第371話 或る神の回顧3

 ふと、目が覚めた。外の世界を確認してみる。何と時は二千年以上流れていた。すぐさまオーディーンの動きを確認する。するとフォルセティの生まれ変わり、「予言の子」が誕生はあと百年ほどらしい。いいタイミングで起きたのか、それとも眠り過ぎたのか。私は動きはじめることにした。


 とりあえずこのまま屋根もない場所で過ごすのは良くないような気がして部屋を作った。魔力で適当に作ったがなかなかの出来だ。存外、建築やデザインの才能があったのかもしれない。


 戦場を見渡せる部屋で椅子に深く腰掛けながら思案に耽る。


 まず、私の手足となって動いてくれる駒が必要だ。直接動いてオーディーンに邪魔されては敵わない。さて、どうしようか?考えていると空間に違和感を感じる。振り向いてみると白い狼が二頭行儀よく座っていた。


 二頭には見覚えがあった。フェンリルの仔のスコルとハティだ。両手を広げてみると寄ってきてペロペロと私の頬を嘗めた。この子たちにも働いてもらうとしてもやはり動ける駒が必要だ。


 そこで私は思いついた。ティルフィングに似せた剣を作るのはどうだろう。この場所から出るわけにはいかないがスコルとハティに探させれば何かいい材料があるかもしれない。


 早速探させると二頭は蒼く美しい結晶を持ってきた。大きさは人間の頭ほど。一目見て分かった。結晶はムスペルヘイムで数千年に一体現れる蒼い巨人の残骸だった。他のムスペルとは比べものにならないほどの熱と力を秘めるその結晶はまさに私が欲したものだった。


 ティルフィングの姿を思い浮かべながら剣を作った。魔力を使えばすぐに出来るはずだがここはこだわっておきたいところだ。


 炉を作り、炎を起し、槌を振り、蒼炎の結晶に己の魔力を注ぎながら剣を鍛える。何しろ今の時点では他にすることもない。納得がいくまで作業を続けた。


 そして、出来上がったのはまさにティルフィングに瓜二つの蒼の魔剣だった。少々本物よりは長いが許容範囲だ。鍛冶師の才能もあったとは驚きだ。


 熱中しすぎたせいで私の魔力が無くなれば壊れてしまいそうだがそこは少し細工をしておいた。きっと上手くいくはずだ。運命から解放されて以来私は物事を信じることが以前よりも得意になったようだ。


 最後にルーンを刻んで完成。魔剣はすぐに蒼髪の美しいティルフィングと瓜二つの少女へと姿を変えた。


 『貴方様が私の創造主様ですね?どうぞ、私めに銘打っていただければと思います』


 少女は生まれて間もないにもかかわらず私にかしずいてみせた。性格も従順でいい子そうだ。やはり私の腕は悪くない。


 そうだな……レーヴァテインがいい。君の銘はレーヴァテインだ。レーヴァと呼んでもいいかな?


 『レーヴァテインですね。かしこまりましたわ。それでは、何なりとお申し付けください』


 うん、それじゃあ早速動いてもらおうか。


 レーヴァは期待以上によく働いてくれた。唯一誤算というか意外だったのはレーヴァが自分のオリジナルであるティルフィングのことを甚く慕っていることだった。ティルフィングの話をする度に興奮していつか会える日を思い描いている。


 レーヴァテインを遣わして必要な情報を集めて回ったり、極東に誕生した神代返りの腕を持つ鍛冶師を狂わせて”黄昏の残滓”と我が子たちを復活させる遺物を作らせる切っ掛けを与えたりした。


 時は過ぎ行くものだ。いよいよ、「予言の子」が生まれたらしい。名前は”伏見双魔”というそうだ。うん、なかなかいい名前じゃないか。数年は見守っていられたけどそのうち”千魔の妃竜”に預けられたせいで覗き見も出来なくなった。流石、波斯の神魔竜だ。こちらの存在も事情もお見通しらしい。


 それでも、しばらくすると双魔は”千魔の妃竜”のもとからブリタニアにやってきた。なんとオーディーンのお膝元だ。まあ、大丈夫だろう。兄上は私の行動を黙認し続けているから、信じることにしよう。


 そして、その時は目前に迫った。けれど、ここであることが判明する。如何やらフォルセティの復活には双魔に一度死んでもらう必要があるらしい。ティルフィングと再び契約を結ぶだけだと思っていたが見当違いだ。兄上に任せて置けばその時は遠のくかもしれない。私はこれ以上待てない。だから、ここで一つ手を打った…………。


 さて、長々と話してしまったが細かいことは省いてあとは知っている通りさ。


 双魔とティルフィングは契約を交わし、甦ったグレンデルに殺されることによって双魔は女神として目覚めた。まあ不完全だったけれどね。


 私は千子山縣から針を回収、世界中に散らばったムスペルの欠片を回収、針の試用と色々こなしてここまでこぎつけたって訳さ。私の走馬灯はこれでお仕舞い。さあ、現実に戻るとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る