第三章・飛翔編
第26話
―――秋がドラゴン・レイオニクスを倒してから二週間が経過した。
「………ふう」
秋は一人いつもの白い部屋である神界で一人息をついた。辺りには巨大な生物の死骸にまみれており、完全に殺戮現場と化していたその場所に、秋は息を吐きながら立っていた。
「全く、この二週間でお主も変わったわい―――まさかサイクロプス、ケンタウロスロード、悪鬼などの強大な魔物を複数体用意しても瞬殺するとは……お主、もうそろそろ行けるかもしれんのぉ…?」
「いや、まだだ、異世界では何が起こるか分からない、とまでは言わない。さすがにこの程度の事が日常茶飯事だったら怖いが、爺さんの話を聞いている限りそんなことはなさそうだ。だが、万が一。という言葉がある。その万が一を潰すために、今の俺はいる」
「―――そうかい。お主がそこまで言うなら付き合うとも。次は何がいい?」
「爺さんのお任せでいい。後は任せる」
「あい分かった」
そう言い残すと秋は、この二週間を振り続けた二対の武器――片手に銃。片手に刀を構える。もちろん制作は魔剣創造スキルで行った。魔力をフルに使い完成させることのできた一級品。名前を『創刀:百忌』と『創銃:グラハムザード』と呼ぶ。その相称は『創具シリーズ』だ。
刀は刃は銀色に輝くが、それ以外が黒という至ってシンプルな武器。故に相手にダイレクトな恐怖とその武骨さから感じる事の出来る純粋な殺意を思わせる一刀。
そして銃は白と金が混じったテイスト。デザインは完全に西洋の旧世代前のゴチャゴチャしたものが色々付いている現代のそれこそ無骨な拳銃とは違うが、それでも魔力を火薬替わりに、これまた魔力を弾丸にして発車する事が出来る強力な武器だ。
「では、行くぞ」
「ああ、こい」
ゼウスがモンスター―――スカルデッドキングと、キングダムスケルトン。それに不死の王を召喚する。
秋はと銃を持ってすぐさま突撃。剣劇と銃撃。そしてスキルの力全てを使ってあの魔物たちを文字通り圧倒する。
(秋。お主はどこまで行こうとしとるんじゃ?―――まあ良い。強いに越した事はないが、それでも………それでも。儂は心配じゃ。自分の力は、今異世界の魔王をすら超えようとしておるのじゃぞ?)
ゼウスは異世界イーシュテリアに秋を送り出すにあたって調べを進めているが、当然魔王の事も頭に入っている。だがいかに今回の魔王が過去最強であったとしても、秋の様にあのレベルの魔物たちを複数相手にしてあそこまでの圧倒を見せることができるかと言われれば否だ。その点において秋は魔王に勝利している。
―――ドォォォォォン!!
そして最後の一隊が今死んだ。骨肉は少しの間死骸として残った後。完全にゼウスのスキルによって与えられた生命エネルギーが尽きると、完全に粒子となって消えていった。
「はぁ。また瞬殺かの。もうお主は魔物たちを相手にしても完全に圧倒できるだけの力を入手しておるの―――しかも、スキルもまた増やしおってからに、そろそろ抜かされるかの~?」
そう。秋はこの二週間の間。戦闘訓練だけをしていたわけではないのだ。
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ステータス
中宮秋
15歳
学生
魔力:208000/169000
スキル
・運命と次元からの飛翔LVMAX
・スキルランダム創造LVMAX
・完全武装術
・極・創魔導法
・魔剣創造・極
・メーベル=アイズの盾
・存在格天元突破
・真血の魔眼
構成要素確認
~~~~~~~………
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「ああ、基本的にはこんなものだな。防御・攻撃に使うスキルから魔眼での索敵や探索。他には成長補正に魔剣というオリジナル攻撃手段。まあざっとこんなものじゃないか?」
「ああ、こんなものを二週間で創造しものにしとる。さすがは天才といってもええかもしれんな」
「チェッ、全く世辞しか言わねえぞこの爺さん。魔眼のスキルとしては完全に仕上がっているはずなのに、どうしてかステータスの全貌が分かんねえんだよなぁ…」
「ホッホ。あまり神というものを舐めちゃいかんよ、ホッホッホ」
「まあいい。まだまだ要素による強化は出来そうだからな、実際に『メーベルの盾』が真化に成功した。首を洗って待ってろよ爺さん?」
「ホッホ。お手柔らかに頼むよ」
