第22話


「今からお主らには、『魔王』を討伐してもらうッ!!」


そんな、傲慢な王の謁見を始めに、陽と、クラスメイトと、そして霊峰学園中学三年生の異世界転移物語が始まったのである。







(何が「戦ってもらう」だよ……自分らでは何もできないくせして、偉そうにしやがってッ…)


陽は王室の中、一人一つ与えられた部屋で、一人考え事をしていた――――考えなければならない事案は山ほどあるからだ。


だが陽はそんなことよりも王の態度に一人腹を立てていた。


(クッソ……王だからとは言わせねぇ…。王だからこそ頭を下げるべきではないのか?仮にも国のトップだぞ?それが臣下も自らもまるで頭を下げる気も、自国が攻められているという自覚もないのか?―――もう勝った気でいるのか?『勇者』という名前を与えられた学生をたった100程度召喚した程度で?)


陽は王の態度に腹を立てながら、それでも思考をやめないのだ。何故ならそれが秋との約束。『誰も信じるな、自分だけが信じられる』と、故に思考する。自分の力で結果を導き、そして時間も情報もないこの異世界で自分で選んで生きていくために。


(調べるしかねえか?―――王の周りなんて調べたら、それこそ殺されるのがオチだが。って何考えてんだ俺。疑うのはいい事だが、それに固執して悪手を打つのは駄目だ。間違いない。大事なのは今、自分にとって王という存在が信じれないもので、そんな奴を関わるためのルールを設けるべき―――例えば、奴の言った事は裏が取れるまで信用しない。もし仮に明らかに不利な立場に立たされた時は、その時はここから逃げる。とかな)


陽はひたすらに思考を続ける。与えられた部屋―――現代よりも明らかに硬いが、この世界で上質とされるベッドに体を預け、周りにある机とクローゼット。まるで学生寮をイメージする様な間取りをした部屋を見通しながら考える。


(次だ―――俺がスキルを提示した際には“普通”と宣告されたが、案の定スキルには当たり外れがあったようだ。だからとは言わないがスキルの上下関係によって待遇が変わっているのは確認している。現に夕美ちゃん。優雅。雄介。茉奈ちゃんなどのグループは全員上位のスキルを保持している―――って、なんの冗談だよ。こりゃぁ…)


陽は秋からの手紙に目を通す――異世界に来てから何度も読みつくした秋の最後の置き土産。


(勇者。聖騎士。光魔導士。後は大魔導士ねぇ……)


陽は“当たりスキル”の欄として確かに存在した四つのスキルを見渡す。


(ってか、明らかにこの四つだろ?どう考えても、キャラ的…が当てはまるかわかんねえが、それでも優雅は明らか勇者だな、んで雄介は聖騎士。茉奈ちゃんは万能魔術師で、夕美ちゃんは陽光の聖女辺りが妥当なラインか?全く、どこのテンプレだっつの、畜生)


陽は一人カーストで異世界の序列が決まってしまっているという不条理な現実に目を背ける。そして続ける。


(だが、奴らにとって俺のスキルはあくまでも“普通”……そりゃそうだわな、そうじゃないとわざわざ“穴場”を狙いに行った意味がない。そう、普通でいいんだ―――表向きは)

(そして、もう一つ分かったことは、明らかに外れスキルを引いた奴らがどこかに連れていかれているという事だ。俺らにその場所の行方は分からない―――まさか、もう、この異世界にもいない。何てことは…十分に、あり得る話。だな。うん)


陽は少し思考に途切れ途切れになりながら、それでもやめない。常に客観性を。これも秋の手紙から学んだ陽の覚悟の一つ。客観的に思考を続けないと、いつか身を亡ぼすかもしれないという事を理解している。それだけでも陽はこの世界に適応を続けているという何よりの証明になる。


