば、全部で18名です。ウィルソンが
ふと思い出し、内容を訂正するレック。
その瞬間に大きく
「そうだったな。思い出したくもないのだが、あの馬鹿が勝手に宣戦布告したのだったな」
今まで堂々と構いていたキハルだが、ウィルソンの話題になると、態度を大きく変えた。机に顔を
「
顔を上げないまま、レックに同意を求めるキハル。泣き言をかますほどに病んでいる。
「はい。私も同席して、あの者の返事を耳にしました。本部を出発する前に2回、進軍中に3回、ホコアドクに着いたと同時に1回、計6回とも私が教え込みました。指示があるまで、絶対に
右手で顔を覆い、キハル同様にうんざりとした態度で返事するレック。苦労しているのはキハルだけでなく、両者は同志であった。ウィルソンの行動に手を焼いていた。
平定に目を向けてくれていること自体、悪いことではない。
しかし物事には段取りというものが存在する。
ところ構わず、突っ込んでも、被害は
単純に考えて、
けれど他のことが
新たな問題や抑え込んでいた障害が表に出てしまうのは目に見える。
そこまで踏まえた上で問題に対処しなければならない。他で
そのような当たり前のことを理解していないから、キハルとレックは困り果てている。
志高く、情熱
育成機関であれば、弾かれて当然の人材である。相性のいい仮面を授与する機会もなかった。
しかしウィルソンは勧誘で
今は在籍していないが、当時、声をかけられた者により、ウィルソンは
けれど
自身が納得しなければ、平気で約束を破る。被害者に痛めつけた分はその者に代わり、痛めつけ返す。
そのようなことを繰り広げるから、被害を撒き散らす。身内だけでなく、周囲の評判も下げる。
最終的に解決に繋がっている。
けれど余計な問題にも対処する事態を招いている。
だからウィルソンの
戦闘能力だけで言えば、
しかし度重なる問題行動と反省の皆無さで昇級は見送られている。
当人はそれを全く気にしていないため、毎度、功績とともに多大な問題を持ってくる。経緯に裏付けられた問題児であるため、本部に配属されている。
今回の討伐も選出しなければ、独断で仕掛けていたため、仕方なく引き入れた。上層部の意向で面倒を見る羽目になった。前々から勝手に飛び込もうとしていたから、その予想は容易にできた。
今日もお目付け役の目を
「先代と当代の
机に押しつけていた顔を上げ、テントから出ようとするキハル。あまりにも腹が立ったので、拘束しているウィルソンの下に向かおうとする。
「まあまあまあまあ。落ち着ていください。あれも今回の討伐に
細身であり、
この落ち着きぶりではどちらが総司令官か分かったものではない。
「遅かれ早かれ、あれは処分しますので、わざわざ手を下す必要はないでしょう。上層部の指示で抹消することは確定していますので、直接、手を下すのは生き残ったときに取っておいていただけないでしょうか」
彼の肩を持つかと思えば、違った。使い潰す算段があったため、レックは気長に入れただけだった。
しかし問題児を処分する事情があったため、討伐部隊に
頭が回らないウィルソンに勘づかれるとは思えないが、念を期した。
ハロルド・ローハイは昇級試験と称して、討伐に参加させている。
もう1人、育成機関から輩出されて1年経過したばかりの新人、ライク・シンを
全てはウィルソン・ウールを
当然、
「討伐を行う際、ウィルソンに先陣を切らせ、奴が死んだところで真の先陣を送り込む予定ですので、それまで我慢していただけないでしょうか。腹を立てる者を直接、始末できないのは残念かと存じ上げますが、ここは1つ、手を引いてください」
説得に
「冗談に決まっておろう。本気にするな」
レックに言われるまでもなく、理解していると答えるキハル。立ちはだかるレックに背を向け、元居た場所に戻った。
身に
それを口にすれば、関係が
「とりあえず、やるべきことは変わらない。残りの主戦力の到着を待つ。
奴らの
しかし
痛い目に
あの馬鹿の挑発のせいで攻め入られる可能性は高まってしまったが、そこは
先ほどの怒りが嘘のようにキハルは冷静に話を進めていく。方針を固めていく。悔やんだところでも過去は変えられないため、今後に視野を向けたようだ。
「こちらとしてはそのように願うしかありません。私たちではどうしようもありませんので、信じる他、ありません。
ただウィルソンと違い、
レックも
「そうだな。
撤回しよう。冷静ではなかった。先ほどのように行動を起こすまでではないものの、引きずっていた。表情や行動に落とし込まないだけであって、言動には見え隠れしていた。
「
人々が暮らす世界を
そこを間違えるな。各地に
気を取り直し、キハルは討伐の主旨を語った。
素直に受け取れば、正しき秩序を取り戻すため、罪を犯した者たちを取り締まる。
意地悪な見方をすれば、
果たして、どちらが真意であることやら。
後者に至れば、数多の人に害を及ぼすのだから、悪いことではない。
しかし数多の人に幸ある場合であれば、どのような選択をするのか、見ものである。
そのときが訪れれば、
今がそのときではないから、推し量れない。残念ではあるものの、仕方がない。
「過去の清算と悪しき未来の断絶。隠すにはうってつけの大義であります」
レックの口から本音が
「裏切り者と危険因子の抹殺、そして
芽吹く秩序の伐採と
そのような認識はこれからの行動で示せば、いくらでも上書きできる。弁論を交わすだけ、無駄だ。我々は絶対という保障は保証しない。
その上書きすら、できない状況に追い込まれないためにも、
長きに渡り、この星に君臨してきた
レックが口にした内容に呼応して、キハルはその意味を紐解いていく。互いの認識を合わせるという思惑で。
現状、自分たちに対抗できる個人と集団が
ふんぞり返られるのはいくらでもやりようがあると思っているからである。
事実、その力があるから、決して
「おっしゃる通りです。
レックもキハルと同様の認識だった。真意と
「しかし
情報源が限られているとはいえ、
それでもいつまでも放置するつもりはなかった。
キハルは早々に片を付ける気でいる。
「それとあの者が持ち去った仮面、所有の仮面と
「そうだな。所有の仮面は
そして
「そこまでの事情を踏まえた上で行動すれば、ウィルソンも処分されることはなかったのですが」
何か訳を臭わせるような言葉を吐くレック。うんざりとしていた割に気にかける様子を見せる。
「仕方あるまい。
その意味深長な言葉に反応し、問いかけるキハル。
「
間を空けることなく、返事するレック。やましいことは一切ないと証明するが如く。
「そうか。下手に
「謝罪されることではありません。お気になさらないでください」
何事もなかったかのように話を流す。
「そうか。
では
現場での指示を混乱させないためにも念入りにやっておこう」
それを受けて、次の話題へと移った。
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