そう。スキル能力の中の一つに存在していた『真化』それが開花して新たにスキルが成長しているものもあった。代表としてはこの『メーベル=アイズの盾』だろうか。これは元『メーベルの盾』だったものが、秋の余った際に創造していたランダムスキルをひたすら分解する事で手に入れる事の出来た構成要素に反応し進化したのだ。
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メーベル=アイズの盾
昔、強大な敵に傷をつけられた者が、もう二度と傷をつけられるような戦いをすることがないようにとの願いを込めて作られたスキル。仲岡秋専用。
・防御力強化
防御力が飛躍的に増大する。肉体・骨・神経や細胞に至るまでの全体的な強度と耐久性などを上昇させる。
・魔力防御強化
魔力を使った攻撃に対してもある一定の防御を見込める程度に上昇させる。肉体・骨・神経や細胞に至るまでの全体的な魔力に対する強度と魔力に対する耐久性を上昇させる。
・魔力量相対防御強化Ⅰ
魔力量の5%分の上限の値を防御力として行使することができる。尚魔力をこのスキルに与えるとその分だけ防御力や耐久力の類が上昇する。レートは魔力1に対して防御力の値として3とする。
・要素真化
自ら必要だと思った要素を吸収してスキルを強化・進化させる。
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そしてもう一つ。秋が自主的に構成要素を与えて進化を促したスキル。それが『真血の魔眼』だ。
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真血の魔眼
赤く染まりすぎた魔眼の成れの果て、赤い血ではなく黒い血の様に禍々しい魔眼。赤の魔眼の完成形であり、この世の悪と善の存在できない次元の魔眼としてその存在は知られている。仲岡秋のオリジナルスキル。
・真血の魔眼
万里を見通し、物体を取りぬけ、未知の力を感じる事の出来る眼。基本的な魔眼としての能力を多方面から受け継いでいる真の魔眼。
・叡智の眼
“見たいものを見る事が出来る”能力。発動条件としては必ず確固たるイメージを常に思い浮かべ、その目に一定量の魔力を流し込むと発動する。だがその際目に全意識を向けておかないとならないため、体を動かしながら、などの作業は不可能。そして高確率で気絶などの効果がかかってしまう。発動にはある程度のリスクがかかる。
・時空の眼
魔力を注ぎ込む事で発動する。魔力が一定量注ぎ込まれている間のみ、2~5秒間後の未来を知ることができる。ただし魔力消費は多く、発動には注意が必要
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「まあ、これでも見れない爺さんのステータスは気になってしょうがないが、それでも今の現状これ以上の強化方法は間違いなく存在しない。だから放置だな」
「その割り切りも大事じゃぞ~?まあ良い。それで?今日はお主何をするんじゃ?」
「ああ、もう今日の戦闘訓練は終わりだ。今の時刻は……朝から戦闘訓練を初めて、丁度昼頃か、じゃあちょうどいいな。せっかくだから爺さんの異世界知識でも頭に詰めながら飯を食いたいな」
「ああ、了解したぞ。ほれ飯じゃ」
「やっぱ手を叩いただけで飯が出てくるそれなんのスキルだよ。使い道あんのかよ……まあいいや、ありがとな爺さん」
「今日のメニューは丁度小麦が余っておったのでパスタじゃ。さあ召し上がれ」
◇
秋はゼウスと洋風の机に腰掛けながら、そして秋はゼウスの用意してくれたパスタを食べながら、ゼウスは異世界イーシュテリアの知識について話を始めた。
「所でお主は何を聞きたかったのじゃ?」
「ああ、種族は聞いた、通貨や王国の国名なんかも大体聞いただろ?それにあとは魔族との戦争中の状況や人族の有望な戦力なんかもな、そんな中で俺が聞きたかったのは何を隠そう迷宮の話だ」
「ああ……なるほどの、確かに迷宮を語るのを忘れておったわい。ではしばらく語ってやるから食いながら聞いておいてよいぞ?―――迷宮とは、言ってしまえば魔力の溜まり場なのじゃよ。異世界の魔力は巡っておる。その魔力が巡る道を人は龍に例えて龍脈などと呼んでおるが、その龍脈を通る魔力は常に一方方向にしか流れないのじゃよ。そして流脈にはその流れが止まる場所がいくつか点在しておる。止まった道に流れ続ける魔力。これが迷宮の原点なのじゃよ」
