第380話 今日はこれにて……
「あん?何だよ?……くぁー……ふ……」
「…………」
リラックスした様子で床に伏せ、後ろ足で耳の辺りを掻いていたゲイボルグがこちらを向き大きなあくびをして見せた。
ロザリンはふらりと双魔の傍を離れ、ゲイボルグの傍で屈むと何故かわしゃわしゃとゲイボルグの顎を撫ではじめた。
「……レーヴァテインのことなんだが……暴走の危険はあるか?俺じゃあ判断しきれない」
双魔はティルフィングが異常な事態であったことを加味しても何度か感情のままに力を暴走させかけたことを目にしている。その際に引き金となったのはいづれも双魔が危機に陥った時だった。つまり、主を失ったレーヴァテインが目を覚ました時に暴走する可能性は十分にある。
それがどうなのかを遺物である二人に確かめておきたかった。
「……そうだな……ロザリン……ワフッ……もう少し下」
「……ここ?」
「ああ、そこそこ……」
「……婿殿……此方……か……ら……問お……う?」
ロザリンに撫でられて気持ち良さそうに身震いしているゲイボルグを横目に浄玻璃鏡が口を開いた。
「……何だ?」
「……そ……の……娘……よ……り……其方……の……魔力……が…………多……分に……感じ……ら……れ……る……が……何故……か?」
「……レーヴァテインはティルフィングで刺し貫かれたのが原因で崩壊しかけていたのを俺の魔力で満たして元の状態に戻した。そのせいだろう」
「……おいおい……そりゃあ……いや、今はいいか。それなら暴走の危険はねぇんじゃねぇか?」
動きをピタリと止め一瞬、目を剥いたゲイボルグだったがその表情もすぐに潜ませ双魔の質問に返答した。
「……ふ……む……此方……も……同……じ……く……そう……考……え……る……」
浄玻璃鏡もゲイボルグに同意して頷いた。
「……どういうことだ?」
「何、簡単だ。そのレーヴァテインって嬢ちゃんの中には双魔の魔力が直接流れてるんだろ?それならその嬢ちゃんが暴走しそうになったら時点で双魔が抑えようとすれば抑えられる。それだけだ、何も心配要らねぇよ」
「そうだぞ!こやつが何かしようとすれば我もいるからな!」
話を横で聞いていたティルフィングも双魔の不安を取り払うように頼もしい笑みを浮かべて見せた。
「せやったら、この子……レーヴァ……テインはん?も一緒に住むん?」
「……まあ、そういうことになるのか……鏡華はいいか?」
「ほほほほ……うちは双魔が決めたんやったら何も言わへんよ。左文はんもちゃんと話せば大丈夫」
「……そうだな……レーヴァテインはうちに住んでもらうのがいいか」
「お話、終わった?私、お腹減ったな……」
「む!?我もだ!何か食べたいぞ!」
話が一段落したと受け取ったロザリンが腹を摩りながら立ち上がった。ティルフィングも食事の気配に目を輝かせる。
「……この二人が腹減ったとなったら今日はお開きだな」
ゲイボルグがぼやくように言うと当の本人たち以外は苦笑しながら頷いた。
「「??」」
それを見て食いしん坊コンビは不思議そうに首を傾げていた。
こうして、仲間たちを巻き込むこととなった神代から続いた一人の少年と一振りの魔剣の物語に一つの幕が下りた。そして、其れは新たな物語の始まりでもあることは彼らは知る由もない。
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