第481話 ”英雄”登場

 「……ふぅ」


 アッシュが舞台の上から降りるのを見届けた双魔は一息ついていた。


 「うむ!流石アッシュとアイギスだ!敵もなかなかだったが……よい勝利だったな!」

 「ん、まあ……途中で観客が危なかったのはいただけなかったけどな?」

 「あれはソーマと我とフェルゼンとカラドボルグを信頼していたからああしたのではないか?」


 ティルフィングが核心を突くがそれでも双魔は苦笑いだ。


 「……まあ、特に一般客にはいい見世物になったかね?ティルフィングもお疲れさん」


 衝撃に反応で来たのは双魔が数秒前にから備えていたのとティルフィングが一瞬で反応してくれたからだった。フェルゼンも双魔の動きにしっかりと反応して合わせてくれた。アッシュには後で小言を、フェルゼンに礼を言っておかなくてはならない。


 「試合は今ので最後か?」

 「ん?ああ、遺物科のはな」

 「このあとはどうなっているのだ?」

 「魔術科の試合の前に学園長とゲストが挨拶をすることになってる。ジョージさんはサプライズゲストだから話すだろうし……“滅魔の修道女”はあまり話すようには見えなかったからな……代わりにデュランダルが話すんじゃないか?」

 「……あ奴か」


 デュランダルの名を聞いた瞬間、ティルフィングが眉根に可愛らしい皺を作った。昨日の一件で余程嫌いになったらしい。


 「そう言えば……」

 「む?」

 「レーヴァテインはどうしてるんだ?」


 昨日は「ティルフィングお姉様と離れたくありませんわ!!」と断固たる意志を示してついてきていたレーヴァテインが今はいない。朝出てくるころには話さなかったので気になっていたのだ。


 「むぅ……レーヴァテインは、またベタベタとしてきたのだが……」

 「が?」

 「あ奴の存在は双魔の魔力で安定している。しているのだが、完璧ではないのだ。様子がおかしかった。だから、サロンにいるスクレップに預けてきた」

 「スクレップに」

 「うむ」


 ティルフィングはブスッと頬を膨らませながら教えてくれた。纏わりつかれるのは嫌だったようだがレーヴァテインのことを心配しているようだ。


 (……やっぱり、姉らしさが出てきたと言うか……スクレップ様様だな……)


 スクレップに諭されて姉妹仲を自覚した二人だけに、彼女の言うことは素直に聞くのだろう。今のティルフィングと同じように不貞腐れてスクレップと一緒にいるレーヴァテインの姿が目に浮かぶ。双魔は何となく愛しくなってティルフィングの頭をくしゃくしゃ撫でた。


 「む?む?何だ?」

 「ん、何でもない」

 「????そ、ソーマ、くすぐったいぞ」


 ティルフィングの頭の上にはてなマークがいくつも浮かんでいる。首を傾げる仕草が可愛くてさらに撫でる。二人でじゃれていると進行に動きがあるようだ。舞台の上には初めと同じようにアメリアたち三人娘の映像が大きく浮かび上がっていた。


 『いやー!素晴らしい模擬戦だったッスねー!遺物科のみなさん!お疲れ様でしたッス!それでは次に進めるッス!お次は魔術科の模擬戦の前にゲスト紹介ッス!今年も誰もが知っている魔導業界の尊敬すべき大物が来てくれているッスよーーー!!!』


 オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!


 誰が来てるんだーーー!?


 早く姿を見せてくれーーーーー!!!