「んぐんぐ……溢れ出た魔力は龍脈を突き抜け地上に噴き出す。その魔力が迷宮という魔力の発散場所を作る。と……なる程ね…」
「ああ、そういう事じゃよ。そして迷宮の魔物はその魔力から、強い武器も魔力から作られる純正の物や冒険者が落とした武器に魔力が溜まって魔剣化したものなどが宝物としてあげられる。そういったものが人の力になり経済を回したりもしているから、あるところで見れば迷宮は人への施し物ともいえるのぉ…」
「もぐもぐ……それで?」
「おおっと失礼、それでそういった所が様々に点在しているが、迷宮には強さのランクも存在する。迷宮は成長し、そして迷宮の核として、迷宮のエネルギーを一度通す路みたいなのがある。そこが迷宮の最深部とされ、そしてそこには、迷宮の膨大な力に晒され出来るものがある。それが――」
「聖遺物。アーティファクト。魔宝具といったものか……ふう。ご馳走様だ」
「そういう事じゃ。魔力はたまらない。じゃが魔力が溜まる場所にはそういうものが比較的簡単にできてしまうのじゃよ。そして膨大な魔力が集まり通るその場所――迷宮の核は、通常のものとは比較にならないものが創造されるのじゃよ」
「それが信託騎士団長の剣である魔剣『審判剣ファルンシェ』であったり、帝国皇帝の証として代々使われる魔剣である『帝王刀ゾルゲナード』だったり…といったわけか」
「ああ、そういう事じゃ。長期的に見れば必ず国に利益をもたらす迷宮を潰してまでも得たいと思える代物じゃ。じゃからこそ迷宮の核となる聖遺物は強いのじゃよ」
「ああ、まさかとは思っていたが、核を取られた迷宮は崩壊するのか」
「ああ、龍脈の流れは変わっとらんから、また魔力が溢れて迷宮が育ち、そして核が生成されるのじゃろうが、それでも人の世からすれば300~500年も待たねばならない。それがどれだけ人の世では長い事かは想像に難くあるまい?」
「ああ、それだけ強力なのかは理解した。なるほどな……」
「まあ、迷宮の説明としてはそう言ったもんじゃ。後何か説明してほしいことはあるかの?」
「いや、ないが―――聞いておこうか。ゼウス。………異世界イーシュテリアの行き方。どうすればいいんだ?」
「………そうか、という事は、そろそろ覚悟を決めるのじゃな」
「ああ、そろそろだ。もう二週間経った。ゼウスの言っていた勇者たちを扱う王国の話もある。それに期限の三か月まで一日も無駄にはしたくない。だからそろそろ行かなくちゃいけないんじゃないとなとは思っていたころだ―――あれだけの武力と理不尽なスキルがあれば、もうどうとにでもなる気がしてな…最も、これが慢心ではないことは、他ならん俺が一番願っているんだが。」
「儂が案内をしよう。元々そのつもりじゃった」
「…はぁ。だが大丈夫なのか?神界忌録に引っかかる可能性があるんじゃ」
「ああ、あくまでも救出のために人を寄越したという事にしておこう。儂の管理世界の人間が攫われたんじゃ。それぐらいはしてもよいじゃろうて」
「そうか…俺も、よっぽどのことがない限りはエスケープ…『運命と次元からの飛翔』は使わない。一度行ったら戻れるとはいえ、ゼウスの言っていた事も心配だしな」
「ああ、一応イーシュテリアの神について調べてはおいたが、管理しているのは下級神じゃが、想像以上に転移・転送のフィールドが固い。だからもしかしたらそういった能力を司っているのではないか。とな、だからこそ、無暗に次元を超えた転移や転送を行えるわけではない。覚えておけよ秋。儂の力をお主に及ばせることは出来るが、お主から何か儂にアプローチを仕掛けるときは、現状がどうしようも無く不利な時か、これからの不利を覚悟したときにしか行えない。用心するのじゃ。お主が―――死なないために」
「――――ああ、理解している。その上で……二日後の朝。行こうと思う」
「……そうか、お主の決めた道を、邪魔する事など出来んわい。さみしくなるのぉ…」
「少しばかりいなくなるだけだよ。爺さん」
「ホッホ……そうじゃのお…」
そう言い残したゼウスには、どこか悲しげな表情と、嬉し気な表情が混ざっていて。そしてどこか。感動したような、まるで秋の事を本気で心配しているおじいちゃんのような姿が、秋の瞳にキラキラと反射した。
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