(まあ、この世界にいない云々のレベルの話になるともうどうにもならないが、間違いなくそれを行っていた場合は信用ならないと判断して逃げた方がよさそうだ――幸いにも、ここには俺の替えの聞くやつが何十人といる。今更一人抜けたところで大したことはないかもしれないが、情報の保持のために殺されるなんてオチも考えなくちゃいけねえなぁ…)


陽はため息をつきながら、現状整理を続けた。


(確かにこの世界は剣と魔法が存在するゲームみたいな世界。この異世界――イーシュテリアは確かにそういう存在だ。現に優雅は若干遊び半分で勇者ごっこを楽しんでる。他の奴らも何人かはその口だ。だが王が何を考えてるかなんてわかるはずもないんだ。異世界の人間だ。NPCなんて簡単なもんじゃない。ただ――設定なんかの知識は、頭の片隅に入れておいた方がいいかもしれない。もしかしたらゲームと同じ何てことがあり得る。その時にスムーズに動けるのはアドバンテージになるかもしれない、もちろん、その知識だけで行動を起こすのも危険だがな)


(まあ、“アドバンテージ”といえば、情報以外にもこれがある)


そう言い残すと陽は、クローゼットに立てかけられた箒を見る。


(まあ、ここは侍女が暮らしている部屋みたいなところなのだろう。おそらく掃除なんかも自分でやってたはず。その時の残りだが―――これがとても大きい。とてつもなく)


そして陽は、部屋の中央に立ってその箒の棒部分だけを振った。


(秋――――本っ当に感謝するよ!!これが無かったら俺は生きていけなかったかもしれないな。さすがは俺の親友だわ、いや本当に)


陽は改めて心の中で秋に感謝を述べる。それだけの価値がこの行動に結びついているのだ。だって





―――これで俺のスキル『棒術』のスキルレベルが上がるんだからよ。





こうして、吉鷹陽は人知れず、自らを強くしていく。


陽は魔力と呼ばれる力の感触を得てから、ステータスの表示画面が確かに増えた…つまり、魔力のない人間がステータスと呼ばれるあの板を開こうとすると限界があるのだ。


そして魔力を得て、この世界に適合した陽が見たこのスキルの内容がこれだ




==========

棒術

何の変哲もないただの棒術。なのかもしれないが、昔このスキルを使い世界を又にかけて戦い、人間でありながら魔族の立場として魔王に忠誠を誓った人間の強い思念と残滓が重なったスキル。


棒術

棒状の武器なら使用している際に補正がかかる。


取得能力向上

棒状の武器を使用している間に自身の身体能力・魔力などの能力が向上する。

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そして陽にあって秋にないものが一つだけある。それはこの世界に来てから初めて見たステータスプレートを実体化させた魔宝具。通称:アーティファクトと呼ばれるものの一つで名前はステータスプレートと呼ばれているが、現在『ギルド』と呼ばれる組織―――冒険者と呼ばれる者たちと依頼者を仲介する組織の元で製造方法が確立されているらしく、それは誰でも持つことができる魔宝具だが、そこには自分の筋力や体力などの情報が数字になって表れていた。


==========

吉鷹陽

15歳

学生


ステータス

筋力:1000

体力:1000

魔力:1000

魔耐:1000

俊敏:1000


スキル

・棒術


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最初の際、ステータスプレートの登録の際に出た数値はこれ。そして現在まで棒術のスキルによってステータスの数値は上昇していた。


==========

吉鷹陽

15歳

学生


ステータス

筋力:1350

体力:1220

魔力:1110

魔耐:1080

俊敏:1280


スキル

・棒術

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この世界の人間でも非戦闘員は100~350程度。冒険者と呼ばれる戦いを生業とするもので、初心者は200~500。プロレベルになると750~であることを考えると、今回の陽の上昇具合は異常なスピードなのである。


そして陽は昼頃に部屋に案内されてから、日が沈み夕食の時間に呼ばれる前まで、ひたすら思考と特訓を繰り返していった。



―――全ては、この世界で生き残るために。

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