 アメリアの煽り文句に当てられて観客たちが盛り上がる。それも当然、スーパースターを直接目にすることができるのだ。テンションの上がらない者はいない。


 『それでは入場していただきましょう!と、その前に!ブリタニア王立魔導学園学園長、杖をとっては“叡智ワイズマン”序列一位!槍をとっては“英雄イロアス”序列三位!皆さんご存知あのお方!そして、北欧神話に謳われる必中の神槍!お二人に登場してもらうッス!学園長!お願いするッス!』


 アメリアがそう叫んだのとほとんど同時に舞台上が青白い魔法円が浮かび上がった。魔法円は闘技場に閃光と静寂をもたらした。誰もが声を失い、視界を失う。そして、視力が戻った時、その人がいた。もちろん、隣には何時も彼に付き従う愛槍の姿もある。


 「フォッフォッフォ!学園の皆は楽しんでおるか?客人たちも今日はよく訪れてくれた……只今、紹介に預かった。ブリタニア王立魔導学園で学園長をしておるヴォーダン=ケントリスじゃ。隣におるのは我が愛槍グングニル。顔だけでも覚えて帰ってくれれば是幸いじゃ。フォッフォッフォ!!」

 「…………」


 学園長が陽気な言葉を掛け、グングニルがメイド服の裾を掴んで深々と優雅に一礼した。これを見て、聞いて、闘技場内は声を取り戻した。


 サプライズに富んだ演出だが仕掛けは学園長の行使した空間魔術だ。さり気なく世界最高の魔術師の腕を振るっている。


 ウオオオオオオオオオオオオーーーーーー!


 世界最強の一角の登場に興奮しない者はいない。アッシュがヴィグディスに勝利した時のものにも負けない歓声が上がる。


 『この盛り上がりのまま!続けてゲストに登場してもらうッス!学園長と同じく世界に十人しか存在しない遺物使いの頂!“英雄”!その序列十位!聖地ヴァティカヌムからやって来てくれたのはこの人!最強の祓魔師“滅魔の修道女”シスター・アンジェリカさん!!そして、彼女の契約遺物!ローランの歌は終わらない!シャルルマーニュ十二勇士筆頭の愛剣!聖十字教会最強の聖剣!その身に斬れぬものなし!“聖絶剣”デュランダルさんッスーーーーー!!』


 オオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーー!


 キャー――――――――――!!!


 舞台上に再び閃光が弾け、漆黒の修道服に身を包んだ小柄な女性と圧倒的な強さを感じさせ清浄な剣気を纏いう大柄な美青年の登場に闘技場内は老若男女問わず腹の底から歓声を上げる。


 「…………」

 「フハハハハハハハハハハッ!我の姿をその目に焼きつけよ!!最強の聖剣の輝きなるぞ!貴様らに祝福を!迷える子羊に這い寄る悪魔に滅亡を!神の御心を感じるといい!!フハハハハハッ!!!」


 棒立ちのアンジェリカの代わりにデュランダルが両手を大きく広げ、拡張せずとも広い闘技場に響き渡る歓声をかき消さんばかりの美声で観客たちの声援に応えて見せる。


 オオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーー!!オオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーー!!!


 その場に存在するだけで心を猛々しく震え上がらせる聖剣の勇姿に観客たちは声を止むことをしない。


 『流石!“英雄”とカッコよさが段違いッスね!!!アタシも!ウオオオオオオオオーーーーー!!!』

 『わっ!びっくりした!アメリア、いきなり大きな声を出さないで』

 『ご、ごめんッス……』

 『おやー?如何しました?なになにー?事前情報なしですかー?ほうほうー……アメリア殿―、こちらどうぞー』

 『へ?なになに……もうお一方ゲストが…………え!?』


 何やら新しい情報が入ってきたのか、それを確認する三人娘の会話が聞こえてくる。そして、アメリアが呆然として声を失った。


 『こ、これって本当ッスか!?間違いない?……本当に?』


 アメリアの慌てぶりを聞いて、闘技場内の歓声は徐々に止み始め代わりにざわめきが広がっていく。


 『アメリア、兎に角進めないと!』

 『そ、そうっスね!詳しいことは学園長に……了解ッス!みんさん!お待たせしたッス!なんとなんとーーー!今回はもう一組サプライズゲストが来てくれているみたいッス!それではどうぞッス!』


 既に“英雄”が二人もいるのだ。それ以上の人物とはどんな人物なのか。アメリアの呼びかけに観客たちは息を呑んで舞台に注目した。


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